本稿は2021年1月8日発行の英語レポート「2021 Singapore Equity Outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 2020年はシンガポールにとって試練の年だった。経済は落ち込み、株式市場のリターンはマイナスに陥った。だが、2021年の見通しは、輸出の回復に伴い、輸出品を中心とした製造業が経済回復をけん引し改善すると考える。
  • 2020年のテーマは安定性だった。2021年はリターンが回復する1年となるだろう。グロース株とクオリティ株より良好なパフォーマンスを挙げるようになったバリュー株や景気循環株は魅力的であるものの、アルファ獲得のカギは、やはりリターンの持続性とファンダメンタルズの良化に焦点を当てた銘柄選択にあると当社は考える。
  • シンガポール経済は回復基調にある。輸出が力強く持ち直しており、企業収益の急回復は今後リターンが向上することを指し示している。
  • シンガポールがテクノロジー、金融、投資のハブとして発展し、経済成長モデルをイノベーション型へと転換する中、2021年もシンガポールの構造改革は継続するだろう。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)がイノベーションを加速させ、「シンガポール株式会社」の競争優位性と新たな事業機会を創出している。
  • 2021年は逆風環境に対する強じん性と回復という2つのテーマに焦点を当て、相対的な成長力を発揮する銘柄に注目している。持続可能な成長において安定性を発揮している企業に強気な見方をしており、世界的な工業部門の成長と経済再開がよい方向に向かうと考えている。
  • 2021年は資本財銘柄とIT銘柄を選好し、生活必需品銘柄に関してはあまり楽観視していない。金融は一部銘柄に強気な見方をしている。通信銘柄と不動産銘柄については慎重で、その他のセクターはより高い確信度を持っている。
  • 配当銘柄への投資は引き続き積極的に進める。配当利回りの対債券利回りのスプレッドは改善している。金利水準と債券利回りが低水準にとどまる可能性が高いことから、配当利回りは魅力的で、配当株には投資妙味があると当社は考える。

2020年の振り返りと2021年の見通し

2020年のシンガポール株式のリターンは、通年でストレーツ・タイムズ(ST)指数のトータルリターンがマイナス8.05%とアジアでは悪い方であった。シンガポール経済は開かれた経済であり、株式市場がバリュー銘柄と銀行、不動産、一般消費財、資本財など創造的破壊(ディスラプション)の影響を受けやすいセクターが多く占めていることから、パンデミックによる経済への打撃が痛手となり、アジア全体をアンダーパフォームする結果となった。

当社は、2020年の低調なパフォーマンスを経て、2021年はリターンが改善し、回復基調になると見込む。米大統領選挙でのジョー・バイデン氏の勝利とコロナのワクチン開発に関する明るいニュースを追い風に、2020年11月はST指数トータルリターンが+16%と急騰するなど、株式相場は上昇した。シンガポール経済の再開が株式リターンを引き続き下支えするとみられ、2021年はパフォーマンスの改善が予想される。世界的な貿易摩擦の低減、輸出の加速、金融緩和政策、ROE(自己資本比率)の向上、外国人投資家保有率が低いことといった一連の好材料を背景に、2021年は企業業績の改善が見込まれ、そのことが株式リターンの改善を下支えするだろう。

最近では、「ワクチンに関するニュースが相場回復を加速させる中、2020年に出遅れた銘柄を買い、バリュー銘柄と景気循環銘柄を投資の中心にする」という投資アプローチが幅広く受け入れられているようだ。当社はこうしたアプローチに反対ではないが、投資方針の全面的な変更には賛同しない。当社は持続可能なリターンとポジティブなファンダメンタルズの変化をもたらす企業を選好するボトムアップ戦略を引き続き推奨する。ポストコロナの世界において、2021年は市場を上回るリターンを維持でき、ファンダメンタルズ改善の原動力となる循環的、事業再編の要素を有し、競争優位性を持つ企業に投資することこそ、アルファを最大限に高める公算が大きいと当社は考える。2020年のパフォーマンスは、ディフェンシブ、グロース、クオリティと逆風環境に強い銘柄を選好した結果であった。2021年はパンデミック後にリターンを復活させるような投資機会を見出し、イノベーションを通じた成長を捉えることが重要だと考える。

輸出と財政政策に支えられ、経済は回復基調

2021年のシンガポール経済は、景気刺激策、近隣諸国との貿易・輸出の改善、ワクチン供給の見通しや行動規制の緩和に支えられた消費と投資環境の正常化など、一連の要素が景気回復をけん引すると当社は考える。

製造業は明るい材料を提供している。シンガポールの2020年第3四半期の実質国内総生産(GDP)成長率は前年同期比で5.8%減と、予想(7.0%減)よりも小幅な落ち込みにとどまった。回復をけん引したサブセクターはバイオ医療と電子機器生産で、コロナの打撃を受けたサービスと建設セクターの低迷をある程度相殺することができた。

製造業による輸出主導型の回復は2021年上期まで持続可能で、その波及効果で経済全体が2021年は回復するだろう。足元の中国の工業・製造業生産の回復は、シンガポールを含むアジア地域の輸出にとって明るい兆しである。開かれた経済であるシンガポールは、世界的な需要拡大と海外企業のサプライチェーンの多様化による恩恵を受けることができ、このことは輸出に有利に働く。

2020年は、政府の財政支援が経済の落ち込みを緩和する上で重要な役割を果たしたが、2021年も財政支援が成長に寄与するだろう。2021年の財政支援は、経済正常化を確実にするために、航空、観光、医療などの特定分野に的を絞ったものになる可能性が高い。

輸出が収益と市場リターンの追い風

シンガポールでは輸出に勢いが出てきた。過去の実績を踏まえると、輸出のモメンタムは市場リターンと企業収益の成長にとって追い風となるだろう。最後にシンガポールの輸出が好調だったのは、世界的に鉱工業生産が回復局面にあった2016年のことで、同年および翌年は輸出がシンガポール株式市場にとって強力な武器となった(チャート1参照)。したがって2020年の状況は2016年と類似しており、2020年と2021年の貿易回復が2021年の株式市場にとって力強い追い風になる公算が大きい。

シンガポールの企業収益予想は年初から相次いで下方修正され、結果的に2020年は40%近い急減となった。政府の支援措置がなければ、減益幅はさらに深刻だっただろう。だが、業績予想の下方修正幅は2020年第2四半期に底を打ち始め、同年11月には上方修正に転じた。このような業績の上方修正が続くようであれば、2021年も相場上昇につながると考える。

コロナは事業再編と再調整の促進剤

イノベーションが経済成長モデルに変革をもたらし、シンガポールがIT、金融、貿易のハブとしての地位を強化する中、シンガポールの構造改革は今後も続くはずだ。パンデミックは変革の促進剤となり、イノベーションと変革を加速させてきた。企業の負担を支援する政府の積極的な財政政策や、コロナ感染対策をめぐる政府の厳格な管理も、危機下においてシンガポールを有利な立場に立たせている。シンガポール経済の変革は2021年も続き、パンデミック収束後はより強くより逆風環境に強い態勢を持つ国になるだろう。

さらに、シンガポールの企業もコスト見直しに取り組み、新たな成長機会に向けてビジネスモデルの軌道修正を行っていることから、パンデミック収束後はより健全な企業群に成長すると考える。2021年は逆風環境に対する強じん性と回復という2つのテーマに焦点を当て、相対的な成長力を発揮する銘柄に着目する。危機下でも強じん性を発揮し持続的な成長を示す企業は、足元の世界的な鉱工業生産の回復と経済再開の局面で成長を果たすと考えていることから、強気な見方をする。

サプライチェーン回復における有力銘柄

シンガポールは小さな都市国家でありながら、グローバル化が進む中で投資資金を取り込み、金融と貿易のハブとして成功を収めてきた。一方で、貿易戦争と脱グローバル化はシンガポールが最近直面した課題だ。だが、シンガポールはこれらの課題にも迅速に対応しており、サプライチェーンの再構築に踏み切り、コロナ危機発生に伴って生じている成長機会を新たに取り込んでいる。

当社は、経済がポストパンデミック型へ移行するに伴い、より強力な成長が期待できる重要なセクターを特定した。国境をまたいだモノ・カネの流れは、シンガポールの重要な産業であるサービスとエコシステム(ビジネス生態系)の強みだ。したがって、変革とポジティブな変化というテーマに沿い、金融、製造、物流、消費者向けヘルスケア、食品テクノロジーのサプライチェーンに成長機会を見込んでいる。また、アジア域内でのサプライチェーンの多様化も、2021年のシンガポールの回復に寄与する公算が大きい。

パンデミック下で事業の修正に取り組むシンガポール企業をいくつか紹介する。機内食やゲートウェイサービスを提供するSATS1、テクノロジーサービス、製品・ソリューションのプロバイダーであるベンチャー・コーポレーション(Venture Corporation)1、シンガポールのコングロマリットであるケッペル・コーポレーション(Keppel Corporation)1だ。これらの企業は、ポストコロナの新しい環境で成長分野の優先順位を修正しつつ、新たな成長機会を獲得している。

1個別銘柄やセクター名が言及されていますが、あくまでも参考として記載したものです。個別銘柄の購入・ 売却・保有等を推奨するものではなく、いかなる投資助言を提供するものでもありません。

SATSはフードサービス、ファストカジュアルフード、小売分野を中心に、機内食以外の成長機会に焦点を当て事業再編を急速に進めている。また、航空業界の回復を待つ一方で、特に航空貨物の輸送能力を活用して電子商取引や医薬品の取り扱いといったサプライチェーンのビジネスチャンスも獲得できると見込まれる。

ケッペルは急ピッチで再生可能エネルギーに軸足を移しており、インフラや不動産の持続可能な開発企業として台頭している。ここ数ヶ月は、オフショア、海洋、物流、インフラ分野で新たな成長の道筋を検討するため、事業の変革プランを練って戦略的な見直しを進めてきた。

一方、ベンチャー・コーポレーションは、ヘルスケアとライフサイエンス分野で成長を遂げる中、先進的な製造・医療技術企業として台頭してきた。パンデミックをきっかけに、ベンチャーが検査キット、ポイントオブケア(POC)診断ツール、ワクチン研究設備など、新たな収益分野における医療診断機能の開発に着手するものと当社は考える。

シンガポール市場の見通しと戦略

シンガポール経済が再開し、パンデミックの影響が緩和されるにつれ、世界的な鉱工業生産と国内の経済活動の回復にけん引され、2021年はシンガポールの成長率が持ち直し、6%近い実質GDP成長を達成すると当社は見込む。コロナワクチンに関する朗報に支えられ、2020年初頭に相次いだ企業業績の大幅な下方修正とは打って変わって、2020年11月以降は大きく改善している。ワクチンに対する楽観的な見方と、輸出主導のGDPの回復を背景に、2021年も企業業績の上方修正は続くと予想される。

2020年11月の相場急騰により、シンガポール株はもはや危機時のバリュエーションでは取引されてはいないものの、2021年の回復はまだ完全に織り込まれていないと当社は考える。シンガポール株のPER(株価収益率)は過去平均の13倍に対して2021年予想は14倍となっている。年内に業績予想が上方修正される公算も大きく、シンガポール市場の魅力はまずまずだと言える。また、シンガポール市場のPBR(株価純資産倍率)も1.1倍と低く、2008年の世界金融危機時の1.0倍や、1998年のアジア金融危機時の0.8倍に近い低水準だ。配当利回りにおいても、シンガポールの配当利回りは4%を超えると見込まれ、まずまずの魅力の市場となっている。

確信度の高い投資という観点では、成長の安定性を維持し、景気回復に伴い株価が回復する公算の大きい銘柄やセクターが2021年のリターンを下支えするだろう。当社は、持続可能なリターンが高く評価され、積極的にイノベーションを追求し、シンガポールの変革シナリオから大きな恩恵を受けるとみられる銘柄について投資判断をポジティブに据え置く。また、景気循環の追い風や世界貿易の本格的な再開による輸出回復の恩恵を受ける可能性が高い銘柄も選好する。

2021 年においては資本財銘柄とIT銘柄が最も魅力的である。原則論として、世界的な工業セクターの景気循環が追い風に働く銘柄や、輸出回復の恩恵を受けるITサプライチェーンの銘柄を選好する。シンガポール経済の回復に伴い、両セクターの収益にはポジティブ・サプライズの余地がある。当社はまた、両セクターがパンデミック以前の2019年の収益水準に回復し、なおかつそれを上回る力強い成長を見込めるものと考える。生活必需品銘柄に関しては、魅力が低減していると判断し、これまでの楽観的な見方を弱めている。金融銘柄については、信用サイクルの最悪期は過ぎたとの判断から、2021年は特定銘柄に絞って強気な見方をしている。通信銘柄は、セクターの成長見通しがあまり魅力的でないため、慎重な姿勢を取る。不動産銘柄も、中小企業の倒産や失業率の上昇に伴う空室率の上昇や債務不履行(デフォルト)の増加を理由に、賃料だけでなく不動産価格も下落する可能性があることから、慎重姿勢を維持する。

2021年は高配当投資に期待

配当株戦略にとって2020年は良い年だった。特に、全般的な業績悪化や減配の中で、増配を維持できた銘柄に着目した戦略が奏功した。2020年の株式市場全体のリターンはマイナスだったが、安定性のある成長見通しと、ディフェンシブな収益・配当を期待できる配当株はいずれも市場をアウトパフォームし、絶対リターンをもたらした。

2021年も配当株投資を取り巻く環境は引き続き良好だと見ている。相次ぐ利下げの結果、現在のシンガポールの金利では、配当利回りの対債券利回りのスプレッドが3%を超えており、世界金融危機後の平均と比べても魅力的な水準となっている。当社は、低金利環境の中で1株当たりの配当金を維持できると十分に見込める企業の投資判断をポジティブに据え置く。また、高配当の質の高いMoat銘柄(競争上の優位性を有する企業)に関しては、利回りを求める新規の投資資金が価格を押し上げることになると考える。不動産関連では、工業・物流施設のリート、インフラ事業の投資信託、厳選したリテールリートなど、景気回復局面で恩恵を受けると思われる銘柄に対し、最も強気な見方をしている。

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