本稿は2024年12月12日発行の英語レポート「Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資家のあいだで米国大統領選挙でのトランプ氏勝利の評価が進む


サマリー

  • ドナルド・トランプ氏が米国大統領として復帰し2期目を迎えることになり、中国は圧力を感じている。しかし、トランプ前大統領の1期目に、中国株式は米国株式(S&P500指数)をアウトパフォームしており、外部圧力よりも国内政策が重要であることが示されている。
  • アジア株式市場(日本を除く)は2ヵ月連続で苦戦し、11月の月間市場リターンは米ドル・ベースで-3.3%となった。中国の直近の景気刺激策は期待に届かないものとなる一方、世界の市場では米国大統領選挙の結果の消化が進んだ。国・地域別では、フィリピン(米ドル・ベースの月間市場リターンが-8.2%)とインドネシア(同-7.9%)のパフォーマンスが特に低調となり、シンガポール(同8.0%)は唯一プラス・リターンとなった。
  • 米国の選挙後を見通すと、米国ではディスインフレ傾向が続き、それに伴い追加利下げが実施されるとの見方を維持している。原油価格が低迷を続けるとみられる一方、米ドル高はバリュエーションが高まっていることを受けてピークをつける可能性がある。他では、中国は政策を転換して景気刺激策を進めている。こうした要因によって、アジア株式市場がより良好なパフォーマンスを発揮する状況が整う可能性がある。当社では、特にファンダメンタルズのポジティブな変化が企業の長期的に持続可能な利益の向上につながる場合など、ボトムアップ・アプローチによる銘柄固有のリターン・ドライバーに引き続き注目している。

市場環境

アジア株式市場は慎重な姿勢が広がるなか2ヵ月連続で下落
11月のアジア株式市場(日本を除く)はシンガポール市場を除いて下落し、月間リターンは米ドル・ベースで-3.3%となった。アジア地域では、中国がより大幅な財政支援計画を発表する可能性が引き続き最大の注目点となっているが、中国政府の直近の動きでは消費支出を押し上げるためのより直接的な措置は依然として見受けられなかった。また、当月は大半において2期目となるトランプ政権下での経済見通しに市場の注目が集まった。一方、米FRB(連邦準備制度理事会)は大方の予想通り0.25%の利下げを実施したものの、今後の金融政策の緩和には時間を要する可能性があることを示唆した。

中国の景気刺激策は市場期待を下回る
北アジアでは、中国株式のリターン(米ドル・ベース)が-4.4%となった。中国当局は、地方政府の債務リスクを抑制するために10兆元規模の債務スワップ・プログラムを発表したが、経済成長を促進するための新たな財政出動を打ち出すには至らなかった。これが市場の期待を下回り、特にトランプ次期大統領が中国製品に追加関税を課す恐れがあるなか失望が広がった。一方、中国の10月のインフレ率は前年同月比0.3%となり、鉱工業生産の伸びは同5.3%増へと鈍化して市場予想を下回った。しかし、小売売上高は毎年恒例の「独身の日」商戦が後押しとなり、前年同月比4.8%増となるなど、消費活動は活発化した。香港は米ドル・ベースの月間市場リターンが-3.6%となったものの、中国の何立峰副首相は香港の金融市場への支援強化を約束した。これには、香港に上場する中国の優良企業の増加や相互市場アクセスの改善、国債発行などが含まれる。

韓国は、トランプ氏が選挙で勝利したことを受けて貿易や経済への懸念が強まるなか、11月の月間市場リターン(米ドル・ベース)が-5.7%となり、年初来のパフォーマンスは-17.4%とアジア主要市場のなかで引き続き最も低調となった。韓国の中央銀行は2025年のGDP成長率見通しを2.1%から1.9%へと下方修正した。また、同中銀は政策金利を0.25%引き下げて3%とし、10月の政策転換に続く市場の予想外の連続利下げとなった。貿易依存度の高い台湾(米ドル・ベースの月間市場リターンは-4.5%)では、最大の貿易相手国である中国の景気低迷による打撃が、AI(人工知能)ブームが牽引するテクノロジー製品への需要増大を上回るなか、10月の輸出は市場予想を下回る前年同月比8.4%増となった。それでも、台湾は2024年と2025年の経済成長率予測をそれぞれ4.27%と3.29%に上方修正した。ただし、米国の新たな関税が2025年の経済成長を抑制する可能性があるとの認識を示した。

シンガポールの株式市場はモメンタムが良好に

アセアン諸国市場のパフォーマンスはまちまちとなった。シンガポール(米ドル・ベースの月間市場リターンは8.0%)は、当月のパフォーマンスが突出して良好となっただけでなく、年初来のリターンが33.8%と最も好調となった。シンガポールは経済が予想以上に早く持ち直していることを受けて、2024年の成長率見通しを3.5%前後に引き上げた。一方、フィリピン(同-8.2%)は当月最もパフォーマンスが低調となった。フィリピンの第3四半期の経済成長率は、悪天候による政府プロジェクトの支出の遅れおよび農産物の生産低迷により前年同期比5.2%となり、1年超ぶりの低成長となった。マレーシア(同-1.4%)とインドネシア(同-7.9%)の中央銀行は、政策金利をそれぞれ3%と6%に据え置いた。タイ(同-4.5%)もパフォーマンスが劣後した。タイ政府は景気回復を持続させるために、2025年第2四半期に予定している刺激策(現金給付)の次の段階を含めた、新たな一連の財政措置を検討している。

インド株式は企業収益の低迷が重石に

インド株式は、精彩に欠ける企業決算と割高なバリュエーションが引き続き市場センチメントの重石となり、米ドル・ベースの月間リターンが-0.4%となった。また、インドのコングロマリットであるアダニ・グループが贈収賄疑惑で起訴されたことを受けて、この影響がより広範に及ぶとの懸念が高まり、同国の企業統治に対する新たな疑念が投げかけられた。その他、インドの10月の小売インフレ率は前年同月比6.2%となり、中央銀行の目標レンジである2~6%を1年超ぶりに上回った。

今後の見通し

ボトムアップによる銘柄固有のリターン・ドライバーに引き続き注目

米国の大統領選挙が一段落して、市場はトランプ次期政権下における極端なシナリオを迅速且つ効率的に織り込んでいる。結局のところ、市場はトランプ大統領1期目における過去の経験を踏まえて、今回の状況に遥かに備えることができており、より迅速に推測することができている。しかし、これまで歴史のなかでみてきたように、実際の政策は選挙運動中に打ち出された極端な政策案とは異なることが多い。今回のトランプ新政権の政策がそれほど極端なものではないと判明すれば、進行している「トランプ・トレード」が大きく巻き戻されるだろう。当社では、米国の選挙にかかわらず、米国の労働市場がかなり緩和してきたことを受けて、ディスインフレ傾向が続き、それに伴ってFRBが追加利下げを実施するとの見方を維持している。原油価格が低迷を続けるとみられる一方、米ドル高はバリュエーションが高まっていることを受けてピークをつける可能性がある。中国も、政策を転換して景気刺激策を進めている。こうした状況が、アジア株式市場にとって好材料になるだろう。当社では、特にファンダメンタルズのポジティブな変化が企業の長期的に持続可能な利益の向上につながる場合など、ボトムアップ・アプローチによる銘柄固有のリターン・ドライバーに引き続き注目している。

中国はより積極的な政策措置を導入して米国の圧力増大に対処すると予想

トランプ次期大統領が選挙運動中に極端な関税案を示していたなか、とりわけ中国は米国の大統領選挙に向けて圧力に晒されてきた。しかし、足元のジョー・バイデン米国大統領のもとで見受けられるように、トランプ次期政権の外交政策はイデオロギー的なものではなく、より取引志向になるとみている。したがって、トランプ次期政権が課す関税は結局、選挙運動中に示された案と比べて、かなり小幅なものになるかもしれない。また、バリュエーションは、トランプ氏が初めて大統領に就任したときと比較して、かなり低水準になっている。多くの投資家にとって意外だとみられるのは、トランプ政権1期目で中国株式が米国株式(S&P500指数)をアウトパフォームしたことであり、外部圧力よりも国内政策の方が重要であることが示されている。こうしたなか、9月に入り中国では発信するメッセージや意思決定などのトップダウンの調整に変化があったことから、当社では同国の政策姿勢がシフトしたとみている。トランプ次期大統領の動きを受けて、今後数ヵ月のあいだに中国はより積極的な政策措置を実施するだろう。

台湾と韓国では半導体や通信関連の銘柄を有望視

北アジアの他の地域では、トランプ次期政権によって台湾の現状が脅かされるような早計な決定が抑止される可能性があるため、地域の安定が支えられるかもしれない。とは言え、韓国および台湾市場は、テクノロジー・セクターの変化が一因となり乖離した状況が続いている。台湾では、インフラ構築が進められているなか、そうした投資がハイパースケーラーにどれだけの利益をもたらすのかという点について市場で疑問視されているものの、AI関連需要が引き続き収益向上の主な要因となっている。

対照的に、韓国はDRAM市場が冴えず、また、Samsung Electronicsが高帯域幅メモリ事業で後れを取っていることに加えて、資本市場の押し上げを目指して導入された「バリューアップ政策」の取り組みが期待外れとなっていることなどを受けて劣後している。当社では選別的な姿勢を維持しており、新たな事業機会に常に適応できる能力を示し、変化する地政学的な状況に対してより備えが出来ている半導体および通信関連の銘柄を選好している。

インドでは最近のバリュエーション調整を受けて質の高い企業に注目

インドやアセアン諸国における構造的な産業化の流れは、世界のサプライチェーンを中国以外に分散化させる動きを原動力として今後も続くとみられ、トランプ次期政権下で加速する可能性もある。重要なことは、米国の生産のオンショアリング(国内回帰)の取り組みは、労働力の利用可能性およびコストの制約によって構造的に制限されているということだ。アジア地域の産業化が進むなか、賃金や中間所得者層の拡大は十分に下支えされると予想しており、地域全体にわたって消費の新たな波が広がるとみている。

この地域の長期的な投資ストーリーは十分に理解されているものの、インド企業の割高なバリュエーションは投資家のあいだで度々論点となってきた。この点について、短期的な景気循環の低迷を受けて足下でインド企業のバリュエーションが低下していることから、長期スタンスの投資家にとっては持続可能な高収益を実現する良質なインド企業のエクスポージャーを積み増す機会がもたらされている。当社では、ファンダメンタルズの変化や利益の持続可能性が過小評価されているとの見方を維持している分野において、質の高い事業を展開する企業に引き続き注目している。


個別銘柄への言及は例示のみを目的としており、当該戦略で運用するポートフォリオでの保有継続を保証するものではなく、 また売買を推奨するものでもありません。

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。