本稿は2021年1月18日発行の英語レポート「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

2020年がパンデミック(世界的流行)の年として記憶されるのは間違いないだろう。金融市場の観点からはCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)はもはや古いニュースと考えたくなるが、ウイルスは経済見通しにとって依然大きなリスクを呈している。多くの国において、新年は以前の波を大幅に上回るウイルス感染第3波とともに始まっており、移動制限やロックダウン(都市閉鎖)が再び実施されている。表面上は、経済指標が市場予想よりも良好な水準で持ち堪えているのは意外かもしれないが、政府や中央銀行が自国経済を沈ませないためにあらゆる手を尽くしてきたことも事実だ。製造サイクルの力強い回復と中国からの堅調な需要も、パンデミックのダメージから生じる弱さを相殺している。そして、最後ながらやはり重要な点として、COVID-19のワクチンが記録的な短期間で開発され今や配給されつつある。これらの要素をすべて考慮して、当社では世界の需要についてポジティブな見方を維持するが、ウイルスの新変異種が予想外の悪影響をもたらす可能性と世界中の何億人もの人々にワクチン接種を行うことの複雑さについては警戒している。

これでも心配の種が足りないとでもいうかのように当資料作成日現在、投資家はトランプ大統領の残りの任期と米国ジョージア州の上院決選投票も注視してきた。決選投票が近づくにつれ、いわゆる「ブルーウエーブ」(民主党が大統領選に勝利するとともに上下院の過半数も獲得すること)の可能性が高まり、オッズメーカー(賭け屋)は上院の両議席が民主党の手に渡るとの見込みを示していた。ジョー・バイデンの民主党は今や行政府と立法府両院をすべて支配していることになるが、これは同氏の政策目標と実現可能な政策の範囲を大きく変えるものだ。最も注目すべき点として、COVID-19関連の追加救済支出が可決される見込みが強まり、他の大型財政出動策が実現する可能性も高まる。米国および世界の景気浮揚策はすでにかなり本格化しているが、バイデン政権はそのような取り組みを加速させるとみられ、それが長期債利回りに上昇圧力をもたらし、延いては株式の重石となる可能性がある。

米国選挙をめぐる大騒ぎは概ね2022年まで気にせずともよい状況となったことから、今後数ヵ月の注目は政府による追加支援とワクチンの配給に集まるとみられる。当社では選挙の結果がどちらに転んでもリフレ環境にとって追い風になるとの見方をとってきたが、現在は米国議会の「ねじれ」状態が解消されたことで景気回復のペースが加速する可能性がある。この楽観的な見方を相殺している材料は、世界中でCOVID-19の流行の波が繰り返し押し寄せていることと、これまでのところワクチン接種の実施ペースが遅いことだ。パンデミックと政府のアクションのこのような綱引きは、市場のボラティリティを高めるとともに世界経済の需要の不透明感を強めるだろう。しかし、当社では今後数四半期にかけてリフレの動きが広がると予想しており、そうなれば先進国の金利にとっては逆風となるが、世界の経済成長にとっては追い風となる。

クロス・アセット

グロース資産に対して相対的に強気、ディフェンシブ資産に対して相対的に弱気という先月からの見方に変更はない。グロース株からバリュー株へのローテーションやソブリン債利回りの上昇など、米国の選挙と予想よりも早いCOVID-19ワクチン承認を受けて定着したトレンドは12月も継続した。「リフレ・トレード」の人気が高まりつつあり、当社がここ数ヵ月示してきた見方に市場コンセンサスが近づいているが、当社ではこれを心強く感じると同時に慎重さを持って受けとめてもいる。グロース資産はこれまでのところ、民主党が行政府と立法府両院のすべての支配を獲得した「ブルーウエーブ」の遅まきながらの実現を好感しているが、米国の連邦議会議事堂における最近の出来事は、世界最強の国においても安定が保証されていないことを我々に思い出させた。

当社では、株式への見方においてバリュー株選好傾向を引き続き強めるとともに、米国債を中心にデュレーション・リスク回避姿勢を維持している。資産クラス・レベルでは、新興国のファンダメンタルズが魅力度を増していることから新興国株式選好の度合いを強める一方、その分先進国株式の選好度を弱めた。米国以外の国々では、米ドル安と中国の堅調な需要が成長促進剤となっている。リートについても、COVID-19のパンデミックによって受けた深刻な痛手の先を見越すことができるようになってきたため、長らく持ってきた慎重な見方を緩めた。同資産クラスはもはや最悪期を過ぎたとみられ、ホテルなど一部の銘柄に回復の可能性が見込まれる。リートへの見方をこのように変更した分、新興国債券の一部とインフラ資産のスコアをともに若干引き下げた。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

グロース資産の見通しは依然ポジティブで、足元では米国の財政出動拡大の道を開く「ブルーウエーブ」もさらなるサポート材料となっている。一方、COVID-19の先行きに関する不透明感がまだ強いなかで始まったばかりの景気回復を頓挫させることを恐れるバイデン政権が近い将来に増税を行うとは考えにくいことから、増税をめぐる懸念は後退している。

市場が高水準の楽観ムードを織り込んでいるのは明らかだ。投資家は、今後数ヵ月で最悪期が過ぎ去り繰延需要と巨額の景気刺激策が相まって世界の需要回復を一段と強固にするとの想定から、度重なるCOVID-19の波がもたらす当面の逆風はあえて材料視しない構えのようだ。

リスク資産の相場上昇は衰えることなく続いているが、テクノロジー株のバリュエーションは割高となっており、長期金利が着実に上昇していることを踏まえると今後大幅に調整する可能性がある。米国債10年物の利回りは現在1.14%と、7月下旬につけた最低水準の0.55%から0.6%近く上昇している。当社では長期金利が需要の回復を反映して上昇を続けるとみており、そうなればバリュエーションが割高な資産にとってはリスク要因となる。


将来の成長に対するプレミアム

リフレ環境の兆しが窺われることから、当社では長らく株式に対して楽観的な見通しを持っており、特に投資機会については、グロース株ばかりでなく10年超にわたってアンダーパフォームしてきたバリュー株セクターにまで広がると考えてきた。しかし、グロース株からバリュー株へのローテーションはもっと進むものと予想してきたものの、グロース株は長期金利が着実に上昇しているにもかかわらずかなりしっかり持ち堪えている。

グロース資産に対してはポジティブな見通しを維持しているが、投資家が非常に高いプレミアムを払うことを依然厭わない過熱気味の市場を混乱させ得る要因には用心を続けることが重要である。そのような状況を引き起こす可能性があるのはどんな材料であろうか。当社の推測では、長期金利の上昇が割高株のバリュエーションの見直しをもたらす最も大きなリスクだが、今回は異なるケースとなり得るのだろうか。

我々が生きているのは、テクノロジーの普及による「破壊」が実質的にすべての産業に広がった時代である。相対的に高いバリュエーションを正当化する理由としてよく言われるのが、必要資本の低さと生産性の大幅向上が相まってかつてない水準の収益性をもたらしていることである。代表例として挙げられるeコマース企業は、価格上昇率だけで見ても、過去40年における他のどの「バブル」をも上回っているようだ。

チャート1

当然ながら、そのような投資意欲をそそる成長性は非常に割高にプライシングされており、予想ベースのPER(株価収益率)が46倍、予想ベースのPSR(株価売上高倍率)が6倍となっている。しかし、将来の収益が投機的空論に過ぎなかったドットコム・バブルの時とは異なり、eコマースの収益は実体を伴っており、成長しているとともに正当化できるものだ。とは言え、それらの株式銘柄は配当水準が非常に低いため実効デュレーションが極めて長く、これがテクノロジー・セクターの大半のセグメントに共通する性質となっている。

確かに、米国債も利回り水準が非常に低く同様に長いデュレーションを伴うが、金利は上昇基調にあり、当社では、高バリュエーション銘柄が他の配当利回りがより高い投資機会と肩を並べる調整を余儀なくされるような転換点について、慎重姿勢を維持している。その転換点を予測するのは難しいが、イールドカーブの状況はそのような動きが起こるタイミングをモニターするのに明らかに注視すべき要素である。


グロース資産に対する確信度の強い見解

  • 先進国よりも新興国を選好:中国の旺盛な需要と堅調な製造業サイクルを受けてリフレ圧力が引き続き強まるなか、新興国株式のスコアをさらに引き上げ、その分、先進国株式のスコアを引き下げた。COVID-19ワクチン接種の実施が進むにつれて需要の回復は加速するとみられ、金利上昇環境において相対的に高いパフォーマンスが見込まれるバリュー株が有利となるだろう。
  • 新興国においてバリュー株への傾斜を拡大:中国と北アジアにおけるグロース株ストーリーは引き続き有望だが、北アジアではテクノロジー・サイクルが進んでいるとともに中国では政策引締めの可能性が高いことから、今後数ヵ月については、少なくともある程度、景気回復がまだかなりの初期段階にある中南米およびEMEA(欧州・中東・アフリカ)の投資機会の方が相対的に魅力度が高いとみている。

ディフェンシブ資産

ディフェンシブ資産については2020年10月にネガティブなスタンスに転じ、ソブリン債に対して慎重な見方を続けている。世界の経済見通しは、多くの国でCOVID-19ワクチン接種の実施が始まったことを受けて改善しつつある。今回のような大規模な作戦ではある程度の障害は避けられないものだが、ワクチン接種を通じてパンデミックを抑制することができれば、経済活動を再開できる国、そしてより重要な点として活動を継続することができる国が増える。一方、COVID-19が引き起こした混乱への金融・財政政策による協調対応は大規模で、2021年も続くとみられる。このような環境下、世界の債券利回りは、リフレへの取り組みが勢いを増すにつれ上昇基調を辿るものと予想する。

投資適格クレジットに対しては、ソブリン債対比で相対的にポジティブな見方を維持する。格付けの高いクレジット物のスプレッドは大半の地域でパンデミック前のレンジに戻ったことを受けて横這いに推移し始めており、今後数ヵ月の市場リターンは基準となる国債利回りの上昇によって足を引っ張られるだろう。しかし、これは信用スプレッドによって一部相殺されるとみられるため、投資適格クレジットの利回りプレミアムは依然として同資産クラスの相対的魅力度を高めており、当社ではディフェンシブ資産のなかで引き続き選好している。

一方、各国中央銀行が経済指標に持続的な回復が見られるまで資産購入プログラムや流動性供給策を引き延ばすなか、インフレヘッジ資産の投資意義が強まっている。財政政策プログラムも多くはまだ使い尽くされておらず、各国政府は追加財政出動によって自国経済への支援を続けている。高い貯蓄率とCOVID-19ワクチン配給の組み合わせは、世界の経済成長と企業の価格決定力向上を促す強力な材料となるだろう。このようなリフレ環境は金とインフレ連動債の両方にとって追い風になるとみられるが、当社ではインフレヘッジ資産としては引き続き金を選好している。

欧州では依然イタリアを選好

ECB(欧州中央銀行)は10月、ユーロシステムのスタッフが12月の会合で示す新たなマクロ経済予想に沿って、金融政策手段を「再調整」すると発表した。その再調整には既存プログラムの延長や、場合によってはプログラムをよりアクセスしやすくするための条件緩和が含まれていた。これは本質的に、欧州でのパンデミックが再びもたらしている試練と同中銀が下方修正した2021年の実質GDP成長率予想への同中銀の対応であった。ECBは主要政策金利を据え置いたが、政策手段の再調整によって景気回復にとって支援的な金融環境の継続確保を図った。

10月の発表から12月にかけて、ユーロ圏の債券利回りは米国の利回り上昇に抗ったことから、欧州のソブリン債は米国債をアウトパフォームした。チャート2が示す通り、欧州の3大国債市場のなかでは、過去6ヵ月にわたってイタリア国債がフランスおよびドイツの両国債市場をアウトパフォームしてきた。これは、残存期間7~10年ゾーンの国債利回りが、独仏2ヵ国ではマイナスとなっているのに対しイタリアではプラスとなっていることと一貫している。しかし、パフォーマンス格差の度合いは、欧州の国債間で利回り格差が大きく縮小したことを示している。

チャート2

ECBの流動性プログラムは欧州大陸中の債券に恩恵をもたらしたが、なかでも最も恩恵に浴したのはイタリアのような周辺国の債券市場であった。またイタリアは、歴史上初めてEU(欧州連合)予算とEU債の発行によって原資が賄われる1.8兆ユーロの景気刺激策パッケージ「次世代EU」も大きな追い風となる。イタリア国債10年物の利回りは最近、対ドイツ国債の格差で2016年以来最もタイトな水準に達した。

当社では、ECBの新たな流動性供給策とEUの財政出動パッケージが特にイタリアにとって有利に働くことから、イタリア債券がEU中核国の債券市場をアウトパフォームし続けると予想している。イタリアに潜在的な問題がないと言うわけではない。同国は巨額の債務を抱えており、政情も決して安定的ではないからだ。しかし、ECBによる市場介入が現在のように大きな規模で続くなかにあっては、EU各国の債券利回りは低下が続くとみられる。


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • 長期債への圧力が続く:金融・財政の協調政策と世界中のワクチン接種の取り組みが順調にリフレにつながることにより、イールドカーブのスティープ化が続くと予想する。
  • ソブリン債については非伝統的な配分:ソブリン債においては幾分従来の枠に囚われない配分を選好し、中国、イタリア、オーストラリアおよび日本を有望視している。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。