KAMIYAMA Reports vol. 144

  •  ここがポイント!
  • ✔ 中国経済や貿易摩擦、商品価格などの要因に振られすぎ
  • ✔ 移民が支える成長シナリオは継続
  • ✔ センチメントの改善に期待

中国経済や貿易摩擦、商品価格などの要因に振られすぎ

弊社オーストラリア拠点のオーストラリア債券運用担当のJohn Sorrellが来日したのを機会に、オーストラリア、特に豪ドル(対円)について考えた(以下は筆者の意見であり、特に断りがない限りSorrellの意見でも弊社の公式見解でもない)。為替市場は総じてセンチメント(投資家心理)に左右されるが、オーストラリア経済の成長トレンドは継続するとみられ、貿易摩擦に代表されるセンチメントの揺れは、実体経済の緩やかな改善で順次払拭されると考えられる。

筆者(左)とSorrell(右)

筆者(左)とSorrell(右)

オーストラリアに限らず、市場はセンチメントに左右されやすい。特に経済の成長スピードが低下する場合や、政治などの動向が不安定な場合は、センチメントに左右されやすくなる。私たちが豪ドル(対円)を見るときには、まずオーストラリアと中国との関連の強さ、次に石油価格など商品価格の動向を見ておくと良いだろう。

Sorrellが指摘したのは、一般に市場は中国とオーストラリアの関係を大げさに扱いすぎるという点だった。確かに、オーストラリアの輸出総額の30%*1を中国が占めており、重要な需要先であることは間違いない。商品分類別にみても、鉱石等(非食品原材料)や石炭等(鉱物性燃料)が輸出総額の63%*1を占めており、中国向けが多いようだ。しかし、中国は世界の工場であることから、これらは生産に使われ、最終需要地は米国、欧州、日本などと考えられる。その意味で、中国の政策や景気だけでオーストラリア経済の方向性を判断することは、少し行き過ぎといえそうだ。

オーストラリアの輸出動向(2017年)

(総務省統計局「世界の統計2019」をもとに日興アセットマネジメントが作成)
*上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

石油価格など商品(コモディティ)価格との連動性も高い。輸出品の多くが鉱石や石炭だから当然ではあるが、これも経済全体に占める内需の重要性(名目GDPに占める民間消費支出の割合は56%*2で日本と同程度)を考慮すると、行き過ぎ感がある。国内の雇用やインフレの推移も同等以上に重要だろう。

               

世界的な景気減速が予想される中、中国を含む世界経済の成長が弱まり、鉱石や石炭の需要は小さくなるかもしれない。商品価格は総じて低水準に留まると予想される。このような場合、“オーストラリア”を割安で買うチャンスといえる。なぜなら、市場は中国や商品価格について行き過ぎた悲観を持ちやすいからだ。ただし、どのようなきっかけで悲観が修正されるかを考えておくことが重要になる。

移民が支える成長シナリオは継続

長期投資では、タイミングを計るよりも、そもそも何がオーストラリアの経済成長の源泉であるかを知っておくことが大切だ。Sorrellは移民による人口増を挙げた。2018年8月の自由党の党首交代(ターンブル氏からモリソン氏に交代)が移民政策の縮小につながるような印象を与えた報道もあったが、成長戦略としての移民受け入れそのものが変わったわけではない、とみるべきだ。その後、2013年から与党としての地位を確立している自由党政権は、2019年5月の総選挙でも勝利し、総じて政治は安定している。

モリソン氏は、2013年に当時の担当大臣として不法な密航船を追い返す立場を取った。これは経済成長の裏づけとなる移民政策を変えるというよりも、密航や難民に法に則って対処しているに過ぎないとみられる。つまり、投資家としては、現政権が経済成長のトレンドを変えかねない移民政策の見直しをしているのではなく、それゆえ成長シナリオを変える政治的転換ではないと判断してよさそうだ。

センチメントの改善に期待

オーストラリアの政策金利は2011年10月末の4.75%から低下を続け、今年6月に1.5%から1.25%に引き下げたところだ。利下げというタイミングで経済が強くなるとは考えにくく、経済状況から通貨豪ドルが強くなるとも考えにくい。しかし、オーストラリア市場に対するセンチメントが中国経済の減速、米中貿易摩擦、世界的な景気減速に伴なう商品市況の低迷などに左右されやすいとすれば、バリュー投資のチャンスかもしれない。戦略的には、今後のスケジュールと、市場のセンチメントの変化をどのように想定するかがポイントになる。

豪ドル/円と豪政策金利の推移

(信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
*上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

5月の連休以降に悪化した米中貿易交渉については、本質的に解決する可能性は低いとみているが、6月下旬に開催されるG20サミットで政治的妥協が成立するとの見方も出ており、貿易摩擦に関するセンチメントは改善する可能性がある。中国について、昨年からのデレバレッジ政策の行き過ぎの見直しや貿易摩擦への対応で、財政拡大・金融緩和方向に向っており、今年後半にはその効果が現れてくると考えられそうだ。

世界経済の減速傾向は変わらないとみているが、7月から9月にかけて市場の期待通りにFRB(米連邦準備制度理事会)による利下げが進むことになれば、逆イールドが解消し、景気後退懸念も小さくなる可能性が高まる。

長期投資において、投資タイミングを計る必要はあまりないが、これからオーストラリアを投資先として選ぶとすれば、豪ドル(対円)の下落を米中貿易摩擦のせいにしすぎとの観点で、割安と判断することはできそうだ。ただし、この戦略は米中問題という政治リスクを取りすぎると考えることもできるので、政治的に安定してから投資することも適切と思われる。

注釈

*1 2017年時点
*2 2016年時点 いずれも出所「世界の統計2019」