KAMIYAMA Reports vol.207

  •  ここがポイント!
  • ✔ 日本や米国にとってデフレ懸念脱却=インフレは良いこと
  • ✔ 日本は3%、米国は5%程度までの金利水準は「好ましい」と想定
  • ✔ なんであれ急激な変化は望ましくない

日本や米国にとってデフレ懸念脱却=インフレは良いこと

日本は2000年ごろから、米国でもリーマン・ショック後の2010〜11年ごろから、経済はデフレ(継続的な物価下落)を懸念する状態に陥っていた(日本は一時的にデフレを経験)。現時点、メディアなどでインフレ懸念が話題になっているが、デフレが「懸念」されていたのだから、インフレも「期待」されて良さそうなものだ。ここでインフレが懸念されている理由は、インフレが「供給ショック」から起きているからだろう。特に原油価格の上昇を背景としてインフレが進む場合、人々の生活が苦しくなるのではないかと懸念されているようだ。それゆえ、オーバーな表現として「スタグフレーション(景気低迷と継続的な物価上昇が併存)のような」状態になるのではないか、とまでいわれることもある。

しかし、忘れて欲しくないのは、経済の正常化と需要の回復が米国の物価上昇の原因の一つということだ。原油価格の上昇も関係するのだが、そもそも、米国を中心にコロナ対策で実施した多額の財政出動が需要を高めたことが、経済回復→一時的な供給不足→価格上昇の流れを作ったとみている。つまり、需要が強いから価格が上昇しても買う人がいるのだ。仮に原油価格などの上昇で人々が購買意欲や購買力を失えば、需要が弱くなり価格が下落することになる。今の原油(ガソリンなど)は、生活が苦しくなれば使用量を減らすことができる。仮に原油消費量が減らせない場合でも、他の商品の需要が弱くなり、いずれにせよ物価全体は上昇しないと考えるべきだ。

また、供給不足も一時的だと考える。原油を含むほとんどの供給不足は、新型コロナウイルスの感染者数や重症者数の推移に関連するもので、予測は難しい。しかし、ワクチン接種者数の増加による重症者減少で(多少の感染者数の増加にもかかわらず)主要国経済は正常化してきており、油田や港湾などの労働者不足が解消に向かい、エネルギー不足による停電も減ることになるだろう。構造的問題とされる米国労働者の早期退職などによる労働参加率の低下も、移民の回復や新卒者の供給などにより、ある程度の期間で(少なくとも参加者数の面で)修正されるだろう。

日本は3%、米国は5%程度までの金利水準は「好ましい」と想定

ところで、インフレに対する恐怖は、漠然と人々の記憶に残っているようだ。この主な原因は、1970 年代の「オイルショック」や、一部の新興国で問題になったハイパーインフレ(毎日物価が目に見えて上がるような激しいインフレで、国の信頼の揺らぎが原因になることが多い)を思い出すからだろう。実際には、デフレ懸念と比べて、インフレ期待の方が好ましい。デフレ懸念の中では、企業が積極的な投資で事業を拡大する代わりに、現金を手元に残したり、自社株買いや配当で資金を払い出したとしても、成長機会への投資が進まなければ経済の拡大は難しい。一方、ハイパーインフレは、人々が将来の不確実性が増すと考えて活発さを減退させる傾向にもあったため、不快な記憶になっている。であれば、インフレには「ちょうど良い」「好ましい」水準があると考えることができる。

そこで、1972 年から最近までのインフレ期待の代替としての長期金利株式益回りの関係から、人々が「ちょうど良い・好ましい」と感じる金利水準を探ってみた。結論から先に言えば、日本では長期金利3%程度、米国では5%程度までは「デフレ懸念が後退する」「良い物価上昇となる」傾向が見出された。

下グラフの横軸は、長期的なインフレ期待の代替として金利水準(10年国債利回り)を利用し、右に行くほどインフレ期待が高いとみる。縦軸は株式益回り、これは株価の心配度を表すPER(株価収益率)の逆数なので、上に行くほどPERが低くなり、心配度が高まっている(期待成長率が低下するか、リスク・プレミアムが上昇している)とみる。

この長期グラフの特徴はU字型になっていることで、左に行くほどインフレ期待が低くて心配右に行くほどインフレ期待が高すぎて心配ということになる。それゆえ、グラフ縦軸の一番低いところが「ちょうど良い」と想定できる。

日本市場の「ちょうど良い」ところは、長期金利3%程度とみられる。インフレ率が3%程度であろうと期待できる時に、株式市場はPERが高くなりやすい。当時(1995年)の株価は横ばいで金利が低下していた。それ以後の金利低下はデフレ懸念に繋がっていたとも考えられる。

同様に、米国市場の「ちょうど良い」ところは、長期金利5%程度とみられる。インフレ率が5%程度であろうと期待できる時に、株式市場はPERが高くなりやすい。当時(2000年と2001年)は、ITバブル崩壊から、NYダウは穏やかになり一定の範囲内で推移し、金利は6.5%程度から5%程度に低下して落ち着きを見せたところだった。米国の場合、目先の金利上昇は心理的なPER下落につながりやすい恐れがあるが、インフレ懸念でPERが低迷してしまうのではなく、企業収益などファンダメンタルに経済回復が確かになるまで、金融緩和に心理的に依存しやすい傾向が出るに過ぎないと考える。

なんであれ急激な変化は望ましくない

いずれにせよ、需要が一時的に活発になって供給不足になることでインフレ懸念が高まっても、企業が適切な設備投資を行って生産を増やせば、インフレは緩やかになり、サイクルとして収束していくだろう。日本でも米国でも、「ちょうど良い」水準までは、インフレでは企業収益が悪化しづらく、経済の拡大期待で株式市場のPERを上昇させると想定している。インフレで懸念する点は確かにある、なんであれ変化が急激である場合だ。

急激な変化は、人々の心配と疑心暗鬼(ここで投資すべきか否か、など)を強める。決断できずに尻込みしてしまい、経済を停滞させることがインフレのリスクとなるが、上のグラフを見る限り、現時点は「ちょうど良い」ところよりも左に位置しており、株式投資にとって今のインフレ懸念は杞憂に過ぎない、と考えている。


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