本レポートは、2020年1月発行の英語版「ASIAN EQUITY MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 12月のアジア株式市場(日本を除く)は、米国が月の中旬に予定していた中国製品への追加関税発動を見送り米中貿易戦争が休戦となったことを受けて上昇し、米ドル・ベースの月間市場リターンが6.7%となった。韓国およびインドネシア市場が米ドル・ベースで最も高いパフォーマンスを見せる一方、タイおよびインドは域内の他国市場に対して劣後した。
  • 韓国および台湾市場は、テクノロジー株の大幅上昇に押し上げられ、12月の月間市場リターンが米ドル・ベースでそれぞれ10.1%、7.4%となった。中国市場も大幅に上昇し、米ドル・ベースの月間市場リターンが8.3%となった。
  • インドは、イスラム教徒に対する差別と受け止められた国籍法改正案をめぐり政治的な集団抗議行動が広がるなか、株式市場の月間リターンが米ドル・ベースで1.5%とかろうじてプラスとなった。タイでは月前半、軍事政権が権力を掌握した2014年のクーデター以来最大規模となる抗議集会が開かれた。その発端となったのは、軍事政権をかつて率いたプラユット・チャンオチャ現首相の政権と対立してきた野党に対して、当局が解党を申し立てたことだった。
  • アジアで続いている前向きな構造改革の長期ストーリーは、中国およびインドで着々と進むと予想している。域内全般にわたってバリュエーションに依然割高感がないことから、当社では、バリュエーションが妥当で構造改革による恩恵が期待できるテクノロジーやヘルスケア、一部の消費関連サブセクターといった分野で、持続可能なリターンが見込まれる銘柄の発掘を続ける。

アジア株式市場

市場環境

12月のアジア株式は上昇
12月のアジア株式は、米国が月の中旬に予定していた中国製品への追加関税発動を見送り、米中貿易戦争が休戦となったことを受けて、「年末ラリー(上昇相場)」を迎えた。中央銀行が景気刺激策をとっている環境に加え、1月に米中貿易協定の「第1段階」が署名されるとの見込みも、12月の市場センチメントを押し上げた。
当月のアジア株式市場(日本を除く)は、米ドル・ベースのリターンが6.7%となった。域内では、韓国および中国の株式市場が最も高いパフォーマンスを見せる一方、タイとインドは域内の他国市場に対して劣後した。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2018年12月末~2019年12月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスを、2018年12月末を100として指数化(すべて米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2009年12月末~2019年12月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

北アジア市場はアウトパフォーム
韓国および台湾株式は、テクノロジー株の大幅上昇に押し上げられ、月間市場リターンが米ドル・ベースでそれぞれ10.1%、7.4%となった。韓国では、12月の輸出が市場予想よりも良好な前年同月比5.2%減と、4月以降で最も小幅な減少となったことも、市場センチメントの追い風となった。

台湾では、中央銀行が2020年の成長予想を引き上げたことや、12月の製造業PMI(購買担当者景気指数)が11月の49.8から50.8へと上昇して回復を見せたことも、株高の要因となった。その他、中国株式は、米中貿易協定が暫定合意されたことや発表された経済指標が予想を上回ったことが市場で好感され、月間市場リターンが米ドル・ベースで8.3%となった。中国では、11月の鉱工業や小売り関連の指標が市場予想を上回るとともに、財新が発表する11月の製造業PMIが51.8と、10月の51.7から小幅に上昇して約3年ぶりの高水準となった。香港株式は、アジア地域の上昇基調に沿った動きを見せ、12月の米ドル・ベースの月間市場リターンが4.0%とまずまずの水準となった。

インド市場は小幅に上昇
インドは、イスラム教徒に対する差別と受け止められた国籍法改正案をめぐり政治的な集団抗議行動が広がるなか、株式市場の月間リターンが米ドル・ベースで1.5%とかろうじてプラスとなった。ナレンドラ・モディ首相によるヒンズー至上主義的な方針への抗議行動は、暴動が最も激化したウッタル・プラデーシュ州でデモ参加者と警察の激しい衝突に発展し、15人超の死者が出るに至った。

インドネシア市場がアウトパフォーム、タイ市場は劣後
アセアン地域の株式市場は、12月の米ドル・ベースの月間リターンがインドネシアで7.1%、マレーシアで4.0%、シンガポールで3.2%、フィリピンで1.6%となり、タイは0.6%となった。インドネシアは、12月のCPI(消費者物価指数)インフレ率が前年同月比2.72%へと減速し、3月以来の低い伸びとなった。タイでは月前半、元陸軍司令官で現首相のプラユット・チャンオチャの政権と対立してきた野党に対して当局が解党を申し立てたことを受け、2014年のクーデター以来で最大規模となる抗議集会が開かれた。

アジア株式(日本を除く)のリターン
過去1ヵ月間(2019年11月31日~2019年12月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン 過去1ヵ月間(2019年11月31日~2019年12月31日)

過去1年間(2018年12月31日~2019年12月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1年間(2018年12月31日~2019年12月31日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックス(すべて米ドル・ベース)のもので、実績データに基づく。過去のパフォーマンスは将来の投資成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

世界的に緩やかなリフレ・サイクルの可能性
2019年の主な特色は、地政学的な緊張の高まり、世界経済の成長鈍化、および世界の中央銀行によるハト派路線であった。当社では、長期化している米中間の摩擦は当面解決されることはないと予想しているが、一方で、最近では貿易協定「第1段階」の合意という前向きな一歩が踏み出されており、2国間の関係が一定期間安定を見せる可能性はあると考えている。世界的な在庫積み増しに地政学面の安定化が加わることによって、世界では2020年にかけて緩やかなリフレ・サイクルが復活するかもしれない。これを裏付けるように、2019年の最終四半期には、台湾や韓国のテクノロジー・セクターにおいて在庫積み増しという形で景気回復の兆しが見られ始めた。さらに重要な点として、アジアで続いている前向きな構造改革の長期ストーリーは、アジアの成長を牽引する原動力のうちの2ヵ国である中国およびインドで着々と進むと予想している。域内全般にわたってバリュエーションに依然割高感がないことから、当社では、バリュエーションが妥当で構造改革による恩恵が期待できるテクノロジーやヘルスケア、一部の消費関連サブセクターといった分野で、持続可能なリターンが見込まれる銘柄の発掘を続ける。

中国およびインドで成長加速を見込んだポジショニング
中国では、鉱工業生産が5カ月ぶりの大幅増となるなど、11月の経済活動がかなり心強い伸びを見せた。これは、2020年にかけて景気が緩やかに回復する予兆であるかもしれず、とりわけ米国との貿易協定の「第1段階」が問題なく成立すれば、その可能性が高まる。中国が過去1年の景気減速にもかかわらず「量より質」という新たな政策体制に対して規律あるアプローチを見せてきたことは賞賛に値し、当社では、長期的な好材料である金融セクター改革が一段と進められるとともに、戦略的な構造改革分野に的を絞った支援策が継続されると予想する。したがって、バリュエーションの魅力度が相対的に高い銘柄を選好しながら、国内での構造的な成長や業界再編が期待される分野、具体的には保険、ヘルスケア、ソフトウェア、産業オートメーション、および一部の消費関連のサブセクターの組み入れを高めに維持する。

インドは、当面の経済成長の鈍化やノンバンク金融セクターの脆弱さが不安材料ではあるものの、モディ首相の下での長期にわたる前向きな構造改革を経て、1947年の独立以来で最も期待が持てる時期の1つを迎えていると考えている。インフォーマル・セクター(小規模・零細企業の非正規雇用分野)のフォーマル化が幅広い領域にわたって進むにつれ、生産性のボトルネックは徐々に解消されてきている。また、GST(物品・サービス税)、倒産法、法人減税といった改革が、世界的なサプライチェーン・シフト環境においてインドの競争力を高めていることから、今後数年間は投資も加速するだろう。こうした良好なマクロ環境下、当社では、インフォーマル経済のフォーマル化や国内普及率の低さ、長期的な成長からの恩恵が見込まれる分野、具体的には民間銀行、不動産、物流などを引き続き選好している。

韓国は見通しが改善、インドネシアについては楽観的な見方
韓国や台湾のテクノロジー・セクターは、(Amazon、Google、Microsoftといった)世界のハイパースケーラー(大規模なコンピューター処理能力を備える企業)による在庫積み増し、5G(第5世代移動通信システム)の展開、スマートフォンの売上拡大を原動力として回復の兆しが窺われており、当社ではこれが両国の国内経済を最終的に下支えすると見ている。特に韓国の経済は、海運、精製、化学セクターの底入れがさらなる追い風となるだろう。当社では、テクノロジー・セクターへの投資配分において、5GやIoT(モノのインターネット)、クラウド開発から長期的な恩恵が受けられる銘柄に引き続き注目している。

米中間の交渉結果にかかわらず、アセアンのような地域へのグローバル・サプライチェーンの移転は、長期の構造的テーマと考えている。コスト面の優位性から特にその恩恵を受けるとみられるのがインドネシアで、ジョコ・ウィドド大統領が再選されたことで、大幅に遅れていた真の構造改革が実行される可能性ももたらされている。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注) PER、PBRともにMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のチャート、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。