KAMIYAMA Reports vol.205
- ここがポイント!
- ✔ 米国金利上昇は経済の正常化が背景
- ✔ 新興国が米国の需要増に支えられれば問題はない
- ✔ 米国金利と関係性が弱い中国やロシア
米国金利上昇は経済の正常化が背景
米国金利の上昇が新興国に悪影響を及ぼすのではないか、という懸念がある。しかし、そもそも「新興国」を一括りに分析することは不適切で、米国との貿易や金融の関係性が弱い国ではあまり影響を受けない。一方、関係性が強い国では、例えば米国への製品輸出が多いブラジル企業が米ドル建て社債を発行している場合、米国金利の上昇で米ドル建て債務の金利負担が増大するようにみえる。米国金利上昇の背景は、米国の財政出動などによるコロナ禍からの経済回復・正常化にあると考えられ、メイン・シナリオではないが、ここ数十年になかったほどのインフレ継続や金利上昇がないとはいえない。しかし、先の企業の例では、米ドル建て債務の返済原資が米国国内での売上にもあるのだから、輸出した製品が米国のインフレ分高く売れることで金利負担がある程度カバーされることになる。金利負担と販売額の拡大はそもそも表裏一体なのである。
米国金利上昇による米ドル高と返済額の上昇を懸念する声もある。しかし、ブラジルを例に取れば、米国金利が上昇すれば中央銀行も金利を引き上げ、為替相場の急落を食い止めようとするかもしれない。これはブラジル国内の金利を上昇させるので景気を冷やすかもしれないが、ブラジル企業の返済能力は維持される。仮に、中央銀行が何もせず米ドル高になっても、ブラジル企業は米ドル高を利用して値下げで販売量を増やすことで、返済原資を得ようとするだろう。つまり、インフレによる米国金利上昇は、健全な経済では新興国企業に大きな影響を与えないといえそうだ。
新興国が米国の需要増に支えられれば問題はない
前述のように、米国の需要が伸びながらインフレとなり、米ドル高・米金利高が起きても、必ずしも、それ自体が新興国に悪影響を及ぼすことはないだろう。
FRB(米連邦準備制度理事会)が本年11月にもテーパリング(量的緩和縮小)開始を決定するとの見方が強まっており、その後の金利高を予想して新興国の先行きを懸念することにも答えは同じである。つまり、2013年の「テーパータントラム*」と似たことが起きて、新興国から資金が逃避する可能性は低い。まずFRB議長は、市場に対して不意打ちとならないように、言葉多く(テーパリング開始の)タイミングの説明を積み重ねている。新興国側でも資金調達がさほど多くなく、外貨準備も増加し、通貨も過大評価されていないようだ。新興国企業は以前にも増して、国内金融市場に資金を依存するようにもなってきている。
*2013年5月、当時のバーナンキFRB議長がテーパリングに言及したのをきっかけに、米長期金利が急騰したこと
米国経済に依存度の高い新興国は、金利や為替は副次的な問題であって、コロナ禍からの回復などを背景とした米国の需要が強い限り、大きな問題が新興国だけに発生するとは考えにくい。また、新興国の場合、政治状況により為替や金利が変動することがあり、米国の金利動向とは関係しない場合もある。トルコの為替下落は、国内がインフレにも関わらず政策金利を引き下げたことによる、政治への信任低下が理由とみられる。一般に、国内経済の悪化を避けたいとしても、為替を安定させるために適切な利上げをしなければ、為替の下落による輸入価格の上昇や国内物価の高騰、社会問題の発生、政治・経済への不信任につながりやすい。米国の金利政策だけで新興国の経済を説明することに無理があるだろう。
米国金利と関係性が弱い中国やロシア
米国と金融の関係性が弱い中国やロシアなどは、米国の政策金利や米ドルの動向からの影響は限定的である。中国は、貿易に関して米国依存度が高いが、金融についてはさほど強い関係があるとはいえない。
中国の不動産開発大手・恒大集団について、米ドル建て社債の金利支払いの遅延が話題となった。中国の不動産会社なので、米国輸出が大きいはずがない(今後、電気自動車事業の進出で輸出増大の可能性はある)。民間企業である恒大集団が米ドル建て社債を発行した理由は不明だが、一般に中国国内の金融システムが十分機能しない場合もあるので、米ドルのネームバリューを利用した調達を行ったのかもしれない。このように、商品の販売先が米国ではないケースでは、米国の景気や金利と、自社の返済能力に関連性がないため、米ドル建て債務を返済するに際し、米国金利の上昇や米ドル高は望ましくない。
中国の民間企業の中で、しばしば米国で資金調達を行い、米国市場に上場することもある。その多くは米国市場で商品を販売している企業であり、恒大集団のような国内マーケット中心の企業が、米ドル建てで資金調達することは少ないと思われる。それゆえ、米金利高や米ドル高が中国経済に悪影響を及ぼす可能性は低い。ロシアについても同様に、米国での販売に依存しない国内企業が、米ドル建てで資金調達をしているケースは少ないだろう。
また、中国やロシアは、外貨準備として金やユーロを積み上げ、米ドル離れを進めている。国際貿易の決済通貨は主に米ドルであることが、基軸通貨と呼ばれる理由で、例えば、日本とアフリカ諸国との貿易でも米ドルで決済することが多い。しかし、中国やロシアは貿易に自国通貨の利用をできるだけ推奨しているほか、中央銀行の外貨準備にも米ドル以外の資産を保有し、米ドル通貨の揺らぎが自国経済に波及しないようにしている。金は米ドルとの相関が低くリスクを分散しやすい。さらに安全保障上、米ドルに資産を依存すると、非常時に米国から制裁を受けるリスクもある。このようなことから、中国やロシアは、米国の金利政策などの影響で自国経済が揺らがないように準備をしているため、米国の金利変動の影響を受けにくいといえる。
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