本レポートは英語による2019 年1月発行「ASIAN FIXED INCOME OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 12月の米国債市場は、様々な要因によってリスク資産が圧力に晒され「安全資産」買いが起こるなか、利回りが低下した。リスク資産に圧力をもたらした要因としては、主要経済国の成長懸念や「合意なきブレグジット(英国のEU離脱)」の可能性の高まり、米国政府の閉鎖、エネルギー価格の急落が挙げられる。米FRB(連邦準備制度理事会)は0.25%の追加利上げを行う一方、2019年の利上げ見通しの中央値を直近9月時点に見込まれていた3回から2回へと引き下げた。最終的に、米国債利回りは10年物で前月末の2.99%からの2.69%へと0.30%低下した。
  • アジアのクレジット市場は、米国債利回りの大幅な低下がリターンの追い風となって上昇した。アジアの投資適格債は、スプレッドが0.11%拡大したにもかかわらず、市場リターンが1.32%となった。ハイイールド社債も、ハイイールド債市場の一部に対する投資家心理の改善を受けてスプレッドが0.04%縮小するなか、1.34%のリターンと良好なパフォーマンスを見せた。
  • アジア諸国のインフレ圧力は概ね低下し、特にフィリピンでは総合CPI(消費者物価指数)上昇率が大幅な減速を記録した。その他では、米国と中国が貿易紛争の一時休戦に漕ぎつける一方、タイ中央銀行が2011年以来で初となる0.25%の利上げを実施した。
  • 発行市場では12月も活発な起債活動が続いた。投資適格債分野で計20件(総額約87億米ドル)、ハイイールド債分野で計31件(総額約55億米ドル)の新規発行があった。
  • 現地通貨建て債券では、インフレ圧力が比較的安定しており中央銀行が政策金利を据え置く可能性が高いインドネシアの債券を有望視している。また、インドの債券は、よりハト派的な中銀新総裁、インフレの鈍化、中銀による公開市場操作(買いオペ)がサポート材料になると想定される。中国債券についても、中国人民銀行の緩和的な金融政策を背景に、堅調な地合いが続くものと見ている。
  • 通貨では、シンガポールドルを選好する一方でマレーシアリンギットに対し慎重な見方をとる。シンガポールドルは、MAS(シンガポール金融通貨庁)が自国通貨高スタンスを維持することにより、同通貨への需要が下支えされると考える。反対に、マレーシアリンギットは原油価格の下落を受けてパフォーマンスが域内の他通貨に劣後すると予想する。
  • アジアのクレジット市場については、2019年にかけてのアジア諸国のマクロ経済環境は、クレジット市場のパフォーマンスにとって引き続き中立的なものになると想定される。GDP成長が主要経済国にわたって減速すると予想されることから財政政策は成長支援的なものとなり、インフレが低水準にとどまることから金融政策は中立から緩和に維持されると思われる。しかし、米中間の貿易紛争に伴うリスクは依然残る。一方、バリュエーションは過去の水準と比較すると魅力的に見受けられる。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

12月の米国債市場は大幅に上昇
12月の米国債市場は上昇した。アルゼンチンで開かれたG20サミットでのドナルド・トランプ米大統領と習近平中国国家主席の会談を経て、米中間の貿易戦争は休戦に漕ぎつけたが、これもほとんど投資家心理の支えにはならなかった。リスク資産は、主要経済国の成長懸念や「合意なきブレグジット」の可能性の高まり、米国政府の閉鎖、エネルギー価格の急落を含め、多くの要因から継続的な圧力に晒されることとなった。そのような相場展開にもかかわらず、12月半ばに開かれた米FOMC(連邦公開市場委員会)の定例会合では利上げが実施された。また、同委員会は、「フェデラル・ファンド金利の目標レンジを斬新的にさらに幾分か引き上げることは、経済活動の持続的な拡大、堅調な労働市場環境、委員会の中期的な目標の中心値である2%近辺のインフレ率に合致するであろう」とも示唆した。FOMCの決定に対する市場の反応は厳しく、リスク資産にさらなる圧力をもたらした。しかし、アジアのクレジット市場のスプレッド拡大は緩やかなものにとどまった。その後、市場は2019年には利上げが行われないものと織り込み始め、米国債利回りは一段と低下した。最終的に、米国債利回りは2年物で2.49%、10年物で2.69%と、前月末比で0.30%ほど低下して月を終えた。

<アジア現地通貨建て債券のリターン>
過去1ヵ月(2018年11月末~2018年12月末)

アジア現地通貨建て債券のリターン過去1ヵ月(2018年11月末~2018年12月末)

過去1年(2017年12月末~2018年12月末)

アジア現地通貨建て債券のリターン過去1年過去1年(2017年12月末~2018年12月末)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注) リターンはMarkit iBoxxアジア・ローカル・ボンド・インデックス(ALBI)およびその各国インデックスに基づく。各国インデックスの債券のリターンは現地通貨ベース、各国インデックスの通貨とALBIのリターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア諸国のインフレ圧力は概ね低下
アジア諸国の総合CPIインフレは概ね低下した。それが特に顕著となったフィリピンでは、総合CPIの前年同月比上昇率が前月の6.7%から6.0%へと大幅な低下を記録したが、この減速をもたらした主因は食品インフレの鈍化(米価格の下落の反映と想定される)であった。同様に、タイ、韓国、中国、シンガポールのインフレ指標もみな前月からの減速を示した。一方、インドネシアのインフレ圧力は、輸送費インフレのさらなる上昇もあり、2ヵ月連続で加速した。

米中は貿易紛争の休戦に合意
トランプ米大統領と習中国国家主席は、G20サミットに合わせて行った会談で追加関税の実施を90日間猶予すると表明した。また、両国とも貿易交渉の再開を発表し、米国政府は、中国が2国間の貿易不均衡を減らすために、明示されていない「けれども非常に大きな」額の農産物、エネルギー製品、工業製品などを購入することを明らかにした。一方、12月1日に、中国の通信大手Huaweiの副会長兼CFO(最高財務責任者)が米国の対イラン制裁違反容疑で米国の要請によりカナダで逮捕され、進行中の貿易交渉への懸念を引き起こした。

タイ中銀は利上げを実施
タイ中央銀行は、2011年8月以来で初めて、5対2の投票で利上げを決定し、政策金利を0.25%引き上げて1.75%とした。また同中銀は、2018年および2019年の経済成長率予想をそれぞれ4.2%と4.0%へと0.2%ずつ下方修正した。それでも、同中銀は経済成長が「潜在成長率と合致している」とし、観光業が「回復の兆しを見せ始めた」と述べた。一方、タイの金融政策委員会は、総合インフレについては自身の予想は概ね変わらないとしながらも、コアインフレは需要サイドの圧力が徐々に増すにしたがって加速するとの見通しを示した。

今後の見通し

インドネシア、インド、中国の債券を有望視
市場はFRBによる2019年の引き締め度合いの後退をますます織り込みにいっている。そのような環境下、当社では利回りのより高い債券がアウトパフォームしやすいと見ており、これをベースとしてインドネシアおよびインドの債券に対しポジティブな見方をとる。インドネシアはインフレ圧力が比較的安定しており中央銀行が政策金利を据え置く可能性が高いことから、市場が同国債券の提供する魅力的な実質利回りに注目を向けるにつれ、同国債券への需要が押し上げられると思われる。インドの債券は、よりハト派的な中銀新総裁、インフレの鈍化、中銀による公開市場操作(買いオペ)がサポート材料になると想定される。一方、中国債券についても、中国人民銀行の緩和的な金融政策を背景に、堅調な地合いが続くものと見ている。

通貨ではシンガポールドルを選好、マレーシアリンギットは劣後すると予想
通貨では、シンガポールドルを選好する一方でマレーシアリンギットに対し慎重な見方をとる。シンガポールでは、コアインフレ率の高止まりが続くなか、MASが自国通貨高スタンスを維持することにより同国通貨への需要が下支えされると想定される。反対に、マレーシアは原油価格の下落によって財政目標達成の可否がリスクに晒されており、同国のソブリン債格付けが引き下げられる可能性に対する懸念が高まるかもしれない。

アジア・クレジット

市場環境

12月のアジアのクレジット市場は大幅に上昇
12月のアジアのクレジット市場は、米国債利回りの大幅な低下がリターンの追い風となって上昇した。アジアの投資適格債は、スプレッドが0.11%拡大したにもかかわらず、市場リターンが1.32%となった。ハイイールド社債も、ハイイールド債市場の一部に対する投資家心理の改善を受けてスプレッドが0.04%縮小するなか、1.34%のリターンと良好なパフォーマンスを見せた。

高ボラティリティの2018年は12月の良好なリターンで幕引き
アジアのクレジット市場はボラティリティの高かった1年を12月の良好なリターンで終えた。投資適格債は、2018年の年間リターンが5月の-2.74%から回復して-0.04%、スプレッドが通年で0.55%の拡大となった。ハイイールド債はそれをアンダーパフォームし、スプレッドが通年で1.65%拡大するなか、年間リターンが6月の-5.74%から回復しながらも-3.24%となった。2018年は、米中間の貿易をめぐる緊張の激化、中国の債務削減の取り組みが国内の金融環境をタイト化させ国内経済成長のさらなる重石となり始めたとの懸念、そして新興国市場動向全般がスプレッドの重石となった。ハイイールド債にとっては、需給関係の変化も一段の逆風となった。中国国内市場における資金流動性状況のタイト化を受けて、中国オフショア市場では多額の債券供給が続いたが、同時に国内投資家からの需要も鈍化した。

発行市場の活動は引き続き活発
発行市場では12月も活発な起債活動が続いた。月間の総発行額は、前月の約238億米ドルに対して約142億米ドルとなった。投資適格債分野では、30億米ドルのインドネシアのソブリン債ディール(3トランシェ)を含め、計20件(総額約87億米ドル)の新規発行があった。ハイイールド債分野の新規発行は計31件(総額約55億米ドル)となった。年間の総発行額は約2,310億米ドルで、投資適格債がその7割程度を占めた。これは2017年の3,000億米ドル超よりは少ないが、それ以前の過去水準は依然上回るものだ。

<アジア・クレジット市場の推移>

アジア・クレジット市場の推移

(出所)JP Morgan
(期間)2017年12月末~2018年12月末
(注) JPモルガン・アジア・クレジット・インデックス(JACI)(米ドル・ベース)を、2017年12月末を100として指数化。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

2019年にかけても高ボラティリティが続く模様
2019年にかけてのアジア諸国のマクロ経済環境は、クレジット市場のパフォーマンスにとって引き続き概ね中立的なものになると想定される。GDP成長は主要経済国にわたって減速すると予想され、なかでも中国はそれが顕著となるであろうが、ただしハードランディング・シナリオが現実化するとは思われない。アジアの大半の国では中国を中心に、財政政策が引き続き経済成長を下支えし、外需や民間内需の低迷に対して安定剤の役割を果たすと見られる。インドとインドネシアでは国政選挙が行われることからいくらかの財政悪化が予想されるが、これらの国々における全体的な財政再建の流れに依然変わりはなく、向こう数年にかけて再開される可能性が高い。最後になったが同様に重要なのは、インフレが引き続き落ち着いているため、アジアの大半の国において金融政策が中立的または緩和的に維持されると予想されることだ。米国と中国は現在、貿易紛争を解決すべく3月1日を暫定的な協定合意期限として交渉を行っている。貿易やその他の戦略的問題について妥協案に至らなかった場合は、信用スプレッドやより全般的なリスク環境にとって悪影響を及ぼすことになるだろう。

バリュエーションは過去との比較において魅力的
投資適格債とハイイールド債のスプレッドは、2018年が進むにつれて割安となった。高格付け債の平均スプレッドは2.14%と、世界金融危機後の平均水準近くにある。2018年はハイイールド債がアンダーパフォームし、ハイイールド社債のスプレッドは6.21%と2016年以来の割安な水準となっている。12月の米国債利回りの大幅低下を経ても、投資適格債の利回りは4.79%と、今回の2018年の下落相場以前では2013年のテーパー・タントラム(FRBが量的金融緩和の縮小を示唆したことによって生じた市場の混乱)以来見られなかった水準まで上昇している。同様に、ハイイールド社債の利回りも8.87%と、欧州危機後の2012年以来となる水準まで上昇している。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。