KAMIYAMA Reports vol.203

  •  ここがポイント!
  • ✔ 人口と経済は違う:経済・株価は「1人当たり」が重要
  • ✔ これからは中国・新興国でも「1人当たり」が重要に
  • ✔ 人口増減で世界株式を売買しないで良い

人口と経済は違う:経済・株価は「1人当たり」が重要

「世界人口は2064年の97億人をピークに減少する――。米ワシントン大は20年7月、衝撃的な予測を発表した」(日本経済新聞8月23日付)。国連が2100年に109億人となるまで増え続ける、と試算してることは良く知られているが、今回の発表内容は、中国をはじめとする新興国の少子高齢化が想定以上に進むという警鐘だ。

仮に米ワシントン大の予測通りになった場合、私たちは投資方針を変更し、株式などリスク資産を減らすべきなのか。“現時点”での答えは「No」だ。なぜなら、人口だけが株価を決めるわけではないからだ。世界の人口増を頼りに株式に長期投資するのではなく、1株当たり利益が大事な株価指標になっているように、1人当たり国内総生産(GDP)の水準が上昇すれば、株式価値も上昇すると考えて投資することが適切だ。規模だけを頼りにする必要はない。

“現時点”と条件をつけた理由は、長期投資の成果は、世界各国の政府や企業が人口減に十分対応できるかに依存しているからだ。具体的には、生産性の向上、1人当たりの所得を増やすための政策や経営戦略などが求められる。

先進国の労働力人口(15-64歳)は、すでに2010年ごろから減少しているしかし、株価は2020年まで上昇している。労働力人口が減っても1人当たりGDPは緩やかに上昇しており、今後も上昇が続くと予想(IMF)されている。つまり、現時点では生産性が改善することで、1人当たりの所得が増えると予想されているのだ。これを支えるのが、インターネット・プラットフォーマーや宇宙産業、ロボティクスなどの新しい産業だ。付加価値が高いイノベーションや効率化で、1人当たりGDPは成長することになろう。

ポイントは、今後も先進国の労働力人口が減少すると予想されているが、企業活動の低迷は予想されていないことだ。効率化投資や産業構造の変化などが進むほか、新興国など人口増加地域の生産性向上と経済成長による需要増大が引き続き期待されるからだ。このように、経済成長は人口規模だけではなく、生産性の向上に強く依存している。

これからは中国・新興国でも「1人当たり」が重要に

「小康社会」を目指す中国の長期目標は、中等先進国並みの1人当たりGDPである。下記グラフでは、中等先進国の参考国としてイタリア、中国が重視するであろう比較国として台湾の推移を示した。

GDP統計で農業比率が高いインドなどの新興国は、産業構造の中心が第一次産業から第二次産業に移ることが期待される。工場などが労働者を求め、家族単位の農業から工業に労働者が移動すれば、1人当たりの所得が増加する。一方、農業も機械化などで生産性が向上しやすくなる。つまり、労働者が移動するとき、新興国が中進国(先進国に至る途上にある国)に歩を進めることになるのだ。

中国、タイ、ベトナムなどは工業化が進み、すでに中進国の水準に達していると思われる。ここからは、農業から工業への労働移動だけでは、生産性の向上が難しい段階まで来た、ともいえる。

農業から工業への労働移動が限界に達した状態を「ルイスの転換点」と呼ぶ。工業での賃金上昇などから人手不足が解消し、農業ではこれ以上人を減らせない状態から次のレベルに進むためには、工業製品の付加価値を高めるイノベーションと産業のソフト化(サービス化)が必要となる。今後、中国などの中進国は、まず半導体のバリューチェーンで重要な地位を築いた台湾のようになり、さらにファッション性の高い製品や高機能製品を自ら生み出すイノベーションで、欧米など先進国並みの1人当たりGDPを生み出せるようになれば、新興国を含む世界株式への投資は、「1人当たりGDPが増える」ことに投資している、と考えることができる。人口が増えること自体は経済規模を拡大させるが、貧しさも拡大させてしまうのでは、(その地域に株式市場があるならば)株式投資に値しない。農業から工業への労働移動、さらには工業製品の付加価値の向上、賃金上昇による需要拡大を満たす魅力的なサービスの提供などが、その地域の経済を生産性の観点から拡大させていく。ゆくゆくは、その地域への株式投資の魅力も増すはずだ。

多くの新興国が途上国から中進国に移行する中で、世界株式への投資は、先進国と中進国いずれにおいても、生産性向上によって高いリターンが生み出されることになろう。これは、米ワシントン大の予測通りに世界人口が減少する経済でも何ら変わりはない。1人当たりGDPの上昇や生活水準の向上などが、世界経済の発展にとって重要なのだ。

人口増減で世界株式を売買しないで良い

グローバルで活動するプロの投資家が、例えば「人口減が早く来る日本には投資をしない」などと言うこともあり、人口増が経済成長と株価上昇の背景にある、と考える投資家が多いと思われる。しかし、株式投資の本質は1株当たり利益であるから、経済全体で見るならば「1人当たりGDP」を重視すべきだ。人口増減で株式投資の成果を想定しなくて良い

世界の人口増のペースが緩み、人口減も思いのほか早く来ると想定するならば、投資の注目点は、正しい政治・政策の実行と、企業が稼ぐ力を発揮するための意思になる。政治の揺らぎが大きいトルコなど新興国の政策が安定するかどうかや、利益より設備投資が少なく内部留保が肥大化した日本企業が、稼ぐ力を発揮する投資を増やせるかどうかなどに着目している。

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