直線で増える預貯金、曲線で増える投資
「意外と簡単に減ってしまう」「意外と簡単には増えない」という「お金のチカラ」の観点から資産運用の必要性について考えてきました。ではいよいよ資産運用のエリアに本格的に入っていきます。でも、まずは基本中の基本から。それは「投資の成果は最後に測るもの」ということです。何のことか分からないと思いますが、これ、本当に大事な考え方です。どういう意味でしょう。
ご存知かもしれませんが、ETFを除く非上場の投資信託においては、かれこれ10年、いや15年以上にわたって、日本では「毎月分配型」というタイプの投信ばかりが主流でした。投資を続けながら毎月ある特定の日、ファンドによって定められた決算日という日に、持ち分に応じた現金が原則として普通預金などに振り込まれる仕組みの投資信託です。今後詳しく話しますので、今はこの程度で。
その毎月分配型の投信をお持ちの方と話していると、どうも分配金に目が行きすぎていて、途中途中で投資の利益を「確定」しているように思っている方が多いんです。今まで分配金で100万円もらったから、100万円は利益出ているのよ、と。でも投信の評価額は日々動いているわけです。いわば、運用を継続している「本体部分」の価値は増えたり減ったりしているわけです。したがって100万円の分配金を回収したといっても、今解約しようとすると、本体部分が100万円減っているかもしれないわけです。結局のところ、いつか解約してみないと「勝ち負け」は出ないんです。
投資の成果は最後に測るもの
最後に売ってみないと分からない――何でこんな当たり前のことを言うかというと、これが大事な「投資の本質」だからです。次の図のように、直線で増えるのが預貯金ですよね。年利5%の預貯金なら5%×10年=50%ですから、100万円が直線的に150万円になります(単利運用の場合)。でも「投資の場合の年5%」とは「10年の結果を振り返って平均してみたら5%だった」と、後から振り返って初めて分かることです。
1年目は−5%だけど2年目は+10%で...というようにバラバラで、絶対に直線では増えていきません。でも100万円が10年後に150万円になっていたら、それはやっぱり預貯金の5%と同じように5%なんです。後から振り返った時の平均5%です。最初から決まっている5%と、後から振り返った時の平均5%、両者に優劣はありません。
ただ、10年間の「ストレス度合い」はまったく異なったはずですよね。直線で増える「5%定期預金」は、ストレスはまったく無かったはずです。一方投信で「後から振り返ると5%」の方は、かなりストレスが多かったはず。上がったら上がったで「もう売った方がいいんじゃないか」と不安になるし、下がったら下がったで「このまま下がり続けるんじゃないか」という気持ちになります。しかし「上がっても無視、下がっても無視」を貫き、この例で言えば100万円が150万円になるまで待てた人が、最後に「ストレスに耐えて良かった」と思えるということです。
できればストレスフリーがいい。そうに決まっています。でもストレスフリーの直線を選ぶということは、今の預貯金金利に甘んじるということです。それでは困るからあえてストレスを受け入れる、それが投信を買う際の「前向きな覚悟」です。投信にはリスクの小さなものもありますが、それでも必ずそこには覚悟が求められます。それは自分で考え、受け入れるべきものです。金融機関の人に説得されたり、お任せしたりする性質のものではありません。
少し具体的な例で説明しましょうか。ひとつ質問しますね。皆さんがよく見聞きする日経平均株価。ざっくり今22,000円としますね。では、来月の今日までに22,000円が、そうですねぇ30,000円位になることが1回でもあると思う人はいらっしゃるでしょうか。
おそらく、誰もいらっしゃらないのではないでしょうか。じゃあ3年後までならどうでしょう。3年後までのどこかで、一瞬でも30,000円になるかもしれないと思う人はいらっしゃるでしょうか。じゃあ5年でならどうですか。日本経済にここから5年の猶予を与えてやり、5年以内のどこかで30,000円に一瞬でもタッチしてもいいんじゃないかと思う人はいらっしゃいますか。ここまで来るとほぼ全員の方が「まぁそう思う」と思ったのではないでしょうか。
では、これまでの内容を絵に描きます。最長で5年後に30,000円になっているということでしたよね。それはつまり、30,000÷22,000-1=36.36%の上昇が今から5年間で達成されたってことです。22,000×1.3636=30,000ですから。その36.36%の上昇を1年当たりの利回りで表現するとどうなるかというと、36.36%÷5年ですので年7.2%です。つまり、この日経平均への投資は「年利7.2%の5年定期」と同じ経済効果です。
皆さんの中には変だな?という顔をしていらっしゃる方がいるかもしれません。まあ確かに、株式なのに「年利7.2%の定期と同じ」なんて表現はおかしいですね。当然この点線のように直線的には増えていきませんからね。実際は、下がって下がって下がって、最後に30,000円まで上がって達成する36.36%上昇かもしれませんし、上がったり下がったりして最後に30,000円で着地する36.36%上昇かもしれません。
ところで、当連載の中(1時間目 「投資が必要」は本当に本当なのか?#5投資にはやはりある種の「覚悟」が必要。ただし「前向きな覚悟」で。)で「お金のチカラ」ってことで一緒に計算した時、私、キリがいいから利回りは5%にしましょうね、とか言って5%を使いましたよね。きっと皆さん口には出さなかったけど「5%って何だよ」「投信のパンフレットには5%とか書いてないじゃないか」って思われたはずです。
でも、今ここに「年7.2%の5年運用」、つまり税引後で「5%超の5年運用」の例がひとつ示されたことになります。20年とかでは長過ぎるので5年などの期間に区切り、まずは最初の5年でどうやって5%を達成するか考えましょうという話をしましたが、ひとつの案はこのように、日経平均22,000円の水準で日本株の投信やETFを買って、5年かかっても30,000円にさえなれば良いと考えてじっくり持つということです。想定通り30,000円になってくれれば「税引後年率5%超の5年間」となったわけだから、最初の期間は無事成功したことになります。ただしその成功を手にできるのは、途中の下落というストレスに耐えられた人だけですよね。
「最後にフォーカスして途中を無視しましょう」というこの考え方は、投資において避けられない日々の変動のストレスに耐えるためのひとつの考え方です。だって、やっぱりどんな投信だって日々それなりに動くんですよ。そのストレスに耐え結果的な成功を収めるためには、こんな風にある意味達観した考え方でいることが必要だと思うんです。「私は5年後の30,000円をゴールにしてるんだから、目先の上下は関係ないさ。なんたって、それは年利7.2%にも相当する運用なんだから。目先の上下は無視!無視!」と考えるわけです。
こういう考え方を根っこで持っている人は強いですよ。逆にこういう覚悟あるいは達観がない人は値動きに振り回されます。具体的に言うと、ちょっと下がったところで気になって仕方なくなり、結果的にその後から見た底値のところで売却してしまったり、その後には上がったところでまた「もっと上がりそうだから」と買ったりと、つまり短期間で売買を繰り返しながら、下手すると「逆、逆」を繰り返しながら資産を減らす(しかも買付時に購入時手数料を払いながら)という愚をやってしまいます。
下がっても上がっても悠々と「途中は無視無視、なぜなら私は…」と構えられる人が、きっと最終的な成功を手にする人です。これが「投資の成果は後から測られるもの」という、今回一番大事だと言ったことの意味です。
途中を無視して最後に笑う
どうでしょう。ついつい、しつこく話してしまいましたが伝わりましたでしょうか。投資とか株というと、どうしても「毎日のニュースを見て経済情勢をにらんで臨機応変に売買しないとダメなもの。だから私には関係ない」と思われる方が多いですよね。でも、そういうのは「趣味の株の世界」では正しいかもしれませんが、投信やETFを使った資産運用にはまったく当てはまりません。
今回私がお話していること、つまり普通の人が将来の選択肢を増やすために勇気を出して資産運用を人生設計に取り入れようという場合、持つべきスタンスは「毎日ニュースを見て」とは真逆になります。先ほどの例で言えば、5年後の30,000円という少し遠い目標を定め、それにより途中を無視する。そして最後に笑う、といった考え方ですもんね。そう、「最後に笑う」ということなんです。
最後に笑うために、わざわざ嫌いなリスクを取って途中のストレスに耐える。そのリスクをできるだけリーズナブルに取るための箱が、私達が作る投資信託やETFという商品なんだと思います。最初に「使い方が難しい」「正しく使って欲しい」と言ったのはそういうことです。相場を張るためでなく、途中を無視して最後に笑うために、投信やETFという箱を正しく使ってもらいたい、そう考えているんです。