本稿は2021年12月15日発行の英語レポート「2022 China Equity Outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

2021年の振り返り

中国株式投資にとって、2021年は様々な指数が異なる道を歩み運命の分かれた年となった。MSCIチャイナ・インデックスは2021年11月時点で年初来18%の下落となっており、同インデックスの構成銘柄に投資することが圧倒的に多いオフショア投資家にとっては苦しい1年となった。一方、上海・深セン取引所の銘柄を中心に投資するオンショア投資家にとっては、相対的に実りの多い年であった。

しかし、大半の指数に共通して言えるのは、2021年が極端な年であったということだ。中型株は大型株をアウトパフォームし(CSI500指数はCSI300指数を大幅にアウトパフォームした)、セクター・ファクター投資(再生可能エネルギー銘柄や電気自動車銘柄は非常に高いリターンをもたらした)はアウトパフォームするのに極めて重要となり、伝統的な景気敏感セクター(不動産、鉄鋼、海運業)は年初好調だったもののその後低迷した。間違いなく幸運の女神が微笑んだのは、従来のやり方にこだわらず中国の様々な分野で未知の領域へと歩を進めた果敢な投資家だった。

2021年は、2020年終盤に中国政府が螞蟻金融(Ant Financial)のIPO(新規株式公開)を中止させるという衝撃的な出来事の余波のなかで始まった。本件を受けて中国のインターネット株は下落したが、売りは長くは続かず、2021年第1四半期には多くの中国インターネット銘柄が過去最高値を更新した。しかし、投資家は、社会的目標と経済成長のバランスを取ろうとする政府の試みには備えていなかった。結果として多くの規制が実施されたが、その対象となったのはデジタル経済だけでなく、中国が一部の社会悪の原因と感じている高コストの「3つの山」(教育費、医療費、不動産価格)もターゲットとなった。

デジタル経済における独占的な行動を抑制するとともに個人情報を保護し社会へのコミットメントを守ることに対する中国の決意を、投資家は明らかに過小評価していたと当社では考えている。構成銘柄の40%超がインターネット関連銘柄であるMSCIチャイナ・インデックスは、一時期、世界で最もパフォーマンスの低調な指数の1つとなり、インターネット銘柄が中心のNASDAQゴールデン・ドラゴン指数はさらに大幅に下落した。また、政府は企業セクターの負債削減への取り組みにより重点を置き、特に不動産セクターに大きく注力した。このような措置を受けて経済成長の勢いはかなり鈍化し、2021年第3四半期のGDP成長率は第2四半期の7.9%から4.9%へと減速した。GDP統計の中身もまちまちで、輸出の強い伸びをたいして良くない消費の数字が一部相殺する一方、インフラ支出は安定していた。

2021年の初めには、ジョー・バイデン氏が米国大統領に就任したことで、中米関係がより友好的になるのではとの期待があった。バイデン政権になってから多少の進展があったように見受けられるが、緊張は依然続いている。華為技術(Huawei)の孟晩舟CFO(最高財務責任者)は中国に帰国したが、新疆ウイグル自治区と香港が引き続きニュースの見出しを占めるとともに米国が貿易制限リストに載せる中国テクノロジー企業を増やすなか、中米関係は必ずしも好転しなかった。台湾をめぐる問題や米国に上場している中国企業も緊張の原因となっている。中国が台湾政府に対し独立政策を進めないよう繰り返し警告したことから、台湾は注目の話題となり続けた。中国企業は、米国と中国の規制当局が上場企業の監査記録へのアクセスについて妥協に至ることができなければ、米国で上場廃止になる可能性がある。これらの問題については、今後何年にもわたって論争が続くとみられる。

個別銘柄への言及は例示目的のみであり、当社の運用戦略に基づいて運用するポートフォリオにおける保有継続を保証するものではなく、また売買推奨を示すものでもありません。


中国は依然適切な投資対象

2021年は多くのネガティブなニュースが相次ぎ、投資家は中国の投資対象としての適性を疑問視し続けた。この議論における重要なポイントをいくつか指摘しておきたい。まず、この投資適性のへ疑問は、2~5年ごとに中国がネガティブな見方をされるたび浮上する。中国は規模が巨大ながらもまだ新興国であり絶えず進化しているという事実を、市場はいつも忘れてしまうようだ。また、同国では政府が常に改革を進めてもいる。しかし、過去を振り返ってみると、2014年の腐敗撲滅キャンペーン、2015年から2016年にかけての株式市場における取引停止騒動、2019年の中米貿易戦争など、ネガティブな材料が圧倒的に多い局面での中国への投資は、極めて大きく報われてきた。

次に、中国は国が強い立場にある時に改革を始め、規制を実施し、経済の不具合(今回の場合は不動産セクターの高い負債水準)を修正する傾向があることに注意する必要がある。中国は、コロナ禍からの回復が他国よりも早かったため経済が比較的好調に推移しており、雇用が堅調で輸出も過去最高水準にある。こうしたサポート材料があるからこそ、中国は将来の成長に対する潜在的な逆風とみなすものを修正することができる。

3つ目として、投資の観点から言うと、投資家が忘れがちなのは、中国市場のリーダーが5年から8年、時にはもっと早いサイクルで交代することだ。2000年代前半は通信セクターが圧倒的な割合(インデックスの50%超)を占め、その後、2000年代半ばには銀行やコモディティといったセクター、2010年代前半には消費セクターへとその地位が引き継がれた。そして2015年以降は、インターネット・セクターがあらゆる投資家のベンチマークやポートフォリオにおいて高い割合を占めてきた。このような環境下、過去5年間はインターネット・セクターに投資していれば楽勝で高いパフォーマンスを達成できたことから、投資家は自己満足に陥り他の勝者を探すのをおろそかにしていたのかもしれない。インターネット・セクターはピークを迎えている可能性があるが、中国には投資に値する成長セクターがまだ数多く存在すると当社では考えている。

オンショア銘柄、そして適切なインデックスおよびセクターへのフォーカスがカギに

現在のところ、中国には引き続き非常に魅力的な投資機会があるとみている。しかし、オンショア銘柄と適切なインデックスおよびセクターへのフォーカスが、市場をアウトパフォームし大きな超過収益を獲得するためのカギになると考える。

ポートフォリオのポジションを柔軟に変更できる中国の投資家は、2021年に大きな超過収益を生み出した。オンショア銘柄はオフショア銘柄を大きくアウトパフォームしており、当社ではその状況が続くと考えている。オンショア市場には、今後10年の中国経済を牽引していくと予想される構造的な成長セクターがはるかに多い。一般投資家による投資が多くミューチュアル・ファンドから流入している資金の割合が低いといった国内投資面の利点もあり、中国投資のポートフォリオの主流はいずれオンショア銘柄になるとみている。

当社がこれまで長年提唱してきたように、投資ポートフォリオを決定する上では適切なベンチマークを選ぶことも重要である。中国に投資したいと考えている投資家にとって、オンショア銘柄と中型株の構成比率が高めのインデックスがベンチマークとしていいのではないかと当社では考えている。中国のオフショア銘柄のインデックスは概して1つか2つのセクターの占める割合が高いが、一方でオンショア銘柄のインデックスは市場規模が大きいためより分散されている。例えば、オンショア中国株式のインデックスは時価総額が10兆米ドルを超え、4,000社超の銘柄に分散されているが、オフショア中国株式のインデックスは時価総額が2.5兆米ドルに過ぎず、投資可能な銘柄数が1,000社程度にとどまる。中国で市場の新しいリーダーが出現するのに伴い、旧リーダー銘柄が大半を占めるようなインデックスは、新リーダー銘柄(現在インデックスでの構成比率は10%未満)が追いつくまでパフォーマンスが低迷するかもしれない。

最後に、中国への投資においては適切なセクターにフォーカスすることが極めて重要であるとの見方を維持する。中国経済は、成長のスケールよりも成長の質の方がはるかに重要視される規模に達しており、結果として、資本配分においてはかなり繊細な調整が必要になるだろう。これは、一部のセクターが同国の経済成長の恩恵を受ける一方で、他のセクターは苦境に立たされるようになることを意味する。超過収益を生み出すには、セクター配分とそれに続く各セクター内での銘柄選択がカギになると思われる。

構造的な成長セクター

2021年の中国ではネガティブなニュースが目立つなか、かなり多くのポジティブな展開が概ね見逃された可能性がある。中国政府は経済ビジョンを示唆する多くのポジティブな通達を発表し、そのなかには、野心的な再生可能エネルギー目標に向けた取り組み、金融セクターの対外開放の継続、人工知能やビッグデータ、ソフトウェア、電気自動車、ロボット工学、5G(第5世代移動通信システム)、スマートグリッド(次世代送電網)など多くの産業への支援が含まれる。当社では、これらの分野が中国で今後数十年の投資テーマを象徴する資本市場の新たなリーダーになり得ると考えている。チャート1は当社の投資テーマをまとめたものだ。また、製造業における中国の大きな優位性(同国が世界の製造業生産高に占める割合はすでに約19%と過去最高)は、同国がテクノロジーと自動化を活用して新産業での優位性を固め、一方で旧産業の市場でのリーダーシップを確立するのに伴い、さらに強化され得るともみている。

政府の転換も注目点

「共同富裕」は中国共産党の哲学(あるいは綱領)に事実上明記されているにもかかわらず、2021年以前はおそらく大半の投資家がこの言葉を気に留めていなかっただろう。投資家が「共同富裕」の概念とそれが資本市場に与える影響を理解していくにつれ、中国が経済発展の面で後戻りすることはないと認識しておくのが重要となる。同国が達成しようとしているとみられるのは、経済成長と社会的安定のバランスを取ることである。これは注目すべき重要な哲学だ。政府の政策が、「いかなる対価を払っても成長する」という目標への注力ではなく、企業利益と従業員の福利厚生を安定的に保つ、社会的な財への資本配分を増やす、GDPにおける労働者のシェアを高めるといった目標の達成に向けられる可能性が高いからだ。これらの目標は非常に広範で定量化が難しいが、首尾よく実行されれば、中国により緩やかながらも質が高く、より長続きする成長をもたらし得ると考える。長期的には、中国はより分散に優れた経済構造の獲得に向かうことになる可能性がある。

リスク

中国の見通しは、その優れた製造能力、そしてより持続可能な長期的成長に向けて経済の舵を取っていこうとする政府の取り組みから、良好に見受けられるかもしれない。しかし、中国への投資においてリスクをまったく伴わないテーマというのは考えにくい。

潜在的リスクのリストの筆頭は、「ゼロコロナ」政策を追求し続ける中国が、どのように他国に対して国境を再開していくかということだ。大半の国がコロナと共存していく戦略をとっているのに対し、中国はゼロコロナのスタンスを頑なに守っている。これが問題なのは、中国が経済的な影響なしに自国を世界から遮断し続けることはできるはずがなく、実際に無理だからである。当社では、もし中国が海外からの渡航者の入国受け入れを再開した場合、同国にとって短期的に大きな痛みを伴うことになるかもしれないと留意している。

もう1つのリスクは地政学面で、これは依然として最大の不透明要因である。台湾・中国政府間の対立の可能性が世界を巻き込むことになるかもしれないため、台湾関連のイベントが投資家のあいだで幾度も注目の話題となっている。当社の基本シナリオとしては、台湾が独立に向けた露骨な動きを避ける限り、中国の対応は現状程度にとどまるだろうとみている。

資本市場にとっての第3のリスク要因は、2022年第4四半期に開催される第20回中国共産党全国代表大会である。このような重要イベントを控えて、政府は第14次5ヵ年計画を加速させる可能性が高いが、これは諸刃の剣となりかねない。発展への道筋が明確化されることが期待できるが、市場が過熱すると期待過剰ということになって実行リスクにつながる可能性がある。

最後に、不動産セクターの負債水準という、2011年以来中国を悩ませている長年の問題が、投資環境を混乱させる可能性がある。不動産セクターは経済において4分の1と依然かなりの割合を占めており、政府が対処を請け合っているものの、当該分野への対応ミスは悲惨な結果を招きかねない。

まとめ

中国市場には大きな投資機会があるが、極めて選別的に臨むことが重要だと考えている。過去6年間に市場を支配してきたリーダー銘柄が今では苦戦している一方で、次のリーダー銘柄が影響を及ぼすほどの規模になるまでには時間がかかることから、市場そのもののパフォーマンスは低調となるかもしれず、リスクに留意しながらニュースの見出しに振り回されないようにすることが重要である。当社では、オンショア銘柄、構造的成長セクター、ボトムアップでの銘柄選別に重点を置く姿勢を維持する。

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