本稿は2021年1月8日発行の英語レポート「2021 China Equity Outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

2020年のレビュー

中国にとって2020年が波乱に満ちた1年だったと言ったとしても、それは控えめな表現だろう。2019年と2020年を通して、米国からの政治的制裁の猛攻に耐えてきた中国は、2020年の年明け早々に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行に見舞われた。当初は2003年に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)のパンデミック(世界的大流行)に類似するものと思われたが、はるかに深刻であることがその後判明した。最初こそ否定的だった中国政府はようやく新型コロナウイルス感染症の大規模な感染拡大を認め、国を挙げてウイルスの封じ込めに動き出した。中国のロックダウン(都市封鎖)は、世界の大半の国が課した措置よりもはるかに厳格なものだった。だが、それが奏功し、どの国よりもはるかに効果的にウイルスの封じ込めに成功した。年央までにはパンデミックから完全に持ち直し、景気は回復に向かい、中国は主要経済国の中で2020年にプラス成長した唯一の国になりそうだ。

パンデミックの状況の中でも、中国市場は回復力を発揮し、2021年も高値を更新し続けることが見込まれる。2019年と2020年に中国市場をけん引した構造的要因に変化は見られず、強力な政治のリーダーシップに支えられ、中国市場は世界有数の(もしくは世界最高の)パフォーマンスを誇る市場となっている。輸入代替の動向、高付加価値製造業、電子商取引の幅広い浸透とそれに伴う消費拡大など、ここ数年にわたって我々が繰り返し強調してきた構造的要因に加え、ここにきて中国市場に対する楽観論をかき立てる新たな構造的要因も現れ始めている。

2021年の見通し:新たな構造的要因

パンデミックから浮かび上がってきた新たな構造的要因として、中国におけるナショナリズムと愛国心の高まりが挙げられる。こうした傾向は、2018年に中国がトランプ米政権に不当に攻撃されていると受け止められた時点で、明らかなものになり始めていた。だが、パンデミックがナショナリズムと愛国主義を高い次元に押し上げた。なぜなら、中国で長きにわたり崇拝されてきた欧米諸国がパンデミック封じ込めに悪戦苦闘する中で、中国経済が他の主要経済国と比べてはるかに急速に回復していることに国民が大いに鼓舞されたためだ。

これがきっかけとなり、中国は自国のあらゆるものに誇りを持つようになった。中国の製品やブランドは一部の例外を除き、もはや他の主要先進国の製品やブランドに劣っていないとの信頼感が広がっている。中国ブランドは、文字通りすべての市場セグメントで大きなシェアを獲得している。この傾向は大きなモメンタムを形成しており、過去数十年にわたり国内市場しか独占できなかった中国ブランドが、今後は海外の市場でも認知度を高めていくと当社は考える。そうした傾向は、もはや知名度のある消費者ブランドのみならず、伝統的に北アジア、欧州、米国のブランドが市場を独占してきた工業製品にも拡大している。これらの工業セクターの株式は依然として市場平均に対して大幅に割安な水準で取引されており、長期的に値上がりする可能性を秘めている。

中国の製造能力

当社は「2020年中国株式市場見通し」の中で、中国は輸出主導型経済から内需主導型経済への転換にばかり焦点が当たっているが、中国が誇る製造業の能力はもっと注目されるべきだと繰り返し強調した。パンデミックの最中でも中国の製造能力は確固たる輝きを放ち、2020年の堅調な経済成長に大きく寄与したものとみられる。中国の製造能力の強さは、政府主導で全国の製造業者が立ち上がり、パンデミック対策として必要な個人用保護具(PPE)の生産を本格化させたことで浮き彫りとなった。生産設備を当座の需要に合わせて柔軟に変更できる製造業者の能力は、中国の景気回復に大きく貢献した。その後も製造業は輸出の急増に大きく寄与し、世界各国・地域がロックダウン状態にある中で、中国は必要物資の最大の供給源へと台頭した。中国の輸出はピークに達したとの見方が投資家の間で広がる中、過去10年間で製造業セクターは大打撃を受けてきたが、2021年には大きく回復を遂げるものと当社は考える。

5ヵ年計画

中国がパンデミックを乗り越えて一段と強く浮上できた理由の一つに、政府の号令のもと、国民が一丸となり同じ方向に向うことができることが挙げられる。(中国のパンデミックへの対応について国際的な反応はまちまちだが)少なくとも中国国内の金融市場は、極度の痛みを吸収し、力強く回復を遂げる自国の能力を好材料視した。

国内では、政府への信頼感がかつてないほど高まっている。株式市場の方向性を見極める際、政府の掲げる「双循環」戦略と第14次5カ年計画(2021~2025年)を綿密に検討することが最も重要だ。双循環戦略は、「一帯一路」構想以来、習近平国家主席が取り組むイニシアチブの中で最も関心を集めているテーマであり、中国経済と株式市場に大きな影響を与える可能性がある。双循環戦略は、中国の巨大な消費者需要と潜在的な内需の拡大を図って経済成長を維持しつつ、外国からの投資を取り込み、貿易の拡大とともに中国経済を国際経済と一体的にすることを目的としている。

双循環戦略の第一の柱は、消費者関連銘柄が市場平均より高いバリュエーションで取引されていることでも明らかだ。中国政府が消費促進政策導入を今後加速させると思われるため、今後10年間にわたり消費者関連銘柄は高いバリュエーションを維持する可能性が高い。双循環戦略の第二の柱の中で、投資への影響という観点で最も重要なのは資本市場のさらなる開放だろう。中国の資本市場と金融市場に外国資本がアクセスできるようになれば、資産運用、年金投資、保険投資にとどまらず、一般的な金融商品の分野などにおいても開放が進む可能性があり、大きな進展をもたらすだろう。ただ、長期的には、中国資本市場の完全な国際化につながる見込みもあるが、短期的にそれが具現化する可能性は限定的だ。

第14次5カ年計画は2035年までの長期目標も制定しており、政府の考えについて多くの洞察を提供してくれる。市場に大きな影響を与える可能性のある2つの目標は、独占禁止法強化と再生可能エネルギーに関する具体的な目標だ。2018年以降、当社は中国が企業を「武器」として用いていると繰り返し論じており、米国による制裁に対抗するには民間部門の投資が必要なため、中国政府が民間部門に対する規制に一段と寛大になっている状況を解説してきた。中国経済が順調に成長し、市場が非常に好調に推移していた2013年から2017年にかけて、中国政府は企業に対する姿勢を厳格化した。だが、2018年から2020年の間に米中貿易摩擦が深刻化すると、民間部門を味方につける必要が生じ、状況は一転した。現在、中国政府と企業の持ちつ持たれつの心地良い関係にはいくつかの亀裂が表面化しているものの、両者の関係が2016年から2017年の状況に逆戻りする可能性は低いと当社は考える。今回の独占禁止法強化は、中国政府が民間部門に対して過度の権限と独立性を付与することに抵抗を覚えている様子を示す最初の兆候だが、政府の独占禁止法強化の対象が選択的にとどまり、民間部門が好調な成長を維持できることを期待する。

中国が第14次5カ年計画で掲げた再生可能エネルギーの目標は、これまでの5カ年計画で示された数々の目標よりもはるかに興味深い。再生可能エネルギーの目標は広範囲に影響を及ぼし、電気自動車(EV)、EVの部品および自動化、太陽光発電の製造と設備、洋上・陸上風力発電、ESG投資など、多岐にわたる巨大な再生可能エネルギー産業を創出する可能性がある。

残された課題

中国に課題がないわけではない。その中で最も重大な課題は、米国が中国政府と中国企業に対する制裁と規制を解除していないことだ。退陣が迫るトランプ政権はもはや脅威ではない。だが、次期米大統領のジョー・バイデン氏が

親中派と見られることを敬遠し、トランプ大統領が退任前の数カ月間に署名した多くの大統領令を白紙に戻す可能性は低いだろう。技術移転の規制、株価指数構成銘柄からの中国企業の除外、米国株式市場での中国企業の上場廃止、個人に対する制裁などは、米国が中国に課した主な措置である。

しかし、これらの制限と規制に対する当社の見方はより楽観的だ。こうした措置が招くのは、中国企業と中国政府がさらに自立性を高め、米経済への依存を減少させることだと考える。また、2020年には外国人投資家による資金流入が過去最高水準を記録したという事実が示すとおり、投資先としての中国の重要性が高まっていることが安心材料となっている。株価指数構成銘柄から中国企業が除外されたことや、MSCIによる中国株の組み入れ比率拡大が延期されたことによる一部パッシブ投資家の資金流出がみられたものの、傾向としては資金流入が継続すると当社は考える。中国は、米国によるあらゆる制裁に対処してきた。例を挙げれば、米国でではなく、香港市場や上海市場で上場する中国企業が増えている。また、中国政府は米国による制裁への対抗措置として、(米国に比べれば穏やかなものの)特定の米国企業や個人に対して制裁を課している。さらに、新しいサプライチェーンを確立するために積極的にアジアで新しい市場を開拓している。中国は今後数年間でより強力な国へと成長を遂げ、米経済に対する相対的な依存度が漸減すると当社はみている。

中国に関して、上記以外で特筆すべきリスク(と同時に課題)は、目下メディアの注目を集めている企業のデフォルトと、台湾やインドとの緊張から生じる地政学的リスクの2点だ(地政学的リスクを引き起こす対象にベトナム、北朝鮮、韓国が含まれる可能性があるほか、香港も紛争の火種となる恐れがある)。

ただし、企業のデフォルトに関しては、いくつかのポジティブな側面があることを指摘する。それは、実際のリスクがどこにあるかを投資家が理解するようになっており、政府系企業であればろくな審査もなしに投資するようなことがなくなっていることだ。中国政府は4年以上にわたり、政府系企業を「暗黙に保証」していないことを投資家に理解させようとしてきたが、ようやくそのメッセージが伝わったようだ。数字を見ると、デフォルトのリスクやリファイナンスの必要性は、資本市場の規模を勘案すれば危険視する水準にはなく、中国政府がコントロールを失うことはないと当社は考えている。

一方、地政学情勢の変化について予測することははるかに困難だ。当社は基本シナリオとして、中国政府が自国の繁栄を犠牲にまでして他国と対立することはないとの見方から、中国が関与する局地的な摩擦の多くはうわべだけの駆け引きに過ぎないと考える。ただし、地政学的なリスクはほとんど前触れもなく現実のものに発展する可能性があるため、中国の地域諸国との関係については注視する必要がある。

まとめ

当社は中国の経済と株式市場に対して、楽観的な見通しを維持する。しかし、中国の株価指数は、金融、景気循環、インターネットの各セクターの比重が大きく、株式市場のパフォーマンスが実態経済を反映しないことから、ここ数年はアクティブ運用によってのみ本当の超過収益(アルファ)獲得が可能な状況になっている。

テンセントとアリババが圧倒的なシェアを握る中国のインターネットセクターは、2021年早々に問題に直面する恐れがある。景気循環銘柄は引き続き低リターンが懸念される一方、金融銘柄も依然として課題を抱えている。ただし、先に指摘したように、再生可能エネルギー、半導体、クラウド、人工知能(AI)、ビッグデータ、EV、自動化、消費者関連の各セクターについては、ポジティブな材料が数多く確認できる。

経済面では、都市化、戸籍(戸口)制度改革、年金改革による内需創出、貯蓄・支出のバランス戦略、高付加価値製造業、輸入代替など、中国経済をけん引する重要な構造的要因が引き続き存在する。さらに、中国では2021年に最良のシナリオが幕開けする可能性がある。なぜなら、2021年前半の経済統計は、比較対象である2020年前半の実績が低水準だったベース効果が有利に働くとともに、2021年後半も新型コロナウイルス感染症のワクチンが世界経済の回復を下支えし、中国経済のモメンタムが持続する可能性があるからだ。以上の理由から、当社は2021年、中国について楽観的な見解を維持する。

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