本稿は2024年12月5日発行の英語レポート「Global market and economic outlook 2025」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
2025年の見通しと主要テーマ
2025年の米国経済は、財政出動が期待されるなか、プラス成長が続くとみられる。一方、インフレは依然として米FRB(連邦準備制度理事会)の目標を上回っており、米国債市場の混乱に伴うファットテールリスクが高まっている。
ドルは堅調を維持するだろうが、突発的な混乱に見舞われるかもしれない。他国との利回り格差が米国債に有利な形で拡大すれば、ドルの追い風となる「キャリー・トレード」が増える可能性がある。しかし、こうしたトレードについては、リスク回避姿勢の高まりに対する脆弱性が強まることになるだろう。リスク回避姿勢の高まった場合に大幅かつ急激な円高が起こるリスクは残っている。
日銀は利上げを継続するとみられる。引き締めのペースは主に国内要因に左右されるだろうが、円安による輸入品価格への上昇圧力が長引けば時間差を伴ってコアインフレにも波及するため、その影響も受けるだろう。
中国については、世界第2位の経済大国である同国に米国が課し得る関税措置に備えつつ、低迷している国内消費からの差し迫った圧力に対応しなければならないなか、国内の景気刺激策において難しい綱渡りを強いられるだろう。
欧州の経済成長率は底打ちした可能性があるが、米国の関税が潜在リスクとなり回復のペースは弱いものにとどまるかもしれない。
世界各国の中央銀行の政策は乖離が進むとみられる。一部の中銀は、米国関税の景気への影響を金融緩和で中和しようとするかもしれない。一方で他の中銀は、米国から波及してくるインフレやドル建てで取引されるコモディティの価格上昇に起因するインフレを抑制すべく、政策を引き締める可能性がある。
2024年の総括:好調な経済成長を受けて遅れたFRBの金融緩和
2024年の経済は、前年に比べ良好な基調で年末を迎える模様だ。2023年の終わりに市場はリセッション(景気後退)の可能性を懸念していたが、2024年の序盤には米国の堅調な消費・雇用統計が緩やかなディスインフレを伴いながら景気を押し上げ、FRBは利下げを9月まで延期することになった。米国のイールドカーブは2024年の大半にわたって長短反転が続き、緩和的な金融環境が信用・株式市場の追い風となるなかにあっても、ドル需要は高水準にとどまった。米国債は米国株式のリスクに対する分散効果の役割を果たすことはあまりなく、その米国株式は「マグニフィセント・セブン」(Apple、Microsoft、Alphabet、Amazon、Nvidia、Meta Platforms、Tesla)と呼ばれる大型テクノロジー株の動きに左右された。
2025年の見通しとテーマ
米国経済はプラス成長が続くとみられるが、市場の高い期待はリスクに
2024年が終わりに近づくなか、ドナルド・トランプ氏が米国大統領に返り咲くことに伴う景気促進政策への期待が、株式市場を押し上げている。米国大統領選の前には、株式市場と債券市場は対照的な経済シナリオを織り込んでおり、債券が大幅な景気鈍化を織り込む一方で、株式のバリュエーションは割高さを増していった。短期的には、トランプ氏が勝利したことにより、景気基調の鈍化がFRBの積極的かつ急速な利下げを促すとの思惑に終止符が打たれた。しかし、米国の公的債務残高が対GDP比120%と事実上過去最高水準に達している(チャート1参照)なかですら、すでに割高な水準にある米国株式のバリュエーションは上昇し続けており、注意が必要かもしれない。当社のグローバル投資委員会(GIC)では、選挙前、米国のイールドカーブの混乱などテールリスク(確率は低いものの発生すると非常に大きな損失をもたらすリスク)が高まっていると判断していた。米国の有権者が共和党に予想外に強い信任を与えたことで、債務上限をめぐり議会が対立するという目先のリスクはとりあえず低下したが、一方で、米国の財政がすでに拡張状態にあるなかで財政出動が予想されることに内在するテールリスクは高まった。
米国で共和党が行政府だけでなく上下両院でも予想以上に支持されたことは、同国経済がすでに堅調であるなか、市場に好感された。具体的に言うと、市場は今や目先の財政出動を期待するとともに、まだ詳細が示されていない規制緩和策に対し概して好感を示している。第一に、米国の景気とインフレがともに予想よりも堅調であることから、当社では同国にリセッションが迫っているとは予想していない。しかし、2025年にかけてはある程度の慎重さを持って臨む。株式市場のバリュエーションは政策がまだ発表されていないなかで先走っており、したがって失望的な材料に見舞われた場合に市場に悪影響が及びやすいからだ。そのような潜在的材料としては、企業収益の下振れ、米国の消費・雇用統計の悪化、市場の高い期待に応えられないような財政・規制政策の発表などが挙げられる。
米国債利回り:整然とした市場展開を基本シナリオとするが、国債市場の耐性が試される可能性も
米FOMC(連邦公開市場委員会)は、利下げサイクルを開始するとすぐデータ次第の姿勢に転換し、2024年11月には0.25%の利下げを実施すると同時にフォワード・ガイダンスを削除した。パウエルFRB議長は、中央銀行の独立的スタンスに則り、財政政策措置への対応の可能性については、そのような措置が具体的になるまで方針を示すことはしないと述べた。しかし、いずれFRBは、予想される財政拡張への対応として、インフレ見通し引き上げの発表を余儀なくされるかもしれない。したがって、当社では、現在2.5%を下回る水準にとどまっている米国の5年先5年物ブレークイーブン・インフレ率(期待インフレ率)について、上昇し始める兆しがないか注視を続けている(チャート2参照)。
米国経済は見事な堅調さを示しているが、景気循環的には拡大サイクル後期の段階にあるとみられる。この景気拡大における景気刺激策の役割について言えば、今回のサイクルの景気拡大期を通じて米国でこれほど高水準の財政赤字が続いたことは異例である。当社の基本シナリオとしては、米国債利回りの調整が整然とした形で進むと予想する。しかし、より極端な調整が起こる可能性は、依然小さいながらも高まったとみている。とりわけ、FRBの利下げを受けて、米国の双子の赤字を賄っている海外の債権者が、米国債の提供しているプレミアムが十分かどうかを疑問視するようになる可能性がある。このようなリスクは無視すべきではない。米国政府が抜本的な貿易障壁を導入すれば、同国に輸出を行っている貿易相手国の利益が抑制されることを考えると、なおさらだ。そういった障壁実現のリスクは、米国の選挙以来高まっている。
当社の基本シナリオではないが、2026年のパウエル議長の任期満了が近づくにつれ、FRBのインフレ対抗力が試されるようになるかもしれない。市場では、米国債市場が極めて大規模で流動性に富んでいること、また米国のシニョリッジ(通貨発行権とそれに伴う利益)があまりにも深く根付いていることから、世界各国の中央銀行の外貨準備において米国債が果たしている中心的な役割が損われるようなことは起きない、という見方が支配的である。しかし、自国の様々な政策が重なることにより、米国債市場は耐性の限界が試される展開になるかもしれない。したがって、米国の長期債利回りが無秩序に大幅上昇するリスクは相対的に低いとは言え、何らかのヘッジ手段を講じておくことは賢明かもしれない。
ドルは底堅い推移とみられるも波乱に見舞われる可能性、円はボラティリティに対するヘッジとして有効
リスク選好が続く限り、ドルは米国金利の相対的な高さがもたらす利回り格差に引き続きサポートされると予想され、特にFRBの利下げサイクルが予想されたよりも短期間に終わった場合は、その傾向が強まるだろう。これまでの金価格の上昇は、リスク回避の動きというよりも、世界の投資家が米国債の代替、特に外貨準備として保有できリスク資産ポートフォリオのヘッジとしても機能するものを、血眼になって探し求めた結果と言える。米国債のイールドカーブが長短逆転したことで、ドル・キャッシュの代替となるものは投資魅力が増した。短期債ですら、他の多くの先進国や一部の新興国の通貨に対して十分なプレミアムを提供しているからだ。このため、外国為替市場が落ち着いているなかでは、キャリー・トレードが通用してきた。しかし、この状況は、インプライド・ボラティリティが少しでも上昇すれば、突如として阻害される可能性がある。相対的に金利の低い円は依然として資金調達通貨として選好されているが、ボラティリティが急上昇すれば大幅な円高が起こると当社では予想している。したがって、日本の通貨は、相対金利の点では不利であるものの、リスク資産投資に伴うテールリスクへのヘッジとなるかもしれない。
日本の「好循環」は続くと見られる
マルチアセット型ポートフォリオでは、円に資金配分を行うのにキャッシュ以外の選択肢がある。実際、短期的な絶対リターン・ベースでも、長期的な相対価値ベースでも、日本株にはさらなる投資価値があると当社では考えている。米国株式の上昇が続く限り、キャリー・トレードや円安、リスク許容度など循環的要因の複合作用によって、日本株も上昇を続ける可能性が高い。さらに、米国の景気サイクルがいずれ鈍化しても、日本の相対ファンダメンタルズは魅力度を維持するとみている。
日本が優れた分散投資効果と下方プロテクションを提供すると予想する主な理由は、その信頼できる構造的リフレ特性にある。これには、(実質賃金の上昇やソフトウェアへの投資を促している)労働力不足に加え、コーポレート・ガバナンスや利益率、自己資本利益率の着実な改善などが挙げられる。これらの要因は、日本経済の国内面で徐々に浸透しつつある。内需の伸びの回復が長く続けば続くほど、日本は輸出系大型株から内需系中小型株へのシフトを通じて価値を提供する可能性が高まる。米国の経済成長がやがて勢いを失っても日本が底堅さを維持するためには、中小企業が賃金上昇の吸収と顧客へのコスト転嫁を続けられることが肝要となる。
日銀はインフレを注視しながら消費の堅調さを重視
日銀は政策において「ビハインド・ザ・カーブ」(景気の加速や物価の上昇に対して意図的に利上げのタイミングを遅らせること)の姿勢を維持するという約束を果たし、コアインフレが目標である2%を上回ることを許容した。インフレは、同中銀が2024年3月に金融緩和を解除し始めるまでの2年間、目標である2%を上回り続けた。日本の国内景気の底堅さが続いていることを受けて、日銀は何らかの尺度での「中立」金利に達するまで金融緩和を徐々に解除していくことにコミットしている。しかし、「中立」というのが実質長期金利のゼロ近辺(あるいは若干のマイナス)を意味するとすれば、プラスのインフレ期待を受けて追加利上げが行われる可能性が高い。一方、日銀は円安と輸入物価、消費者物価の関係を強調しており、これは、他の条件が同じであれば、円安傾向によって日銀の利上げが前倒しされ得ることを意味する。世界の経済成長が維持されるとの前提に立てば、日銀は、今後のインフレ期待次第ではあるが、翌日物金利が1%に達するまで(そして場合によってはそれ以降も)金融緩和を徐々に引き揚げ続けると考えるのが妥当だろう。
中国は大幅な関税措置に直面すれば大規模な景気刺激策を実施するとみられる
中国の5%という年間経済成長目標は、今のところ裏付けが乏しいように見受けられる。同国は、低迷する国内消費と着手が滞っている住宅建設予定を埋め合わせようと、民間投資と輸出を伸ばそうとしているが、なかなか促進できていないからだ。最近の景気刺激策は、金融緩和と債務スワップに重点が置かれている。後者の措置は地方政府の資金調達ビークルの負債をリファイナンスするもので、今後5年間で10兆人民元を上限とする。これまでの措置が不振にあえぐ中国の景気を持続的に支えていくことができるかどうかについて、市場は今のところ懐疑的である。しかし、中国が財政面での余力を一部温存しているのは妥当と言える。というのも、中国政府は近いうちに、米国政府による全面的な関税賦課といった保護主義的措置に対応しなければならない可能性があるからだ。
中国の輸出品に大幅かつ全面的な関税が課されることになれば、中国は大規模な追加景気刺激策を講じるとみている。その措置には、財政出動の拡大や(特に米国の貿易関税が工業製品の輸出を脅かすものである場合は)人民元安誘導策が含まれるかもしれない。このような対処的景気刺激策は、経済的というよりも政治的なものと言えるだろう。インフレが一般家庭の生活水準を低下させれば現政権が失脚する可能性がある他の国々に比べ、中国には社会の安定を維持するために上乗せコストを支払うインセンティブがある。
中国債券:「どんどん発行しろ」アプローチが有利な環境
中国株式は、同国の景気刺激策発表を受けた2024年9月下旬の上昇をキープするのに苦戦している。一方、中国国債の利回りは着実に低下しており、国内外の投資家が中国国債に対する旺盛な需要を示している。中国の一部の地方銀行からは非常に強い投資需要が見られ、中国政府がそれらの銀行に購入自粛を求めなければならないほどだった。
中国債券は、米国株式ポートフォリオの集中リスクに対して真の分散効果をもたらす数少ない資産クラスとなっている。層が厚く流動性の高い米国債市場は、株式市場のリスクに対するバッファーとしての役割を通常ほど果たせなくなっているからだ。こうした状況は、中国が旺盛な需要を追い風としてドル建て債券市場に再び参入するのに適した環境を生み出した。2024年後半、中国は3年ぶりにドル建て債券を売り出し、同じくドル準備保有国であるサウジアラビアで同債券を発行した。
現在の市場は中国債券の発行に有利であるように見受けられる。これは、中国政府が海外からの保護主義を受けて新たな国内景気てこ入れ策を講じる必要が生じた場合、そのための資金調達をしやすくする可能性がある。同時に、中国の内需刺激策は、アジアや欧州など中国への輸出依存度がある程度高い貿易相手国にとっても、プラスの波及効果をもたらすかもしれない。
ECBは地政学的状況を睨みながら2025年も金融緩和を継続か
トランプ次期政権が発動するかもしれない保護貿易主義的措置に目を光らせているのは、中国だけではないだろう。ユーロ圏も中国と同様、国内景気の低迷に悩まされているが、同地域は産業指標の底打ちがある程度下支えとなっている。
ECB(欧州中央銀行)はこれまでのところ、緩和姿勢を維持している(チャート3参照)。欧州のディスインフレと失業率は深刻な水準ではないものの、製造業と民間投資の低迷に今後は貿易障壁が加わるとの見通しを受けて、ECBは2025年も金融緩和を継続する可能性がある。同時に、欧州各国政府は、トランプ政権が実施し得る米国の関税からの圧力に対抗するため、限定的な財政出動を実施するかもしれない。
ユーロ圏の国内景気は2025年も低迷を続けるかもしれないが、経済成長は少なくともプラスを維持すると予想する。家計では実質所得がここ数四半期で改善するなかでも貯蓄が増加し続けたが、ECBが利下げを実施すれば家計の貯蓄意欲が後退し、家計支出はプラスの伸びを維持し得る。中国を標的とした米国の関税は、中国とユーロ圏のあいだで競争を激化させる可能性があるが、米国の関税からの圧力を和らげようとする中国当局が内需の押し上げに成功すれば、ユーロ圏も中国政府の財政出動から恩恵を受けられるかもしれない。
世界各国の中央銀行は米国の関税の影響に対処するなかで妥協を余儀なくされる可能性も
米国の貿易相手国の多くは、中国や欧州と同様に、トランプ政権が2025年に実施する可能性のある関税その他の保護主義的措置を注視していくとみられる。グローバル債券市場では、米国債市場と多くの他国市場とのあいだで(前述の中国債券を例外として)高い相関性が続いている。2025年に向けて、市場はトランプ政権が課す関税や米国の減税に起因するインフレの可能性の高まりを、今後さらに織り込みに行くかもしれない。
世界各国の中央銀行は、関税による国内景気への悪影響が、ドル高による輸入インフレの影響を上回るかどうかに神経をとがらせるだろう。例えば、ドル高は日銀にとって重要視する材料となっている。カナダ銀行も、景気とインフレのバランスにおいて両方を重視せざるを得ない中銀の1つである。一方、カナダはトランプ政権発足以前から、メキシコや中国と並んで米国の関税対象国とされてきた。カナダは米国と広大な国境を接しているため、米国と国境を接していない他の国々に比べ、米国からのインフレ圧力に晒されやすい。その結果として、米国経済が堅調な成長を続けるとすれば、カナダの関税は米国の川下生産者や消費者によって吸収される可能性が高くなる。
カナダ銀行は利下げ基調を維持しているが、インフレ圧力が予想外に高まれば、その緩和路線は壁にぶつかり得る。金融緩和を徐々に解除している日銀を除けば、多くの中央銀行は時を同じくして利下げを継続する立場に置かれている。とはいえ、これらの中銀の一部は、ある時点で、(例えば米国の貿易関税からの圧力による)景気鈍化と根強さを増すインフレとのあいだで妥協を余儀なくされ、利下げ軌道を短縮する可能性がある。中銀がこのような妥協を迫られる一部の国・地域のリスク資産市場は、2025年にモメンタムが弱まるかもしれない。
個別銘柄への言及は例示のみを目的としており、当該戦略で運用するポートフォリオでの保有継続を保証するものではなく、また売買を推奨するものでもありません。
当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。