本稿は2025年1月15日発行の英語レポート「On the ground in Asia」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

2025年にアジア現地通貨建て国債は良好なパフォーマンスを示し、信用ファンダメンタルズは底堅く推移する見込み


サマリー

  • 12月の米国債利回りは総じて上昇した。一方、米FRB(連邦準備制度理事会)が2025年の利下げはこれまで示唆していた回数よりも減少する可能性があることを示し、米ドルは上昇基調となった。FRBのガイダンスがタカ派的にシフトしたことに加えて、経済指標が好調となったことや2025年の利下げ見通しが変化したことを受けて、利回りは上昇した。月末の利回り水準は、2年物の指標銘柄で前月末比0.09%上昇の4.24%、10年物の指標銘柄で同0.40%上昇の4.57%となった。
  • アジア域内では、フィリピンが政策金利を0.25%引き下げる一方、インドやインドネシア、タイは主要政策金利を据え置いた。11月のアジア地域の総合インフレ率はまちまちの動向となったが、伸び率は総じて横ばいを維持した。
  • アジアの現地通貨建て国債は、インフレが落ち着き、経済成長が緩慢となる環境で、中央銀行の緩和的なスタンスに下支えされるなか、2025年に良好なパフォーマンスを示すとみている。進行中の世界的な金融緩和サイクルによって世界の利回りは低下し、アジアの債券市場は一段と下支えされるとみられる。さらに、米国からの潜在的な関税の脅威もあり、中期的には世界の経済成長は鈍化すると予想され、このことが債券市場全般を下支えする可能性がある。
  • 12月のアジア・クレジット市場は、信用スプレッドが縮小したものの、米国債利回りが上昇するなか、月間リターンが-0.80%となった。格付け別では、投資適格債(月間市場リターンが-0.84%)がハイイールド債(同-0.58%)をアンダーパフォームした。投資適格債は、ハイイールド債に比べてデュレーションが概して長めであり、また投資適格債はスプレッドの縮小が0.03%だったのに対して、ハイイールド債は0.55%とより大幅な縮小となった。
  • 関税引き上げの脅威や米国の政策変更の影響が見込まれる一部のセクターや特定の銘柄を除き、良好なマクロ環境を背景にアジアの企業や銀行の信用ファンダメンタルズは底堅く推移するとみている。全体として、収益は伸びが緩やかになるものの健全な水準を維持し、利益率は投入コストの低下を受けて安定的に推移する可能性がある。アジア・クレジット市場ではデフォルト率が低下傾向を辿り、アジアの投資適格債分野では投資適格級未満に格下げされるフォールンエンジェル銘柄の割合が低下するだろう。このトレンドは、過去数年間に多くのクオリティの低い企業がインデックスから淘汰され、発行体の信用力がより良好となったことが一因となっている。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

FRBは0.25%の利下げを実施
12月の米国債利回りは、総じて上昇した。一方、FRBが2024年最後の米FOMC(連邦公開市場委員会)会合で2025年の利下げ回数が従来の予想よりも減少するとの見通しを示したことを受けて、米ドルは上昇基調となった。米国債利回りはインフレ指標の発表を控えて小幅に上昇したが、欧州の動向が低調となっていることや長期債の入札が十分に消化されなかったことを受けて上昇傾向となった。その後、利回りは2024年最後のFOMC会合を控えて小動きとなった。FOMCでは、FF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標レンジが0.25%引き下げられ、4.25~4.50%となったものの、FRBのガイダンスがタカ派的にシフトしたことに加えて、経済指標が好調となったことや2025年の利下げ見通しが変化したことを受けて、利回りは一段と上昇した。ドルは、利回りが上昇したことに伴い強含んだ。

ジェローム・パウエルFRB議長は、米国経済について「非常に楽観的」な見方を維持しており、最近の動向は「好調」だと述べた。同議長は労働市場について、下振れリスクは「低下しているとみられる」ものの、「明らかに一段と軟化している」と述べ、政策面については足元で「慎重に行動することが適切である」とコメントした。一方、米国では直近の歳出法案で共和党と民主党が合意に苦戦するなか、財政赤字をめぐる不透明感が強まった。月末の利回り水準は、2年物の指標銘柄で前月末比0.09%上昇の4.24%、10年物の指標銘柄で同0.40%上昇の4.57%となった。

チャート1

フィリピンは政策金利を引き下げる一方、インドやタイ、インドネシアは据え置き
フィリピンの中央銀行は、12月の金融政策会合で0.25%の追加利下げを実施し、政策金利を5.75%とした。同中銀のエリ・レモロナ総裁は、インフレは今後も沈静化して、目標レンジである2~4%内に収まるとの見方を示し、インフレ見通しが十分に抑制されていることは、引き締め度合いをより後退させた金融政策へのシフトを引き続き後押しするだろうと述べた。しかし、同中銀は2025年に累積で1.00%の利下げを実施することはないだろうとの見方を示し、金融政策は依然「引き締め寄り」にあるとの認識を示した。

タイの中央銀行は、前回の会合で予想外に利下げを実施した後、政策金利を2.25%に据え置いた。同中銀は、現在の金利水準は経済見通しや目標レンジに向かって推移しているインフレとともに今後「不確実性が高まる」なかで経済・金融の安定性を維持する上で「適正」だとみている。また、景気が徐々に回復し、インフレ率が目標レンジである1~3%に向けて徐々に加速するなか、中立的な姿勢を維持することの重要性を強調した。

インドネシアの中央銀行は、インドネシアルピアの安定を重視するなか、政策金利を6.00%に据え置いた。同中銀のペリー・ワルジヨ総裁は、これまでの会合で示してきたハト派的な兆候を反転させてよりタカ派的な姿勢を示し、FRBが2025年に利下げペースを減速させる可能性を指摘した。また、同中銀は2024年のGDP成長率予想を4.7~5.5%に維持し、経済成長を重視したマクロプルーデンス政策を維持することを改めて示した。

その他、インド準備銀行は政策金利を据え置くことを決定した。金融政策委員会メンバー6名のうち4名がこの決定を支持する一方、残り2名は0.25%の利下げを支持した。政策スタンスについては、金融政策委員会は全会一致で中立的な姿勢を維持することで合意した。しかし、金融システムの流動性を高めるために、同中銀は現金準備率(市中銀行がインド準備銀行に流動性のある現金で預け入れる必要がある総預金の割合)を0.50%引き下げた。

11月の総合インフレ率は引き続き安定的
アジア各国の総合CPI(消費者物価指数)の動向は、まちまちとなった。フィリピンの11月のインフレ率は、前年同月比2.5%と前月の同2.3%から加速し、2ヵ月連続で騰勢を強めた。政策当局は、加速の主因は食品・非アルコール飲料価格の上昇加速であるとした。

インドネシアの11月の総合CPI上昇率は前年同月比1.55%となり、市場予想の同1.50%を若干上回り、引き続きインドネシア中央銀行の目標レンジの下限水準となった。コアインフレ率(変動の大きい食品および政府管理価格を除く)は前年同月比2.26%となり、前月の同2.21%から加速した。

タイの11月のインフレ率は前年同月比0.95%となり、前月の同0.83%から加速した。同様にコアインフレ率も前月の前年同月比0.77%から同0.80%へとやや加速した。

シンガポールの総合インフレ率は前年同月比1.6%と、前月の同1.4%から小幅に加速したものの、市場予想の同1.8%を下回った。コアインフレ率は前年同月比1.9%となり、市場予想と10月の同2.1%をともに下回った。

一方、マレーシアの総合インフレ率は市場予想や前月の数値を下回った。11月の総合CPI上昇率は前年同月比1.8%と、前月の同1.9%から減速し、市場予想の同2.1%を若干下回った。11月のコアインフレ率は前年同月比1.80%となり、3ヵ月連続で伸び率が同水準となった。

韓国の11月の総合インフレ率は小幅に加速したものの、中央銀行の目標である2%を引き続き下回った。総合CPIは、輸送費の上昇加速などを受けて前年同月比1.5%となり、前月の同1.3%から加速した。コアCPI(生鮮食品およびエネルギー価格を除く)は前年同月比1.9%となり、前月の同1.8%から加速した。

今後の見通し

2025年のアジアの現地通貨建て国債は他地域をアウトパフォームする見込み
市場のボラティリティが低下するなか、アジアの現地通貨建て国債は2025年に良好なパフォーマンスを示すとみている。インフレが落ち着き、経済成長が緩慢となる環境で、中央銀行の緩和的なスタンスが下支えになるだろう。進行中の世界的な金融緩和サイクルによって世界の利回りは低下し、アジアの債券市場の追い風になると予想される。さらに、米国からの潜在的な関税の脅威もあり、中期的には世界の成長は鈍化するとみられ、このシナリオは債券市場全般を下支えする可能性がある。アジア通貨全般については、トランプ新政権のもたらす影響が不透明ななか、当面慎重なスタンスを維持する。とは言え、アジア通貨への影響は、アジア地域の強固なファンダメンタルズとFRBの長期緩和路線によって軽減されるだろう。

FRBが金融緩和を続ける環境下、実質利回りが高いインド国債はますます魅力的になっている。加えて、インドのサービス収支は、ソフトウェア、旅行、ビジネスサービスの輸出増加を追い風に改善しており、経常赤字の圧力を緩和している。JPモルガンの新興国債券インデックス(GBI-EMインデックス)にインドの債券が採用されたことも、海外からの資金流入を持続的に促し、需要をさらに押し上げるだろう。さらに、インド準備銀行が最近金融政策のスタンスを中立にシフトしたことは、今後より緩和的な措置に軸足を移す可能性を示している。また、格付け機関S&Pグローバルがインドの格付け見通しをポジティブとしていることから、中期的に待望の格上げが実施される可能性が示唆されている。

アジアのクレジット市場

市場環境

アジアの信用スプレッドは縮小するも米国債利回りの上昇を受けてリターンはマイナスに
12月のアジア・クレジット市場は、信用スプレッドが約0.07%縮小したものの米国債利回りが上昇するなか、月間リターンが-0.80%となった。格付け別では、投資適格債(月間市場リターンが-0.84%)がハイイールド債(同-0.58%)下回った。投資適格債は、ハイイールド債に比べてデュレーションが概して長めであり、また投資適格債はスプレッドの縮小が0.03%だったのに対して、ハイイールド債は0.55%とより大幅な縮小となった。

12月前半のアジアの信用スプレッドは、概ねレンジ内で推移した。中国のクレジットものは、同国で12月に開催された政治局会議や中央経済活動会議(CEWC)を受けて市場センチメントが改善し、追い風を受けた。これらの会議で、党の高官は経済が直面している重要課題への認識を示すとともに、従来の方法にとらわれない景気対策を強化すると明言した。注目すべき点として、CEWCではGDPに対する2025年の財政赤字比率を引き上げて、消費の伸びを後押しする取り組みを優先するとともに、不動産市場のさらなる下落を防ぎ、安定化させることが示された。中国の11月の不動産市場は、新築住宅価格の下落率が鈍化するなか、安定化の兆しがやや見受けられた。支援的な政策方針が示されたことを受けて、中国の信用スプレッドは12月に0.02%縮小した。しかし、中国や香港の一部の不動産クレジットは、銘柄固有の動向を受けてやや売り圧力に晒された。

一方、韓国は尹錫悦大統領による戒厳令の発布と迅速な撤回を受けて政治的混乱に見舞われた。尹大統領に続いて崔相黙大統領代行も弾劾され、韓国は2025年に大きな政治的不透明感に直面した。韓国の金融市場では、特にウォンや国内株式のボラティリティが高まるなど、経済モメンタムが既に低下している。とは言え、オフショアの韓国の米ドル(USD)建てクレジットは底堅さをより示し、スプレッドは前月末比でわずか0.04%の拡大に留まった。

12月のスプレッドは他の大半の国・地域で縮小し、インドのクレジット市場は0.09%縮小して小幅にアウトパフォームした。

12月の発行市場の起債活動は閑散
12月の発行市場は閑散状態となり、投資適格債の新規発行は2件(総額6億米ドル)となり、ハイイールド債は新規発行がなかった。

チャート2

今後の見通し

アジア・クレジット市場は利回りが引き続き魅力的、スプレッドはレンジ圏で推移しキャリーがリターンドライバーに
アジアのクレジット市場のファンダメンタルズは2025年も堅調を維持するとみている。中国は、経済のリバランスに向けた取り組みを続けながら、米国の関税リスクによる厳しい外部環境の影響を緩和し、経済成長全般を安定化させるために、より緩和的な政策を採用するとみられる。中国以外のアジア諸国のマクロ経済ファンダメンタルズは、輸出の伸びが圧迫される可能性があるなか、2024年にみられた良好な水準に比べるとやや弱まる可能性があるものの、概して底堅さを維持するだろう。アジア諸国の中央銀行には、内需を下支えする金融緩和余地が十分にある。

関税引き上げの脅威や米国の政策変更の影響が見込まれる一部のセクターや特定の銘柄を除き、アジアの企業や銀行の信用ファンダメンタルズも、良好なマクロ経済環境を背景に底堅く推移するとみている。全体として、収益の伸びは緩やかになるものの健全な水準を維持し、利益率は投入コストの低下を受けて安定的に推移する可能性がある。アジアの大半の企業や銀行は、強固な財務基盤と十分な格付けバッファーを備えた状態で2025年を開始することになる。アジア・クレジットのデフォルト率は低下傾向を辿り、アジアの投資適格債分野では投資適格級未満に格下げされるフォールンエンジェル銘柄の割合が低下するだろう。このトレンドは、過去数年間に多くのクオリティの低い企業がインデックスから淘汰され、発行体の信用力がより良好となったことが一因になっている。

2025年のアジア・クレジット市場では、米国債利回りの低下を受けてオフショア債とオンショア債の間の資金調達コストの差が縮小するなか、総供給量が過去2年間に比べて増加するとみている。また、定期的に起債を行っている多くの発行体が、長期的なプレゼンスを維持するために米ドル建て債券市場での借り換えを望む可能性もある。しかし、償還が引き続き高水準で推移しており、正味供給量は抑制される可能性が高い。また、オールイン利回りが引き続き高水準にあることから、アジア域内の投資家からの需要は底堅く推移するとみている。

信用スプレッドは歴史的にみてもタイトな水準にあるが、マクロ経済や企業の信用ファンダメンタルズによる追い風に加え、需給動向も良好であることを受けて、2025年はスプレッドが概ねレンジ圏での推移を続けると予想される。BBB格とBB格に跨るクロスオーバー・クレジット分野については、スプレッドが200ベーシスポイント台前半から半ばで取引されており、慎重ながらも楽観的な見方を維持し選好している。2025年はキャリーがアジア・クレジット市場の主要なリターンドライバーになるだろう。


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