本稿は2021年1月8日発行の英語レポート「2021 Global Strategy Thoughts for 2021」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

米国の資本主義は大きな社会的分断の上に築かれたものだが、時として、それに耐えられなくなり、国民の大部分が反旗を翻すことがある。今回のケースでは、新型コロナウイルス流行の影響で所得格差が広がり、不安がさらに深まった。しかし、過去4年間においては一般大衆が様々に異なる方法で反撃し、互いに争い合う結果に終わった一方、富裕層はかつてないほど栄えた。高度な職業能力を持つ者が利益を得るなか、職業能力の低い者は厳しい状況に置かれ、職を追われることも多かった。新型コロナウイルスが流行してからはそれが特に顕著となった。足元では、ジョージア州上院選挙の結果を受けて、富裕層や企業は税制面を中心に悪影響を被る可能性が高いものの、各国による景気刺激策や、ワクチン普及をきっかけとする世界経済再開に伴って経済成長が加速し、企業の増益傾向が強まることで、そうした悪影響は相殺される可能性がある。

インフレによる打撃を最も受けるのは、収入のほぼすべてを毎日の必需品や家賃に当てる低所得層である。この見解は、賢明な経済運営の重要性を説くものとして中央銀行や政治家によって言及されることが多いが、現状、中央銀行は雇用の方をさらに重要な基準とみなしており、景気回復や緩やかなインフレを受けて雇用が生み出されることを期待している。一方、新たに政権を握った民主党の政治家らは、低所得層を支援するためのインフラ整備計画、社会福祉政策、最低賃金引き上げを含む大規模な財政支出を強く打ち出している。それらについてある程度は討論が繰り広げられているが、民主党は、過去数十年間のほとんどの大型財政支出法案で用いられてきた「財政調整」という方法を使い、比較的早期に大型財政出動案を可決できると見受けられる。

そうなればコロナ禍で低迷する経済が大いに下支えされるだろう。金利は、中央銀行による債券購入や債券投資家の間での多方面にわたる懸念を受けて低水準に抑えられている。ただし、インフレが予想以上のペースで加速しており、債券市場の示す中期的なインフレ期待が急速に高まっているなか、それらの懸念の一部は後退している感がある。実際、CPI(消費者物価指数)はすでにコロナ前の水準を上回っている。さらに、米ドル・ベースでは原油価格がコロナ前の水準近くまで戻っているなかでもサウジアラビアが原油の減産を行っていることは、ドル安基調に関係しているとみられる。原油価格はユーロ・ベースでは依然としてコロナ前の水準を大幅に下回っているからだ。減産継続をめぐる懸念が少しでも高まれば、大きなインフレ圧力をもたらすだろう。実際、ドル安や食品価格の上昇、流通に関する費用などが相まって、米国の2021年第2四半期のCPIは2020年後半の前年同期比3%を大幅に上回り、前年同期比4%に迫る可能性が十分にある。もちろん基準となる前年が低水準であったことによるベース効果の影響もあるが、6ヵ月間の年率換算値ベースでみた場合でも、家賃の伸び率が大幅に減速しない限り、CPI伸び率は2021年を通して3%以上で推移し、月によっては4%に達するとみられる。年末近くにはFRB(米国連邦準備制度理事会)が資産購入の段階的縮小を示唆するかもしれないが、2022年にインフレを抑制するためにはそれを急ピッチで実施しなければならないだろう。したがって、予想を大幅に上回るペースでの債券利回り上昇がリフレに対する大きな逆風要因となる可能性がある。

明らかな点として、米国は政情不安が深刻化しており、かつてないほど分断されているように見受けられるが、足元において欧州の政情はより落ち着いている。日本と中国はいつものように平穏だ。中東はいつもよりもさらに危険な火薬庫状態にあるが、米新政権は、イランとの核合意に携わった高官を国務省のトップに起用しており、情勢の安定化が期待される。イラン側が自国民の繁栄のために多くの問題で歩み寄る姿勢をみせないとすれば、それは非常に賢明でない判断となるだろう。

日本や欧州など世界のその他多くの地域においても、原油価格や住宅価格の上昇が続くなか、経済成長によるインフレ圧力が強まる見通しだ。確かに、米ドル安となる場合は米国以外の国でインフレがやや抑制されるかもしれないが、当社では、日本は円高阻止にかなり積極的に動き、欧州もユーロ高をある程度抑制すると予想している。大半の先進国では、米国ほど社会が分断されていないため、最低賃金水準の大幅引き上げなどの財政政策による景気対策が広く実施される可能性は低く、それによってインフレ懸念が抑制されるかもしれない。

興味深い点として、急速に変化しているファクターが存在する一方、引き続き長期的な上昇軌道にあるものも実に多く存在する。代替エネルギーやテクノロジーの向上など、ESG関連の投資テーマは一段と加速してきている。ESGおよび新テクノロジー関連のファンドは、運用資産額が記録的水準に達する状況が続いている。こうした投資家に好まれる分野の変化は今後数十年間にわたって投資環境を形作っていくとみられる。規制当局がESGを重視する姿勢を強めていることも後押しとなり、ESGによって多くの新しい形の良い経済成長が促進されるだろう。

その他、世界的なサプライチェーン分散化の動きは今後も継続するとみられる。当社では、こうした動きは世界の経済成長にプラスに働くと長らく考えてきた。効率は幾分低下するかもしれないが、サプライチェーンの堅牢性や信頼性は高まるだろう。この傾向の大きな恩恵を受けるのは引き続きアセアン諸国となるであろうが、バイデン政権が製造業の国内回帰にどれほど重点を置くかという点は興味深い注目ポイントとなろう。一方、中国企業は、国内における巨大なインターネット網の確立や新しいハイテク産業の振興の恩恵を引き続き受けるとみられる。

このように、世界は依然として様々な紆余曲折に見舞われており、新型コロナウイルスにも苦しめられているが、リフレーションを通じて社会や経済が修復されるとの明るい見方をする多くの理由が存在している。そのなかで最もポジティブなファクターは、2021年には新型コロナウイルス・ワクチンが幅広く配給されるとみられることだろう。

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