本稿は2025年5月21日発行の英語レポート「Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
関税の議論は継続中であり、依然として流動的な状況であることを示唆
サマリー
- 世界貿易の先行きが依然不透明であることから、今後数ヵ月にわたり中国当局による消費や企業活動へのより積極的な政策支援が期待される。ボラティリティが高止まりしているとともに米中間の貿易政策を巡る先行き不透明感はあるものの、状況改善の可能性を示唆する明るい兆しもある。
- 追加関税を受けて市場は月初に動揺を見せたが、交渉が本格化するとの見方から急速に反発した。国別では、中国(米ドル・ベースの月間市場リターンは-4.3%)のパフォーマンスが域内で最も低調となる一方、タイ(同7.2%)やフィリピン(同5.5%)、インド(同4.8%)、韓国(同4.7%)が上昇をけん引した。
- インドは、米国の政策から恩恵を受け得る数少ない大国の1つと言えるだろう。このように潜在的に有利な立ち位置にあることやエネルギー価格の「低下の長期化」を受けて、当社では足元でインドに対するポジティブな見方を強めている。経済成長重視の消費促進策や構造改革も、今後1年のあいだにインド企業の回復に寄与するだろう。
- 韓国や台湾の株式市場は貿易における混乱の影響を特に受けやすいものの、一部の企業はそのようなリスクを抑える対策をすでに講じている。構造改革や政治問題を巡って先行き不透明感が拭えないアセアン地域では、政治が比較的安定しているとともにテクノロジー・セクターが経済成長の牽引役となっているシンガポール、マレーシアおよびフィリピンを選好している。
市場環境
当月のアジア株式市場は関税によって混乱した月初の下落からほぼ回復
当月のアジア株式市場(日本を除く)は、当初、米国のトランプ大統領が貿易相手国の大半に大幅な関税を課す計画を発表し、その後中国を除く大半の国に対する関税を一時停止するなど、米国政府の朝令暮改な関税政策を受けてボラティリティが大幅に高まった。米国政権がいくつかの貿易に関する取引が行われていることを示唆すると市場は回復し、アジア株式市場(日本を除く)の月間リターンは米ドル・ベースで0.7%となった(関税の地政学的影響の詳細については、別のレポートを参照)。
チャート1:過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移
(トータル・リターン)
(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2024年4月末~2025年4月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスを、2024年4月末を100として指数化(すべて米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。
チャート2:アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)
(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2015年4月末~2025年4月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。
米国との関係が難しい状況にある中国は株式が地域の上昇トレンドに逆行
中国は、域内の市場で月間リターンが唯一マイナスとなった。関連データによると、中国の製造業活動は2023年12月以来最大の縮小をみせた。米国と中国が互いの輸入品に課す関税を引き上げるなか、4月のPMI(購買担当者景気指数)は49に低下した。世界第2位の経済大国である中国の第1四半期のGDP成長率は5.4%と予想以上の伸びを示したが、これは高関税の発動を前に米国への商品出荷を急ぐ輸出企業の動きが寄与した面もある。中国の政府高官らは、報復関税の影響を特に受ける企業や労働者の支援を約束するとともに同国が最悪のシナリオに備えるよう促した。
一方、タイやフィリピン、インド、韓国は、アジア株式市場全般に対してアウトパフォームした。タイとフィリピンの中央銀行はともに主要政策金利を0.25%引き下げ、インド市場は国内主導の経済や輸出依存度の低さが貿易戦争からの資金の逃避先を求める投資家を引き付けて回復基調となった。韓国では、特に尹錫悦前大統領の戒厳令宣言の失敗などによる同政権時の混乱を経て、指導者不在を解消するべく6月3日に大統領選挙が実施される。
チャート3:アジア株式(日本を除く)のリターン
(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックス(すべて米ドル・ベース)のもので、実績データに基づく。過去のパフォーマンスは将来の投資成果等を約束するものではありません。
今後の見通し
中国市場の見通し改善には国内のさらなる政策措置が必要
トランプ米大統領が「解放の日」と称する4月2日に「相互関税」戦略を発表したかと思うと、その後関税の多くを一時停止したことで、市場のボラティリティは過去最高水準に達した。サプライチェーンが世界的にシフトするなか、中国は相互関税を発動して報復した。世界貿易の先行きが依然不透明であることから、今後数ヵ月にわたり中国当局による消費や企業活動へのより積極的な政策支援が期待される。AI(人工知能)関連のテクノロジー支出や安定化の兆候を示している不動産市場にはともに回復の兆しが見られつつあるものの、貿易戦争が長期化すれば、これらの分野の動向は厳しい状況に陥るかもしれない。
中国株式をより有望視している理由の1つに、同国の良好な資金流動性動向がある。中国国債の利回りが低水準となっている一因は余剰資金が安全な投資先を求めて流入していることにあるが、市場心理が回復すれば、国内の機関投資家はより高いリターンを求めて資金を株式にシフトさせる可能性がある。また、中国証券監督管理委員会は国内株式市場への投資拡大を奨励する取り組みを強化しており、国有保険会社に新規契約分の年間保険料収入の30%を国内A株市場に投資するよう促す措置を発表した。米国による関税引き上げや中国政府による報復措置を受けて先行き不透明感が当初広がっているものの、状況改善の可能性を示唆する明るい兆しもある。貿易を巡る懸念が強まっていることから、こうした状況が続くためには国内の政策による支援が必要となるだろう。
インド株式については全般的にポジティブな見通しを持っており、大型株を引き続き選好
インドについては、ここ4~5週間の出来事を受けてポジティブな見方を強めている。インドは世界において、(Appleが最近すべてのiPhoneの生産をインドにシフトすると発表したように)製造業におけるシェア拡大とエネルギー価格の「低下の長期化」の両方を通じて、米国の政策から恩恵を受け得る数少ない大国の1つと言えるだろう。経済成長重視の消費促進策や構造改革も、今後1年においてインド企業の回復に寄与するとみられる。最近の市場の調整は健全なものとみており、一部の高クオリティ銘柄に遥かに割安なバリュエーション水準で投資できる好機をもたらしてくれるだろう。当社では引き続き、バリュエーション格差から見てはるかに投資魅力度の高い大型株を、中小型株に対して選好している。
韓国や台湾では一部企業がトランプ大統領による貿易の混乱にすでに適応
韓国は、政権の不安定化や抗議活動など、このところ政治面の混乱が続いているにもかかわらず、好調な企業収益や「バリューアップ」プログラムを背景に、株式市場は年初来で7.8%と良好なリターンを達成している。韓国企業は世界的な成長を続けており、割安なバリュエーション水準で良好なリターンを提供している。韓国や台湾の株式市場は貿易における混乱の影響を特に受けやすいものの、一部の企業はそのようなリスクを抑える対策をすでに講じている。考慮すべきもう1つの材料として、米国との緊張が高まるなか関係を強固にし、地域の貿易を促進しようとする中国当局の取り組みの強化が、韓国に有利に働く可能性がある。あいにく、これは台湾には当てはまらない。
アセアン地域ではシンガポール、マレーシア、フィリピンを有望視
構造改革や政治問題をめぐって先行き不透明感が拭えないアセアン市場は、年初来で中国市場に対し大きく劣後しているが、域内で大幅な乖離がある。そのような環境下、政治が比較的安定しているとともにテクノロジー・セクターが経済成長のけん引役となっているシンガポール、マレーシアおよびフィリピンを引き続き選好している。ファンダメンタルズの変化を促すのは構造的な要因であるとの見方に変わりはない。一方、タイは、観光客の減少、高水準の家計債務に対する懸念、政治面の不透明感、企業の不祥事などが原因となり、年初来のリターンが12.5%超の大幅下落となるなど特に不調となっている。同期間のインドネシア市場のリターンは、政治動向が予想よりも良好となったことを受けて4月に反発し-2.7%となった。特筆すべき点として、インドネシアでは大幅な内閣改造が行われておらず、国有銀行は今のところ軍事的な影響を受けていない。
チャート4:アジア株式市場(日本を除く)のPER
(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成,
(注)PERはMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。中央の水平ラインは表示期間のデータの平均を、その両側の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。
チャート5:アジア株式市場(日本を除く)のPBR(株価純資産倍率)
(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)PBRはMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。中央の水平ラインは表示期間のデータの平均を、その両側の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。
当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。