本稿は2021年12月15日発行の英語レポート「2022 Singapore Equity Outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
サマリー
- 2022年にはコロナ禍からの回復というテーマが引き続きシンガポール経済を下支えすると予想している。2022年はシンガポール経済のエンジンである主要分野において成長が広がりをみせ、経済活動の再開が進むなかでサービスセクターがより急速に回復すると予想される。
- 金利については、物価や事業コストの上昇を受けたマクロ経済政策の引き締めにより圧力が強まるなか、2022年に上昇する見通しである。インフレは予想されていたほど一時的なものではない可能性があり、2022年には賃金や事業コストの上昇が政策による逆風をもたらすかもしれない。
- したがって、質の高い利益成長を遂げており、利益の維持・防衛を可能にするディフェンシブ・グロース特性の発揮が期待される企業を重視している。また、インフレ加速が不安材料となっているなか、インフレ環境下で強力な価格決定力を有している銘柄も選好している。
- 2022年のアルファ獲得機会についてはポジティブな見方をしており、成長性の二分化の深まりが銘柄選択機会につながると考えている。金融、資本財・サービス、消費者関連およびテクノロジーセクターを選好し、通信および不動産セクターに関してはより慎重な見方をしている。
2022年の展望
シンガポール経済は回復の道を辿っている。2021年に景気はすでに急回復しているが、コロナ禍からの回復というテーマは引き続き変わることなく、2022年のシンガポール経済を下支えすると予想している。2022年はシンガポール経済のエンジンである主要分野において成長が広がりをみせ、経済活動の再開が進むなかでサービスセクターがより急速に回復すると予想される。
金利については、物価や事業コストの上昇を受けたマクロ経済政策の引き締めにより圧力が強まるなか、2022年に上昇する見通しである。インフレは予想されていたほど一時的なものではない可能性があり、2022年には賃金や事業コストの上昇が政策による逆風をもたらすかもしれない。物価や人件費が上昇している一方で企業収益成長の勢いが鈍化しており、2022年における企業のマージンや利益の見通しは厳しさが増している感がある。当社では、質が高く持続可能な成長を遂げている企業へ投資することが重要とみている。そうした企業は足元のマクロ環境においてアウトパフォームすると考える。
株式のリターンは、二桁台にのぼった2021年の水準からは低下する可能性がある。2022年の投資機会の源泉は銘柄選択、そしてシンガポール市場の二分化の進行によってもたらされる機会になるとみている。金融、資本財・サービス、消費者関連およびテクノロジーセクターを特に選好する一方、通信および不動産セクターに関しては慎重な見方をしている。
シンガポールは回復継続へ
振り返ってみると、2021年はシンガポール株式市場にとって良い年となった。ストレーツ・タイムズ(ST)指数のトータルリターンは2021年12月3日現在で12.5%にのぼり、2020年のマイナス分(-8.1%)を十二分に取り戻している。貿易や製造業の輸出の力強い回復などを受けて2021年の企業収益は急回復した。それに加えて緩和的な政策や魅力的なバリュエーションも追い風となり、シンガポール株式市場は二桁台の好調なリターンを達成し、一躍2021年のアジア株式市場のなかでトップクラスのパフォーマンスとなった。
2021年には経済、株式市場、企業収益がみな2019年のコロナ前の水準へと回復したが、2022年も同様にコロナ禍からの回復というテーマが引き続き主流になると予想している。シンガポールのGDP成長率は、2021年第3四半期までの1年間ですでに7%超に達しており、2019年のコロナ前の水準を上回っている。こうした景気回復においてもう1つの見事な点は、2021年第3四半期において、アセアン6ヵ国のなかで実質GDP成長率(季節調整済み)が2019年第4四半期の水準を上回ったのはシンガポールだけだったことだ。
今後に目を向けると、域内諸国の経済活動再開や供給面の混乱の正常化を追い風としてシンガポールの景気は拡大し、GDP成長率は2021年に前年比7%に達し、続く2022年も同3~5%にのぼると予想される。また、サービス業の活動が製造業並みの水準へより近づくなか、2022年の経済成長はよりバランスのとれたものになるとみている。確かに2021年においてシンガポール経済の星であった製造業や輸出向けのセクターは、2022年に成長が徐々に失速する可能性もあるが、世界的な需要好調継続を受けて底堅く推移し続ける見通しだ。2022年を迎えるなか、サービスセクターは回復が進み、シンガポール経済の成長加速の大部分を支えていくと考える。卸売・小売、輸送・倉庫およびサービス分野は、新型コロナウイルスがエンデミック(一定地域で普段から継続的に発生する状態)になる新常態へとシンガポールが移行していくなか、ポジティブサプライズをもたらす可能性がある。従来からシンガポール経済への寄与度が大きい重要分野となってきた輸送サービスは、人の往来再開に伴って2022年に力強い回復を遂げていくことが期待される。
グロースおよびクオリティ銘柄がアウトパフォームし始める見通し
MAS(シンガポール金融通貨庁)は、先日完了した年に2回のマクロ経済レビューにおいて、インフレがコロナ禍を要因とした一過性のものではなく、より根強いものとなるリスクがあるとみており、インフレの兆しを注視しているとの見解を示した。また、こうした状況を受けてMASは2021年10月、供給の混乱や賃金上昇が引き起こしている消費者物価やインフレ圧力の高まりに対処するべく、金融政策を引き締めた。
2022年を迎えるなか、インフレリスクは一段と高まっている。消費者物価と生産者物価に乖離がみられていることから、価格において企業が直面しているコスト圧力は高まっている様子であり、2022年にはこれが最終的に消費者物価へ波及していく可能性がある。こうした背景のなか、MASはインフレに対する警戒姿勢を維持し、必要なときには政策の引き締めに動くであろうと考えられる。経済の再開が徐々に進むなか、国内の物価圧力を受けて、サプライチェーンのボトルネックを要因としてすでに存在する供給サイドの圧力が一段と増大する可能性もある。もしインフレ率が2.0%を超える水準で推移し続ければ、MASは2022年4月の次回政策会合でさらなる引き締めに動くと予想される。
また、政策の引き締めは株式市場にも影響を及ぼすとみられる。米国では2021年の終わりにテーパリング(量的緩和の漸進的縮小)が開始され、FRB(米国連邦準備制度理事会)は2022年の中頃まで資産購入規模の縮小を継続する可能性がある。国内のインフレがそれほど一時的なものではなくより根強いものとなれば、企業の直面するコスト圧力が増すことは避けられないため、当社では、成長性およびクオリティの高い企業を選好することが賢明だろうとみている。成長性が希少である局面や、金利の上昇、コスト増加要因の存在、収益モメンタムの鈍化によって企業の利益に関する不透明感が強まるときにおいて、グロース銘柄やクオリティ銘柄は相対的に好調に推移する傾向があると考えている。
2022年においては、質が高く持続可能な利益成長を遂げている企業が市場全般をアウトパフォームすると予想しており、循環的成長、モメンタムまたはバリューのみを頼りとしている企業よりも選好している。2022年は成長性がより希少となり、投資家は銘柄やセクターの選択において増益の見込みや確実性に対してより大きな対価を支払うとみられる。したがって、質の高い利益成長を遂げており、利益を維持・防衛することができるディフェンシブ・グロース特性の発揮が期待される企業を重視している。また、インフレ加速が不安材料となっているなか、インフレ環境下で強力な価格決定力を有している銘柄も選好している。インフレ局面においても、クオリティ特性やグロース特性はパフォーマンスにおいて大きな役割を果たすとみている。
成長鈍化や政策正常化に伴うアルファの復活
2022年の株式のリターンは、二桁台にのぼった2021年の良好な水準から低下すると予想している。これは、急激な景気回復段階から、景気拡大サイクル中盤にありがちな緩やかな成長局面へ入るときの典型的な展開である。また、金利上昇を背景に、市場のバリュエーションは魅力が薄れているように見受けられる。このことは、2022年における市場全体のリターン(ベータ)の低下要因となる可能性がある。市場ではPER(株価収益率)の上昇余地が減り、利益成長全般をめぐる不透明感が強まっている。
2022年のアルファ獲得機会についてはポジティブな見方をしており、成長性の二分化の深まりが良好な銘柄選択機会につながると考えている。また、成長の持続可能性がより高い一方でバリュエーションが割安な水準にあるセクターは、希少性プレミアムによってバリュエーションが上昇する可能性があるとみている。このように成長性と利益を一層重視しているなか、2022年に増益傾向の継続が見込まれるセクター、そして利益の低調さを埋め合わせられるほどの成長余地を持つセクターを選好している。このカテゴリーにおいては、2022年に業績上方修正が進む可能性が十分にあるとみているテクノロジー、資本財・サービス、一般消費財や生活必需品を選好している。
公益や資本財・サービスについては、エネルギー価格の上昇が追い風となっていることや、サステナビリティ投資の継続的推進というテーマが拡大してきていることから、有望視している。原油やコモディティ価格の上昇は一部の資本財・サービス銘柄の利益を下支えする見込みである。また、再生可能エネルギー関連の投資機会やその移行に関連するストーリーにおいては、企業の利益の持続可能性における良好な変化を特定しており、有望視している。
2022年の一般消費財セクターについては、アセアン諸国における消費拡大の進展を取り込むことができるシンガポール企業を中心としてよりポジティブな見方をしている。2022年にはアセアン諸国の消費が回復すると予想している。同地域は出遅れていた反動から、他の大半のアジア諸国よりも急速な加速をみせると考えられる。インフレヘッジ手段として有効とみている生活必需品セクターも選好している。足元の株価調整を受けてバリュエーションがより魅力的な水準にあり、2022年を迎えるなか、コモディティ価格の上昇を受けて相対的な利益成長力も改善している。同セクターのなかでも、環境・社会・ガバナンスに関する重要分野の改善に取り組んでいるなど、はっきりとした好変化を特定している企業を特に選好している。
また、ITハードウェアも有望視している。足元におけるサプライチェーンの混乱が克服されれば、同セクターは株価の見直しが進むと期待される。各国政府によるロックダウン(都市封鎖)措置や部品材料不足は世界のサプライチェーンに著しい影響を及ぼしており、これらのボトルネックが政府による制限緩和やサプライチェーン問題改善に向けた民間の取り組みを通して軽減されれば、テクノロジー関連企業は経済全般の再開や、製造業および貿易分野の設備投資の持ち直しの波に乗ることができるとみられる。シンガポールのITハードウェア企業の大半は、従来の水準からみた場合や域内の競合他社と比べた場合、バリュエーションも魅力的な水準で推移していると考えられる。
当社では、一部の金融銘柄を選好しており、銀行は引き続き金利上昇の恩恵を受けるとみている。銀行は、域内における貿易協定の動きの再開に伴う融資機会の恩恵を受けている。eコマースなどのコミュニケーション・サービスについても、今後数年の成長性が魅力的であることから有望視しているが、バリュエーションについてはより慎重な見方をしている。成長見通しがさらに冴えない電気通信については慎重な見方をしており、また、金利上昇や流動性環境の引き締まりを受けて不動産およびREITについても比較的慎重な見方をしている。
新生シンガポールにおける企業再編の動き
シンガポールにおける企業再編のテーマについては、ポジティブな見方を維持している。2022年には、コロナ後の経済における競争力を向上させるためにイノベーションを取り入れている企業や、サステナビリティへの取り組みにおいてポジティブな変化を取り入れている企業がより企業再編の恩恵を享受するだろうとみている。企業がそれぞれの事業再編の実行に成功すれば、全体的な利益の持続可能性に関するポテンシャルが高まり、バリュエーションの見直しが進むと考えている。
2022年は経済再開の恩恵を受ける企業に対してより明るい見方を持っており、事業再編を実施している企業は、エンデミックとして新型コロナウイルスと共存する新常態への移行において有利な立場に立てるとみている。その一例は民間の医療事業者であろう。これらの企業は、自社の柱である病院事業が苦境に立たされたなかでも立ち上がり、政府による新型コロナウイルスの検査やワクチン接種の取り組みをサポートしてきた。現在、こうした事業再編のおかげで、シンガポールの新基準である「検査、追跡、ワクチン接種」という取り組みが追い風となっており、ヘルスケアサービス分野のビジネス規模はコロナ前の水準の2倍に拡大している。また、アセアン諸国が国境封鎖を解除し人の往来を再開できる水準にまでワクチン接種率が上昇してきていることは、シンガポールの外国人向け医療ツーリズムの力強い復活を意味する可能性もある。より多くの外国人患者が選択的な医療処置のために再び訪れるようになり、また、新型コロナウイルスの検査義務を受けてヘルスケアサービス分野の成長が続くとみられる。
再生可能エネルギー分野におけるエネルギー転換のストーリーについても、シンガポール株式会社にとって成長や変貌が期待される分野をもたらしている。これがとりわけ高い関連性を持つのは資本財・サービスセクター、そのなかでも特にサステナビリティ投資の機会が拡大しつつあるインフラおよび公益事業関連分野であるとみている。また、脱炭素化施策を通して再生可能エネルギー利用割合を拡大させる明確かつ積極的な計画を打ち出している企業、グリーンファイナンスを活用している企業、成長に向けて回収した資金を再投資するキャピタルリサイクリングを加速させている企業など、再生可能エネルギーへの転換に関する取り組みが進んでいる企業も選好している。こうして再生可能エネルギーの利用が拡大しているなか、アセアン諸国の政府も脱炭素化の計画を加速させている。順調に実行されれば、企業は利益の持続可能性を向上させられるとともに、株価の見直しが進みバリュエーション指標の水準が上昇していく可能性があると考えている。
増配率に対する注目が高まる
高配当株投資は、金利が上昇し経済成長が鈍化する局面において引き続き有効であると考えている。2022年には成長減速を背景に、資本の保全やリターンの持続性は収益源泉としての重要度がさらに高まるとみられる。当社では高配当株投資についてポジティブな見方を維持しており、足元のマクロ環境においては高配当株や増配株への注目が高まると予想している。
債券利回り上昇局面は、必ずしも高配当株の見通しを悪化させるものではなく、むしろ配当成長の重要性を際立たせると考えている。また、シンガポールでは債券利回りが上昇しているものの、債券利回りに対する配当利回りのスプレッドが引き続き魅了的な水準にある。このスプレッドは、配当水準の高い企業にとっての下支え要因となり続けるであろう。2022年の高配当株投資における戦略としては、金利上昇局面にあって配当成長の機会がより希少となる可能性があるとみられ、配当利回りよりも配当成長率への注目が増していくだろう。したがって、全般的に増益率が鈍化していくなか、配当水準が高く、かつ上昇している企業は株価の見直しが進み、バリュエーション水準が上昇する可能性がある。
利益の質および持続性も高配当株投資のパフォーマンスの重要なドライバーとして注目されるとみている。当社では、2022年に増配が見込まれる一部の金融、資本財・サービスおよびテクノロジー企業を有望視している。また、商業施設や物流施設に特化した一部のリートも2022年にアウトパフォームするとみている。商業施設系リートはシンガポールの商業活動再開の恩恵を受けるとみられるほか、物流系リートについては、テクノロジー、輸送、金融サービス分野における域内の製造拠点としてシンガポールの果たす役割が拡大していることが追い風になるとみられる。
2022年の重要テーマは景気回復、金利、利益
以上をまとめると、シンガポール経済の成長ストーリーは2022年も続き、サービスセクターの回復による寄与が拡大するとみている。また、こうした景気回復継続により、シンガポール株式市場では企業利益の伸びが支えられるであろう。2022年にはインフレ加速および金利上昇が不安材料として付きまとうとみられる。当社では、利益成長が鈍化しコスト圧力が高まる局面において、質が高く持続的な成長を遂げる企業がアウトパフォームすると考えている。最後に、流動性や政策によるサポートが縮小していくとともに、世界的に経済成長が鈍化していくことを背景に、2022年には総じて株式市場のリターンが低下すると予想している。しかし、シンガポール株式市場におけるアルファ獲得の機会については、ポジティブな見方を維持している。利益成長の鈍化と政策引き締めによる逆風を受けて、セクター全般にわたって利益成長のばらつきが強まり、株式リターンの二分化が進行すると考えている。こうした状況は、銘柄選択に重きを置くストックピッカーに有利に働くというのが当社の見解である。2022年においては特に金融、資本財・サービス、消費者関連およびテクノロジーセクターを選好する。
当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。