アジア、そして世界の経済成長の牽引役は中国からアセアンとインドへ移行すると予想される。過去との違いは、インダストリアライゼーション(工業化)が家計所得の拡大を通じて消費成長を促し、それによって生まれる国内需要がさらに直接投資を呼び込むという好循環の確立である。


世界経済の中長期的成長ドライバーに

次の10~20年に亘り、アセアンとインドが世界経済成長の原動力になると予想されている。各調査機関の長期経済成長予測では、同地域が最も高い経済成長を遂げると予想されている1。米中緊張に始まった地政学的情勢やコロナ禍を経て、2021年頃よりアセアンとインドへのサプライチェーン・シフトが本格化し始めた。特に、一部諸国における政治主導の構造改革、インターネット普及によるオンライン銀行サービスの普及とそれが促すオンライン消費、既に築き上げた産業集積が今後予想される経済・産業発展の本質的な原動力になる。このような世界を取り巻く環境と各国国内の変化を背景に、豊富な労働人口と大きな消費人口という従来から備えた成長ポテンシャルが顕在化するとの見方がより正しいだろう。

1Goldman Sachs Global Investment Researchは2022年12月6日時点において2024年~2049年の年平均実質GDP成長率をインド4.5%、アセアン3.3%と世界で最も高い成長率を予想している。PwCは2017年2月時点において、2016年~2050年の同成長率をインドが7.7%と世界1位、ベトナム7.4%と2位に予想し、インド及びアセアン6ヶ国(シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナム)ではシンガポールを除いて全諸国が世界上位15位以内に入ると予想している。

発展の契機となるインダストリアライゼーション(工業化)

豊富かつ安価な労働力人口、そして世界最大の消費人口を抱えるアジア諸国への地理的アクセスの良さは、世界の製造業企業にとってアセアンとインドが重要な生産拠点となることを示している。過去20年間は中国の時代であった。世界の工場として台頭した中国では、今後は労働力人口が減少する見通しである。反対に、アセアンとインドは労働力の拡大が予想される数少ない地域である。さらに、中国では過去20年間において賃金が上昇し、今やアセアンとインドの労働コストは中国よりも低くなった。アセアンとインドにおける生産拠点の新設及び拡充は、単に地政学的リスクを理由に中国からサプライチェーンを移転するというものではなく、構造的な要因によって起こりつつあり、長期間に及ぶ変化になるだろう。

サプライチェーンの拡大において、特に注目される分野が半導体・電子機器である。シンガポールとマレーシアではサプライチェーンが既に確立しており、過去1~2年間も世界有力企業の工場新設の報道が続いている。また、自動車では従来から生産ハブとなっているタイが挙げられるほか、インドネシアが電気自動車分野において台頭しつつあり、既に多くの製造業が工場投資を発表、実行している。このような最終製品を製造する工場の新設は、現地製造企業への需要拡大の契機となり、さらに物流ニーズや銀行の貸出需要へと幅広い分野へ恩恵が広がると期待されるため、多くの投資機会が既に生まれている。

もう一つの注目すべき分野がエネルギー・トランジションである。アジアは世界エネルギー消費の半分以上を占める2。さらに、現在の一人当たりCO2消費量が先進諸国と比べて低いことを鑑みれば3、今後の経済発展に伴ってエネルギー消費が一段と拡大する可能性が高い。この巨大なCO2排出地域が再生エネルギーへ移行する上で急速なトランジションが求められる。シンガポール、マレーシア、ベトナムは2050年、インドネシアは2060年、タイは2065年までにネットゼロを達成する方針を表明している。インドでは、「ハイブリッド・EV車生産・普及促進(FAME)」を導入し、電気自動車や充電ステーションの設置に対して政府が補助金を提供するほか、発電分野における再生エネルギー利用も進んでいる。産業及び企業レベルの取り込みが進む中、再生エネルギーに特化したエネルギー企業、従来型公益企業が再生エネルギー事業へ移行することによって生まれるトランジション等の投資機会が存在する。

インドネシアの電気自動車バッテリー分野も有望である。インドネシアはジョコ政権下において経済発展へ向けた構造改革を実行中であり、現在の代表的政策が電気自動車バッテリー・サプライチェーンの国内における確立である。世界第二位の埋蔵量を誇るニッケル資源を活用し、電気自動車バッテリー向けに資源自体を輸出するのではなく、国内に電気自動車バッテリーのサプライチェーン全体を誘致するという政策を進めており、その恩恵を受ける企業が有望な投資機会となっている。

2Our World in Dataのデータに基づくと、2022年の世界エネルギー消費に占めるアジアの比率は53.9%。

3Our World in Dataのデータに基づくと、2021年の年間人口一人当たりCO2消費量はインドが1.9t、インドネシアが2.3tと、米国の14.9t、日本の8.6tを下回る水準にある。

製造業の雇用増、銀行口座の普及、オンライン利用の拡大が消費の起爆剤に

20億人を超える人口を抱える地域において、人口主体が低所得層から中間所得層へ移行したケースは例がない。アセアンとインドでは過去に例を見ない規模で中長期的に中間所得層が拡大し、消費成長ポテンシャルが本格化する見通しである。現在、同地域では一人当たり名目国民純所得が米国の1割前後に留まっていることを踏まえれば4、その成長は初期段階にあると言える。そして重要な点として、生産、小売、オンライン消費分野等において国内企業が事業基盤を整えており、今後の消費成長の恩恵を直接的に享受することが挙げられる。

今後の家計所得拡大の原動力は、インダストリアライゼーション(工業化)である。直接投資によって製造工場の新設とともに雇用が創出されて、さらに賃金上昇を通じて家計所得が増加すると期待される。これは、過去20年間における中国が経験した発展パターンである。今後10年以上に亘ってその成長が中国以上に人口が多い地域において起こり、多様な投資機会が生まれると予想される。

世界各国の所得と消費の関係性を鑑みれば、所得成長の初期段階において消費が最も拡大すると考えられる。この成長初期段階における消費拡大は、タンパク質源となる肉類を含む食品や医療等の必需品・サービスから自動車・嗜好・レジャーを含む非必需品・サービスまで、幅広い分野で起こると予想される。アセアンとインドは消費成長カーブの傾きが最も急な段階に位置しており、優れた成長投資機会をもたらすだろう。

4出所:世界銀行「World Development Indicators」

オンライン消費の成長も重要な投資機会を生むと考えられる。過去数年間において、アセアンとインドでは銀行口座の普及が高まったことから、より多くの消費者がオンライン支出を利用し易くなった。さらに、2019年末以降に拡大したコロナ感染が、スマートホンを通じたインターネット利用の拡大にも繋がった。日欧米中と比べて店舗型小売業のフランチャイズや物流網の成熟度が低く、人口構造においてもインターネット利用の主体となる若年層の割合が大きいことを踏まえると5、中国が経験したように消費拡大と同時にオンライン支出の成長が急速に進む可能性がある。

5国際連合「World Population Prospects 2022」に基づくと、2021年時点の平均年齢はアセアン30.0歳、インド27.6歳と日本48.4歳、欧州41.7歳、北米37.9歳、中国37.6歳を下回る水準にある。

魅力的な投資タイミング

世界経済が成長の減速と今後3-6ヶ月以内の政策金利引き上げの終焉を迎えるというシナリオを前提とする限り、耐性の高い経済成長が続くアセアン・インドの株式市場の投資魅力が高まっている。また、世界の投資家にとっては以下に挙げる理由により、アジア株式市場におけるアセアンとインドの相対的魅力も高まるだろう。2021年までの過去10年以上に亘って、アジア株式市場では中国が最大かつ好パフォーマンスの市場として上昇を牽引してきた。中国が「世界の工場」としての地位を確立し、さらに消費市場の拡大も重なったことにより、株式市場が幅広く恩恵を受けた。ただし、潮目は変わりつつある。今後はアセアンとインドが主要製造拠点の一つとして台頭し、その効果が消費拡大へ広がることによって、アジア株式市場における存在感が高まる見通しである。株式市場における短期的なドライバーとして、以下の3点が挙げられる。

  1. 相対的に高く、耐性の高い経済成長: 2024年~25年は欧米の経済成長ペースの減速が見込まれており、さらに中国も現時点では緩やかな経済回復という見通しが支配的である中、アセアンとインドの経済成長は堅調に推移する見通しである。その結果として、欧米及び中国等のその他主要諸国との経済成長ペースの格差が広がると予想される。直接投資の拡大が生む産業需要と家計所得の増加を通じた消費需要の拡大を背景として、相対的な経済成長ペースの上昇が株式市場の原動力になると期待されます。
  2. 米ドル上昇の一巡がアセアン株式市場への追い風に: ヒストリカルに米ドルとアセアンを含む新興国株式市場との間には逆相関性があり、今後米ドルが弱含む場合にはアセアン・インド株式市場に恩恵を与えると考えられる。その理由として米ドル安局面では投資資金が米国からその他新興諸国へ向かうことが挙げられる。現在は米国の利上げ見通しが引き続き流動的ではあるものの、インフレーションの減速に伴って利上げが終焉する局面では米ドル上昇が一巡し、アセアン・インド株式市場へ投資資金が回帰することによって株価を支援する可能性がある。
  3. 政治見通しの改善: 特にタイ、インドネシア、インドにおける政治不透明性の後退が株式市場を支える可能性がある。タイでは2023年8月にポピュリスト志向である貢献党のセター氏が新首相に選出されて、2014年以降続いた軍事政権が終焉を迎えた。セター新首相は、現金給付を含めた経済刺激策を発表しており、財政収支に配慮する必要があるものの、経済成長の支援に前向きな姿勢を明確にしている。インドネシアでは2024年2月に大統領選挙が予定されている。現ジョコ大統領が経済発展の土台となる構造改革に成功してきた中、次期政権もその方針を原則的には踏襲する可能性が高い。インドでも2024年前半に総選挙が予定されている。現モディ首相が構造改革によって経済発展の土台作りに成功してきた後であるため、インドネシアと同様にその後の政策が注視されている。ただし、モディ首相の3期続投の可能性はあるほか、首相交代の場合でも成功した政策の転換は考え難いと見る。何れの国々においても、選挙後は政治不透明性の後退が株式市場にとってはポジティブとなるほか、選挙後に経済支援策が発表される場合には株価のカタリストになる可能性がある。

まとめ

低金利環境における米国株式の好パフォーマンス、同時期に起こった中国の経済発展とインターネット銘柄の台頭の中で、特に2010年代以降はアセアン株式のポテンシャルが過小評価されてきた。ただし、インド、ベトナム、インドネシアでは経済及び産業の発展がその間も株式市場を支え続けている。さらに2018年以降の米中緊張、2019年末以降のコロナ禍やサプライチェーン分断を経て、その発展トレンドがファンダメンタルズの変化を通じて本格的かつ幅広い領域で起こる条件が揃ってきた。事実、アセアン・インド株式の動向を見ると欧米や中国株式に影響を受け易い新興国という過去の特性は薄れつつあり、国内の経済・産業がより重要なドライバーになっている。同地域の経済発展は今なお初期段階にあり、今後は世界経済におけるその重要性の高まりが、株式市場においても評価される可能性が高い。


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