KAMIYAMA Reports vol.206
- ここがポイント!
- ✔ 岸田政権は予想以上の信任得る:自民党が単独で絶対安定多数
- ✔ 目先の期待はコロナ禍からの正常化と補正予算
- ✔ 株式市場にフレンドリーではない政策の行方は不透明
岸田政権は予想以上の信任得る:自民党が単独で絶対安定多数
10月31日の衆院選で、自民党は改選前から議席を減らしたものの、単独で261議席を獲得し、「絶対安定多数」を維持した。公明党との連立与党では293議席、改憲勢力の日本維新の会と合わせれば定数の3分の2を上回り、安倍政権以来の政治情勢を継続することになる。
選挙前には自民党の大幅な議席減が予想されていたが、岸田政権は安倍政権並みの強い信任を得ることとなった。このため、選挙前の予想以上に、株式市場は政権の政策実行能力をポジティブに評価することになった。
岸田政権が改革的な政策に乏しいとされた点については、批判票が流れて日本維新の会の議席数が改選前の約4倍になったと解釈できるが、選挙中に日本維新の会が自民党に批判的であったことから、具体的な政策への関与は期待しにくい。
目先の期待はコロナ禍からの正常化と補正予算
岸田政権は菅前政権が進められなかった政策を進めることが期待されており、その一つがコロナ対策である。菅前政権はワクチン接種を大きく進展させ、最近の感染者数減少に貢献したと考えられるが、医療機関への働きかけは、あまり進まなかった。主要先進国と人口比での比較では、感染者数・重症数が少なめで、病床数が多めであるにもかかわらず、医療崩壊状態を引き起こし、自宅療養での重症化・死亡などにさいなまれ、経済再開への国民の信頼を得ることができなかった。
岸田首相は、今年9月の自民党総裁選において、野戦病院型の病床確保や医療従事者の動員力、PCR検査拡大などについて詳細な政策を提案しており、衆院選勝利を受け、今後は政策実行において、これらがより適切に議論され、感染者数にかかわらず、経済再開を後押しする政策が実行されるとの期待が増している。
英米を中心にワクチン接種が進んだ国では、行動制限は本来、ワクチンがない場合や治療ができない場合の手段と認識されており、感染者数ではなく病床などの状況で行動制限を行うように変わってきている。岸田政権が医療への働きかけと国民の気持ちを変えるリーダーシップを発揮できるかに注目している。
もう一つの注目点は、すぐにも検討されるはずの補正予算の規模と内容である。岸田首相が修正しなければならないとした小泉政権以来の構造改革による成長重視の政策の成果を、どのようにして分配する仕組みを作っていくのか、その一端が見えてくるかもしれない。目先は、公明党が主導する子育て支援、行動制限で影響を受けた飲食業や個人などへの支援拡充など、政府から家計への所得移転が考えられる。これ自体はGDPを押し上げないが、大規模な政府支出で家計が消費に積極的になり、経済にお金が回るようになれば、米国のように消費がけん引する成長軌道に戻ることが期待できる。
しかしながら、政府予算による分配の促進よりも、格差縮小に向けた政策の方が消費拡大に実効性が高いかもしれない。安倍政権でも企業に給与増を要請したことがあるが、要請ではなく、なんらかの制度設計で非正規雇用者に対する正規雇用者並みの待遇を確保するといった構造改革が行われることになれば、日本経済に大きなプラスとなろう。米国の格差拡大は、一部の極端な金持ちの増加が原因とされ、資産課税などが検討されているが、日本の格差拡大は経済弱者が増えることで進んでいるとされている。税金のばらまきによる支援は一時的だが、現状維持的な終身雇用システムを機動的な労働市場システムに改革し、正規・非正規など非合理的な「身分制度」を変更することで、適切な労働分配を可能にすべきと考える。一方では、これまで企業に頼ってきた雇用・収入の維持を、社会保障(セイフティネット)の充実でカバーする必要がある。これらが揃えば、日本の消費の継続的拡大(トレンド化)実現に近づくだろう。
株式市場にフレンドリーではない政策の行方は不透明
岸田首相が唱えた金融所得増税は首相自身が先送りし、10月初旬の所信表明演説でも触れなかった。しかし、上場企業の四半期決算開示義務の廃止は演説でも触れられ、安倍政権と比べて株式市場にフレンドリーではないことは確かだろう。
「監査された四半期決算は必要なのか」との議論は、手間を嫌う企業側、なんでも開示されれば良いとする投資家側、監査の仕事を増やしたい監査側の水掛け論になる恐れがある。欧州では、一部で四半期決算の義務化がなくなったが、実際は多くの企業が継続していることをみれば、一律ではなく実態などで異なる対応を取ることが現実的で適切かもしれない。
ただし、今後も岸田首相の「聞く力」が企業寄りとなれば、これまで適切に扱われてきたとはいえない日本株投資家の意向が遠ざけられる恐れは残る。
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