当レポートは、英語による2024年12月13日発行の英語レポート「Global Investment Committee’s outlook: growth cycle may continue but mind the fatter tails」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。


直近のグローバル投資委員会(GIC)は12月2日に開催された。この四半期を振り返ってみると、長期金利は当委員会が前四半期に予想した通り調整した。加えて、9月に米FRB(連邦準備制度理事会)が実施した金融緩和を受けて米国のイールドカーブに織り込まれてきた複数回の利下げは、市場で巻き戻されることになった。米国の経済成長率は当委員会の予想通りプラス領域にとどまっただけでなく、第3四半期に設定したガイダンス・レンジの上限近辺の水準となった。ドルは11月の米大統領選の結果を受けて再び上昇基調に転じた。共和党は、大統領選での勝利に加え、上下両院で過半数の議席を確保した。

当委員会の主要な結論は以下の通り:

  • 米国の当面の経済成長見通しを上方修正した。同国の労働市場と個人消費は、鈍化兆候の進行が遅いか上方に調整するかしている。一方、FRBは利下げサイクルがまだ完了していないことを示唆している。さらに、同国の次期政権が景気刺激策を実施するとの期待も、市場心理や高所得者層の心理を押し上げているように見受けられる。同国のインフレ加速に伴うテールリスク(確率は低いものの発生すると非常に大きな損失をもたらすリスク)は、引き続き高まっている。したがって、グローバル・ポートフォリオにおけるテールリスクへのヘッジとして、インフレおよびボラティリティに強い資産を引き続き選好していく。金と日本円については、ポートフォリオの分散要素としてポジティブな見方を維持する。
  • 日本株の選好を継続する。日本では構造的なリフレの兆候が続いているとともに、日本株には相対的な割安感がある。日本株が現在提供しているリスクプレミアムも、優位性があり魅力的と言える。このような背景下、米国市場が調整に見舞われても相対的に悪影響を受けにくいとみられる日本の内需関連株に引き続き注目し、投資価値の高い銘柄を選好していく。
  • FRBによる積極的な緩和への期待はすでに後退していることから、米国債券については長期債の調整を受け2025年に向けて様子見スタンスとする。財政リスクと貿易をめぐる不透明感について、米国のイールドカーブの長期ゾーンに混乱をもたらし得る潜在的要因として警戒している。これまで強調してきた通り、米国債券は同国株式の下落局面において十分な下方分散効果をもたらさなくなっており、同国の景気がいずれ鈍化した場合により優れた分散効果を提供する資産を引き続き探求していく。米国の長期債については引き続き慎重な見方をしている。
  • また、中国の追加景気刺激策の発表も待たれる。同措置は、米国の次期政権が対中貿易政策を決定した時点で発表される可能性があり、財政出動と人民元安誘導の組み合わせになるとみられる。

2024年第4四半期の振り返り:株式が「大いなる乖離」の勝者に

米国経済は予想された以上に堅調で、第3四半期のGDP成長率は前年同期比3%近くに迫った。これは、当委員会の第3四半期時点のガイダンスにおいて、四分位範囲の上限に近い水準である。同国の雇用統計は9月に弱まりかけたように思われたが、足元ではこれまでの数四半期ほど好調ではないものの安定的に推移している。同国では消費も堅調を維持しており、根強いサービス・インフレとそれがコアPCE(個人消費支出)インフレに及ぼす影響から、FRBは積極的な金融緩和を行うことができないでいる。FRBは9月に0.5%と予想外に大幅の利下げを実施した後に再利下げを実施したが、金融政策声明からフォワード・ガイダンスを削除している。

2024年が終わりに近づくなか、ドナルド・トランプ氏が米国大統領に返り咲くことによって景気促進政策が実施されるとの期待が、株式市場を押し上げている。米大統領選前には、株式市場と債券市場はそれぞれ対照的な経済シナリオを織り込んでおり、債券市場が大幅な景気鈍化を予想する一方、株式市場ではバリュエーションが上昇し続けた。短期的には、トランプ氏の勝利により、景気基調の低迷を受けてFRBが積極的かつ急速な利下げを行うとの思惑に終止符が打たれた。しかし、米国の公的債務残高が対GDP比120%と事実上過去最高水準に達している(チャート1参照)なかですら、すでに割高な水準にある米国株式のバリュエーションは上昇し続けており、注意が必要かもしれない。当委員会では、選挙前、米国のイールドカーブの混乱などテールリスクが高まっていると判断していた。米国の有権者が共和党に予想外に強い信任を与えたことで、債務上限をめぐり議会が対立するという目先のリスクはとりあえず低下したが、一方で、米国の財政がすでに拡張状態にあるなかで財政出動が予想されることに伴い、より長期的なテールリスクは高まっている。

チャート1

一方、米国以外の市場では、米国が打ち出すであろう関税その他の孤立主義的政策がもたらし得る潜在的混乱を織り込んできている。たとえば、これまでの中国の景気刺激策は期待外れだったかもしれないが、中国政府高官が米新政権の方針を見極めるまで追加の内需刺激策の実施を待つのは至極当然と言える。他に、日本では、10月の衆院解散総選挙で自民党率いる連立与党が過半数を失い、野党との妥協を余儀なくされることとなった。その結果、低所得者層を支援するための財政出動が提案されており、このような措置は、米国の通商政策の影響をめぐる不透明感が円の反発を抑えているなかでも、短期的に内需を下支えする可能性がある。日本の状況は、欧州に比べればまだ恵まれている。需要の回復の遅れに悩む欧州は、特に米国に起因する貿易面の不透明感やフランスの政治危機、そして2025年2月に予定されているドイツの解散総選挙に苛まれていることもあり、ECB(欧州中央銀行)の追加緩和頼みの状況にある。

グローバル・マクロ経済:強気派に同調するがテールリスクに留意

米国:マクロ経済指標は驚くほど底堅い。雇用統計、特に失業率算出の基礎となる家計調査が幾分軟化しているにもかかわらずだ。家計調査は、非農業部門就業者数のベースとなる事業所調査に比べ、低所得者層の占める割合が高い。チャート2は、両調査の雇用創出推計における過去の乖離を示している。この乖離は、高所得者層のセンチメントが高まる一方で低所得者層のセンチメントは依然として非拡張的であることを示している米コンファレンスボードの消費者信頼感指数と一致している。これらの指標が景況感の二極化を示すなか、高所得者層の投資ポートフォリオがもたらす「富効果」が、実質所得の堅調な伸びとともに、上位中所得者層を中心として消費を押し上げている可能性がある。しかし、11月の失業率の上昇に加え、(例年ならクリスマス休暇シーズン前に好調になる傾向のある)小売りセクターの労働需要が意外に低調であることは、近い将来に消費が軟化する可能性を示唆しているのかもしれない。一方で、有効求人倍率も低下している。

チャート2

当委員会では、米国のGDP成長率について当面のガイダンスを上方修正した。2025年前半の前年同期比成長率は2%台半ばで推移すると予想する。その後、年後半には緩やかに鈍化して2%を下回るとみるが、一定の下振れリスクはあると考える。このように、今回の上方修正にはいくつか補足すべき点がある。ある委員会メンバーは、米国の次期政権が景気を支える財政出動を行うとの期待が広がっているものの、そのような期待が裏切られる可能性があるとの懸念を示した。また別のメンバーは、次期政権が発表した連邦政府部門(米労働省労働統計局によると約300万人を雇用)の人員削減計画が、雇用の伸びが大幅に鈍化している足元の局面で裏目に出得るリスクを指摘した。しかし、委員会メンバーはほぼ全会一致で、総合CPI(消費者物価指数)およびコアPCEデフレーターの上昇率がともに2025年を通じてFRBの目標である2%を上回ると予想している。当委員会予想の四分位範囲の下限は2025年も2%を上回る水準にとどまっており、一方で上限は一貫して3%を下回っている。

日本:最近の経済指標は、日本のGDPが潜在成長率(日銀の推定によると約0.6%)を上回る基調を辿るとの見方と整合している。当委員会の基本シナリオとしては、GDP成長率は鈍化が小幅にとどまり、2025年にかけて前年同期比1%を上回り続けるとみている。しかし、特に米国の通商政策とそれが外需に及ぼす影響が未知数であることを考えると、下振れリスクがあることも明らかだ。当委員会の基本シナリオは引き続き1%超のプラス成長だが、ガイダンス四分位範囲の下限は2025年中にゼロを下回っており、年後半を中心に外的ショックによってマイナス成長に転じる確率は25%以下となっている。とはいえ、日本の家計消費が緩やかなペースながらも拡大し続けていることは重要である。GDPにおいて純輸出の占める割合がごくわずかであるのに比べ、民間消費は50%以上を占める。これは、日本で賃金と物価の「好循環」を長く維持されればされるほど、内需が外需の下振れに対するバッファーとしての役割を果たせる可能性が高まることを意味する。輸入物価インフレが緩やかな円高によって和らげられるなか、総合CPI上昇率は2%を下回る水準へ減速するとみられる。緩やかな円高の予想が維持される限り、当委員会では生鮮食品を除くインフレが2025年後半に2%を下回ると予想している。

ユーロ圏:当委員会では、ユーロ圏のGDP成長率が2025年序盤に前年同期比1%を超え、年を通じて徐々に回復していくと予想する。また、総合HICP(ユーロ圏消費者物価指数)上昇率が2025年第2四半期までに2%を下回る水準へ、コアHICP上昇率が年内に目標値の2%に向けて減速し、これを受けてECBが利下げを継続できると予想する。家計では実質所得がここ数四半期にわたり改善するなかでも貯蓄が増え続けたが、ECBの利下げを受けていずれは貯蓄意欲が後退し、家計の消費支出はプラスの伸びを維持できるだろう。しかし、中国を標的とした米国の関税引き上げが実現すれば、中国とユーロ圏のあいだで競争が激化する可能性がある。一方、中国当局が米国の関税引き上げによる圧力を和らげるための内需拡大に成功すれば、そのような中国政府の財政出動はユーロ圏にとっても追い風となり得る。不透明感のもう1つの要因は、ユーロ圏内の一部の国における政情不安だ。フランスやドイツなどユーロ圏の主要国の政局は依然流動的で、予算をめぐって膠着状態に直面している。このような状況はむしろ、ECBに対して(政治的圧力に見舞われている国がまだ実施できていない)景気刺激策の提供を求める圧力を強める可能性がある。

中国:中国の5%という年間GDP成長率目標は、依然達成が難しいと予想する。同国は、低迷する国内消費と着手が滞っている住宅建設予定を埋め合わせようと、民間投資と輸出を伸ばそうとしているが、なかなか促進できていない。最近の景気刺激策は金融緩和と債券スワップに重点が置かれている。後者の措置は地方政府の資金調達ビークルの負債をリファイナンスするもので、今後5年間で10兆人民元を上限とする。これまでの措置が不振にあえぐ中国の景気を持続的に支えていくことができるかどうかについて、市場は今のところ懐疑的である。しかし、当委員会では、中国は米国政府による全面的な関税賦課といった保護主義的措置に対応できるよう、財政面での余力を一部温存している、と考えている。60%の全面関税の影響を相殺するためには、中国は追加で1~2%の国内成長を生み出す必要があると推定され、当局は財政出動と人民元安誘導の両方に訴える可能性がある。それでも、景気にとってより良いシナリオは、米国が(例えば関税率60%で脅しをかけながら40%で実施する、といったように)高関税の脅しをかけながら低めの関税を実施することだろう。米国による関税賦課を受けて、中国は(たとえ不本意でも)より包括的な内需刺激策を採用することになるかもしれない。そうしなければ、関税の影響で経済の危機的状況が社会不安に向かうかもしれず、中国としてはそれは何としても避けたいと考えるだろう。一方、中国では需要の低迷から物価の下落が続き、2025年前半はコアインフレがマイナス圏にとどまると予想する。なお、中国債券市場は今後の発行に向けて好調な状況を維持しており、これは同国が2025年の景気刺激策の財源を賄うのに有利に働くとみている。

金利:対円金利での格差が縮小

FOMC(連邦公開市場委員会):当委員会では、市場予想と同様に、FRBが2025年を通じて緩やかな利下げを継続すると予想する。基本シナリオとしては、FF(フェデラル・ファンド)金利が2025年第3四半期に底を打ち、FRBは年内いっぱい金利を据え置くとみている。FF金利の水準は、2025年末時点の四分位範囲で3.4~4.0%と予想している。景気の上振れが続ければ、FRBは利下げの終了を早めるかもしれない。インフレについては、2025年に2%を下回ることはないとみており、このシナリオが実現すれば、FRBは市場が予想しているよりも早いタイミングで利下げサイクルを一時停止または終了する可能性がある。

日銀の政策金利:他の多くの中央銀行とは異なり、日銀は緩やかな利上げ路線を維持している。当委員会では、日銀が現在0.25%である政策金利を2025年3月末までにさらに0.25%引き上げると予想する。引き締めは緩やかなペースにとどまると予想するが、基本シナリオとしては、2025年後半に0.25%の追加利上げが行われ、政策金利が0.75%へ引き上げられるとみている。今後1年で、日本の政策金利格差は対米で0.75%程度、対欧州でフルに1%縮小すると予想する。しかし、ある委員会メンバーは、日銀が利上げペースを加速させた場合、リフレの「好循環」とされる日本の賃金上昇と物価上昇の微妙なバランスが崩れるリスクがあるとの慎重論を呈した。

ECB:ECBは、(一部の国では政情不安によってさらに悪化し得る)ユーロ圏の低調な経済成長を補うべく、利下げを継続すると予想する。委員会メンバーの1人は、ECBの今後の利下げがタイムリーに行われないことによってユーロ圏の景気低迷が長期化する可能性があるとの懸念を示した。とはいえ、当委員会の基本シナリオとしては、2025年3月末までに金利が3%を大きく割り込み、年末にかけて2%を下回るとみている。当委員会のガイダンス四分位範囲は、2025年末の政策金利が1.65~2.5%内となる可能性を示唆している。

10年債利回り:2024年の大半において株式と10年債価格は正相関となり、長期債は市場リスクに対して十分な分散効果をもたらしてこなかった。この傾向は最近変化し、株式が選好され上昇する一方で債券は米大統領選におけるトランプ候補の勝利を見越して調整した。しかし、トランプ次期大統領の就任が近づくなか、債券利回りが上昇すべき理由は、特にFRBの緩和バイアスが続いていることを考えると、それほど多く残されてはいない。前四半期には金融市場が政策に及ぼす強い影響力を指摘したが、この影響力は、金利の期間構造のように経済活動の先行指標の役割を果たす金融市場の指標の有用性を弱める可能性がある。債券市場は最近調整したものの、イールドカーブの長期ゾーンでさらなる混乱が起こる可能性がまだあることから、当委員会では慎重な姿勢を維持している。金融政策の方向性は中央銀行のあいだで異なるものの、満期が長めの債券市場では地域間で正相関が存在することを引き続き強調しておきたい。とはいえ、当委員会では、日本の経済成長が潜在成長率を上回るなか、日本国債のイールドカーブは日銀の緩やかな金融政策正常化を反映して右肩上がりの傾斜を維持すると予想する。基本シナリオとしては、米国債10年物利回りが2025年を通じて現在の水準に近い3.9~4.4%のレンジで推移するとみている。イールドカーブの長期ゾーンで混乱が起こる可能性は、依然としてテールリスクである。2025年のドイツ国債10年物利回りについては、動きが米国債よりも若干大きくなる可能性をみており、ガイダンス四分位範囲は1.83~2.38%となっている。

為替:ドル高、ただし対円ではない

当委員会では、米次期政権が実施するかもしれない保護主義的措置に対する不透明感から、米ドルの見通しを上方修正した。しかし、地域間の相対的な経済ファンダメンタルズを考えると、ドルが円に対して上昇するとはもはや予想していない。ドルが最も上昇しやすいのは対ユーロ、対オーストラリアドルおよび対英ポンドと予想するが、その主因はドルにとって有利となる金利差の拡大である。しかし、前述したように、日銀はFRBやECB、イングランド銀行、オーストラリア準備銀行とは対照的に、金融緩和の引き揚げを続けると予想している。ユーロ/円は金利差の縮小を受けて特に軟化し、ユーロ/ドルがパリティ(等価)に近づくのに伴い、最終的に1ユーロ=150円を割り込むとみる。ユーロ/ドルについて、2025年中にパリティに達する可能性はなきにしもあらずと考えるが、基本シナリオとしては概ねパリティより上にとどまるとみている。

コモディティ:金は好調、原油は低迷

最近起こったシリアの指導者アサド氏の退陣など、地政学的リスク・イベントが続いているにもかかわらず、原油価格は低迷を続けている。この主因は、OPEC(石油輸出国機構)非加盟国からの豊富な供給と、世界最大の石油消費国である中国の需要減少にあるが、米国の次期政権による国内原油増産計画も価格に下落圧力をかけている可能性がある。しかし、米国の原油生産量が最近過去最高を記録していることを考えると、すでに相場が軟調ななかで原油生産能力を拡大することは、原油価格が高騰していた頃ほどには産油国にとって魅力的ではないかもしれない。それでも、需要がピークを打ったように見受けられるにもかかわらず、供給は増加傾向が続いている。当委員会では、こうした動向を受けて、ブレント原油先物価格が2025年に1バレル当たり70米ドルを割り込むと予想している。2025年の金については引き続きポジティブな見方で、1オンス当たり2,800米ドルを超えると予想しており、3,000米ドルを突破する可能性もあるとみている。従来リスクからの避難先である米国債は、通常とは異なり株式との正相関が続いてきたが、一部の尺度によるとこれは反転したようだ。それでも、当委員会では、債務残高の大きい米国の大規模で流動性の高い債券市場がかつてのような分散効果を提供するとは考えておらず、金は引き続き、米国のイールドカーブの長期ゾーンが混乱するリスク、あるいは、より一般的に言うと、米国債が対市場リスクの適切なヘッジとしての役割を果たすことができないリスクに対し、実行可能な分散投資手段である。

企業収益は米国と日本で堅調、バリュエーションはピークを打ったか

過去水準や他地域と比較すれば、集中度の高い米国株式市場のバリュエーションが割高なことは否定できない。チャート3に見られるように、米国のPER(株価収益率)は最近20年間のレンジをはるかに超えている。また、米国市場の時価総額が相対ベースで急拡大しているため、グローバル株式全体のバリュエーションも過去のレンジを上回っている。とはいえ、株価をすぐに下落させるような明確な材料はほとんど見当たらない。その主因は、企業利益が市場予想を上回る2桁台の伸びを続けているのに加え、金融環境が緩和的なことにある。例えば、米国と欧州の信用スプレッドは過去最低に近い水準にあり、一方でFRBは依然利下げを続けている。米国企業収益に対する当委員会の見通しは引き続き楽観的である。ただし、バリュエーションはピークを打った可能性があると考えており、2025年においては株価指数の上昇率が企業利益成長率を下回ると予想する。

チャート3

一方、日本株は収益利益の健全な伸びを牽引役として上昇すると引き続き予想する。日本株のバリュエーションは過去20年間のレンジの下限近くにあるが、2025年も比較的横這いで推移するとみている。米国株式のバリュエーションについては、当面は世界の他国市場よりも高い水準が続くと予想する。また、欧州の企業利益は1桁台前半の伸びにとどまるとみており、同地域の景気が低迷していること、米国の関税の影響がまだ不透明であることから、減益に転じる可能性も否定できないと考える。英国株式とオーストラリア株式については、2025年中に企業の利益成長率がマイナスに落ち込む可能性をそれなりに見込んでおり、バリュエーションが過去平均以上の水準へ上昇する可能性は低いと考える。香港株式は、インターネット株と金融株が牽引役となっており、テクノロジー・セクターへの投資意欲が続いていること、2025年中に米国の保護主義措置への対応として中国が景気刺激策を打ち出す可能性があることが、やや追い風となるかもしれない。

日本株:「好循環」が続くとともに分散投資効果も

米国株式市場一極集中の強まりに対抗できる分散投資効果の高い資産が乏しいなか、マルチアセット型ポートフォリオでは、円資産に一定の資金配分を維持することが下方プロテクションとなり得ると予想する。投資家がリスク回避の方向に転じると、円高になる傾向があるからだ。投資資金を円に配分するにあたっては、キャッシュ以外の選択肢もある。実際、短期的な絶対リターン・ベースでも長期的な相対価値ベースでも、日本株にはさらなる投資価値があると考える。米国株式の上昇が続く限り、キャリー・トレードや円安、リスク許容度など循環的要因の複合作用によって、日本株も上昇を続ける可能性が高い。さらに、米国の景気サイクルがいずれ鈍化しても、日本の相対ファンダメンタルズは魅力度を維持するとみている。以前リリースしたレポート「日本のリスクプレミアムの重要な改善」で述べたように、米国株式のリスクプレミアムが低下している一方で、日本株のリスクプレミアムは相対的魅力度の高い見返りを提供し始めている(チャート4)。

チャート3

日本株が優れた分散投資効果と下方プロテクションを提供すると予想する主な理由は、同国の信頼できる構造的リフレ特性にある。これには、(実質賃金の上昇やソフトウェアへの投資を促している)労働力不足に加え、コーポレート・ガバナンスや利益率、自己資本利益率の着実な改善などが挙げられる。これらの要因は、日本経済の国内面で徐々に浸透しつつある。内需の伸びの回復が長く続けば続くほど、日本株は輸出系大型株から内需系中小型株へのシフトを通じて価値を提供する可能性が高まる。米国の経済成長がやがて勢いを失っても日本経済が底堅さを維持するためには、中小企業が賃金上昇の吸収と顧客へのコスト転嫁を続けられることが肝要となる。

当委員会の見通しに対するリスク:関税、インフレ、「トランプ・スランプ」

当委員会では米国の経済成長見通しを上方修正したものの、委員会メンバーは総じてテールリスクが高まったとみている。そのようなテールリスクには、以下のようなものが挙げられる。

  1. 「トランプ・バンプ」の反動、政策への失望およびインフレ:当委員会メンバーが発生確率の最も高い(25%~50%)リスクとして挙げたのは、米国の次期政権による政策ミスや政策挫折の可能性である。あるメンバーは、市場が選挙結果に対して見せた楽観的反応を考えると、失望の可能性も大きいとみている。次期政権の政策が市場の期待に応えられなかった場合、資本フローに波乱が生じ得る。当委員会としては、政策が順調に実施されたとしても、米国政府による支出拡大と雇用削減がIRA(インフレ抑制法)など過去の政府支出による財政出動の終了と重なるかもしれないリスクに対し、警戒を続けている。

    今後行われる減税は上述の支出減少がもたらす景気の足枷を相殺できない、との懸念がある。可能性の高いリスクは様々な貿易相手国に対する関税の賦課で、特に中国に対しては最高60%の全面的関税の実施を示唆している。この関税は、非正規移民強制送還の方針と相まって、米国のインフレを加速させるかもしれない。インフレが上振れすればFRBは金融緩和を早めに終了する可能性があり、これも所得税減税による景気浮揚効果を打ち消しかねない。
  2. 米国以外の政治リスク:グローバル投資家にとって最も顕著でおそらく影響も最も大きい材料は、米国の政策をめぐる不透明感だが、他の地域でも地政学的リスクが明らかに高まっている。欧州は景気が低迷している局面で政情不安に見舞われており、ある委員会メンバーは、同地域の主要国で政治の行き詰まりが続けば、ユーロ/ドルがパリティを割り込むとともに下方圧力に晒され続ける可能性があるとみている。同様に、アジアも政情不安と無縁なわけではなく、最近では韓国で大統領が戒厳令を敷こうとした。貿易面の圧力が強まり中国経済の苦境が続くなか、当委員会では軍事化の進行や中国による台湾併合の脅威といった周辺リスクも注視を続けている。

運用戦略の結論:景気拡大サイクルは続くが下方プロテクションを忘れずに

当委員会では、米国の当面の経済見通しを上方修正しており、また日本については「好循環」が変わらず続くと予想する。FRBによるこれまでの利下げによって、すでに緩和的な米国の金融環境はさらに向上するとみている。一方、米国の経済成長は市場予想を上回っており、同時に米国の選挙結果に対して市場は好反応を示している。市場が景気循環的な下落に転じるタイミングを予測することは依然として難しいが、2025年に向けて米国の政策が期待外れに終わった場合のテールリスクが高まっていることも指摘しておきたい。リスクはインフレ加速の方向に偏っていると引き続き考えており、また、米国の拡張的な財政政策は最終的に持続不可能であると予想する。

現在進行中の景気拡大サイクル長期化は、インフレ上振れリスクとともに、投資家の将来の購買力を保護する効果が期待できる株式の保有に有利な材料である。これとは対照的に、債券、特に米国債券は上昇余地が限定的となるかもしれない。とはいえ、フランスやドイツ、韓国など米国以外の主要国の政情不安を考慮すると、米国債に代わる安全資産の選択肢は現在のところ限られている。このような不安定要因は、2025年にかけて激化する可能性も後退する可能性もある。当面は、不透明感が依然として強いことから、政治リスクの高まりから影響を受けやすい分野で大きなポジションをとることは避けたい。現状はともあれ、米国株式の市場リスクに対して分散ヘッジ効果を提供する資産の選好を継続する。円は金利水準が低いもののリスクからの避難先として有効であり、株式市場の調整局面で下方プロテクションとして機能しやすいと考える。また、金を引き続き選好する。また、日本の内需関連株へのローテーションも有望視している。これらの銘柄は収益が持続可能な構造的回復の兆しを見せており、日本の輸出系企業に比べて米国の景気や景気刺激策から影響を受けにくい。


GICのガイダンス・レンジについては、本稿の補足1を参照のこと。

補足1

補足1:GICの見通しのガイダンス・レンジ

世界のマクロ経済指標

中央銀行の政策金利、為替、債券およびコモディティ

株式


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