当レポートは、英語による2025年6月27日発行の英語レポート「Global Investment Committee's outlook:narrowing growth differentials」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。


2025年6月のグローバル投資委員会(GIC)が6月18日に開催された。

当委員会の主要な結論は以下の通り:

  • 当初発表された関税措置の多くは一時的に保留されている。4月の臨時GIC会合での確率加重シナリオに基づき、当委員会では現在、米国の経済成長が鈍化しながらもプラス領域にとどまる確率が高まったと考えている。とはいえ、合意された貿易協定の数は依然限定的で、世界のサプライチェーンに逼迫化の兆しが窺われるのに加え、最近では中東で紛争が激化していることを考えると、米国でややインフレが加速するリスクはまだ残っているとみる。
  • 米国の当初の関税が保留されたことを受けて市場のボラティリティは沈静化したが、リスク資産については高ボラティリティ局面にあるとみられる。米国企業のEPS(1株当たり利益)は当面プラスの伸びが続くとみるが、米国株式は今後、先行き不透明感から、断続的な高ボラティリティを伴いながらバリュエーションが下方圧力に晒され続ける可能性が高いと考える。
  • 当委員会は先四半期、グローバル・ポートフォリオの分散投資機会として欧州株式および中国株式の転換点を挙げた。これらの地域の企業利益成長率は米国よりも低くなると予想するが、当該地域への選別的な分散投資は見返りをもたらすかもしれない。テールリスク(確率は低いものの発生すると非常に大きな損失をもたらすリスク)に対するヘッジとして、当委員会ではインフレや外的ショック(関税の脅威の再来を含む)に強い資産を継続的に探している。
  • 日本では短期債と長期債の供給調整が行われており、超長期日本国債の利回りはピークを打ったと考える。米国の先行き不透明感が強いなか、ポートフォリオの分散投資先として、日本円と(度合いは相対的に低いものの)ユーロに対してポジティブな見方を維持する。
  • 日本株の提供するリスク・プレミアムは現在、米国株と拮抗している(チャート1参照)。日本株は変わらず米国の大型テクノロジー株への集中リスクを低減するのに優れた分散投資の選択肢であると考える。日本は構造的リフレの兆候が続いており株価バリュエーションにも相対的な割安感があることから、日本の内需関連株に引き続き注目している。とはいえ、貿易をめぐる不透明感とそれに伴う日本株市場の高ボラティリティが払拭されることはないだろう。当委員会では、同市場が回復力を示すと考えており、国内投資家の行動に倣って、ボラティリティのもたらす過度な下落局面で買いの機会を継続的に探っていく。
  • 米国の短期金利に対する現在の予想としては、FRB(連邦準備制度理事会)による数回の利下げがすでに市場に織り込まれており、結果として米国のイールドカーブはブル・スティープ化(短期金利が長期金利よりも大きく低下することで起こるスティープ化)を見せている。政府債務残高の対GDP比がおよそ120%である米国は、イールドカーブが財政リスクと貿易をめぐる不透明感に対して脆弱であることに変わりはない。当面は国庫準備の取り崩しで流動性を維持することができるだろうが、夏が終わる頃には予算交渉で債務上限措置を延長せざるを得なくなる可能性がある。米国の債務残高は第2次世界大戦以降で最も高い水準にあり、加えて地政学的動向によりインフレ・リスクが高まっている。これらの要因によって、ターム・プレミアム(債券の残存期間の長さに伴う上乗せ利回り)は維持されるとみられる。
  • 先四半期に中国の全国人民代表大会(全人代)で発表されたマクロ経済政策は、消費を下支えするとみられるものであった。加えて、関税の実施を控えた前倒し需要により、中国の国内投資と輸出はこれまでのところ悪化を免れている。しかし、年後半は新たな課題がもたらされるかもしれず、中国の経済成長は年間5%の目標達成に苦戦する可能性がある。中国は人民元の国際化に向けた新たな計画も発表している。財政出動だけでは経済成長を目標以上に維持することはできないかもしれないが、年後半に追加の景気刺激策が導入される可能性はまだある。ただし、そのような措置の導入は貿易交渉の行方次第かもしれない。

チャート1:日本は米国と比べて見劣りしない株式リスク・プレミアムを提供、英国およびユーロ圏の株式リスク・プレミアムは依然相対的に高い

チャート1

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成

第2四半期の主要な結論:債券・為替市場で始まった分散投資シフト

第2四半期が始まり「相互」関税と製品別関税の発表が市場を襲うと、当委員会ではシナリオ・ベースの臨時見通しを策定した。それ以来、「最悪のケース」の貿易シナリオに対する懸念は幾分後退したが、米国の政策および貿易の見通しは依然不透明なままである。一方、市場センチメントは雇用統計の上振れとインフレの下振れを受けて改善した。市場では「米国例外主義」に対する従来の見方の見直しが進んだが、これまでのところ、この見直しの影響をまともに受けたのがドルである。さらに、関税の脅威と米国のソブリン債格付け引き下げを受けた最近の債券市場の動揺は、米国の対外・対内両債務において資金調達金利を安定的かつ低水準に保つことの重要性を浮き彫りにした。この安定性が米国の政策の成功にとって重要な要素であることに変わりはなく、したがって、米国債券市場からのシグナルは政策案の実効性を測る上で極めて重要と言える。

第1四半期には米国で長短両金利の予想が上方修正されたが、インフレはごく最近になって下振れしている。これは金融緩和を行う根拠となり得るが、FRBは最近、経済成長率の予想を下方修正する一方でインフレの予想を上方修正している。同中銀が2025年に予想の中央値であるあと2回の利下げを実行するかどうかは、引き続き経済指標次第であろう。

日本では、今年も春闘により記録的な賃上げが実現したことで、外需をめぐる不透明感のなかにあっても賃金と物価の好循環が維持されている。「相互」関税が発表される前、経済成長は鈍化しながらも名目ベースでは健全なペースを維持していた。経済成長の最大の阻害要因となったのはインフレで、日銀が利上げバイアスを維持する必要性を浮き彫りにした(レポート「構造的回復の維持に長期戦で臨む日本」を参照)。

最近市場を驚かせたのは、超長期30年物の日本国債利回りが急上昇したことだ。この原因は需給の不均衡で、日銀はその後、来年度にはバランスシートの縮小ペースを落とすと発表したが、同中銀はその頃までに、伝統的な金融政策に戻すことへのコミットメントの一環として、日銀貸出枠(「資金供給手段」)の縮小を大きく進めている可能性がある。一方、財務省は長期債と短期債の発行バランスの調整を提案している。

米国では、テクノロジー・セクター以外の大型企業など一部のセクターを中心に、景気鈍化が企業収益予想にようやく織り込まれつつあり、PER(株価収益率)は4月の米国貿易摩擦の激化を受けて幾分調整している。

欧州各国の財政スタンス緩和ECB(欧州中央銀行)の金融緩和が相まって、同地域の財政・金融環境は米国を上回る極めて緩和的な状況となり(チャート2参照)、これを受けて欧州株式ではバリュエーションの再評価が起きている。ドイツが財政支出を拡大すると予想される一方、英国の財政出動は限定的なものにとどまる見込みであることから、市場は両国間で予想される企業収益の伸びの格差を織り込み始めている。

チャート2:欧州と米国の金融環境指数

チャート2

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成

中国の景気刺激策は消費に一定の影響を与えているが、インフレをプラス圏に戻すには不十分である。景気の大幅悪化を防いでいるのは、投資および輸出の前倒しである。最近の米中間関税の「解決」によって全面的な貿易戦争への懸念は当面和らいだが、米国による一方的な追加措置の可能性が排除されたわけではない。

第1四半期以降、米ドルが全面安となっている。米ドルについて当委員会では対円での小幅下落を予想していたが、実際には米国の関税の脅威と発動を引き金として全面的に売り込まれた。外貨準備に占める割合が国際的に大きい米ドルでも売り込まれ得ることが示され、実際、第4四半期に世界の外貨準備全体において減少した。米ドルは残高の絶対値として最も大きく減少したが、世界の外貨準備に占める割合としては若干回復した。これは、世界の外貨準備で保有されている他の通貨のうち、特に英ポンド、オーストラリアドルおよびユーロが売り込まれ、外貨準備の保有残高に占める割合で見ると減少幅がより大きかったためである。

マクロ経済:米国における経済成長鈍化とインフレの先行き不透明感に注目

米国のマクロ経済指標は底堅さを保っているが、企業や消費者、投資家は、現在も続いている貿易摩擦と地政学的紛争の激化がともに及ぼす影響を警戒している。このような先行き不透明感は経済成長への下振れリスクを招きかねないが、インフレに対するリスクは上振れ方向に収斂しつつある模様だ。これまでのところ、第2四半期のコアインフレは市場予想を下回っており、インフレの減速は住宅や非住宅サービスなど「インフレが長引きやすい」品目に集中している(チャート3参照)。それでも、関税と地政学的リスクの高まりを考えると、財インフレの可能性を軽視すべきではないだろう。財インフレが加速すれば、インフレ期待は高止まる可能性がある。ニューヨーク連銀が指摘した要素の1つに、同連銀の発表するグローバル・サプライチェーン圧力指数がある。この指数は2023年と2024年にはマイナス圏で低調な推移を見せていたが、現在はプラス圏に戻りつつある(チャート4参照)。世界のサプライチェーンが直面しているこうした問題は、米国だけでなく他の地域でもインフレ圧力を高めることになるかもしれない。

チャート3:12ヵ月の「スーパーコア」サービスPCEインフレにおける分野別寄与度

チャート3

出所:サンフランシスコ連銀「PCE Inflation Contributions from Goods and Services - San Francisco Fed

チャート4:グローバル・サプライチェーン圧力指数

チャート4

出所:ニューヨーク連銀「Global Supply Chain Pressure Index (GSCPI) - FEDERAL RESERVE BANK of NEW YORK

経済成長面では、「ナウキャスト」と呼ばれる足元のデータを用いたGDP成長率予測(例えばアトランタ連銀の予測、チャート5参照)は3月・4月の低迷から回復している。しかし、特に地政学的圧力と原油価格の上昇を考えると、先行き不透明感は根強い。この不透明感をさらに増幅しているのは、米国政府が関税について実施するぞと脅したり、延期したり、発動したりと、その行方をはっきりさせていないことだ。雇用者数の増加ペースは鈍化しているものの、直近の雇用統計は依然として市場予想レンジの上方サイドにとどまっている。

チャート5:アトランタ連銀のGDP成長率「ナウキャスト」は3月の低迷から回復

チャート5

出所:アトランタ連銀「GDPNow - Federal Reserve Bank of Atlanta

世界経済の見通し:経済成長格差の縮小を示すマクロ経済ガイダンス

当委員会では、米国の経済成長率について、今後1年はプラス圏にとどまりながらも1〜2%へと鈍化し、2025年末までに一時的に前期比ベースで1%を割り込むと予想している。つまり、米国の経済成長率は直近の2~3%から減速するということだ。リスク・シナリオとしては、経済成長率が25パーセンタイルの可能性で0%を若干上回るにとどまり、75パーセンタイルの可能性で2%を上回るとみている。この経済成長見通しは、4月の臨時GIC会合で策定した貿易デタント(緊張緩和)・シナリオと整合している。米国と他の先進国との成長格差は縮小すると予想する。

4月に示したデタント・シナリオから想定される穏やかなディスインフレ的見通しとは対照的に、当委員会ではインフレ長期化はリスク・シナリオというより基本シナリオであると考えており、コアPCE(個人消費支出)インフレが今後1年にわたってFRBの目標である2%を大きく上回り続けるとみている。当委員会の予想では今後1年のあいだ四分位範囲の下限が2.5%を上回る水準にとどまっており、一方でインフレが前年同月比3.5%を超える確率は25%以下となっている。当委員会の基本シナリオが現実化すれば、引き続き利下げ軌道にあるFOMC(連邦公開市場委員会)の意思決定は困難なものになるとみられる。

2025年の日本の経済成長率は、日銀の予測通り潜在成長率である0.5&前後で推移すると予想するが、貿易摩擦と地政学的リスクの影響から、今後1年において前期比ベースではマイナスに陥ることになるかもしれない。当委員会では、日本の経済成長率がいずれかの四半期に前年同期比でイナスに転じる確率を25%以下と見込んでいる。一方、上振れシナリオとしては、いずれかの四半期に経済成長率が前年同期比1%を超える可能性がある。この楽観的見通しを支えているのは、過去に比べて好調な賃上げが国内消費を刺激する可能性だ。加えて、企業はかなりの高水準にある手元資金を活用して長年の懸案であった固定・無形資本のアップグレードに投資する意欲を示すとともに、働き手を獲得・維持するために競争力のある水準の賃金を提供している。一方、インフレの克服は予想以上に難しくなるかもしれない。当委員会の基本シナリオとしては、2024年後半の高インフレによる前年同月比でのベース効果を主因として、総合インフレコアインフレが徐々に鈍化して2%を割り込むとみている。インフレの減速がもっと遅れて1年後まで日銀の目標である2%へと収束せず、同中銀による追加の金融引き締めが必要となる可能性については、発生確率を25%以下と想定している。デフレに戻ることは予想していない。

当委員会は前四半期、ユーロ圏の経済成長が転換点を迎えてそれまでのマイナス成長から抜け出すとみていた。それ以来、ECBが追加金融緩和に踏み切っただけでなく、米国から継続的にもたらされている貿易問題への対応として防衛支出へのコミットメントを強化するなど、財政緩和も行われる模様である。当委員会では現在、同地域の今後1年の経済成長率について低調ながらもプラスを維持すると予想しており、今後1年の予想において四分位範囲の下限が十分にゼロを上回っている。同地域の経済成長率は1年後に1%程度へと加速していくと予想するが、上振れシナリオとして、1%を上回る確率は25%以下とみている。総合HICP(ユーロ圏消費者物価指数)インフレは緩やかな予想(四分位範囲で1%台半ば~2%台前半)となっているものの、欧州のコアインフレについてはやや上昇バイアスがかかると予想している。コアインフレ予想の四分位範囲は1年の大半で2%を上回っており、予想期間の終わりまでにコアインフレが2%を下回る確率は25%以下にとどまっている。

中国は米国との貿易摩擦激化という最悪のシナリオを免れた可能性があるが、当委員会では、大規模な追加の景気刺激策が実施されない場合は特に、中国の経済成長は米国の関税の影響が顕在化するにつれて徐々に鈍化を続けると予想している。つまり、第2・第3四半期には2024年の景気低迷によるベース効果がプラスに働くにもかかわらず、GDP成長率は鈍化傾向を辿って4%に近づくとみられ、あるいはそれを下回る可能性すらある。中国の経済成長率が(おそらくは関税交渉が頓挫した場合に)4%未満にとどまる確率は25%以下と見込んでいる。また、(まだ市場には織り込まれていない)財政出動が実施されれば、一定の上振れリスクも考えられる。中国には「政策余力」がまだ残っており、米国の関税措置の全容が明らかになった時点で、例えば秋に開催される党中央政治局会議やその他の政策関連会議(中国人民政治協商会議全国委員会の常務委員会会議など)に合わせて実施するかもしれない。物価面では、中国の総合インフレがプラス圏を維持するとともに1%に向かって加速する一方、コアインフレはマイナス圏にとどまると予想しており、2026年6月までにコアインフレがプラス圏に戻る確率は25%以下とみている。

チャート6:年前半に中国経済の成長維持を支えたのは投資の前倒しと財政出動

チャート6

出所:中国人民銀行、中国国家統計局、Macrobondなど、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成

世界のマクロ経済に対する定性的見解:貿易および地政学的展開次第

世界経済に対する当委員会メンバーの多様な見解・考察を抜粋して紹介する。これらの見解は総じて、当委員会の基本シナリオにおける経済成長予想を全面的に下方修正するとともに米国および日本のインフレ見通しを上方修正する一因となった。

米国:

  • 米国は経済成長の鈍化に見舞われる可能性が高いが、景気が「急激に落ち込む」ような事態は考えにくい。
  • 確信度の高い見通しを示すことはできない。国内政治、地政学的状況、政策のすべてが不透明感をもたらしている。
  • CPI(消費者物価指数)上昇率には減速余地がある。
  • 実質金利は上昇することになり、住宅ローン金利や企業の債務借換え金利が上昇して経済への逆風となるのは時間の問題である。
  • 年初は強気の予想をしていたが、足元では不安を感じる理由が増えた。
  • 消費者は雇用の鈍化とインフレの加速という二重の打撃に見舞われるかもしれない。
  • 経済は潜在成長率である2%のペースで伸びており、低迷は一時的なものに終わるかもしれない。
  • 関税がインフレに与える影響はまだ顕在化しておらず、インフレがさらなる減速を見せれば、FRBが利下げを行いやすくなり経済成長率が潜在成長率を上回る水準へと戻る可能性がある。
  • 関税が物価に転嫁されるまでには時間がかかるかもしれない。

日本:

  • 景気は回復を続けている。鈍化はしていないものの、回復のペースは緩慢であり、関税による外的ショックへの脆弱性に変わりはない。投資への波及的影響も考えられる。
  • CPI上昇率はベース効果と円高から減速が予想される。
  • 貿易面での最大の未知数は製品別関税、特に自動車および半導体への関税である。

中国:

  • 中国の関税は、当初予想された最悪ケース(60%の追加)の半分程度になる可能性がある。
  • 2025年後半の経済成長は、輸出の前倒しや財政出動(クーポン付与や設備更新プログラム)の消費への影響が追い風となった年前半よりも、鈍化する可能性がある。クーポン・プログラムが終了すれば、消費活動は鈍化するかもしれない。
  • 2025年通年の経済成長率は4.5%強にとどまる可能性があり、第3四半期は特に低迷するかもしれない。
  • 中国には交渉できる余裕があるが、最終的には生産分をすべて国内で吸収することはできない。したがって、中国には米国と何らかの協定を結ぶインセンティブがある。
  • 2025年後半に材料となり得るイベントとしては、経済・財政政策によりフォーカスする傾向のある党中央政治局会議が挙げられ、また同時期に中国人民政治協商会議全国委員会の常務委員会会議が開催される可能性もある。

金利:米国の政策見通しにおける不透明感

FOMC:当委員会の基本シナリオとしては、FF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標が4%を下回る水準まで引き下げられるとの見方に変わりはないが、インフレ上振れの可能性や将来の物価傾向をめぐる不透明から、現在では4%からの利下げのタイミングは2026年までずれこむと予想している。2025年には2回の利下げを見込んでいるが、これはその後公表されたFOMCの「経済見通し(Summary of Economic Projections)」と一致しており、また2026年前半に0.25%の追加利下げを予想している。当委員会予想の四分位範囲は先に行くほど幅が広がっており、2026年6月までにFF金利誘導目標が3.5%以下(つまり合計の利下げ幅が1%以上)になる確率は25%、同金利が4.25%以上(つまり追加利下げは0.25%1回のみ、あるいは実施されない)にとどまる確率もやはり25%とみている。強調しておきたい点として、FOMC自身も指摘しているように、インフレ・金利見通しの不確実性は高まっている(レポート「FOMC:予想は金利見通しにおける不確実性の高まりを浮き彫りに」参照)。

日銀の政策金利:日本ではインフレが日銀の目標である2%を3年にわたって上回っているなか、当委員会では日銀が再び利上げを実施すると予想しているが、政府の政策をめぐって不透明感が続いていることから、利上げのタイミングは先延ばしされる可能性が高い。基本シナリオとしては日銀が年末にかけて利上げを行うと予想するが、9月から12月にかけてはインフレがベース効果によって2%目標を下回る可能性があることから、9月までに利上げが実施されなければ、日銀は利上げを2026年まで延期せざるを得なくなるかもしれない(当委員会では、リスク・シナリオとして、9月までに利上げが行われる確率、利上げが来年まで後ずれする確率をそれぞれ25%とみている)。利下げについては、日銀の下方調整余地が限られていること、景気への外的ショックが起きたとしても利下げによる効果が限定的であることから、シナリオとして想定するだけの確率は見込んでいない。

ECB:ECBの利下げサイクルは終了に近いと予想しており、景気刺激策の主役は財政政策が取って代わるとみられる。追加利下げが実施される確率は25%以下とみるが、ECBがさらなる利下げを行うとすれば、その幅は0.50%になるかもしれない。インフレが予想外の大幅加速を見せた場合は、今後1年以内に0.50%の利上げの可能性があると考えるが、そのようなシナリオの確率は25%以下とみている。

10年債利回り:ブル・スティープ化はどこまで行けるか

米国債:当委員会の基本見通しでは、米国債の10年物利回りはレンジ内で推移し2026年6月末までに4.25%前後に達するとみている。しかし、FRBの金融政策については基本シナリオで今後1年に3回の利下げを見込んでいるため、米国債のイールドカーブに織り込まれているターム・プレミアムはしばらく続くと予想される。とはいっても、当委員会は短期的には同プレミアムが縮小する可能性を予想しており(FRBの利下げに伴い長期ゾーンの利回り調整が起こるため)、その後年末までに同プレミアムが再び拡大するとみている。インフレが下振れした場合は、長期金利が低下するためブル・スティープ化の可能性は限られるだろう。逆にインフレが(当委員会予想の四分位範囲の上限へと)上振れした場合は、FRBは(インフレ期待抑制への確信を維持しながら)利下げを行うことができないため、イールドカーブが大きくスティープ化することはないだろう。重要な点として、スタフレーション・シナリオはテールリスクではあるものの、当社の基本シナリオではない。

チャート7:根強い米国のターム・プレミアム

チャート7

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成、2025年6月23日現在

日本国債:最近、超長期国債の利回りが急上昇する局面があったものの、当委員会では国債利回りは当面のピークを打ったとみている。実際、需給の不均衡をきっかけに起こった利回りの大幅上昇は、財務省が20年・30年・40年国債の発行額について市場の予想を上回る幅で調整すると発表したことから沈静化した。10年物国債利回りは来年にかけて1.7%へと徐々に上昇すると予想する。同利回りが上昇する際は日銀が再利上げを実施していると想定されるため、ターム・プレミアムは徐々に縮小することになるだろう。日銀が追加利上げに踏み切らなければ、1年後の10年物国債利回りは現在の1.4%近辺にとどまるとみられるが、そのようなシナリオの確率は25%以下とみている。

ドイツ国債:ドイツ国債10年物利回りは2026年6月までに2.8%に向けて徐々に上昇すると予想する。財政支出拡大の財源として国債の新規発行が予想されるため、イールドカーブの長期ゾーンでは利回り上昇圧力が続く可能性があり、一方で欧州の経済成長の加速に伴いECBが今後1年の大半において金融政策を据え置くとみられることから、イールドカーブはスティープ化が予想される。

チャート8:イールドカーブは様々な地域でスティープ化

チャート7

出所:米国財務省やMacrobond、本相互証券など、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成、2025年6月23日現在

為替:米ドルは全面安、人民元に注目

世界の外貨準備に占める米ドルの割合は増加したが、これは外貨準備において他の通貨が米ドルと同じ時期に売られたためだ(チャート9および10参照)。このことは、中央銀行が外貨準備のドルを減らすにあたって漸進的に動かなければならない必要性を浮き彫りにしている。米ドルは、国際取引決済に占める割合に比べ、現在の外貨準備においてかなり大きなポジションを占めている、これは、中央銀行が同通貨の急落に対して脆弱であることを示しており、この脆弱性をいずれ減らしていくことの重要性も強調している。

チャート9および10:外貨準備においてドルの割合が増加するのは外貨準備が全体的に売られた時のみ

チャート9&10

出所:「Global Foreign Exchange Reserves Trends

当委員会では米ドルについて、今後数四半期にわたって対円で低迷を続けると予想しており、また長期的には幅広い通貨に対して下落するとみている、基本シナリオとしては、米ドル/円レートが1ドル=140円を割り込み2026年6月までに130円台半ばに落ち着くと予想する。ユーロは同期間に対ドルで1ユーロ=1.14~1.21米ドルのレンジまで上昇するとみている。英ポンドの対米ドルでの上昇は比較的小幅にとどまり、2026年6月末までに1英ポンド=1.35米ドルを超える程度と予想している。オーストラリアドルは1オーストラリアドル=0.65米ドル越えへと反発する可能性があるが、今後1年において0.7米ドルを超えることはないと考える。今後重要となり得るもう1つのテーマとして、(上海陸家嘴フォーラムで発表されたような)人民元の国際化推進に向けた中国の動きが挙げられる。SWIFT(国際銀行間通信協会)のデータによると、米ドルは世界の決済に占めるシェアが世界の外貨準備に占める割合を10ポイントも下回っている一方、人民元は決済に占めるシェアが2024年5月時点で約4.5%(2020年は平均で2%未満)と第4位の水準にある。

コモディティ:金は上昇、原油は不透明

先四半期には、原油価格の下落に頼ってインフレを抑制しようとする米政権の戦略に触れたが、その後OPEC(石油輸出国機構)は供給量を増やした。しかし、イランとイスラエル(最近ではこれに米国が加わった)のあいだで続いている紛争の激化は、原油価格を下落させようとする計画にとって引き続きリスクとなっている。6月18日のGIC開催時点では米国はまだ対イランで行動を起こしていなかったが、当委員会では地政学的リスクの高まりを認識していた。基本シナリオとしては、ブレント原油先物の期近価格が今後1年で再び1バレル当たり70米ドルを割り込むと予想する。しかし、中東情勢の展開によって、今後1年の変動レンジは60~77米ドルに及ぶともみている。一方、については、世界の投資家が米ドルからの分散投資先を求めるなかで高い需要が続くと予想するが、短期的にはポジションが幾分買われ過ぎとなっていることから、年内は1オンス当たり3,300米ドルを割り込む水準へ調整する可能性があり、2026年に再び上昇基調に戻るとみている。

債券、為替およびコモディティに対する定性的見解

金利、為替およびコモディティに対する当委員会メンバーの多様な見解・考察を抜粋して紹介する。

政策金利:

  • 日銀は貿易リスクや地政学的リスクに対して非常に敏感になるとみられるが、当面の実質金利は非常に低い水準にとどまっており、依然調整が必要である。
  • 景気が減速するとの予想はFOMCに利下げの余地が生じることを意味し、クレジット市場にとっても投資にとっても引き続き良好な環境と言える。
  • 関税に起因する物価上昇が現実化しなければ、FOMCは利下げしやすくなるだろう。
  • FRBによる利下げは2回:同中銀は、おそらく実際の利下げよりもはるかにハト派的なガイダンスを示しながら、インフレ・リスクを理由に慎重な姿勢を維持するだろう。
  • ECBはすでに大幅な利下げを行っており、利下げサイクルの完了に近づいているだろう。インフレはすでにECBの目標圏内に概ね入っている。

10年物国債利回り:

  • 日本国債の需給不均衡はイールドカーブの長期ゾーンを動揺させたが、財務省が発行を調整すると発表しており、最悪の時期は過ぎたと言えるだろう。
  • 日銀の追加利上げが実施されれば、債券利回りはイールドカーブ全体にわたって上方に調整する可能性が高い。
  • 米国の実質金利は上昇する。」
  • 30年物米国債利回りは再び上昇に転じるかもしれないが、これは一時的なものに終わり、債券価格は再び反発する可能性がある。
  • ドイツは補正予算を組んでその財源を国債の追加発行で賄う可能性があるが、そうなればイールドカーブの長期ゾーンは利回り上昇圧力に晒され続けるかもしれない。
  • FRBが利下げを実施しない一方で日銀が引き締めペースを落とし利上げを手控えれば、為替ヘッジなしの米国債投資は魅力度が増し得る。

為替:

  • FRBが動くのを待つのはますます難しくなっている。一方で、3%への利下げが織り込まれるようになった場合は、米ドルのキャリーはもはや有利ではなくなるかもしれない。
  • 米国の金利水準は日本より高いものの、金利の優位性は為替のヘッジ・コストによって損なわれてしまい、為替ヘッジ後の米国債のリターンは現在、日本国債長期ゾーンの利回り(イールドカーブ内キャリー)を下回っている。
  • 短期的には、リスク選好度が回復すれば米ドル/円レートはそれを追い風に1ドル=150円へと反発するとともに、キャリーの魅力度が高まる可能性がある。
  • 現在、からの投資では、対米ドル・ヘッジの投資よりも対ユーロ・ヘッジの投資でポジションを取る方が有利である。フランス国債の為替ヘッジ後のキャリーは円ベースの投資家にとって依然プラスである。

コモディティ:

  • は引き続きリスク分散に有効な投資先であり、株式との低相関から高い需要が続いている。しかし、短期的には金価格は行き過ぎの感がある。
  • 原油は先行き不透明感が圧倒的に強い。しかし、イランが米国とのあいだで外交的解決策を模索する可能性は残っている。

株式:EPS成長率は1桁台へ鈍化、バリュエーションは多様化

米国:企業利益2桁成長の時代は米国ですら終わりつつあるのかもしれない。テクノロジー株の割合が高いS&P500種指数のEPS成長率はプラス圏を維持すると予想するが、2025年後半と2026年序盤のEPS成長率予想については1桁~2桁前半へと下方修正した。2桁の利益成長に対する確信度が強かった3月に比べると後退である。一方、バリュエーションはピークを打った可能性が高く、今後1年は緩やかな低下基調を辿ると予想する。株式のボラティリティの高まりを反映し、PERの四分位範囲は予想期間が先になるにつれて拡大している(チャート11参照)。2026年4月~6月期におけるS&P500種指数のPERは20~25倍の範囲内と、関税発表前の高水準に戻ることはないと予想している。このような緩やかな低下の見通しは、関税が世界的に引き下げられ地政学的緊張が緩和するというシナリオに基づいているが、リスクは残る。先に強調したように、米国と他の先進国とのあいだでは経済成長格差が縮小する可能性が高い。

チャート11:時間が先になるほど不透明感が増す米国株式のバリュエーション

チャート11

出所:Macrobondなど、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成

日本:関税をめぐる不透明感が日本企業の重要なテーマである状況に変わりはなく、政府が自動車セクターの関税撤廃を交渉するとともに半導体セクターの企業も同様の関税撤廃に期待を寄せている。企業には全般的に関税負担を価格に転嫁しようとする兆しがある程度見られているが、値上げによる販売数量への悪影響とのあいだでバランスを取ろうとする意向も窺える。このような調整が進むなか、年内は前年同期比の利益成長率が短期的にマイナスに転じる可能性もある。関税が最終価格に転嫁されるまでにはある程度時間がかかり、利益率に影響が及ぶためだ。基本シナリオとしては、国内企業の利益成長率は今後半年で1桁台前半へと鈍化した後、来年前半に回復すると予想する。大手工業企業の増益率は8~9%へ回復する可能性があるが、より幅広い企業で構成されるTOPIXの利益成長率は、プラス圏を維持しながらも回復ペースがより緩やかなものとなるかもしれない。一方、日本ではデータセンターなどのAI(人工知能)インフラや、それに伴う電力需要に対応するためのエネルギー・インフラへの大規模投資が計画されており、今後数四半期にわたって多額の投資が必要となると予想され、これが国内で多くの製造企業に需要を供給することになるだろう。一方、内需関連企業は、傾向として緩やかながら安定的な1桁成長を続けると予想される。バリュエーション面では、当委員会がピークを打ったと考えている米国株式とは対照的に、日本株のPERは20年ぶりの低水準近くにとどまっており、したがって今後1年において回復を見込んでいる(チャート12参照)。高ボラティリティ局面が断続的に訪れる可能性は否めないが、過度な下落局面では資金力が豊かで層の厚い長期スタンスの国内投資家(企業、個人投資家、金融機関など)から買いが入ることにより、バリュエーションの低下は限定的なものとどまり続けるとみている。

チャート12:米国株式のバリュエーションは再び「並外れた」水準に戻るも日本株のPERは依然相対的に低い

チャート12

出所:Macrobondなど、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成

欧州:欧州株式は、域内の経済成長の減速や限定的な財政出動、投資の鈍化、米国に比べ厳しい規制環境を嫌気材料として、数四半期にわたり世界の投資家から「バリュー・トラップ」(割安な銘柄がいつまでも割安なまま放置される状態)と見なされてきた。しかし、投資家が米国のテクノロジー・セクターからのポートフォリオ分散を進めたいと考え始めたことから、欧州市場が注目されるようになった。ECBの緩和的な金融政策と防衛費を中心とする財政支出の大幅拡大により、金融・財政の両政策面で米国に対し優位な状況にある(チャート1参照)。2024年終盤に発表された欧州委員会後援のドラギ・レポートは、欧州の競争力が転換点を迎えたことを示唆したと言えるかもしれない。競争ルールの緩和や構造改革、イノベーション(革新)への投資は、規制の緩い米国市場対比で欧州の規制環境に徐々に恩恵をもたらし得る。最近見られた欧州株式の上昇は、今後数四半期もある程度続くと予想される。当委員会では、欧州企業のEPS成長率が今後1年にわたって1桁台半ばへと緩やかな加速を続けると予想しており、前年同期比で5%を超える可能性もあるとみている。バリュエーションが歴史的な低水準からすでに回復していることから、今後の株価の主なドライバーは企業の利益成長になるとみられる。企業利益が改善するにつれて、PERにはやや下方圧力がかかるかもしれない。

グローバル株式市場に対する定性的見解

世界の企業の利益成長と株式市場のバリュエーションに対する当委員会メンバーの多様な見解・考察を抜粋して紹介する。

米国株式:

  • 株式は「ソフト・ランディング」の可能性が高い。AIインフラ投資は急ピッチで続いており、AIの普及はさらに進み得るというのがコンセンサスとなっている。株式投資家は地政学的リスクと世界貿易のリスクについてともにデタントを想定している。しかし、そのような楽観ムード自体がリスクとなる可能性もある。
  • 財政・金融政策の緩和は従来、株式市場と予想ベースのPERにとって大きな追い風となってきた。
  • 「平均的な米国企業の利益成長は下振れするかもしれない。」
  • AIの設備投資サイクルはまだ転換していない。しかし、米国株式のリスク・プレミアムは上昇し始めている。米国株式の行方は今や、ボラティリティが急上昇してもすぐに収束するかどうかにかかっている。
  • 資金フローの観点からは、長期債利回りが上昇すれば、年金基金は株式エクスポージャーを減らして債券に振り向け、リスクの低減を進めるかもしれない。

日本株:

  • 2025年後半は関税をめぐる不透明感が引き続き企業利益を圧迫するが、2026年にかけては安定化すると予想される。大手製造企業の利益成長率は8~9%と1桁台後半へ回復するかもしれない。
  • 長期金利が大幅に上昇し始めた場合は、グロース株に悪影響が及び得る。これはリスク・シナリオではあるが基本シナリオではない。

欧州株式:

  • 欧州株式は企業利益の成長ペースが鈍いかもしれないが、相対ベースでは一定の長期的価値を提供し得る。欧州諸国の財政政策における変化が企業の利益に反映されるのには時間がかかる。
  • 欧州の経済成長には課題があるものの、米国株式のバリュエーションが非常に高いなかで、欧州株式は優れた分散投資先として浮上する可能性がある。

当委員会の見通しに対するリスク:インフレ、スタグフレーション、財政および地政学的展開の波及的影響

4月の臨時GIC 会合で見直しを行った確率加重シナリオと比較すると不確実性は後退してきており、したがって「貿易デタントが実現し米国および世界の経済成長が鈍化しながらもプラス圏を維持する」というシナリオに対する確信を深めている。ただし、テールリスクが依然根強いことは強調しておきたい。6月の会合で見直しを行った主要リスクを以下にまとめる。

  • 地政学的リスクと波及効果:イラン・イスラエル間で続いている緊張は、米国が紛争に参戦したことでエスカレートしている。複数のGICメンバーが言及した重大なリスクの1つ(発生確率は5~20%、影響度は中~高)は、同紛争が激化してその影響が現在は関与していない地域へも波及する可能性である。このリスクは、ホルムズ海峡を通過する石油供給を中心に、サプライチェーン・リスクやインフレ・リスクを引き起こす可能性があり、その影響を最も直接的に受けるのがアジアだ。可能性は低いが起きれば影響の大きいもう1つのシナリオは、政治・経済面の緊張が世界的に激化するのに伴い、政治的紛争が現在戦争に巻き込まれていない地域にまで拡大することである。
  • 貿易摩擦および関税の激化:米国の「相互」関税が実施される可能性に関するリスクの確率は、米国の最高裁がその実施を支持する判決を下すシナリオを含め、10~42%の範囲とみている。これらのリスクの潜在的影響は、高いもの(相互関税を支持する司法判断など)から低いもの(通商交渉を長引かせ得る米中貿易摩擦の再燃)まで幅が広い。企業は主に価格転嫁で関税に対応しようとしており(チャート13および14参照)、その最も一般的なタイムラグは3ヵ月以内で、このようなリスクはインフレを引き起こすとみられる。

チャート13:大半の企業は関税負担の一部または全部を価格転嫁

チャート13

注:数値は過去6ヵ月に関税によって輸入品のコストが上昇したと報告した企業のもの。
出所:ニューヨーク連銀「Regional Business Surveys(2025年5月)」(Are Businesses Absorbing the Tariffs or Passing Them On to Their Customers? - Liberty Street Economics

チャート14:関税に起因する価格上昇が起こるのは早い

チャート14

注:数値は過去6ヵ月に関税によって輸入品のコストが上昇したと報告した企業のもの。
出所:ニューヨーク連銀「Regional Business Surveys(2025年5月)(Are Businesses Absorbing the Tariffs or Passing Them On to Their Customers? - Liberty Street Economics

  • インフレの大幅加速またはスタグフレーション:前述したように、中東紛争の激化がもたらす原油価格の高騰は、発生確率は低いものの影響は大きい潜在リスクの1つである。7月以降に相互関税が再導入された場合もインフレ再燃につながる可能性があり、このシナリオは発生確率がより高く影響も大きいとみている。加えて、地政学的緊張と貿易摩擦の両方に起因する世界のサプライチェーンの分断化は、混乱をより永続的なものにし得る。もう1つの懸念されるシナリオは、米国の住宅市場の鈍化が耐え難いほどの高インフレおよび消費低迷と同時に起きることだ。これをテールリスクとみる向きはまだ少数派だが、現実化すれば重大な影響を及ぼす可能性がある。
  • 財政リスクによる債券市場の混乱:米国は双子の赤字とかつてないほど高水準にある債務残高の対GDP比という脆弱性に晒されており、現在上院で審議中の減税策による経済成長効果にとって足枷となり得る。景気低迷時における消費者向けセーフティネット施策の削減によって、状況はさらに悪化する可能性がある。米国政府は景気低迷に対応するための財政面での「政策余力」が限られており、結果として長期金利は根強く高止まりするかもしれない。一方、日本はプライマリーバランスの黒字化に向けて徐々に前進しており、対税収での債務残高比を減らしてきたものの、最近起こった30年物国債利回りの乱高下は、財政責任からの逸脱が及ぼし得る波及的影響を市場に再認識させた。起きた場合の影響は大きいが発生確率は低い(10~30%)リスクの1つは、少数与党政権が限定的な財政出動へのコンセンサスを得られないこと、あるいは衆議院の解散総選挙で敗北することだ。このシナリオでは、結果としてポピュリズム色の強い財政政策が実施され、日本国債利回りの急上昇を引き起こす可能性がある。財政規律が緩和されたり、日銀がインフレに断固とした対応を見せなかったりすれば、邦銀の資金調達コストが上昇し企業や消費者に影響が波及するかもしれず、これがテールリスクとなる。

運用戦略の結論:インフレ・リスクを伴いながら経済成長格差が縮小

4月の臨時GIC会合で策定した確率加重シナリオをさらに見直した結果、当委員会では、米国の経済成長が鈍化しながらもプラス圏を維持する確率が高まったと評価している。米国企業のEPS成長率は当面プラスを維持すると予想するものの、不透明感が米国株式のバリュエーションを圧迫するとともに断続的な高ボラティリティ局面をもたらすとみられる。米国と他の先進国との経済成長格差は縮小すると予想する。

日本株の提供するリスク・プレミアムは依然、米国株と拮抗している。日本は構造的リフレの兆候が続いており株価バリュエーションにも相対的な割安感があることから、日本の内需関連株に引き続き注目している。とはいえ、貿易をめぐる不透明感とそれに伴う日本株市場の高ボラティリティが払拭されることはないだろう。当委員会では、同市場が回復力を示すと考えており、国内投資家の行動に倣って、ボラティリティのもたらす過度な下落局面で買いの機会を継続的に探っていく。同様に、地域間の経済成長格差が縮小するなか、欧州株式やアジア株式にも分散投資価値を見出している。

米国の短期金利に対する予想としては、FRBによる数回の利下げがすでに市場に織り込まれており、結果として米国のイールドカーブはブル・スティープ化を見せている。政府債務残高の対GDP比がおよそ120%である米国は、債券デュレーションが財政リスクと貿易をめぐる不透明感に対して脆弱であることに変わりはない。当面は国庫準備の取り崩しで流動性を維持することができるだろうが、夏終盤には予算交渉で債務上限措置を延長せざるを得なくなる可能性がある。米国の債務は第2次世界大戦以降で最も高い水準にあり、地政学的動向によってインフレ・リスクが現実味を保っていることも相まって、ターム・プレミアムは維持されるとみられる。一方、日本の超長期国債の利回りについては、同国が短期債と長期債の供給量を調整することにしたため、ピークを打ったと考えている。

為替では、米国の先行き不透明感が強いなか、ポートフォリオの分散投資先として、日本円と(度合いは相対的に低いものの)ユーロに対してポジティブな見方を維持する。

GICのガイダンス・レンジについては、本稿の補足1を参照のこと。

テキスト

補足1:GICの見通しのガイダンス・レンジ

世界のマクロ経済指標

中央銀行の政策金利、為替、債券およびコモディティ

中央銀行の政策金利、為替、債券およびコモディティ2

株式

株式2


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