本レポートは、2019年10月発行の英語版「ASIAN EQUITY OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 9月のアジア株式市場(日本を除く)は、前月の急落から回復を見せてポジティブなムードで月を終え、月間リターンが米ドル・ベースで1.7%となった。主要中央銀行による緩和政策の継続が市場センチメントを押し上げた。
  • 株価上昇を牽引したのは韓国市場で、米中間の貿易をめぐる緊張の緩和、韓国中央銀行による利下げへの期待、国内半導体株の大幅上昇を背景に、米ドル・ベースの月間リターンが7.2%に上った。インド市場も、同国政府による予想外の法人税減税を受けて大きく上昇し、米ドル・ベースのリターンが3.1%となった。
  • アセアン地域では、シンガポールを除くすべての市場で米ドル・ベースのリターンがマイナスに終わった。パフォーマンスが最も低迷したのはインドネシアとフィリピンで、月間リターンが米ドル・ベースでそれぞれ-2.9%、-2.0%となった。一方、香港市場は政治的抗議運動の継続と経済見通しの低迷が下方圧力を加えた。
  • 景気循環的な上昇相場となった場合、アジア株式市場は、前向きな構造改革に加えて割安なバリュエーション、汎用性テクノロジー部品の底入れ、金融緩和、財政出動といった材料がパフォーマンスの追い風になると思われる。テクノロジーやヘルスケア、一部の消費関連サブセクターといった、バリュエーションが妥当で構造的変化を遂げつつある分野において、持続可能なリターンが期待できる投資機会が引き続き見出されている。

アジア株式市場

市場環境

9月のアジア株式は反発
9月のアジア株式市場(日本を除く)は、前月の急落から回復を見せてポジティブなムードで月を終え、月間リターンが米ドル・ベースで1.7%となった。

センチメントを押し上げたのは、米FRB(連邦準備制度理事会)による0.25%の利下げ、中国の中央銀行による0.5%の預金準備率引き下げ、そして米中間の貿易協議再開(10月11日・12日にワシントンで閣僚級会合を行うこととなった)であった。

しかし、当月の相場上昇は必ずしも順風満帆というわけではなく、アジアの株式市場は月中、断続的な不安材料を乗り越えなければならなかった。その1つは、サウジアラビアの石油施設がドローンによる攻撃を受け、原油価格が一時的に急騰したことだ。また、米国で新たな政治論争として、ドナルド・トランプ米大統領に対する弾劾審議が正式に始まったことも、月末にかけて市場の不安を高めた。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2018年9月末~2019年9月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスを、2018年9月末を100として指数化(全て米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2009年9月末~2019年9月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

韓国市場は上昇、中国は横這い
韓国市場は、米中間の貿易をめぐる緊張の緩和、韓国中央銀行による利下げへの期待、国内半導体株の大幅上昇を追い風として、13日連続の相場上昇という目を見張るような展開となり、米ドル・ベースの月間リターンが7.2%に上った。同国の9月の消費者信頼感指数も、5ヵ月ぶりに改善を見せた。

同様に台湾も、市場に占める割合が大きい半導体業界に対する楽観ムードが広がったことから上昇し、リターンが米ドル・ベースで4.2%となった。新しいiPhone 11の発売が開始されたことを受けて、Appleへの主要チップ・サプライヤーである台湾の半導体企業の株価が上昇した。また、同国の9月の製造業PMI(購買担当者景気指数)と消費者信頼感指数もともに改善した。

北アジアの他の市場では、中国のリターンがほぼゼロとなる一方、香港のリターンが米ドル・ベースで-0.7%となった。中国では、国家統計局発表の9月の製造業PMIが49.8と、事前予想を上回るとともに前月の49.5も僅かながら上回ったが、依然として景気悪化を示す領域にとどまった。月中、同国の国務院はさらなる景気刺激策として、労働者の技能訓練やインフラ投資に充てる資金の増額を発表した。香港は、政治的抗議運動の継続と経済見通しの低迷が株価の重石になるとともに、格付機関Fitchによって信用格付けがAA+格からAA格へと引き下げられた。

インド市場は上昇、アセアン市場は劣後
インド市場は、今年度有効で法人税率を34.3%から25.17%へ引き下げるという同国政府の予想外の発表を受けて大きく上昇し、米ドル・ベースのリターンが3.1%となった。2019年10月1日以降に設立される製造企業については、17%とさらに低い法人所得税率が適用されることとなる。

アセアン地域では、シンガポールを除くすべての市場で米ドル・ベースのリターンがマイナスに終わった。パフォーマンスが最も低迷したのはインドネシアとフィリピンで、月間リターンが米ドル・ベースでそれぞれ-2.9%、-2.0%となったが、一方でタイとマレーシアの損失幅はそれぞれ-1.0%、-0.6%にとどまった。シンガポール市場はこの下落基調に逆らって上昇し、月間リターンが米ドル・ベースで1.2%となった。しかし、同国の8月の工業生産は前年同月比8%減と、2015年12月以来となる低迷ぶりを見せた。その他では、インドネシアとフィリピンの中央銀行が月中ともに0.25%の利下げを行った。

アジア株式(日本を除く)のリターン
過去1ヵ月間(2019年8月31日~2019年9月30日)

アジア株式(日本を除く)のリターン 過去1ヵ月間(2019年8月31日~2019年9月30日)

過去1年間(2018年9月30日~2019年9月30日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1年間(2018年9月30日~2019年9月30日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックス(すべて米ドル・ベース)のもので、実績データに基づく。過去のパフォーマンスは将来の投資成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

景気の循環的回復局面においてアジア市場はアウトパフォームする可能性がある
当月は、グロースからバリューへのファクター・ローテーションが注目を集め、過去1年見られてきたグロース株優位とバリュー株劣後という傾向が反転した。とは言っても、それが持続可能かどうかは依然議論の余地が大きい。十分な世界的リフレ期待が不在であるなか、最近の牽引役交代は一時的なものかもしれない。反対に、持続可能性がより高いと考えられるのが長期的な改革で、これは、インドや中国で明らかなように、構造的な生産性向上につながる。しかし、実際に景気の循環的回復が起きれば、アジアは相対的にアウトパフォームする可能性がある。前向きな構造改革に加えて割安なバリュエーション、汎用性テクノロジー部品の底入れ、金融緩和、財政出動といった材料が、景気循環的な上昇相場においてアジア市場のパフォーマンスの追い風になると思われる。テクノロジーやヘルスケア、一部の消費関連サブセクターといった、バリュエーションが妥当で構造的変化を遂げつつある分野において、持続可能なリターンが期待できる投資機会が引き続き見出されている。

中国では、対象を絞った政策支援の効果が実体経済に波及し始めており、セメント出荷や採掘機販売、電力・ガス消費に加速が窺える。人民元安が一息つける猶予をもたらしているほか、米国との貿易戦争が複雑かつ長期化している環境下で特に重要となる金融および財政政策も、より協調しているように見受けられる。とは言え、当社の基本シナリオは、中国政府が「量より質」という新体制へのコミットメントを堅持し続け、成長するために成長を控えるというものだ。したがって、相対バリューを選好しながらも、国内の構造的成長や業界再編といった分野、具体的には保険、ヘルスケア、ソフトウェア、および一部の消費関連サブセクターを引き続き有望視している。

インドでは、より強い信任を新たに得たモディ政権が、前向きな構造改革において大きな前進を続けている。グローバル・サプライチェーンがシフトしつつある世界において自国企業の競争力を高めるために行った法人税減税や、資本増強の加速や合併を通じた国営銀行の改革は、国民の支持がより低い政府では遥かに困難であっただろう改革の例だ。今後も、労働改革やインフラ開発など同国がそのポテンシャルをフルに発揮するのを阻んできた根強い多くの問題を解決すべく、さらなる改革が実施されるものと期待している。当社の見解では、インドはモディ政権下で改革を飛躍的に前進させているが、そのような前向きの改革が、経済成長の鈍化やノンバンク金融企業の財務健全性をめぐる短期的な懸念のために、株式市場で過小評価されている。当社では、このようなミスプライシングを、財務体質が堅固で成長加速の恩恵を受けやすい民間セクターの銀行や、不動産開発会社、消費関連分野の一部の銘柄への投資を通じて、リターン獲得の機会として引き続き捉えていきたいと考えている。

アジアのテクノロジー・セクターには回復の兆し
テクノロジーが大きな割合を占める台湾や韓国の経済は、国内景気の冷え込みやテクノロジー分野の世界的な在庫調整から、これまでしばらく明るい材料がなかった。しかし、ここ数ヵ月は、テクノロジー・セクターに回復の兆しが見られ始めている。世界のテクノロジー・サプライチェーンは一部が中国からシフトしつつあるかもしれないが、一方で同セクター内の大きな構造的傾向として中国ではテクノロジーのローカル化が進んでおり、中国企業はますますアジアのサプライヤーを選好するようになってきている。加えて、テクノロジー分野の在庫調整が終わりに近づいており汎用性タイプのテクノロジー部品が底入れする可能性があるなか、テクノロジー・サプライチェーンの大手企業もガイダンスの楽観度が高まってきている。同セクターにおいては引き続き、ヘルスケア、5Gコンポーネント、電気自動車技術など、低調な国内景気の影響を比較的受けにくいニッチ分野のリーディング企業を選好する。

サプライチェーンの中国からのシフトについては、大きなコスト優位性と既存インフラを有するアセアン地域が引き続き恩恵を受けやすい。特にインドネシアは、足元の期待値が極端に低いものの、関連投資資金が流入する可能性がある国の1つであり、当社では引き続きアセアン地域内で選好している。またインドネシアは、インドと同様、ジョコ・ウィドド大統領が新たな信任を得たことを受けて改革が進められる可能性も高まっている。大規模な改革により、経済成長軌道の本格的な上方シフトが促進される可能性がある。より短期的には、さらなる政策支援での景気対策も消費および投資の回復の可能性を高めている。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)PER、PBRともにMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

当資料は、日興アセットマネジメントアジアリミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメントアジアリミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。