本稿は2021年12月15日発行の英語レポート「Global Investment Committee's 2022 Outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

当社のグローバル投資委員会(GIC)は、年金基金をはじめとする長期投資家のために先進国市場の中期展望に焦点を当てた分析を行っている。GICの見解では、2022年はリスク資産にとって厳しいながらも良好な年となるようにみえる。G3(日米欧)の中央銀行についてはタカ派色を強めると考えている。そうした方向転換は往々にして落とし穴や、少なくとも逆風をもたらす可能性があるものの、当社では、総じて政策当局は新しい進路を順調に進むことができると信頼している。重要なポイントとなるのは、中央銀行による政策の引き締め度合いが大方の予想を多少上回る場合であっても、政策スタンスは依然として非常に緩和的であり、この先の世界経済、延いては企業利益の堅調な成長を妨げることはないとみられる。

確かに、新型コロナウイルスは絶えず脅威となり続けているが、ロックダウン(都市封鎖)措置が幅広く実施される状況とならない限り(ワクチン接種によって危険を大幅に軽減できる今、それは回避可能と考えている)、リスク市場がそうした脅威に過剰反応を示す可能性は低いだろう。したがって、最大のリスク要因は地政学的なリスクとなる可能性が高い。確かにそうしたリスクについては「幸運を祈る」ような状況にあるが、過去10年間においてほぼ常にそうであったように、往々にして国々は危機を招く行動を避け、自国経済の繁栄に専念する傾向にあると考えている。しかし、ウクライナやイランの情勢、それらほど深刻ではないものの中国をめぐる問題は現在、かつてないほど危険な状態にある。

一方、2022年には米国である程度の規模の財政出動法案が成立し、欧州や日本でも財政出動が拡大されGDP成長を強く後押しするとの見方も維持している。とりわけユーロ圏と日本においては、消費が大きく落ち込むという懸念が楽観的になることが大きな材料であり、また企業の景況感の改善が設備投資を大幅に押し上げるとみられ、サプライチェーン問題の解消や環境関連の取り組み強化に向けた設備投資が特に拡大するだろう。さらに、特に日本経済は世界的に続く旺盛なテクノロジー需要や抑制されていた自動車生産の回復の大きな恩恵を受けるとみられる。しかし、中国については、3月の冬季パラリンピック閉会まで国内の電力の供給制限や大気汚染対策が強化される見通しであることから、しばらく厳しい状況が続くと予想している。具体的な予測値についてみると、2022年通年のGDP成長率は米国が3.9%、ユーロ圏が4.2%、日本が2.6%、中国が4.7%と予想しており、いずれもコンセンサス予想と近い水準になっているが、これらの数字は、当然ながら比較対象となる前年が低水準であった低ベース効果が押し上げ要因となっている。実は中国のコンセンサス予想は当社予想よりも若干高い水準にあるが、そうした予想には古い予想が多く含まれており(ここ数週間において減速傾向が鮮明になっている)、世界の証券会社大手による予想はより当社予測に近い水準となっている。

向こう1年間において、中国は目下の苦境を乗り越えることが出来るとみているが、その道のりにおいてこの先も時折かなり厳しい状況に直面するだろう。中国は方向転換しているが、そうした移行の取り組みは往々にして報われるものの、非常に困難である場合もある。不動産業界頼みの急速な経済成長に限界があることは明らかである。不動産会社の債務リスクを低減させることは、金融業界全体のリスクを抑制することになり、確かに理に適っているが、極めて不透明で複雑かつ重要なシステムの脆弱な部分が明らかになる状況をさらにもたらすだろう。中国政府の指導部は、こうした取り組みにもっと早期に着手していればと思っているだろうが、このプロセスは長年かけて進められてきたもので、指導部はその方針を維持する意向の様子であり、システミック・リスクおよび消費者や企業による重大な逆資産効果は回避できると自信をみせている。重要な問題は、集合住宅の多数の空室が賃貸に出されるのか、それとも売却されるのかという点である。前者は賃料の低下をもたらすが(政府が大々的に打ち出している賃貸住宅の建設推進も加わり)「共同富裕」のテーマに一致する一方、後者は不動産価格を過度に押し下げてしまう可能性がある。また、様々なセクターに対する規制強化は、格差の是正とともに、流行(通常はアジアを含む外国の流行)に敏感な文化やゲーム文化の締め付けが目的とされている。ソーシャルメディア分野は、成長がやや抑制される状況がずっと続くことになるが、それでも依然成長はし続けるとみられる。一方、中国では半導体製造装置における自給自足の達成に向けて(これを達成している国はまだなく、極めて困難とみられる)、超ハイテク分野の推進に取り組んでいる。また、すでに優れた技術を実現しているAI、システムインテグレーション、医療分野などの他の領域の強化も目指している。また、外資参入については、経済の下支えに必要となることから、(政治問題化しない限り)可能な限り維持しようと努める可能性が高い。

この先数ヵ月は世界的にインフレが根強く続き、前年比ベースで一段と加速する見込みであり、コモディティ(原油を除く)価格は緩やかながら一段と上昇するだろうが、第1四半期が過ぎれば世界的にインフレが減速するとみられる。ブレント原油価格については、2022年6月時点で71米ドル、12月末時点で72米ドルまで戻すと予想しているものの、イラン問題が地政学面および世界の石油供給面の両方において大きなリスクとなっている。そうした予測を踏まえ、米国の総合およびコアCPI(消費者物価指数)上昇率は、今後2四半期にわたって前年比ベースで高水準での推移が続くとみているものの、その後は落ち着きをみせて2022年6月がそれぞれ前年同月比4.0%、同3.3%(概ねコンセンサス予想通り)、12月がいずれも同2.7%と予想している。2022年6月までの6ヵ月間の年率換算ベースの上昇率は、総合CPIおよびコアCPIとも2%近辺まで減速するとみられる。住宅賃料は上昇基調が続く見込みだが、新車・中古車価格は、生産回復に伴ってかなり早い段階で下落するとみられる。また、企業は引き続き非常に大きな価格決定力を持ち、原材料等の不足を口実に現在の利益の維持に必要とされる水準以上の値上げを行っているように見受けられるが、バイデン政権は、値上げ(または商品の容量少量化)や寡占的な慣行への批判を大幅に強める一方、OPEC(石油輸出国機構)に対して増産を求める圧力をかけ続けていくとみられる。また、労働力不足や物流面の障害が緩和されれば物価圧力は低下する可能性が高いだろう。

当該シナリオに基づき、当社の債券および株式運用チームは、再びグローバル株式が好調に推移し、グローバル債券はやや軟調に推移すると予想している。債券については、中央銀行のタカ派的なスタンスやかなり好調な経済成長に加え、米FRB(連邦準備制度理事会)による債券購入額の大幅減少を踏まえると、債券利回りの上昇が小幅にとどまるとする予想は楽観的すぎると思う読者も多いだろうが、債券投資家の間では物価上昇は失速するとの見方が大勢を占めるようになるとみられるほか、コロナ不安、時折失望を誘う経済指標、地政学的情勢の緊張、その他にも中国の政策転換に伴う問題などに対する懸念が強まるとみられる。2022年12月末の10年債利回りは、米国債が緩やかに上昇して1.8%、ドイツ国債が-0.15%、日本国債が0.15%と予想している。為替についてみると、金利差が高水準で推移し続けるなか米ドル高が徐々に進み、同時点で1米ドル=117円、1ユーロ=1.09米ドルと予想する。

こうしたなか、G3の企業収益の伸びは引き続き好調に推移し、2022年の株価押し上げ要因になるとみられる。中央銀行の「ハト派色の弱まり」は投資センチメントへの逆風になるものの、財政支出拡大や世界のワクチン接種進展がもたらす景気や企業収益の回復は、そうした影響を十二分に相殺するとみられる。実際、1月から2月にかけて発表される2021年第4四半期利益は大きな好材料になるとみられ、もし当社の予想通りにコンセンサス予想を上回った場合、アナリストは2022年通年の予測をさらに上方修正する以外の選択肢がほぼ残されていないことになる(これまでのところはそれに驚くほど消極的である)。したがって、足元のPER(株価収益率)は高いように見受けられるものの、2022年通年の収益予想が上方修正されることによりバリュエーションの割高感は大きく低下するだろう。もう1つ注目すべき点として、2021年のEPS成長率は、銀行による貸倒引当金の利益への戻入を要因として不自然に高水準となっていたが、2022年にはそうした動きがみられなくなると予想され、したがって2022年のEPS成長率は不自然に低くみえるだろう。しかし、基調的には非常に健全な水準で推移する見込みである。

各国市場に対する当社の予想を総合すると、MSCI World Total Returnインデックスでみたグローバル株式市場の当社基準日(2021年12月3日)からのトータル・リターン(期間率)は、米ドル・ベースでは2022年3月末までで5.3%、2022年6月末までで7.8%、2022年12月末までで12.3%と予想される。米国・欧州・日本ともプラスのリターンを予想するが、日本のリターンが最も高くなると予想する。

米国株式は、S&P500指数において2021年の予想EPSに基づくPERが今や約22倍となっており、過去の水準からみるとかなり割高となっている。2022年の予想PERも約20倍とやや高い水準にある。ただ、その理由は明白だ。債券利回りは低く(この先の債券のリターンは期待外れとなる見込み)、自社株買いは急激に復活してきており、企業収益の伸びはすでに強気なコンセンサス予想をも上回るとみられる。明るい兆しとして、投機色の強い一部の小型株は極端な水準となっていたバリュエーションが落ち着きをみせているが、依然として非常に高い水準にとどまっている。この先そうした状況は悪化する見通しだが、これまでのところ民主党は金融市場の動きを妨げることや企業による値上げの動きを非難することに消極的な様子であり、おそらく資産価値が上昇して米国経済、延いては政党支持率の追い風となることを期待しているようだ。また、主要テクノロジー企業を中心に介入を行う姿勢であることは、若干の逆風要因になる可能性がある。まとめると、S&P500指数は2022年3月末時点で4742へ(当社基準日からの米ドル・ベースの期間率トータル・リターンは4.9%)、その後6月末時点で4831へ(同リターンは7.2%)、12月末時点で5014(同リターンは11.9%)へと上昇すると予想している。

欧州株式は足元においてユーロ安を主因に米ドル・ベースで米国株式をアンダーパフォームしたが、欧州では経済の中期的な先行きに対する信頼感が大きく改善している。Euro Stoxx 600指数の2021年の予想EPSに基づくPERは15.7倍と過去平均と同等の水準にある(2022年の予想PERは約14.9倍)。ただ、米国と同様、2022年の予想EPSは上方修正されると予想する。また、市場全体の配当利回りが高いことは欧州とグローバルの投資家にとって引き続き魅力となるだろう。当社では、2022年12月末でEuro Stoxx 600指数が515へ、FTSE指数が7700へと上昇すると予想しており、これに基づいて算出されるMSCI Europeインデックスの当社基準日からのトータル・リターンは米ドル・ベースで12.0%となる。「既知のリスク要因」として、ドイツが左派政権へ移行したことや、ECBがどれだけ早急に超ハト派的スタンスからの転換を迫られるかをめぐって市場がどのような反応を示すか注目される。

日本については、新型コロナウイルスの感染者数・死者数が急減したことを考えると、2021年終盤において消費者の楽観ムードの持ち直しは期待されたほど進まなかったが、今後は、新たな変異株をめぐる懸念が強まっているほか、インフルエンザが流行する季節も控えているなかでも回復が進むものと見受けられる。日本の株式市場および経済の大きな部分を占める自動車セクターは生産活動において想定外に多くの問題に見舞われたが、状況はすでに大きく改善しており、12月以降は大幅な改善が続くと見込まれる。さらに、政治的リスクが低く、デジタル化や代替エネルギーなどの分野を中心に構造的改革も継続されているほか、既存および今後の財政出動も経済成長の押し上げ要因となるだろう。足元においてTOPIXのPERは2021年の予想EPSベースで14.1倍にとどまっており、他の地域と比べて大幅に低いほか、また日本でも2022年の予想EPSは上方修正される可能性が高いとみられることから、それに基づき13.2倍となっている2022年の予想PER水準は特に魅力的にみえる。したがって、最近の低迷から一転アウトパフォームが見込まれる市場として日本に注目している。その他にも市場の追い風になるとみられる要因として、自社株買いの動きの拡大、世界GDPの力強い成長、自動車やテクノロジー製品の生産における部品不足の大幅な緩和などが挙げられる。注目すべき点として、市場の配当利回りが2.1%と引き続き世界的にみても魅力的な水準にある。実際、国内の投資家は配当収入への期待から大規模に株式市場に回帰するとみられ、そうした動きを受けてTOPIXは2022年12月末時点で2310になると予想しており、これに基づいて算出される当社基準日からのトータル・リターンは米ドル・ベースで16.0%となる。日経平均株価は33,000円に達するとみられる。当該予想リターンは日本国内および海外の両方の投資家にとって非常に魅力的であることは明らかだ。

アジア太平洋地域の先進国株式(日本を除く)については、明らかに中国の諸問題や政策転換が大きな悪影響を及ぼしている。バイデン政権は、トランプ前政権の対中強硬策を受け継いでいるが、現在の貿易関係の維持に努め、多極的な世界の構築を受け入れると想定される。実際、トランプ政権下で導入された関税の一部はかなり早い時期に廃止される可能性が高いとみられる。一方、中国においては、人権侵害に懸念を表明した欧米企業に対する不買運動が最近広がっており、それを受けて貿易面での圧力が強まっているほか、台湾との関係を含め、他の世界の民主主義国との間の緊張も高まっている。オーストラリアは、依然として中国との関係がかなり拗れている一方、金属やLNG、石炭などのコモディティに対する世界からの旺盛な需要の恩恵を受けている。香港株式市場は、上場株式の大多数を中国企業が占めており、中国国内の複数の規制動向が打撃となったほか、香港が自ら直面する旅行者数の落ち込み継続などの問題も悪影響を及ぼした。しかし、新型コロナウイルスのワクチン接種が進み観光業が世界的に盛り返せば、やがてオーストラリアと香港の両経済には恩恵が見込まれる。まとめると、香港については今後6ヵ月間は小幅な上昇にとどまるが、その後は一転して回復基調が大幅に強まると予想している。一方、オーストラリアについては強気な見方をしている。これらの予想に基づくと、当社基準日から2022年末までにおける同地域のMSCIインデックスのトータル・リターンは米ドル・ベースで15.3%となる。

以上をまとめると、当社では、新型コロナウイルスのワクチン接種や財政政策による景気刺激策の継続、まずまず良好な地政学的情勢、各国中央銀行がタカ派姿勢を強めているなかでの低金利環境の継続が追い風となって、世界経済はコンセンサス予想の通りに好調な成長を遂げるとみている。それが企業の増益につながり、株式市場はこの先好調なパフォーマンスとなり、日本を中心に各地域が目覚ましいリターンを達成すると見込んでいる。一方でグローバル債券は米ドル・ベースのリターンの低迷が続くと予想している。ただし、当社ではこうした良好な予想を持ちつつも地政学的リスクをつぶさに注視していく方針であり、読者の皆様もそうしたリスクには注意いただきたい。

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