本稿は2022年12月8日発行の英語レポート「2023 Global macro outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

2023年の世界のマクロ環境見通しを一言で表すキャッチフレーズはないが、それに代えて10項目の予測を紹介する。


1. 2023年は類をみない年になる。これまでに類をみない時代に突入しつつあるなか、投資家は、以前の景気・金融市場回復局面に基づく従来型のモデル、特に1990年代中盤以降最も効果を発揮してきたモデルにあまり頼るべきではない。それよりも、やや慎重でバランスの取れた視点を維持し、当社の他の2023年展望レポートで説明されているように厳選した国、セクター、株式銘柄などに的を絞ってリスクを取るべきであろう。実際、2023年にはとりわけアクティブ運用アプローチによる銘柄選択の重要性がかつてなく高まるとみられる。したがって、過去数年の厳しい環境で優れたパフォーマンスを達成してきた運用会社を選択するように、特段の注意が必要とされる。

2. 再び均衡を求め、中国はポジティブに方向転換:中国は、初めは冴えない動きとなろうが、2023年に経済成長が大幅に改善するとみられ、一方で世界の他の大部分の国は経済が停滞するだろう。足元における中国の不動産開発向け融資の急増は政策の大きな方向転換であり、経済成長の大きな支援材料になるとみられるが、以前のような不動産購入熱やそれに対する同国経済の依存度は引き続き弱まっていくだろう。こうした動きが追い風となり、世界のコモディティ価格はかなり安定的な推移を続ける見込みだ。また、外交政策面において11月中旬にデタント(緊張緩和)に向けて方針の急転換がみられたことで、2023年の世界の見通しは相当明るくなっている。ただし、こうした緊張緩和路線はまだしっかりと定着しておらず、多くの課題が出てくるだろう。特に、新たに選出される米国共和党下院トップによる台湾訪問が見込まれることや、貿易制限が継続されていることから、友好ムードとなっても短命に終わる可能性がある。経済や政治をめぐる緊張が一旦落ち着けば、米中とも恩恵を受けることは明らかである。中国としては、2022年に大量に売却してきた米国債の購入を再開するとみられる。また、住宅セクターおよび金融市場の一部分野の低迷に対処するとともに、一般市民と地方政府にとって厳しい状況の改善にも取り組んでおり、中国はより安定的な環境を望んでいる。一方、Apple社を筆頭とする米国および他の国の企業は、様々な制限があるなかでも中国の工場で生産を継続できること、中国が今後も重要な顧客であり続けること、グローバル・サプライチェーン全体の復旧が続くことを望んでいる。

3. 新型コロナウイルスは考慮すべきファクターとなり続ける。中国人民による新型コロナウイルス不安はその顕著な例である。当社では、中国は予想されているよりも早く入国制限の解除に動くものの、それは緩やかに、かつあまり目立たないように進められると予想してきたが、最近では抗議活動が起こっていることや景気の弱さが増していることを受けて、その動きは加速している。新型コロナウイルスの感染者数や死者数は増加するとみられるが、政府は今や経済成長促進を優先する意向を明確にしており、来春、特に3月の全国人民代表大会のあとには中国の入国制限がほぼ完全に解除される可能性が高い。それに対する中国国内、そして世界中の懸念は健全かつ持続的に後退していくと予想している。

4. 各国(日本を除く)の中央銀行は「二次的影響」を阻止するために金利を高水準に維持する。これらの「影響」は、インフレ動向における重要なファクターとなる。そのなかで明らかに目立っているは労働者の賃上げ要求、そして通常それに伴うストライキや負の供給ショックであるが、企業や家主が持っているとみられる「価格決定力」も重要となってくる。企業や家主はみな、景気が一段と悪化するなかで政治的圧力が強まっていることから、金利を高水準に維持する中央銀行の決意がどれほど固いかを注視していくだろう。これが特に当てはまるのは欧州である。欧州は、先進諸国のなかでインフレが最も高水準にあり、政治・インフラ・経済上重要な分野を中心に労働者が非常に強い力を持っている。メディアはストライキ動向を幅広く取り上げていないため、投資家はストライキのニュースを自分で探さなくてはならない場合が多い。反対に、日本やアジアの多くの国々(韓国を除く)を筆頭に、労働者による要求水準が低い国は有利になるとみられる。

5. テクノロジーハードウェア・セクターの比重が過度に大きい国は繁栄しないかもしれない。世界各国が国家安全保障などの理由から自国での半導体製造工場建設を急いでおり、中期的には半導体の過剰供給状態に陥る見込みであるなど、同業界のファンダメンタルズは厳しい状況が続くとみられる。一方、こうした背景から、半導体製造装置メーカーは最近減少していた受注が改善する見込みである。

6. 世界のリスク市場全体の先行きは「暗い将来」でも適温相場シナリオでもないとみるべき。米国株式市場は割安状態にはないため、12月の水準からの大幅な上昇を見込むのは無理があるようにみえるが、他の大部分の国はかなり割安な水準にあるためまずまず良好なパフォーマンスが期待される。しかし、欧州は固有の逆風要因に見舞われており、割安な水準であり続けるかもしれない。こうしたなか、プラス・リターンを達成するには銘柄とセクターの選択が最も重要なカギとなることは明らかだろう。

7. 短期的に高まる不安心理をかわす。世界経済の半スタグフレーション局面がさらに深まり、以前からのだぶつき状態が直り始めるにつれ、当面はマクロ経済、企業収益、信用をめぐる多数のショックが待ち構えている可能性が高い。しかし、これは回復の過程の一部であり、中期的な見通しは実際改善していることから、投資家は短期的にパニックに陥らないことが肝心である。事実、企業収益をめぐるショックについては、アナリスト予想を大幅に下回るものでない限り、投資家はそれを許容するかもしれず、また、見通しが引き続き明るい場合には特にその可能性がある。

8. 世界の暗号資産インフラや他の一部の超成長産業は引き続き困難に直面する見通し。最近明らかにされた多数の機関投資家によるデューデリジェンスの欠如は、多くの業界リーダーの姿勢や事業慣行と同様に、ショックを受けるほど残念なものである。これを一因として、「株価を度外視した成長株」とされてきた企業や産業の大部分はベンチャーキャピタリストや上場株式投資家、銀行、規制当局から厳しく精査されることになるだろう。こうした動きを受けて他の問題まで白日に晒されるはずであり、問題が広がっていく可能性がある。実際、超成長企業は、資金を集めるためには会計基準(GAAP)に基づいた黒字化への明確な道筋を示すよう求められるようになるとみられる。一方、そうした企業は確実に存在し、投資家からより大きな関心を集めるとみられることから恩恵を享受すると考えられる。

9. 地政学的情勢は考慮すべきファクターとなり続ける。特にロシア、イラン、中国が独自の道を追求しているなか、「体制・主義の衝突」が続くことは明らかだろう。ロシア・ウクライナ戦争は2023年を通して続くとみられるが、凄惨さは大幅に和らぐ可能性があり、それによってリスク市場は落ち着くかもしれない。また、中東についてもイランを中心に注視を続ける必要がある。イランについては、国内の問題を抱えているほか一段と強硬な姿勢のイスラエル新政権発足により、緊張が大幅に高まった状況が続いている。前述のとおり、台湾情勢に注意していくことも重要となる。北朝鮮については絶えず予測不能な懸念材料となっていることから言及することもはばかられるが、両サイドからの緊張緩和が可能となるように、北朝鮮によるますます挑発的な行動を中国が抑制していくことが期待される。

10. 各国内の政治混迷が大きな影響をもたらす。インフレ効果をめぐる懸念の高まりや金利負担の急増を受けて、世界各国はすでに財政出動を大幅に抑えているが、財政運営の正常な機能でさえも大きな混乱に見舞われる可能性がある。米国では、共和党が下院を掌握したことで2023年には激しい対立が見込まれるなか、もし何らかの形で金融市場や経済の出来事が起きれば対応が求められることになる。世界金融危機の当初段階のように、対応が行われない場合、金融市場が嫌気して大混乱に陥る可能性がある。2023年には下院による様々な政治問題の調査も激しい対立を引き起こすとみられる。欧州では、とりわけ財政引き締めの必要性を背景に燃料補助金が縮小していくにつれ、ストライキにとどまらず政権批判の動きが強まるとみられる。一方、それに比べるとアジアの政治情勢はかなり落ち着いているように見受けられる。

最後に

当レポート、そして当社の他の展望レポートが投資家の皆様のお役に立つことを心から願っています。ご意見・質問をお寄せいただければ、いつでも喜んで対応させていただきます。ここ数年大荒れの展開となってきましたが、来年こそは誰もが幸運に恵まれる年となりますように。


当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。