当レポートは、英語による2025年3月13日発行の英語レポート「Vietnam ascending」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。


見込まれる構造的な進展

我々はこの1週間、ホーチミン市で企業やアナリスト、政府関係者と対話したが、投資家のあいだでは慎重ながらも楽観的なムードが漂っていた。ベトナムは、輸出の低迷や債券市場の危機、重大な政変から持ち直して1年が経過し、転機を迎えている。目先の見通しは際立ったものには見えないかもしれないが、現在進められているより深い構造的シフトが、ベトナムを持続的かつ長期的な成長へと導く可能性がある。

足元の回復は緩やか

ベトナムの状況は、一見すると強弱混交だ。投資家は、ベトナムの輸出品に対する米国の追加関税がもたらす潜在的な影響を懸念して、様子見姿勢を維持している。国内では、金利上昇を受けて経済が苦戦しており、消費者需要は改善しているとは言え、依然低調となっている。ホーチミン市の不動産市場は、新規に立ち上げられた住宅プロジェクトがすぐに売れるなど若干の回復が見受けられるものの、全体的な取引量は低迷したままである。現在のところ、急速な回復の兆しはほとんど見受けられない。

しかし、この状況が変わる可能性が示唆されている。政府はトー・ラム書記長の新たなリーダーシップの下、広範な構造的シフトを推進する政策を進めており、経済の成長軌道をより高めることを目指している。

変革に向けた政治的意向

トー・ラム書記長の意向は明確だ。同氏は、ベトナムが富裕化する前に高齢化するような、タイなど近隣諸国の二の舞を踏むことがないようにと考えている。新指導部は、2025年のGDP(国内総生産)成長率目標を前政権時の6.5~7%から8%へと引き上げ、より高い成長を一段と積極的に追求する姿勢を示した。さらに意欲的なこととして、政府の計画は短期的なものにとどまらず、2026年以降は2桁台の成長を目指すとしている。

同国は、人口動態的に高齢化が進む前に高所得国の地位を達成する最後のチャンスであり、政府はこのことを強く意識している。足元では、目先の回復の遥か先を見据えた長期的な計画を打ち出しており、これが経済の構造的転換の基礎を築く可能性がある。

政府の改革:効率を重視

ベトナムの戦略の特筆すべき特徴は、現在進められている政府の改革が前例のないものとなっていることだ。肥大化した官僚組織は、承認を迅速化し非効率を低減するべく合理化されている。63の省をより少ない行政単位へと再編する計画が進められており、同国の人口が1億人を超えていることを考慮すると必要な措置と言える。さらに、政府は退職金として50億米ドルを計上し、200万人にのぼる職員を20%削減する方針である。

それと並行して、権限と責任の明確な線引きを確立するための協調的な取り組みが行われており、職員は現在明確に定義されたKPI(重要業績評価指標)に基づいて業務を行っている。また現地では、非常に小さな変化さえ確認することができる。交通違反による取り締まりが近代化され、従来の警察への依存に代わり防犯カメラと重い罰金が導入された。こうした一見些細な変化には、ガバナンスを改善して投資家の信頼を高めようという、より幅広い意向が反映されている。

インフラ:構造的なゲームチェンジャー

投資家との議論のなかで、インフラが初めて中心的な話題となった。ベトナムのインフラは、その潜在的な経済力に比べてかなり未発達であり、成長を妨げるボトルネックとなっている。幸い、政府のバランスシートは比較的良好で、債務残高の対GDP比は33.5%と管理しやすい水準にある。このため、同国には長い間必要とされてきたインフラ・プロジェクトに投資する財政的な柔軟性がある。

主要な優先課題は、交通、水管理、電力である。最も意欲的なプロジェクトは、ハノイ~ホーチミン間やハイフォン~深セン間などの高速鉄道で、後者は中国の投資家が出資する可能性が高い。都市交通の分野で重点が置かれているのは、環状道路、橋、公共交通機関の増設による渋滞の解消である。

ホーチミン市近郊のAsia Ingredients Groupの物流センター(2025年2月、ベトナムへの車での移動中に撮影)

ユーホアン・ライ、2025年2月

不動産:短期的な成長エンジン

当面は、不動産セクターが引き続き経済活動の主要な牽引役となっている。過去に市場の安定を脅かしていた社債問題は、ほぼ解決した。住宅市場は依然として低迷しているものの、債券の満期問題に直面したプロジェクトは、従来の銀行ローンを用いて借り換えが行われ、活況の兆しを見せている。特にホーチミン市では、供給が需要に遅れをとっているため、価格が大幅に上昇している。

ホーチミン市にある不動産開発企業 Nam Long Investment のウォーターポイント・タウンシップ・プロジェクトの模型(2025年2月、ベトナムへの車での移動中に撮影)

ユーホアン・ライ、2025年2月

不動産法と土地管理に関する最近の政府の改革は、不動産セクターを長期的に押し上げるだろう。土地所有権手続きの簡素化や新たな土地使用権法の導入により、デベロッパーは市場にプロジェクトを投入しやすくなるとみられる。一方、住宅ローン市場は、金利低下をもたらした2023年の改革後、期待された需要の高まりがまだ見られていない。今のところ、多くの住宅所有者は依然として借入拡大を躊躇しているが、金利がさらに低下すればこの状況は変わる可能性がある。

上述した課題はあるものの、ベトナム政府は消費者心理と経済成長をともに押し上げる不動産市場の役割を明確に理解している。同セクターの回復は、より広範な経済拡大の基盤となるだろう。

地政学:関税とサプライチェーンのシフト

ここ数ヵ月、迫り来る米国の関税引き上げの脅威が、ベトナム株式に継続的な打撃をもたらしている。逆説的だが、追加関税の賦課が市場反発の材料になるとする投資家もいる。大方の見方は、米国の対ベトナム関税は、中国に対する関税よりも緩やかとなり、ベトナムに競争力を与えるというものだ。この関税の差は、サプライチェーンの分散化を目指す製造業者にとって、優れた拠点としてのベトナムの魅力度を高めている。特筆すべき点として、中国企業はベトナムの工業用不動産への投資を続けており、地域の生産動向のシフトが浮き彫りになっている。

米中間の地政学的緊張をうまく乗り切ることができるかどうかが、ベトナムの経済の方針にとって極めて重要になる。注目度の高い投資、つまりTrump Organizationによるベトナム北部での15億米ドルのリゾート・プロジェクトやVietjet Airによるボーイング・ジェット機200機の購入などは、米国との外交関係をより円滑にするための鍵となるだろう。ベトナムは、米中貿易戦争に乗じて自国の経済的地位をさらに強化するまたとない機会に恵まれるかもしれない。

消費関連セクター:遅れを取っている

しかし、消費関連セクターはベトナムの回復において、引き続き短期的に遅れを取る可能性が高い。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)によってもたらされた不確実性やエレクトロニクス・セクターの減速が何年も続いた後、消費者センチメントは比較的低迷したままとなっている。不動産と建設の回復が需要をある程度押し上げる可能性はあるものの、当面のあいだ投資家は非常に強力な事業実行力および消費関連の事業基盤を持つ企業に注目するのが賢明だろう。

金融面の改革:進展は遅いものの必要なプロセス

金融セクターの改革ペースも、改善の鍵となる分野である。銀行および資本市場に改革が必要であることは明らかだが、政府はこれまで物理的なインフラ整備を優先してきた。金融改革はいずれ実現するとみられるものの、短期的には二の次になりそうだ。近代的で強固な金融システムは同国の成長を支える上で極めて重要であるため、この進展ペースの遅さは成長の長期持続可能性にリスクをもたらすかもしれない。

まだ初期段階にあるものの、展望は明るい

ベトナムの経済見通しは一見するとあまり力強く見えないかもしれないが、より深い構造的シフトによって持続的な長期経済成長が見込まれる。同国は、ガバナンスの改善、インフラの拡充、より競争力のあるビジネス環境の醸成に取り組んでいる。こうした取り組みによって、ベトナムは人口動態上の優位性を生かしながら、新たに起きている地政学的な機会を活用することができる。これらの改革が軌道に乗れば、慎重ながらも楽観的な見方をされているベトナムの成長軌道は、今後数年でより力強い成長期へと進展する可能性がある。


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