本稿は2021年4月13発行の英語レポート「Palm oil investing through an ESG lens」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

パーム油投資の恩恵と苦悩

パーム油投資における環境・社会・ガバナンス(ESG)基準は、その出発点からしていささか議論を呼ぶ可能性がある。パーム油業界と言えば、劣悪な労働環境に加え、森林破壊や土壌侵食など、環境に有害な事業慣行を連想させるからである。これらはみな、パーム油業界への投資がESG基準に基づいて行われているか、という点について客観的に評価することを特に難しくしている。

一般的に使用されている植物油の1つであるパーム油は、汎用性があり、収穫量が多いことで特に知られている。一方で、ヤシの栽培によって生じている大量の温室効果ガス排出や大規模な森林破壊など、社会・環境問題と結びついていることが多い。また近年、パーム油は労働搾取につながっており、米国税関・国境取締局(CBP)が強制労働疑惑をめぐってマレーシアのパーム油企業2社からの輸入禁止を発表したことで注目が集まっている。

これを受けて、当社ではパーム油企業の投資プロセスにおいて独自のESG評価に一層力を入れている。最も重視しているのは、パーム油セクターが直面している重要課題(マテリアリティ)と、それらが将来の投資リターンに及ぼす影響を理解することだ。理念として株式銘柄分析にESG基準を取り入れている当社では、強固なESGフレームワークを整備し改善していくことは、高収益の達成・維持をめざす企業にとって必須であると確信している。ESG基準の最も重要な点は、企業収益の持続性に及ぼす影響だとみている。

当社では、徹底的なファンダメンタルズ分析によって、高収益を達成し維持できる企業や、ファンダメンタルズ面の良好な変化が見込まれる企業を特定している。また、こうした特性を備える企業への投資は長期的に優れたパフォーマンスをもたらすと考えている。

ESG評価プロセス

CO2排出量とエネルギー管理において重視しているのは、東南アジアの工業型農業で広範に用いられている泥炭地の復元計画、土地の開墾に火を用いない「野焼き禁止」方針への企業やサプライヤーのコミットメント、火災の監視におけるデータ管理状況の開示、および特定の期間にわたるCO2排出量の測定と削減へのコミットメントである。

土地に関しては、企業が農園用地と保護管理地区の適正な評価やマッピングを行っているかに注目している。また、パーム油のトレーサビリティについても、出発点となる農園から精油工場までのサプライチェーン全体を通して検討している。さらに、企業の農園と工場について「RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議1)」認証の遵守、また、RSPO認証を完全取得できるまでの予想所要期間を検討している。(RSPO認証は、企業によるパーム油生産の基準が持続可能なものであることを証明するものである。)

生物多様性については、森林破壊ゼロへのコミットメントやそれがサプライヤーにも及んでいるかを評価し、持続可能性のあるパーム油企業を特定する。また、これらの企業による復元計画についても検討し、基準を遵守できていないエリアへの対処の有無や、農園やサプライヤーによる森林破壊の原状回復に向けた用途転換スケジュールの有無などを考慮する。

労働管理および開発の分野では、農園で働く労働者の労働条件に注目し、賃金の他に、保険、住居費などの付随的費用を分析評価している。また、企業の労働基準を評価する際、特に小規模農家または契約農業(プラズマ2)慣行を対象とした支援スキームについても考慮している。

これらの課題を特定したのち、それぞれの問題に関してパーム油企業のESGパフォーマンスを評価するとともに、企業がどのようにリスクを軽減してESG関連の機会にアクセスしているかを分析評価している。近年、パーム油企業はパームのトレーサビリティの向上、RSPO基準の遵守、および「NDPE(森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ)」へのコミットメントの強化を通じて、サステナビリティ目標達成への取り組みを加速させている。一部の企業は、そうしたコミットメントをサプライヤーにも求めており、同様のサステナビリティ基準を適用することでサプライヤーの説明責任を明確にしている。当社では、こうした独自の評価を実施し、その結果を企業の収益の持続性やファンダメンタルズの変化に関する総合レーティングに反映している。

さらに、そうした重要な課題について、投資対象企業との継続的なエンゲージメントを実施している。これには、懸案事項となっており企業が解決を試みているESG課題や、進展中の機会などが含まれる。適切な場合には、株主利益向上に最も資する選択肢を提案する。例えば、当社ではパーム油企業に対して、同業界が環境に及ぼしてきた影響を元に戻すために、森林再生と環境保全の取り組みを大幅に改善するように促してきた。概して、サステナビリティ方針や、完全遵守の達成期間目標を公表する取り組みが強化されるなど、パーム油企業によるサステナビリティへの取り組みはここ1年間で加速しているとみている。また、同業界内において、サステナビリティ基準を満たしてないサプライヤーや農園からの購入を停止するという努力も見受けられる。

1 持続可能なパーム油生産のための世界的な認証基準を設定するために2004年に設立。世界全体で5,000近くの会員を有している。
2 食品加工会社が作物の栽培を農家に委託する慣行で、インドネシアで一般的に行われている。

持続可能なパーム油に関するPRIワーキンググループ

当社では、2つの経路からパーム油業界とのエンゲージメントを行っている。第1に、パーム油企業との個別のエンゲージメントを行い、これらのミーティングの結果を当社の投資プロセスやESGリスク評価フレームワークに反映している。第2に、国連責任投資原則(PRI)の持続可能なパーム油に関するワーキンググループへの参加および支援を行っている。当社は2018年から同ワーキンググループに参加しており、他の投資家と共同でパーム油に関する問題に取り組み、持続可能性の向上を促進してきた。

当社は、PRI署名機関としてその6つの責任投資原則に取り組んでおり、資産運用を通じて地球環境の保全と持続可能な社会の発展へ貢献するとともに、それらに対するコミットメントを表明している。

PRIワーキンググループは、パーム油業界におけるESG関連のエンゲージメントや、ガイダンス文書の策定、共同イニシアチブの推進において参加機関をサポートしている。当社は、2018年にワーキンググループに参加して以来、ESG関連の主要リスクと重要課題に光を当て、企業による持続可能なパーム油生産慣行の支援を促すことを主な目的とした取り組みに率先して貢献してきた。そうした連携のおかげで、サステナビリティへの取り組みを推進し、共同の枠組みの中でパーム油の慣行や持続可能性の問題に対する当社の影響力を高めることができている。

PRIワーキンググループへの参加は有益な成果をもたらしており、そのおかげで機関投資家として3つの良好な結果を得られている。

1つ目のメリットは、投資家が団結して持続可能なパーム油生産慣行を支援する動きの一端を担えていることである。現在、ワーキンググループの取り組みは注目を集めており、新たなメンバーの参加に伴って一段と勢いが増している。考えを同じにするアセットマネジャーが団結して取り組み、声を揃えてエンゲージメントを実施していくことで、より大きな力を発揮できると信じており、また、より組織的、重点的かつ協同的なアプローチをとることで、ワーキンググループの会合からより良い結果が得られると考えている。

第2のメリットは、パーム油のサプライチェーンとエコシステム内において、投資先企業がESG面のポジティブな変化を起こしていくためのプラットフォームを提供できることだ。PRIワーキンググループの発足当初、そのエンゲージメント対象は同業界内でも優良な企業だったが、現在では金融(銀行)や顧客(動きの速い消費財企業)などを含む、より広範なパーム油サプライチェーンにまで議論が広がっている。そして、これによりパーム油企業にとっては、サステナビリティの取り組みへの対応やその加速、透明性の強化、投資家からのESG評価の向上に向けたインセンティブがより高まっている。

最後のメリットは、「コンセンサス」について効果的なフィードバック・ループを促進できることである。これは、ポートフォリオマネージャーがESGに関するコミットメントをより効果的に調整し、また、それらがどのように投資リターン、つまり株主総利回りの向上につながるかを確認していく上で有用となり得る。また、共同でのエンゲージメントは、コンセンサスを見つけ、様々な視点から同セクターのリスクをより深く理解することになり、価格発見において有効な手段となる。これをきっかけとして、サステナビリティの実現に向けた変化や連携の拡大について、様々な観点から議論が行われている。そうして集められた情報はPRIの強固な情報基盤となっていき、それによってESG関連のエンゲージメントに関する当社の社内データバンクが一層強化され、当社のマテリアリティマップや課題分析、スコアリングが改良されていくものと期待している。

パーム油企業のESG面の変化と持続可能な機会

当社のESG投資哲学は、パーム油企業におけるESG主導の変化を活かすことにある。その目標を達成するために、当社のESGリスク枠組みに沿ったパーム油企業のポジティブな変化や投資機会の特定をめざしている。

パーム油企業にとって重要なサステナビリティ課題の1つは、所有する農園だけでなく、パーム油のサプライチェーン全般でのエンゲージメントやコンプライアンスの管理である。このことは、パーム油の精製・販売業者にとって特に懸念事項となっている。原料の多くは多数の独立したサプライヤーからもたらされており、原料の生産地と関連するサステナビリティ慣行を完全に追跡することは非常に困難となっている。一方で、ポジティブな変化もみられている。パーム油企業は持続可能なパーム油がもたらす恩恵を受けられるように取り組みを強化しており、また、パーム製品販売業者大手はサステナビリティを推進するために影響力を活かした圧力を強めている。例えば、ある大手パーム商社は、サプライヤーの推定約10~15%がRSPOなどのサステナビリティ基準を満たしていないとし、その後、不適合サプライヤーとの取引を停止している。同社はまた、インドネシアとマレーシアのパーム油の推定20~30%がNDPEを遵守していないとし、不適合のサプライヤーに対して正式な制裁措置を課す方針を導入している。同社は、NDPE遵守率の業界基準を100%にすることをめざしている。このように、ESG関連の変化に着手し、サステナビリティ基準を向上させている大手パーム販売業者は、影響力や交渉力が強まっている。

労働管理および社会面の問題は、CO2排出、土地、生物多様性の問題に比べてより急速に重要性が高まってきている分野だ。パーム油企業にとって、労働集約性の高さや外国人労働者の管理は、ESGにおける現在の最重要課題の1つとなり続けている。概して、人件費は農園運営費用全体の最大40%にのぼり、パーム油の収益性に大きく影響する部分となっている。マレーシアのパーム油企業2社に対して強制労働の疑いで米国CBPが輸入禁止措置を講じるなどの最近の動向を受けて、労働慣行や労働者のウェルビーイング(健康・幸福)に対する監視が強化されている。

当社では、今日のパーム油企業は労働搾取の疑いを持たれないようにするために、労働者が従う労働慣行や提供される宿泊設備について透明性を確保する必要があると考えている。また、パーム油企業は農民集落の雇用に大きな役割を果たしていることから、社会貢献や社会開発もより重視されるようになっている。労働福祉、教育、労働者支援といった社会開発課題への投資を行うとともに、それらをより明確に打ち出している企業は、同セクターで今後求められるサステナビリティ目標を達成していく上で有利となるであろう。

最後になるが、透明性は、同セクターにおけるESG基準の遵守状況を改善させる鍵となる。率先して明確なサステナビリティ目標を設定してきた企業は、ESG基準遵守のハードルを引き上げ、ポジティブな変化の原動力となっている。サステナビリティ関連インデックスを提供するMSCIやダウ・ジョーンズなどの指数算出企業が行うESGレーティングおよびランキングのおかげで、パーム油企業による情報開示の透明性が高まっている。当社では、透明性や情報開示においてリードしている企業についてESGの観点からポジティブな見方をする場合が多い。

方針策定および開示については、土地利用や高保全価値(HCV)に関するデータに明確な目標値を定めているパーム油企業に注目している。これらのデータは適用範囲と遵守範囲のマッピングにおいて信頼性が高い場合が多い。端的に言えば、劣化した土地の回復に関する効果的な方針を策定し、また、そのサステナビリティ基準の有効性を確認するために、どのように外部のステークホルダー・グループと協力して取り組んでいるかを明確に示していることが、持続可能なパーム油企業の条件となる。例えば、ポジティブな変化をもたらすとみられるパーム油企業には、劣化した土地の再森林化を進めるとともに、その計画による生物多様性やコミュニティへの影響を定量的に評価する包括的な再生プログラムを実施している企業などが挙げられる。また、自然保護団体ザ・ネイチャー・コンサーバンシー、世界自然保護基金、世界銀行などの機関と緊密に連携することにより、企業は有効な評価基準となるデータを得ることができる。生物多様性は、ESGにおける効果的なサステナビリティ慣行およびポジティブな変化につながる有望な機会となっている。パーム油企業が保全地区の回復や自然環境の改善に取り組み、土地の劣化の原状回復や最小化を積極的に行っていることは、同セクターで起こり得るESG面のポジティブな変化の好例である。

結論

調査対象企業の収益の持続性やファンダメンタルズ面の変化特性を評価する上で、ESGは引き続き重要な柱となっている。当社のESG分析が明らかにしている通り、パーム油業界においてはCO2排出量とエネルギー管理、土地、生物多様性、労働管理が主な重要課題・分野となっており、それらはみな近い将来における株主利益との関連性が極めて高いと考えられる。

持続可能なパーム油に関する国連PRIのワーキンググループへの参加は、当社による同業界とのエンゲージメントに有益に働いており、それを通じて投資家が団結して持続可能なパーム油生産慣行を支援する動きの一端を担うことができている。また、このプラットフォームへの参加がもたらす相乗効果により、パーム油サプライチェーンおよびエコシステム内の投資先企業にとってESG面のポジティブな変化が後押しされるとともに、業界内のコンセンサスをより深く理解することができ、当社によるESG関連事項の分析評価が強化されている。

パーム油サプライチェーン全体にわたるESG基準遵守、労働慣行、各種方針の透明性と開示、ESGと財務パフォーマンスの連動性はすべて、パーム油企業にとってESG関連のポジティブな変化に影響を及ぼす主要な問題であるとみている。

当社では、アクティブ運用マネージャーとしてのESG関連問題の管理とは、業界の慣例を理解し、ESGの観点から株主利益に最も影響を及ぼす要因を特定することであると考えている。従って、アクティブ運用においては、トータルリターンを向上させるべく、サステナビリティを追求し重要課題に取り組んでいる企業におけるESG面のポジティブな変化を積極的に特定していくことが重要とみている。

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