KAMIYAMA Reports vol.211
- ここがポイント!
- ✔ ゼロコロナ対策明けの経済は回復軌道へ
- ✔ 産業と消費の構造的改革・RCEPの効用
- ✔ 経済システムのリスク
ゼロコロナ対策明けの経済は回復軌道へ
北京での冬季五輪(パラリンピックは3/13まで)が終わり、これからゼロコロナ対策の緩和期待が高まる。ここまでの中国経済は、特に消費面での回復が限定的であった。背景には、コロナ感染防止としての強い行動制限で消費が制約されたことや、不動産業界の不安定さへの懸念から不動産市場にもけん引力がなかったことなどがあった。
旧正月(春節)の連休(1/31〜2/6)が終わり、すでに実行されていた財政政策の効果に加え、3月に開幕した全人代(国会に相当)で示された22年通年で2.5兆元規模の減税を含む財政拡大や緩和的な金融政策の強化などにより、建設受注や素材需要の改善が明確になろう。
消費者心理も、五輪に関わる規制の緩和や、不動産問題の収斂で改善しよう。これまでの行動制限で、消費者は貯蓄を増やしてきたが、行動制限の緩和により後回しにしていた消費にお金が回り、景気をけん引すると予想している。パラリンピック期間中もコロナ対策は継続されるが、ローラー作戦(PCR検査と厳格な追跡管理)と局地的な移動制限ではなく、ゼロコロナと経済活動の両立を図る「上海モデル」導入への期待が高まる。
産業と消費の構造的改革・RCEPの効用
長期的な観点からの中国株投資は、3つの視点で考えれば良いだろう。それは、(1)付加価値の高いテクノロジー業界を中心とした産業の構造的改革、(2)国内消費の構造的改革、(3)RCEPを通じた輸出力強化である。
(1)付加価値の高いテクノロジー業界を中心とした産業の構造的改革:テクノロジー産業の成長のキーワードは、サイバーセキュリティ、デジタル化、エネルギー改革(CO2排出削減、電気自動車への転換など)とされる。テクノロジー開発の経済成長への効果の一例を挙げると、AI(人工知能)分野をさらに強化し、単なるデジタル化から事業領域を拡大するDX(デジタル・トランスフォーメーション)へと進化する企業の出現が期待できることだ。AIを利用して生産プロセスをIoT(モノのインタ-ネット)化し、効率を高める企業も増えていくだろう。
エネルギー改革については、インフラ投資の加速が期待できる。大手EV(電気自動車)企業であるBYDの本拠地・深圳では、すでに至る所に充電ポールが設置され、ほとんどのタクシーがEVに入れ替わっているという。今後、EV等への補助金延長となれば、航続距離を伸ばすために(伸ばせないと補助がでない)性能を引き上げるインセンティブが高まる。寒冷地など厳しい自然環境の地域が多い中国では「電池切れ」への恐怖心が強く、消費者はEVに否定的であったが、補助金に加えて性能改善が見込まれれば、EV販売の拡大が期待される。
(2)国内消費の構造的改革:政府による消費の構造的な成長支援が期待される。一例を挙げると、海南省を自由貿易港とし、関税免除などでアジア貿易のハブにすることや、同地域にショッピングモールも開発することにより、これまで海外観光に流れていた中国人のブランド品消費などをこの地に持ってくる、といったことだ。さらに、中国国内でMade in China(中国ブランド)が流行し始めており、今後伸びる可能性もある。共同富裕政策は、税制改革による再分配システムの強化を通じて消費を変えるとみている。例えば、不動産税(固定資産税)や遺産税(相続税)導入への言及は、これまで進んでこなかった中間所得層の拡大を実現させる手段の一つであり、消費を高度化するために避けて通れない税制改革に取り組み始めたと判断している。
(3)RCEPを通じた輸出力強化:アジア太平洋地域でのRCEP(地域的な包括的経済連携協定)協定の発効により関税が引き下げられ、中国の輸出環境が改善するとともに、中国ブランドが域内に浸透し、付加価値が高まるようであれば、先進国の生産拠点・中心国からの脱却が期待される。
経済システムのリスク
ロシアのウクライナ侵攻で中国への投資リスクが問題となりつつある。この紛争では、ロシアやウクライナとの貿易の停滞、世界的インフレ加速のリスクなどが挙げられるが、いずれも中国経済に与える直接的な影響は小さく、先進各国と同じだと考えられる。世界の主要企業にとって、台湾問題に関して、中国ビジネスは広い意味でリスクととらえねばならなくなりつつあるが、現時点では、中国は台湾統一を軍事侵攻ではなく、平和的に実現する姿勢を示しており、主要企業がロシア同様に中国からの撤退を考える方向に進まないとみている。とはいえ、多くの企業が新規投資に逡巡する恐れは、ウクライナ情勢が落ち着くまで当面続くかもしれない。
中国のビジネス規制環境は改善方向にあるとみている。総じて党や政府の行動が読みにくい指導中心から、ルール中心へと変わる兆しがある。典型例では、ネット小売りへの独占禁止法適用(出店企業への優越的地位の濫用の疑い)がある。不動産企業の破綻リスクへの対応は指導が強かったが、企業破綻法制(ルール)の整備につながりそうだ。
米中関係については大きく変わらないとみている。米国世論は相変わらず中国に厳しく、トランプ前政権が引き上げた関税を、バイデン大統領が引き下げる動きなどはみられない。さらに、中国に対する安全保障上の観点から、中国への主要ハイテク製品の輸出制限、通信など情報漏洩リスクのある製品の中国からの輸入制限は続くだろう。バイデン大統領は大統領令で、レアアースや衣料品、リチウム電池(EV向け)、半導体については100日以内に、国防や公衆衛生、情報通信、エネルギー、運輸、食糧生産については1年以内に、輸出入状況を報告するよう求めた。
結果として、中国は高度な半導体など主要製品の自主的開発を進め、国産化率を引き上げようとしている。具体的には、5ヵ年計画(21-25年)で掲げた重点7分野、次世代AI、量子情報、半導体、脳科学、バイオテクノロジー関連、ヘルスケア関連、宇宙関連に加え、米国が指摘するレアアース、リチウム電池、情報通信、食糧生産などが重点分野となる。リスク面だけを見るのではなく、そのリスクが中国国内の産業発展へのきっかけになる可能性も見ていきたい。
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