本レポートは英語による2020年4月17日発行「ASIAN FIXED INCOME OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 3月の米国債は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大による恐怖や不安が市場を覆うなか、月を通じて利回りが乱高下するボラティリティの高い動きを見せた。最終的に月末の米国債利回りは2年物が前月末比0.67%低下の0.25%、10年物が同0.48%低下の0.67%となった。
  • 3月のアジアのクレジット市場は、信用スプレッドが米国債利回りの低下幅を上回る1.43%の急拡大に見舞われたため、月間市場パフォーマンスが-5.83%となった。格付け別パフォーマンスでは、スプレッドの拡大幅が1.00%にとどまった投資適格債がハイイールド債を上回り、トータルリターンが-3.67%となった。ハイイールド債はスプレッドの拡大が3.66%に及び、トータルリターンが-12.63%となった。
  • 3月は、市場環境の低迷を受けて、アジアのクレジット市場の起債活動が急激に落ち込んだ。新規発行は投資適格債分野で計8件(総額約36億米ドル)、ハイイールド債分野で計9件(総額約22億米ドル)となった。
  • アジア域内のインフレ率は概ね低下した。各国の政府と中央銀行は、ウイルスの影響で打撃を受けた経済を支えるべく、積極的な財政・金融政策を発表した。また、アジア諸国の大半は、ウイルスの感染拡大を食い止めるべく、ロックダウン(都市封鎖)や渡航制限を課している。一方、格付け機関フィッチは、タイのソブリン債格付けをBBB+に据え置いたが、格付け見通しについては「ポジティブ」から「安定的」に引き下げた。
  • 引き続きフィリピン債券を選好するとともに、インド債券についてややポジティブな見方をしている。しかし、世界的に投資家心理の悪化が続いているなか、インドネシア債券には慎重な見方をしている。通貨においては、マレーシアリンギットとインドネシアルピアに対して慎重な見方をしているが、フィリピンペソは相対的に強気の見方をしている。
  • アジアのクレジット市場は、ウイルスの流行が世界的に安定化するまでボラティリティの高い相場展開が続くと予想するが、一方で長期的な投資機会が現れ始めているとも見ている。世界中の政府や中央銀行が発表した金融・財政・信用政策の組み合わせによって、今年後半に世界経済の大幅な回復を依然推し進めることが可能であると考える。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

3月の米国債市場はボラティリティの高い展開
3月の米国債は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大による恐怖や不安が市場を覆うなか、月を通じて利回りが乱高下するボラティリティの高い動きを見せた。WHO(世界保健機関)は正式にパンデミック(世界的流行)を宣言し、新規感染者数が欧州、米国、アジアで増えるにつれ、ウイルスの拡大と重大さに対する懸念が深まった。月初は、G7の国々がウイルス流行の経済への影響に対処すべく協調支援策を発表する一方、米FRB(連邦準備制度理事会)が予想外となる0.5%の利下げを行った。これがもたらした安堵もつかの間、OPEC(石油輸出国機構)と非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」のメンバー間の不協和音を受けて原油価格が下落したことにより、債券利回りが急低下した。月半ば、FRBは1.00%の緊急再利下げと量的緩和を実施したが、投資家の間ではリスク回避志向が続き安全を求めて資産を米ドルに現金化する動きが進んだため、米国債利回りは急上昇した。月末にかけては、米上院が2兆米ドル規模の景気刺激策を可決した。最終的に月末の米国債利回りは2年物が前月末比0.67%低下の0.25%、10年物が同0.48%低下の0.67%となった。

<アジア現地通貨建て債券のリターン>
過去1ヵ月(2020年2月末~2020年3月末)

過去1ヵ月(2020年2月末~2020年3月末)

過去1年(2019年3月末~2020年3月末)

過去1年(2019年3月末~2020年3月末)

信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注) リターンはMarkit iBoxxアジア・ローカル・ボンド・インデックス(ALBI)およびその各国インデックスに基づく。各国インデックスの債券のリターンは現地通貨ベース、各国インデックスの通貨とALBIのリターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

域内諸国のインフレ圧力は低下
域内諸国では2月のCPI(消費者物価指数)インフレが概ね鈍化し、中央銀行に緩和の余地をもたらした。インフレ率はフィリピンで前月の前年同月比2.9%から同2.6%へ、マレーシアでは20ヵ月ぶりの高さとなった1月の同1.6%から同1.3%へと減速し、またタイでは同0.74%と市場予想の同0.80%を下回った。シンガポールの2月のインフレ統計は失望的な内容となり、コアインフレ率が-0.1%と10年超ぶりにマイナスに転じた。中国とインドでも2月にインフレが鈍化した。例外となったインドネシアのインフレ率は2.98%と市場予想を若干上回ったが、依然として中央銀行の目標レンジ内にとどまっている。

中央銀行と政府は金融・財政政策を発表
各国の中央銀行と政府は、ウイルスの影響で打撃を受けた経済を支えるべく、積極的な財政・金融政策を発表した。インドネシアでは、中央銀行が主要政策金利を4.5%に引き下げるとともに、政府が246億米ドル規模のCOVID-19対策予算を発表し、これによって財政赤字は対GDP比5.07%へと拡大した。フィリピン中央銀行は0.5%の大幅利下げをし、タイ銀行は政策金利を過去最低の0.75%へと引き下げた。マレーシアでは、中央銀行が2政策会合連続となる0.25%の利下げを実施し、また2,500億リンギットの景気刺激策が発表された。シンガポールでは、パンデミックの影響への対策として、政府が同国GDPの約11%に相当する550億シンガポールドル近い財政出動に乗り出した。MAS(シンガポール金融通貨庁)も、シンガポールドルの名目実効為替レートの政策バンドについて、中央値を若干引き下げるとともに現行水準からの傾斜をゼロへと引き下げたが、バンドの幅は据え置いた。その他、中国人民銀行が7日物リバースレポ金利を0.2%引き下げて2.2%とする一方、インドは利下げを行い、また「FAR」制度(外国人投資家が特定のインド国債に制約なく投資できる制度)の下で特定の種類の国債を発行する計画を発表した。

ウイルス拡大抑制策として渡航制限を実施、フィッチはタイの格付け見通しを引き下げ
アジア諸国の大半は、ウイルスの感染拡大を食い止めるべく、ロックダウン(都市封鎖)や渡航制限を課している。一方、格付け機関フィッチは、タイのソブリン債格付けをBBB+に据え置いたが、格付け見通しについては「ポジティブ」から「安定的」に引き下げた。

今後の見通し

フィリピン債券に対して相対的に強気な見方、インドネシア債券に対しては慎重なスタンス
COVID-19のパンデミックによる世界的な影響は引き続き深まっている。韓国や中国では状況が安定化した様相である一方、欧州は大きな打撃を受けており、今やより多くの検査を行うことができるようになった米国では当資料作成日現在、新規感染者数の大幅な増加が確実と見られる。世界経済の成長懸念が強まっていることから、世界中で債券利回りが大幅に低下している。ウイルスの流行を受けて、アジアの中央銀行は経済成長予想を下方修正するとともに、経済を下支えすべく緩和的な金融政策を維持している。アジアの現地通貨建て債券のなかでは、中央銀行の緩和的な政策スタンスが追い風となっているフィリピンの債券を引き続き選好する。また、インドではインフレが収まってきており、必要となればさらなる利下げを行う余裕を中央銀行にもたらしているため、同国の債券に対してややポジティブな見方をしている。一方、投資家心理が世界的に低迷し続けているなか、インドネシアの債券および通貨ルピアに対しては慎重なスタンスをとっている。

マレーシアリンギットとインドネシアルピアに対して慎重な見方、フィリピンペソについては相対的に強気
通貨においては、マレーシアリンギットと、前述の通りインドネシアルピアに対して慎重な見方をしている。マレーシアとインドネシアはともに、歳入の減少と追加の財政出動によって財政赤字の大幅拡大に見舞われると予想される。加えて、原油およびコモディティ価格が低迷する環境は、両国の交易条件にとって有利とはならないだろう。一方、フィリピンペソについては相対的に強気の見方を維持しており、引き続き選好している。フィリピンは、観光や世界貿易への依存度が相対的に低いのに加え海外出稼ぎ労働者からの送金による資金流入が好調であることが、通貨に高水準を維持する底堅さをもたらしている。

アジアのクレジット市場

市場環境

パンデミックと原油価格の急落を受けてアジアの信用スプレッドは拡大
3月のアジアのクレジット市場は、信用スプレッドが米国債利回りの低下幅を上回る1.43%の急拡大に見舞われたため、月間市場パフォーマンスが-5.83%となった。格付け別パフォーマンスでは、スプレッドの拡大幅が1.00%にとどまった投資適格債がハイイールド債を上回り、トータルリターンが-3.67%となった。ハイイールド債はスプレッドの拡大が3.66%に及び、トータルリターンが-12.63%となった。

当月は世界中の債券市場にわたってボラティリティが極度に高まったが、その主因となったCOVID-19の世界的流行は、世界各国で日常生活と経済活動に深刻な混乱をもたらした。韓国や中国では状況が安定化した様相である一方、まもなくウイルスの流行が拡大した欧州、英国および米国では、新規感染者数が大幅に増加している。また、アジア全般でも新規感染者数の急増が報告されている。COVID-19の流行に加えて、OPECプラスの協議決裂を受けサウジアラビアやその他の中東産油国が価格の大幅引き下げと増産に踏み切ったことにより、原油価格が急落した。

このような環境下、金融市場では、米国債を含むあらゆる資産クラスにわたってボラティリティが極度に高まっている。信用スプレッドは2月の終わりから3月の第3週にかけて世界中で大幅に拡大し、アジアの信用スプレッドもその傾向を辿った。クレジットカーブでは大きな混乱が生じ、短期ゾーンのスプレッド拡大幅が長期ゾーンのスプレッド拡大幅を上回ることもあった。3月半ば頃には、ファンドが解約代金を手当てするために最も流動性のある資産を売ろうとするなか、米国債利回りも上昇したが、その後、FRBの介入を受けて状況は正常化した。

このようなグローバル市場の混乱に直面した世界中の政策当局は、先を争って市場を落ち着かせるための政策や措置を導入した。当初は弱体でばらばらに行われていたものの、世界の金融・財政面の取り組みは3月末までにはより協調的で強力なものとなり、グローバル債券市場の主要セグメントを安定化させるのに成功した。しかし、信用スプレッドは、3月の最終週に急激な縮小に転じたものの、2月末に比べると依然として大幅に拡大した水準にある。さらに、流動性は米国の投資適格社債市場においてすら完全に正常化したわけではない。

一方、新興国債券は、経済成長見通しに対する懸念、COVID-19への財政・金融対応から生じる財政逼迫や対外的脆弱性、グローバル市場の状況、原油価格の下落、サプライチェーンの混乱、差し迫った世界的需要ショックを受けて、ハードカレンシー建ても現地通貨建てもともに低迷が続いている。例えば、アジアでは、ここ1週間、インドネシアおよびインドの米ドル建てクレジット物が、中国、香港、韓国、シンガポールなど他の国々で見られたスプレッドの縮小に劣後している。アジアのクレジット市場の状況は3月の最終週に改善したが、市場センチメントは依然として不安定で、大半の発行体についてクレジットカーブの混乱が続いている。

3月は発行市場の活動が急減
市場環境の低迷から、3月はアジアのクレジット物の新規発行が数件にとどまった。投資適格債分野では、中国信達資産管理(China Cinda HK)のディール(4トランシェで20億米ドル)など、計8件(総額約36億米ドル)の新規発行があった。一方、ハイイールド債分野の新規発行は計9件(総額約22億米ドル)となった。3月の最終週に市場センチメントが改善したことから、4月は起債活動が上向くと見られる。

<アジア・クレジット市場の推移>

アジア・クレジット市場の推移

(期間)2019年3月末~2020年3月末
(注)JPモルガン・アジア・クレジット・インデックス(JACI)(米ドル・ベース)を、2019年3月末を100として指数化。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

アジアのクレジット市場はウイルスの流行が世界的に落ち着くまで高ボラティリティが続く見通しも、長期的な投資機会が見られ始めている
積極的な中央銀行のアクションや政府によるかつてない規模の財政出動を受けて、市場の状況は3月半ばの極度に低迷した水準からは戻ることができたが、アジアのクレジット市場は欧米でのウイルス流行が落ち着くまで当面、高ボラティリティが続くものと見られる。アジアを含め新興国における感染者数急増のリスクや、原油価格の継続的な低迷も、常態への早期回復を妨げ得る要因となっている。

COVID-19の拡大を食い止めるために採用された封じ込め策は、世界中の国の経済に(一時的だとしても)深刻な影響を及ぼすものと想定される。企業や金融機関、そして国ですら、信用ファンダメンタルズの悪化が見込まれ、信用格付け引き下げの動きは避けられないだろう。現時点ではデフォルトがアジアのクレジット分野にわたって幅広く起こるとは予想していないが、それでもデフォルト率はここ数年に比べて上昇すると見られる。一方で、バリュエーションが3月にすでに大きく変化したことから、ウイルスの流行が封じ込められて金利・クレジット市場の混乱が反転すれば、銘柄選択によって大幅な絶対・相対リターンを獲得できる可能性もある。世界中の政府および中央銀行によって発表された金融・財政・信用政策の組み合わせにより、年後半に世界経済が大きく回復する可能性は依然あると見ている。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。