本レポートは、2019年8月発行の英語版「ASIAN EQUITY OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 7月のアジア株式市場(日本を除く)は利食い売りが先行して下落し、月間リターンが米ドル・ベースで-1.8%となった。域内の経済および製造業指標・統計が事前予想を下回ったことに加えて、世界経済の鈍化懸念が高まったことが、アジア株式の重石となった。
  • アジア域内でパフォーマンスが最も堅調だった市場は台湾とインドネシアだった。台湾ではGDP成長率が事前予想を上回ったことが市場の下支えとなる一方、インドネシアでは中央銀行が経済成長を押し上げるために約2年ぶりとなる利下げを実施した。
  • 反対に、韓国市場はパフォーマンスが劣後した。韓国と日本の政府間で貿易をめぐる緊張が高まったことが、輸出関連株やテクノロジー株の比重が大きい同市場の重石となった。また、インド市場も低調な企業決算発表を受けて他市場をアンダーパフォームした。
  • ボラティリティの高い市場環境が続く可能性があるが、米ドル安の展開となればアジア株式市場(日本を除く)は相対的に健闘すると想定される。域内には、(インドのように)貿易戦争の影響をほとんど受けない国や、(アセアン諸国のように)サプライ・チェーンのシフトから恩恵を受ける国が存在する。

アジア株式市場

市場環境

7月のアジア株式は下落
アジア株式市場(日本を除く)は前月に大幅な上昇を見せたが、7月は利食い売りが先行して下落し、月間リターンが米ドル・ベースで-1.8%となった。経済および製造業指標・統計が事前予想を下回ったことに加えて、世界経済の鈍化懸念が高まったことが、アジア株式の重石となった。米FRB(連邦準備制度理事会)は予想通り十年超ぶりとなる0.25%の利下げを実施したが、ジェローム・パウエル議長が今回の利下げは長期にわたる利下げサイクルの始まりを示すものではないと発言したことから、市場では追加利下げへの期待が後退した。上海で行われた直近の米中貿易交渉が目立った進展なく終了したことも、市場センチメントが浮揚しない一因となった。とは言え、アジア株式市場は総崩れとはならず、韓国、インド、香港市場が域内で最も低調なパフォーマンスとなる一方、台湾、インドネシア、フィリピン市場は月間リターンがプラスとなった。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2018年7月末~2019年7月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスを、2018年7月末を100として指数化(全て米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2009年7月末~2019年7月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

台湾およびインドネシア市場が最もアウトパフォーム
台湾市場は、第2四半期の経済成長率が事前予想を上回ったことが追い風となり、米ドル・ベースのリターンが3.2%とアジア地域で最も高いパフォーマンスを見せた。同国の株式指数で大きな構成比率を占める台湾積体電路製造(TSMC)が2019年第3四半期の売上げについて市場予想を上回るガイダンスを示し、その株価が大きく上昇したことも、台湾株式市場のセンチメントを押し上げた。

アセアン地域では、インドネシアおよびフィリピン市場が最も良好なパフォーマンスとなり、7月のリターンは米ドル・ベースで1.4%および0.6%となった。一方、タイ、マレーシア、シンガポール市場のリターンは、米ドル・ベースでそれぞれ-2.6%、-2.1%、-1.0%となった。 インドネシアの中央銀行は、経済成長を押し上げるために約2年ぶりとなる利下げを実施し、7日物リバースレポ金利を0.25%引き下げて5.75%とした。憲法裁判所が野党党首プラボウォ・スビアント氏による大統領選挙結果への異議申し立てを法的根拠がないとして棄却したことも、市場センチメントを回復させた。フィリピンでは、中央銀行が2019年後半に金融政策の緩和を再開するとの意向を示し、株式市場の追い風となった。7月のPMI(購買担当者景気指数)が6ヵ月ぶりの高水準となる52.1へと上昇する力強い内容となったことも、フィリピン市場を下支えした。

中国株式市場は米ドル・ベースの月間リターンが-0.5%となった。中国の経済成長率は第2四半期にさらに鈍化して前年同期比6.2%となり、米国との貿易戦争が継続するなかで少なくとも1992年以来では最も低い成長となった。香港では、大規模なデモ活動や激しい抗議活動によって企業や輸送網に混乱が生じ、株式市場が低迷した。香港の第2四半期GDP成長率が前年同期比で0.6%、前期比で-0.3%となったことも投資家を失望させた。

最も大きな打撃を受けた韓国およびインド市場
韓国市場はアジア株式市場で最も低調なパフォーマンスとなり、米ドル・ベースのリターンが-6.2%となった。韓国と日本の政府間で貿易をめぐる緊張が高まったことが、輸出関連株やテクノロジー株の比重が大きい同市場の重石となった。当月、日本は、韓国企業が半導体およびディスプレイ画面を製造するのに必要とする主要3品目について輸出規制を強化するとともに、輸出管理における優遇措置対象国のリストから韓国を除外する方針を発表した。

インドもアジア株式市場のなかでパフォーマンスが劣後し、低調な企業決算発表を受けて米ドル・ベースのリターンが-5.2%となった。IMF(国際通貨基金)は当月、同国の内需の伸びが鈍化していることを理由に、同国の2019年の経済成長見通しを7%へと下方修正した。

アジア株式(日本を除く)のリターン
過去1ヵ月間(2019年6月30日~2019年7月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン 過去1ヵ月間(2019年6月30日~2019年7月31日)

過去1年間(2018年7月31日~2019年7月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1年間(2018年7月31日~2019年7月31日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックスに基づく(米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

世界は成長鈍化局面入り
年初来からこれまでは、市場には何かしらの好材料があった。しかし、特にFRBのコメントから考えると、向こう数四半期の見通しはこれまでほどは明るくないようだ。米中貿易協議は長期化がますます鮮明となっている。中国が「量より質」への転換とそれに伴う成長鈍化にコミットしていること、またその他の国々ではおしなべて金融緩和の追い風が後退していることから、世界は成長鈍化局面に入りつつある。中東情勢はこれまでも常に不安定であったが、イランをめぐる最近の動向は一触即発の可能性をはらんでいる。こうした点を考え合わせると、今後はボラティリティの高い市場環境となる可能性があり、投資家としては忍耐と動じない心が必要となる。再び米ドル安の展開となれば、アジア株式市場(日本を除く)は相対的に健闘すると想定される。また、アジア市場に有利な点として、(インドのように)貿易戦争の影響をほとんど受けない国や、(アセアン諸国のように)サプライ・チェーンのシフトから恩恵を受ける国もある。

中国の保険、ヘルスケアおよびソフトウェア・セクターを引き続き有望視
中国が幅広い景気刺激策の実施に引き続き前向きではないこと、加えて香港の政治的混乱において非常に自制的で落ち着いた対応を見せていることは、市場に伴うリスク・プレミアムにとって良い兆候である。しかし、金融および財政政策の抑制による経済成長へのマイナスの影響は、期待が後退するにしたがって、遅ればせながらも資産価格の重石となるだろう。これは、中国の貿易のつながりを考えると、アジア地域全体の経済成長にも大きな打撃を与えることになり、特に香港にとっては厳しい痛手となるだろう。業績見通しは、輸出依存型企業に比べて、国内消費型企業の方が相対的に良好となっている。したがって、中国の保険、ヘルスケア、ソフトウェアおよび一部の消費関連サブセクターに関して長期的に有望視するスタンスに依然変わりはない。

インドとインドネシアに対して強気
インドは、モディ政権が今後5年においてより高い信任をあらためて獲得したこと、そして政府が重要な改革を推し進める意向を示したことにより、同国がそのポテンシャルをフルに発揮するのを阻んできた資本、労働およびインフラ分野の根強い多くの問題を解決する好機がもたらされている。インドの景気低迷は金融システムの滞りが原因であることから、ハードルは低い。しかし、バリュエーションは経済回復見通しを少なくとも部分的には既に反映しており、市場の多くの部分においてリスク・リターン・バランスの魅力度が低下している。そのため、当社では、成長加速の恩恵を受けやすい財政基盤が堅固な民間セクターの国内銀行、不動産開発会社、一部の消費関連分野を引き続き選好する。

テクノロジー株の比重が大きい台湾および韓国市場については、有望な投資先が見出しづらい。しかし、テクノロジー業界のリーディング企業が最近楽観的なコメントを発していること、メモリー価格が底入れしている可能性があること、バリュエーションが魅力的な水準にあるとともにキャッシュフロー利回りが高いことから、慎重ながらも楽観的な見方が妥当と考える。当社では、ヘルスケアや電気自動車技術など、国内の低調な景気動向の影響を比較的受けにくいニッチ分野のリーディング企業を引き続き有望視している。

アセアン地域では、引き続きインドネシアを選好する。その主な理由は、ジョコ・ウィドド政権があらためて得た信任を後ろ盾として政策の成果を出しやすいことにある。インドと同様に、インドネシアが経済成長の軌道を真に上向きにシフトさせるには、大幅な改革が必要となるだろう。しかし、当社では、当面は足元の低いベースからの循環的な景気回復が見込まれると考える。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)PER、PBRともにMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

当資料は、日興アセットマネジメントアジアリミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメントアジアリミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。