本稿は2021年6月3日発行の英語レポート「Rising nationalism spurs Chinese consumers to go local」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

中国でナショナリズム(国家主義)が高まっている。この愛国心の波は長期化し、化粧品メーカーのような消費財セクターから医療機器メーカーや建設機械メーカーなどの資本財セクターまで、数多くの中国企業にとって新しいビジネス機会と収入源を生み出す可能性がある。

中国消費者がお金の使い方を通じて愛国心を表現

最近中国でナショナリズムが高まってきていることを受けて、この世界第2位の経済大国で事業を営んでいる多くの海外ブランドは現在、マーケティング・キャンペーンや公式声明にあたり極めて慎重に事を運んでいる。中国消費者のあいだで愛国心が強まっているなか、その神経に触るようなことをして誤解や騒動を引き起こすのを避けるためだ。

その数が10億人超に上る中国の消費者は、お金の使い方で自身の考え方を表明することが多く、中国が侮辱されているとか彼等の目から見て偏狭な非難を海外の企業体や主権国家から受けているとか感じると、海外ブランドにすぐ背を向ける可能性がある。

典型的な例として挙げられるのが、中国の新疆ウイグル自治区で生産されている綿をめぐってグローバル・ブランドが最近直面した反発だ。H&MやBurberry、Nike、Adidasといった企業の製品は、これらの企業が綿産業に従事している新疆の少数民族ウイグル族について強制労働と人権侵害が疑われるとの懸念を表明した結果、多くの激怒した中国消費者によって即座にボイコットされ中国のeコマース・プラットフォームから削除された。

中国の有名人ですらそのような動きに加わり、愛国心を公に示して自国民との連帯を表明した。アイドル・グループのメンバーであるジャクソン・ワン、俳優の王一博(ワン・イーボー)や黄軒(ホアン・シュアン)も、他の有名インフルエンサーに加わり、新疆ウイグル自治区からの綿製品を支持してAdidas、Nike、H&Mらとのつながりを断ち切り契約に終止符を打った。中国でナショナリズムが高まっているなか、海外ブランドを代表するイメージ・キャラクターを務めるというのは中国の若手有名人の目にはかつてほど魅力的に映っていないようで、彼らの多くは今や国内ブランドの広告大使となっている。

ことわざにもあるように、ある人の不運は他の人の利益となる。これが当てはまるのが、中国のスポーツウエア・メーカー李寧(Li Ning)および安踏体育用品(Anta Sports)のケースである。2021年3月に新疆ウイグル自治区の綿製品騒動が勃発して以来、両社の株価は大幅に上昇している。NikeやAdidasが中国消費者の支持を失ったことを受けて、国内スポーツウエア・メーカーの売上げが伸びると投資家が見込んでいるからだ。

中国でナショナリズムの波が激しくなり消費者の購買の「国内ブランド志向」が強まるにつれ、その恩恵を受ける中国企業が増えることは間違いない。当社では、このように多くの中国消費者の考え方に根付いた愛国精神が長く続き、化粧品メーカーから建設機械メーカーまで数多くの地元企業にとって新しいビジネス機会を促進する可能性があるとみている。

中国ナショナリズムの転換期

過去、中国におけるナショナリズムの高まりは、一時的な地域のイベントや同国特有の出来事に煽られることが多かった。例えば、2012年から2013年にかけて起きた日中対立は、東シナ海の無人島の領有権をめぐる両国の係争であったし、2016年終盤から2017年にかけての中韓対立は、韓国政府が米国製ミサイル防衛システムの配備を、中国政府からの断固とした抗議(当該ミサイル・システムの強力なレーダーが中国の偵察に利用され得ると主張)にもかかわらず進めたことによるものだった。

中国と北アジアの隣国にまつわるこれらの2つのエピソードにおいて、中国消費者による日韓の製品・サービスのボイコットは長くは続かず、大規模な国産品買いの動きを引き起こすことはなかった。

さらに、当時の中国政府は海外ブランドとの関係を悪化させないように注意していたと思われる。それらの多国籍企業が中国から事業や投資を引き上げ、その結果として国内の雇用に悪影響が及ぶことを懸念したからだ。その頃、中国の政府は十分な雇用を創出するのに苦労していた。しかし、近頃では、活況な国内経済によって雇用が創出されていることから、中国政府は海外企業に対して強硬姿勢をとることをかつてほど躊躇していないように見受けられる。

中国ナショナリズムの転換期が始まったのは、2018年に当時の米国大統領ドナルド・トランプ氏とその政権が中国および中国企業に対して広範な関税、制裁、テクノロジー製品の禁輸措置を実施した時だ。そのような懲罰的措置は、多くの中国国民の目に強制的で弱い者いじめの不当な扱いのように映った。

2018年以降、中国の消費者は全般的に愛国者の集団と化し、物品の購入先として中国の企業を選好するようになっている。このトレンドは、近年中国製品の質が大きく向上したことから追い風を受けた。中国当局が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)に断固とした対処を行ったことによって、世界最大の人口を有する同国での感染拡大抑制がこれまでのところ成功しているとともに、中国国民のあいだで国家を誇りに思う気持ちが助長され、購買行動における「国内ブランド志向」にさらなる拍車が掛かっている。

国家主義的な消費パターンが一時的なもので終わるとは考えにくく、むしろ長期的に続くとみている。当社の考えるところ、中国のナショナリズムは、もはや単なる政府主導の運動ではなく、今や国内のメディアや消費者、インフルエンサー、そして一般大衆を含むあらゆる層の賛同者から強く支持された幅広い市民主導の活動と見なすことができ、その賛同者はみな愛国色をますます強める兆候を示している。

質の向上に伴って強まる中国製品へのロイヤルティ

過去、中国では国内消費者の自国製品に対するロイヤルティ(忠誠度)は高いとは言えなかった。これは、国民の多くが国産品は質の面で劣ると見なしていたからだ。しかし、外資の流入や多国籍企業からの知識移転、テクノロジーの進歩と研究・開発の重視強化を受けて、中国で生産される製品の質は近年大幅に向上しており、これが中国の多くの製造企業に、自社製品が海外ブランドによって生産されたものと同等に良質であるかそれより優れていることを潜在顧客に示す機会をもたらしている。

中国の国内メーカーは、同国に製造拠点を設立した多国籍企業から学んできたのに加え、研究・開発にも多額の投資を行い、高品質の製品を生産する能力を高めるとともにその製品を競争力のある価格で販売している。

とは言え、かつてその多くが海外ブランドの方が良質との考え方を持っていた中国の消費者にとって、国内ブランドは好む選択肢ではなかった。国内消費者がナショナリズムの急速な高まりのなかで国内メーカーの生産した製品に注目を向け始めたのは、つい最近のことである。

国内企業の製造した製品の質が実は海外ブランドのものに見劣りしないことに気づいた中国の消費者は、最近まさに国内ブランドへの信頼度を高めている。また、国内ブランドが売上げの伸びと経済規模の拡大を受けて自社製品の質を一段と細かく調整できるようになってきていることから、中国消費者が国内ブランドに対して示すロイヤルティも高まっている。結果的に、中国では、ナショナリズムの高まりと国内製品の質の向上が促進剤となって、好循環と明確な変革が起きつつある。

中国の消費者は新しいブランドやトレンドを進んで受け入れる

中国の新興ブランドの多くは、つい5年前には市場でのプレゼンスがなかった。あまりに小規模であったか、そもそも存在すらしていなかったのだ。例えば、多くの国内の化粧品ブランドにとって、マーケティング策やブランド・プレゼンスがより優位な海外の大手競合他社と競おうとしても、かつては形勢不利であった。しかし、時代は変わって、今では多数の中国の化粧品会社が自国文化の深い知識を活かして国内市場のかなりのシェアを獲得している。無論、化粧品は近年のナショナリズムの高まりから最も恩恵を受けている中国の消費関連セクターの1つである。

最近では、中国の化粧品会社の多くが「ナチュラル・フィール・アンド・ルック(自然な使用感と外見)」トレンドを大々的に打ち出して、伝統中国医学(TCM)のエッセンスを製品やマーケティング・キャンペーンに取り入れており、これがすべて国内消費者の心に響いているようだ。

中国の若い世代の目から見たTCMの認識はここ何年かで良い方向に変化しており、かつては古臭いとのレッテルを張られていた5千年の歴史を持つ伝統的な医療慣行が、今や多くの人に進んで利用されている。中国のナショナリズムが高まり始めると、同国の化粧品会社はそのトレンドをフルに活かすべく、自社のマーケティング・キャンペーンにTCMを取り入れ自社製品のユーザーの愛国心を鼓舞した。このマーケティング活動が非常に奏功したことにより、中国の化粧品メーカーは海外の競合他社から大きな市場シェアを奪うことができた。海外の化粧品は、かつては国産の製品に対して100~150%の価格プレミアムが当たり前であった。今でも中国ブランドの化粧品は海外ブランドのものに比べて依然30~40%割安であるものの、そのプレミアム・ギャップは急速に縮まりつつある。

その他では、ColgateやOral Bといった海外ブランドはもはや中国では歯磨き粉のプレミアム銘柄ではない。代わりに、製品にTCM抽出物を使用している雲南白薬(Yunan Baiyao)が、中国の消費者が進んでプレミアムを払う歯磨き粉の有名ブランドとしての地位を確立している。

不当な扱いを受けていると見なされている国内ブランドとの連帯を示す

その製品が国内で高く評価され称賛されている国内企業のもう1つの例として挙げられるのが、中国通信機器大手の華為(Huawei)だ。同社は2019年5月、トランプ政権下であらゆる米国企業との取引を禁止され、以来その状況が続いている。制裁開始当時、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策が本格化するなか、米国政府は中国政府がHuaweiの通信機器を使ってスパイ活動を行っており米国のテクノロジー企業から取引機密を盗んでいると非難して、多くの中国国民の怒りを買った。

この制裁により、HuaweiはGoogleやQualcomm、Intelといった米国の大手テクノロジー企業と協力して開発を進めることができず、結果として、Huaweiの新しいスマートフォンにはGoogle所有のアプリを一切プリインストールすることができなかった。

しかし、中国ではそのようなスマートフォンが性能で劣っているとは考えられていない。同国では従来Googleのアプリやサービスの使用が禁止されており、人々は代わりに国内で開発されたアプリを使ってきたからだ。これも一助となって、Huaweiは2019年から2020年にかけての試練の時期においても、中国のスマートフォン市場におけるリーディング企業としての地位を維持してきた。この期間における同社の市場シェアは、業界調査企業Counterpoint Researchのデータによると平均で40%を超えている。

2018年以後の中国におけるナショナリズムの高まりは、Huaweiが同国のスマートフォン市場で優位を保つのにも貢献したとみられる。中国消費者の多くは、Huaweiをトランプ政権による弱い者いじめの犠牲者と見なし、過去数年にわたってHuaweiのスマートフォンを購入することを選択し続け、同通信機器大手との連帯を示してきた。

一般消費財以外の投資機会

世界最大の人口を有する中国の消費者は、継続しているナショナリズムの波に駆り立てられて愛国心を次のレベルへと昇華させており、消費財ばかりでなく工業製品においても西側諸国の製品を一斉に避けて国産品を購入している。

例えば、建設機械セクターでは、かつては米国企業のCaterpillar Incが中国市場で大きなシェアを占めていた。しかし、2018年以降は、中国企業の生産した建設機器・機械への需要が高まったことから、中国におけるCaterpillarの市場シェアは一桁台へと低下している。国産の機械への需要が増大しているなか、当社では中国の建設機械セクターに対して明るい見通しを維持している。

同様に、中国の半導体集積回路メーカーも近年ビジネスが好況だ。中国の電子機器やスマートフォンのメーカーは、米国の課した制裁により西側諸国のサプライヤーから部品を調達できず、国内の半導体チップ・メーカーに頼らざるを得なかった。例えば、華虹半導体(Hua Hong Semiconductor)など上場している半導体チップ・メーカーは、中国製半導体チップへの旺盛な需要を受け、過去2年に収益が大幅に伸びて株価が大きく上昇している。

中国の医療機器セクターも当社が有望視している別の分野だ。同セクターは海外企業の優位が後退している中国のニッチ産業の1つで、その一因は、ナショナリズムが高まっていることに加え、中国が新型コロナウイルスの感染拡大との闘いにおいて成功を収めたことを受けて同国製医療機器への国内需要の増大に拍車が掛かったことにある。

資本財セクター以外にも、当社では一部の消費関連サブセクター、特に中国で続いている販売網の変貌から恩恵を受けるサブセクターに対して引き続きポジティブな見方をしている。消費者ブランドがビジネス的に意味のあるプレゼンスを有するためには中国の上位30都市に販売拠点を持たなければならなかった過去とは異なり、今ではオンライン・プラットフォームを利用して最終顧客に訴求する革新的な中国企業がどんどん増えている。オンライン販売網では消費者とのエンゲージメントが最も重要であることから、中国の文化や国内消費者の好みを熟知している国内企業の方が有利だ。中国で操業している海外企業のなかにはオンラインの販売キャンペーンでそれなりに成功しているものも一部あるが、多くはオンライン販売や市場シェア獲得の面で依然国内の競合他社に劣後している。

中国の消費者が特定の海外製品を依然好む傾向にあるのは確かで、特に贅沢品についてはLouis VuittonやGucci、Chanelといったグローバル・ブランドが市場プレゼンスにおいて引き続き優位にある。しかし、国内ブランドと海外ブランドがともに足元で激しい競争に直面している中国のその他大半の消費関連サブセクターでは、ナショナリズムの高まりを受けて国内企業に有利な形勢に転じつつあると当社は考える。加えて、中国の消費者は海外製品に対してプレミアムを払わなければならないため、現在ではその多くが、今や同等の品質をより安価に提供している国産品を買うことを選択するようになってきている。

まとめると、当社では、中国におけるナショナリズムの高まりが長期的なトレンドとして多くの中国企業をますます発展させるとみている。実際、国内消費者からの支持を味方につけ慣れ親しんだホームグラウンドで戦っている多くの中国企業は、もはや海外の競合他社に負けてはいない。


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