本稿は2025年4月16日発行の英語レポート「Chinese property developer bonds: reflecting on the sleeper rally and what lies ahead」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
中国不動産市場は厳しい状況に直面しているが、住宅セクターへの信頼感回復に向けた取り組みは順調に進んでいる。政府と国内不動産グループ各社にとって道のりは依然厳しいが、住宅セクターの見通し改善が期待されるなか、中国の不動産関連債券市場に対する投資家の関心が再び高まる兆しがみられている。
中国不動産市場のドラマ:急速な発展と不況
人生をどう生きるべきかについての金言は数え切れないほど存在する。「成家立业」(ざっくりと訳せば「家庭を築き、キャリアを築く」という意味)という言葉は、人生に対する期待を示したものの1つだ。しかし、これらの「指針」は、本質的には現代の人々を念頭に置かずに形成された社会の物語なのかもしれない。今でも多くの現代人の心に響く願望はある。それは自分の家を持つことだ。家を所有することは、伝統的な家族形成や価値観を大事にする時間がほとんどない人々にとっても、貯蓄のための最良の 投資であり、資産形成への切符であると称賛されてきた。だが、この持ち家の夢は急速に崩れつつある。歴史を振り返ると、中国の不動産市場は、1980年代に鄧小平元国家主席が市場開放を始めて以来、経済の重要な柱となってきた(現在もそうである)。1998年、政府はそれまで主流だった国有住宅に代わり、個人の住宅所有・投資を奨励した。住宅需要はかつてないほど高まってきた。
そして、比較的最近のことである中国経済の奇跡的成長の原動力となった不動産ブームに乗って、何百万人もの中国人が田舎から都会へ移り住むなか貯蓄を注ぎ込んで不動産を購入し、不動産の売買によって保有する不動産資産の価値を高めていった。住宅購入者は、未完成の開発プロジェクトに対して前払いをすることが多い。しかし、多くの都市の住宅価格がやがて平均的労働者には手の届かない水準となり、それを受けて政府は財務基盤の評価指標に基づいてデベロッパーの借入れに制限を課した。「3つのレッドライン」として知られるこの施策の狙いは、不動産業界の債務を削減して住宅バブル問題に取り組むことにあった。
2021年に巨大不動産デベロッパーの恒大集団がデフォルト(債務不履行)に陥ると、不動産ブームは崩壊した。続いて、負債額の大きい中小デベロッパーによるデフォルトが相次ぎ、市場がさらに危機的状況に陥ったことで、着工待ちの大規模な建設用地や未完成の住宅群が放置される状況となった。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は消費者信頼感に打撃を与え、事態を複雑にした。新築住宅需要は落ち込み、供給過剰問題が深刻化した。
それ以来、中国政府は不動産セクターに対するいくつかの有望な対策を打ち出しているが、その実際の介入措置の有効性については引き続き議論の的となっている。
不動産市場の安定化を目指す中国
そうした危機的状況への中国政府の対応は、以前導入され多くの潜在的住宅購入者の足かせとなっていた規制を緩和することで、住宅購入取引を促進して市場の流動性を向上させ、全体的な信頼感を高めるというものであった。しかし、2023年末までに導入された数々の断片的な不動産規制緩和措置は、市場の期待を下回り、不動産不況を食い止めるための国の決意とアプローチをめぐる不透明感をもたらした。実際、2023年12月には中国主要都市の新築住宅価格が過去約9年間で最も速いペースで下落した。
しかし、習近平国家主席が「住宅は住むためのものであり、投機のためのものではない」と宣言してから7年が経った2024年に、中国の不動産政策はがらりと変わった。中国指導部は、負債に苦しむ不動産セクターを再生させるために、より協調的かつ包括的に規制緩和を強化した。不動産政策が山ほど発表されたなかで途方に暮れたかもしれない人のために、ここで2024年の1年間の動きを簡単に振り返ってみる。
需要サイドの不動産規制緩和策の継続に加え、2024年は、不動産開発業者による資金調達へのアクセスを改善する取り組みを強化する方向へと大きくシフトした。年の初めに「ホワイトリスト制度」が導入され、都市政府が銀行に対し、より迅速な融資や金融支援に適した住宅プロジェクトを推奨できるようになった。事前販売された住宅の引渡し状況の改善や、デベロッパーが直面する資金流動性逼迫の緩和が狙いだ。さらに、商業用不動産担保ローンの資金使途(UOP)が拡大され、デベロッパーは債務返済に充てることが可能となった。
2024年5月、中国人民銀行(中央銀行)は、4月末に中央政治局が「過剰住宅在庫」の解消に努めるよう呼びかけたことを受けてすぐに、地方政府が完成済みの売れ残り住宅在庫を買い取り、低価格住宅に転用する取り組みを支援するために3,000億人民元の再貸出枠を設定した。また、商業銀行の個人向け住宅ローンの1軒目購入時の最低頭金比率が20%から15%へと引き下げられたほか、住宅ローンの下限金利が全国で撤廃された。
2024年9月、広州市は中国の一級都市のなかで初めて住宅購入規制を全面的に撤廃し、上海市と深セン市は非居住者の住宅購入規制を緩和する計画を発表した。中国人民銀行は、既存住宅ローンの金利をさらに0.50%引き下げるとともに、2軒目購入時の最低頭金比率を25%から15%へと引き下げる計画を示した。9月に出された中央政治局の声明において、中国指導部は不動産セクターを安定させ、さらなる下落を阻止すると誓った。財務部はその後まもなくして、低価格住宅に転用するための商業用不動産の取得や、デベロッパーからの遊休地購入を目的として地方政府が特別債を発行することを認めると発表した。また、「ホワイトリスト制度」の融資枠も4兆人民元へと倍増された。
2025年3月に開催された最新の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では、新たな施策の導入が見送られたが、代わりに既存対策の実施強化が求められた。これには都市毎の規制緩和や、都市再開発、売れ残り住宅の処理における地方当局の権限拡大などが含まれる。また、「デベロッパーの債務不履行リスクを効果的に防止する」ことも強調された。
チャート1は、「大型」の景気刺激策の発表を受けた不動産販売動向の転換点をいくつか示している。需要サイドの緩和策が発表されると、不動産販売は速やかに持ち直すが、その回復は短命に終わっている。2024年末にかけては、9月に発表された大型の景気対策パッケージが追い風となって不動産販売が10月以降大幅に回復するなど、不動産市場に回復の兆しがみられた。こうした回復基調は2025年第1四半期に入っても続いており、6ヵ月以上持続しているが、より顕著な改善がみられるのは一級都市となっている。一級都市の住宅在庫は、ここ数ヵ月の好調な販売を経て比較的健全な水準へと修正された。(チャート2参照)
2025年4月2日、米国のドナルド・トランプ大統領は、米国への輸入品に対して世界各国に予想以上に大規模な相互関税を課すことを発表した。同日に中国からの輸入品に対しては34%の追加関税が課されたが、その後も米国政府は関税率を大幅に引き上げ、現在では100%を超える水準となっている。当面は、関税などの内外からの逆風を受けて厳しい状況となっていくなか、中国の住宅販売が落ち込むリスクがある。一方、不動産セクターの見通しが大幅に悪化した場合、中国政府が不動産市場を回復・安定化させるために緩和策を強化するともみている。
政府の管理強化という新局面に入った中国不動産デベロッパー債券をナビゲート
政府が積極的に介入し構造的変化が進む時代に入るなか、中国の不動産セクターは苦境を脱すことができるのだろうか。当社では、回復には時間がかかり、また、その道をリードするのは一級都市になると見込まれるなど一様には進まないとみている。米国の相互関税が発表される前、一級都市では不動産市場に安定化の兆しがみられ始めていた。しかし、持ち直しつつある住宅販売は、貿易摩擦が激化して景気の先行きが不透明になるなか、当面は下押し圧力に直面することになる。また、政府による政策の効果が経済全体や不動産市場へと幅広く波及し、持続的な回復が実現するには時間がかかるとみられる。これは中級都市や下級都市で特に顕著となるだろう。地方政府が売れ残った住宅を買い取って低価格住宅として活用していく施策は、適切な規模で実施されれば、在庫の圧縮を加速させると期待される。しかし、その実行過程については注視していく必要があるだろう。
チャート3が示すように、中国ハイイールド債は大幅に回復している。この要因には、近年におけるデフォルト率の大幅な低下や、政府による不動産関連規制の緩和に加えて中央政治局による不動産セクター安定化への強力なコミットメントなどが挙げられる。実際、J.P.モルガン・アジア・クレジット・インデックスによると2024年の中国ハイイールド債市場はアジアのクレジット市場のなかでパフォーマンスが最も好調となり、インデックス・レベルでのリターンが44%にのぼった。
中国不動産セクターについては、政府が支援姿勢を維持すると予想しており、信用面から引き続き有望視している。また、デフォルト率も低下傾向が続き、存続企業に対する資金支援も継続されるとみている。生き残っているデベロッパーのうちオフショア市場でドル建て債券を発行している企業をみると、その多くは国有企業が後ろ盾となっている。民間のデベロッパーとは対照的に、こうした国有企業は業界の不況時や政策の緩和時に恩恵を受ける傾向がある。より豊富な開発用地や住宅購入者からのより高い信頼を活かして、住宅販売市場におけるシェアを拡大することができるからだ。近年、国有企業系デベロッパーと民間デベロッパーのあいだで販売契約実績に乖離がみられており、こうした傾向は今後も続くと予想している。
中国の不動産セクターにおける銀行融資へのアクセスも2024年以降改善している。商業用不動産事業ローンの資金使途に関する規制が緩和されたことで、商業用不動産ポートフォリオを持つ存続デベロッパー向けの資金流動性支援は大幅に拡大した。不動産セクターの債券利回りは、新発債の供給落ち込みやデフォルト率の低下を受けてしばらく低下傾向が続く見通しだが、ボラティリティの高い状況が続くとみられる。
当面の主な注目ポイントは、資金流動性の逼迫と公募債の大規模な償還に直面している中国不動産デベロッパー大手の万科企業(China Vanke)である。足元では地方政府が経営陣の入れ替えや融資支援などの措置を講じていることが示すように、万科の資金流動性懸念に対処する取り組みが進められている。特に、今回の全人代でデベロッパー債券のデフォルト防止が打ち出されたことから、万科に対する地方政府のアプローチが市場で注視されている。
中国の不動産セクターが底を打ったかどうかはまだわからないが、一段の政策緩和やファンダメンタルズの回復を示す兆しがさらに出てくるか引き続き注目している。2024年は中国の不動産関連債券が好調なパフォーマンスとなったが、不動産市場を安定させ、さらなる下落を防ぐためには継続的な取り組みが必要である。コントロールできないファクターも存在するが、有利なリスク・リターン特性を備えパフォーマンスが相対的に良好なデベロッパーを見極めていくなど、投資家は銘柄選択を通じて重要な役割を果たしていくことができるとみられる。
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