本稿は2025年3月18日発行の英語レポート「On the ground in Asia」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

アジア現地通貨建て国債は良好なパフォーマンスが見込まれ、アジア・クレジットはファンダメンタルズが底堅く、需給の追い風を受けるとともにオールイン利回りが魅力的な水準にある


サマリー

  • 2月序盤は、貿易戦争に関する脅威が再燃したことを受けて米国債利回りが上昇した。しかし、米国の経済指標が相次いで市場予想を下回り、エコノミストたちが第1四半期の経済成長予想を下方修正すると、市場では米FRB(連邦準備制度理事会)の年内利下げ回数の増加が織り込まれ、その結果、利回りは一転して低下した。
  • アジア域内では、インドやタイ、韓国の中央銀行がいずれも政策金利を0.25%引き下げた。1月の域内の総合CPI(消費者物価指数)はまちまちとなり、インフレ圧力は、中国や韓国、タイで強まる一方、インドやシンガポール、インドネシアで低下した。
  • アジアの現地通貨建て国債は、抑制されたインフレや緩慢な経済成長という環境のなか中央銀行の緩和的な政策に支えられ、2025年に良好なパフォーマンスをみせると引き続き予想している。域内では、マレーシア、インド、インドネシア、フィリピンなどキャリー水準が高めの債券への投資意欲が、域内の他の債券市場と比べて旺盛さを維持するとみている。
  • 2月のアジア・クレジット市場は、米国債利回りが低下したことや信用スプレッドが0.0179%縮小したことなどを受けて月間リターンが1.73%となった。格付け別では、投資適格債がハイイールド債をアンダーパフォームした。投資適格債はスプレッドが0.0236%拡大したものの月間リターンが1.60%となり、ハイイールド債はスプレッドが 0.1491%縮小するなか月間リターンが2.53%となった。
  • 関税引き上げの脅威や米国の政策変更の影響が見込まれる一部のセクターや特定の銘柄を除き、アジアの企業や銀行の信用ファンダメンタルズは良好なマクロ環境を背景に底堅く推移するとみている。全体として、収益の伸びは幾分緩やかになるものの健全な水準を維持し、利益率は投入コストの低下を受けて安定的に推移する可能性がある。アジアのハイイールド債分野ではクオリティの低いクレジットが淘汰されていることから、アジア・クレジットのデフォルト率は低下傾向を辿ると予想している。また、アジアの投資適格債分野では、投資適格級未満に格下げされるフォールンエンジェル銘柄の割合が低下するだろう。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

関税に関する不安が広がるなか米国債利回りは低下
2月序盤は、追加関税の脅威が再燃したことを受けて米国債利回りが上昇した。当月上旬に、米国のドナルド・トランプ大統領は中国からの輸入品すべてに10%の追加関税を課し、これを受けて中国政府は米国からの一部の輸入品に報復関税を課した。また、トランプ大統領は米国からの輸入品に関税を課す国に対する相互関税を導入する計画も発表した。1月のCPI上昇率が市場予想を上回ったことを受けて、投資家のあいだでFRBの利下げ期待が後退すると、利回りは一段と上昇した。しかし、米国の経済指標が相次いで市場予想を下回り、エコノミストたちが第1四半期の経済成長予想を下方修正すると、市場ではFRBの年内の利下げ回数増加が織り込まれ、その結果、利回りは一転して低下した。月の終盤には、トランプ大統領が中国からの輸入品に課す関税をさらに10%引き上げるとして貿易を巡る緊張を一段と激化させたほか、カナダとメキシコへの追加関税を3月上旬に発動するとの見方を改めて示したことを受けて景気減速懸念が強まった。月末の利回り水準は、2年物の指標銘柄で前月末比0.208%低下の3.99%、10年物の指標銘柄で同0.332%低下の4.21%となった。

チャート1

インド、タイ、韓国の中央銀行が政策金利を引き下げ
2月は、タイの中央銀行が市場の予想外に政策金利を0.25%引き下げた。同中銀は「製造業生産における構造的障害」が経済成長見通しの主な下振れ要因になっていると述べるとともに、「主要国の貿易政策によるリスクの高まり」を指摘した。

韓国の中央銀行も政策金利を0.25%引き下げ、また2025年のGDP成長率およびコアインフレ率の見通しを下方修正した。同中銀の李昌鏞総裁は、利下げに加えて財政政策による景気対策や追加補正予算の必要性を強調する一方、これまでの利下げの効果がまだ十分に表れていないことから、利下げペースは今後緩やかになる可能性があると示唆した。

インドでは、インド準備銀行もアクションを起こし、中立的な政策スタンスを維持しつつも緩和サイクルを開始して、0.25%の利下げを行った。最近任命されたサンジャイ・マルホトラ同中銀総裁は、引き続きインフレ率を目標水準に誘導するとともに経済成長を下支えしていくことに「明確に焦点を当てる」と強調した。また、ルピー安に対する懸念にも対処し、ボラティリティの過度な高まりを抑制するために必要に応じて介入する構えであることを再確認した。

1月の総合CPIはまちまち、アジア地域の経済は総じて堅調に拡大
1月のアジア地域の総合CPIはまちまちとなった。インフレ率は、中国や韓国、タイで加速し、フィリピンやマレーシアで横ばいとなる一方、インドやシンガポール、インドネシアで鈍化した。

中国では、1月のCPI上昇率が前年同月比0.5%へと加速したが、これは今年旧正月が1月だったことによる季節的な影響によって押し上げられた。インドネシアの1月のインフレ率は前年同月比0.76%に急減速し、2000年以来の低水準となった。

GDP成長率については、タイの2024年第4四半期のGDP成長率はタイ中銀の予想を下回る前年同期比3.2%となり、前四半期の同3.0%から小幅な加速にとどまったことで、2024年通年のGDP成長率は2.5%と冴えない結果となった。

インドネシアの第4四半期のGDP成長率は、前四半期の前年同期比4.95%から同5.02%へと加速し、2024年通年の経済成長率は内需の底堅さが主な追い風となり5.03%となった。

インドの第4四半期の経済成長率は、政府支出の増大が消費の長引く低迷を打ち消すなか前年同期比6.2%となり、約2年ぶりの低成長をみせた前四半期から回復した。

また、シンガポールの第4四半期の経済成長率は前年同期比5.0%となり、速報値の同4.3%を上回った。同様に、マレーシアの第4四半期のGDP成長率は速報値の前年同期比4.8%から同5.0%へと上方修正された。

今後の見通し

キャリーが高めの債券を引き続き有望視
当社では、インフレが落ち着いており経済成長が緩慢となる環境で、中央銀行の緩和的なスタンスが追い風となり、アジア現地通貨建て国債は良好なパフォーマンスをみせるとの予想を維持している。米国の関税引き上げが経済成長に打撃をもたらす可能性があるとの懸念は、アジア地域の債券市場をさらに下支えする可能性がある。

域内では、マレーシア、インド、インドネシア、フィリピンなどキャリーが高めの債券への需要が、域内の他の債券市場と比べて旺盛さを維持するだろう。インドやインドネシア、フィリピンでは中央銀行が2025年に一段の金融緩和を実施すると予想しており、国債利回りがさらに低下する可能性がある。

トランプ政権にまつわる不透明感があるなか、当面はアジア通貨全般に対して慎重な見方を維持している。しかし、域内の強い経済ファンダメンタルズがその影響を緩和するとみており、なかでもマレーシアリンギットに対して引き続き明るい見方をしている。

アジアのクレジット市場

市場環境

2月のアジア投資適格クレジットは上昇
2月のアジア・クレジット市場は、米国債利回りが低下基調となったことや信用スプレッドが0.0179%縮小したことなどを受けて月間リターンが1.73%となった。格付け別では、投資適格債がハイイールド債をアンダーパフォームした。投資適格債はスプレッドが0.0236%拡大したものの月間リターンが1.60%となり、ハイイールド債はスプレッドが0.1491%縮小するなか月間リターンが2.53%となった。

2月のアジア・クレジット市場は、米国による関税リスクが高まるとともに米国債のボラティリティが高まったにもかかわらず、良好な需給が下支えとなり概して底堅く推移した。スプレッドは月初に拡大したものの、中国市場が旧正月の休みを終えて再開するとすぐに縮小した。

月初は、韓国の規制当局が大手銀行による4,000億ウォン近い「不適切な」融資を明らかにしたことで、同国の金融セクターがやや弱含んだ。一方、香港および中国本土の株式市場がリスクオンの様相となったことが後押しとなり、中国のハイイールド分野のクレジットものは月初に好調となった。中国のテクノロジー・メディア・通信分野のクレジットは、AI(人工知能)開発をめぐる楽観的な見方や中国株式の堅調さが続いていることを受けて上昇した。

中国の不動産セクターのセンチメントも大手デベロッパーに対する政府の追加支援のニュースを受けて改善し、当面のデフォルト・リスクが後退した。不動産市場の安定化の兆しを示唆するデータを受けて、モメンタムはさらに向上した。習近平国家主席が、「国家セクターの進展と民間セクターの後退」に対する懸念の強まりに対処するべく、インターネット、AI、新エネルギー、ロボティクス、半導体、農業、家電など主要産業の著名な民間起業家らと会談したことを受けて、中国のクレジットものに対するセンチメントは一段と押し上げられた。

月末にかけては、3月上旬に開催される中国の全人代を控え、同会議で経済成長の道筋についてより明確な指針が示されることが予想されるなか、投資家が慎重な姿勢を維持したためスプレッドは拡大した。アジア地域の第4四半期のGDPデータでは、景気の底堅さが維持されていることが示され、さらなる下支え要因となった。

アジア企業の2024年下半期の業績は、中国や香港のコモディティ生産企業や一部の不動産企業を除いて、総じて堅調となった。堅調な決算は、アジア地域における企業の信用ファンダメンタルズの底堅さを反映している。アジアの銀行は、資産の質に対する懸念がややあるなかでも、高い純利鞘の恩恵を受けて良好な収益性を示した。同セクターの強固なファンダメンタルズは、堅固な資本基盤によってさらに強化された。

2月末の信用スプレッドは、中国、香港、インド、韓国、タイで縮小し、インドネシア、マカオ、マレーシア、フィリピン、シンガポール、台湾で拡大した(前月末比ベース)。インドのクレジットは、Adani groupが大幅な上昇を続けたことが牽引役となり、アウトパフォームした。

2月の発行市場の活動は鈍化
発行市場は、1月に当初供給が増大したのち、2月は活動が大きく鈍化した。月中に、投資適格債分野の新規発行は計7件(総額26.4億米ドル)にとどまり、ハイイールド債分野の新規発行は計3件(総額10億米ドル)となった。

チャート2

今後の見通し

アジア・クレジットは利回りが引き続き魅力的、スプレッドはレンジ圏で推移しキャリーがリターンドライバーに
アジア・クレジット市場のファンダメンタルズは 2025 年も堅調を維持するとみている。中国は、経済のリバランスに向けた取り組みを続けながら、主に米国の関税リスクによる厳しい外部環境の影響を緩和し、経済成長全般を安定化させるために、より緩和的な政策を採用するとみられる。中国以外のアジア諸国のマクロ経済ファンダメンタルズは、輸出の伸びが圧迫されるにつれ、2024年にみられた良好な水準に比べるとやや弱まる可能性があるものの、概して底堅さを維持するだろう。アジア諸国の中央銀行には、内需の回復を下支えするための利下げ余地が十分にある。

良好なマクロ経済環境を背景に、関税引き上げの脅威や米国の政策変更の影響を受ける可能性のある一部のセクターや特定の銘柄を除き、アジアの企業や銀行の信用ファンダメンタルズも底堅く推移するとみている。全体として、収益の伸びは緩やかながらも健全な水準を維持し、利益率は投入コストの低下を受けて安定的に推移する可能性がある。アジアの大半の企業や銀行は、強固な財務基盤と十分な格付けバッファーを備えた状態で2025年をスタートしたとみている。アジアのハイイールド債分野ではクオリティの低いクレジットが淘汰されており、デフォルト率は2025年に大きく低下すると予想している。また、アジアの投資適格債分野では、投資適格級未満に格下げされるフォールンエンジェル銘柄の割合が低下するだろう。

2025年のアジア・クレジット分野では、米国債利回りの低下を受けてオフショア債とオンショア債の間の資金調達コストの差が縮小するなか、総供給量が過去2年間に比べて増加するとみている。また、定期的に起債を行っている多くの発行体が、長期的なプレゼンスを維持するために米ドル建て債券市場での借り換えを望む可能性もある。しかし、償還が引き続き高水準で推移しており、正味供給量は抑制される可能性が高い。また、オールイン利回りが引き続き高水準にあることから、アジア域内の投資家からの需要は底堅く推移するとみている。

信用スプレッドは歴史的にみてもタイトな水準にあるが、マクロ経済や企業の信用ファンダメンタルズによる追い風に加え、需給動向も良好であることを受けて、2025年はスプレッドが概ねレンジ圏での推移を続けると予想される。BBB格とBB格に跨るクロスオーバー・クレジット分野については、スプレッドが200ベーシスポイント台前半から半ばで取引されており、慎重ながらも楽観的な見方を維持し選好している。2025年はキャリーがアジア・クレジット市場の主要なリターンドライバーになるだろう。


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