神山解説

  • 2024年5月2日

vol.51 株式を資産に組み入れることの意味



株を持つことはギャンブルなの? 株の歴史から解説

新NISAなどで投資に理解を持つ人が増えている反面、払い込んだお金が戻ってくるとは限らないという意味で、投資はギャンブルのようなもので、手を出して損してはいけないという考えも根強いと感じています。

株式投資(株式の投資信託やETFも含みます)は元本を保全することを目的とした投資ではないので、その意味で絶対に損しない、儲かるということはありません。ただし、ギャンブルとは違います。株式投資とギャンブルの違いを知って、そのうえでやはり株式投資はしないと判断するのであればそれはそれで良いのかもしれません。しかし、多くの人が知らないで株式投資の存在を無視しているのは残念です。

株式というのは、よく見かける「株式会社」と関係があります。株式会社は日本だけでなく世界中の多くの国で機能している制度であり、経済の仕組みです。世界の経済は株式会社の仕組みの上で成長していると言っても大げさではないと思います。それなのに、株式投資といえば、借金、大損、夜逃げといったイメージだけが語られやすいのです。少なくともこのギャップは埋めておきたいものです。

株式会社制度は経済にとっての大発明です。それは東インド会社のころからあるのですが、実際に大きくなったのは、アメリカで鉄鋼や鉄道の会社が発展したころです。それまで資金が必要であれば銀行に融資してもらっていたのですが、鉄鋼や鉄道は、製鉄所を作ったり線路を敷いたりするのに例えば5年ほどの時間がかかります。融資だとすぐに金利だけは支払う必要があるので、鉄道など営業を始められない時期が長い会社の資金集めは難しかったのです。

そこで、株式という制度が大々的に利用されるようになりました。株式は資金を集める時に金利や償還の約束をしません。儲かったら配当をするのですが、儲からなければ支払い義務が起こりません。鉄道や製鉄などは銀行だけが大口で投資するにはリスクが高いのですが、小口に分けてたくさんの人が保有すれば、多少の事業の失敗があっても経済が壊れにくくなります。一方で、小口の投資家は、一つの会社に投資するとその会社の倒産などのリスクが痛手となりますが、小口である分たくさんの会社の株式を保有してリスクを分散することができるのです。

ところで、株式こそが投資であるという理由は、株式は会社が儲かった分だけ投資家に分配することにあります。融資や債券投資では、融資先や債券発行会社がいくら儲けても、銀行や債券保有者の利益は前もって約束された一定の金額です。会社が儲からなくても一定の額が戻ってくると約束されていて、倒産するとその約束はなくなることもありますが、会社が続いていれば、多少なりとも返済の可能性があります。

しかし、株式は、儲かるまで配当が払われません。鉄鋼や鉄道の発展期の株主は、最初は我慢することも多かったでしょう。しかし、設備が動き、鉄が売れたり鉄道が動いたりすると、利益が上がれば上がるほど、株主の取り分も増えます。株主の取り分である配当が増えそうであれば、株式の取引では株価も上昇するわけです。このように、株式投資は、企業の発展の時期に小口で多くの企業の成長を支え、経済が一気に近代化することを支えました。その一方で、株主は、融資などと違い、投資先企業が発展すれば発展するほど自分に戻る配当も増えるという仕組みの中にいたのです。

株式投資がギャンブルと異なるのは、投資先の会社が自ら発展するために努力と工夫をすることで株主利益を得ることです。言い換えると、投資先の製鉄や鉄道の事業のリスクを取ることで、失敗に終われば利益はないが、成功すれば成功するだけ株主の利益も増えると期待できるのです。株式投資を一言で言えば「人間の努力と工夫」に資金の出し手として参加し、利益の分け前を得ることなのです。

もしあなたが「事業を起こして発展しようとする」ことをギャンブルとは呼ばないならば、株式投資がギャンブルとは違うことが明らかになるはずです。元本を保全する投資として貯蓄や債券投資があるので、自らの資金をうまく目的に合わせて配分すれば良いのです。

株を持つことはギャンブルなの?

株式投資のリターンは、給与の成長率よりも高いことが多い

日本では、戦後の財閥解体などを通じて多くの人が簡単に株主になれるようになり、しかも投資信託の制度が整備されて、小口でも広い範囲に投資できるようになりました。そして、いつでもどこにでもあるわけではない株式と投資信託の制度を利用して株式投資ができること、その機会が目の前にあることを幸運だと思ってよいです。NISA(少額投資非課税制度)はその投資成果から税金を取らないという制度です。

政府が税金を取らないことに決めるほど国民に投資してほしい理由は、投資のリターンが給与の成長率よりも高いことが多いからです。トマ・ピケティというフランスの経済学者が世界中の長い歴史にわたって(少なくも相続のデータがある数百年など)調べたところ、経済全体の成長率(g、通常給与の成長率より少し高いのですが)よりも、農園・不動産・企業の事業などに投資したリターン(r)のほうが3%程度高いことを発見しました。これはインフレを差し引いた実質ベースです。

このr>gという式が示すのは、資本を持つ人は、給与だけで生活する人よりも、多くの場合平均して年間3%、10年で30%、20年で60%など余計に豊かになったということです。ピケティはこのようにして人々の格差が固定されてしまいやすいことを教えてくれました。

例えば、40歳の二人の会社員AさんとBさんが60歳で引退するとしましょう。40歳から余裕資金をせいぜいインフレ率と同じ金利の預金だけにしておいたAさんと比べて、年間(インフレ+)3%のリターンを株式投資などで稼いだBさんは、20年後の60歳になった時の手持ち資金がずいぶん違うことになります。貯めているお金が元本では同じでも、全体で30%程度は(段々貯めるので当初のお金は60%、最近のお金は3%程度)差がついてしまいます。

全く余裕のない人については投資で差を埋めるというのは難しく、社会福祉などで守られる必要がありますが、うまく生計を立てている人は、余裕を増やすという発想で、自分が働いている会社以外の事業リスクに幅広く投資をして、会社が大きく成長する(平均すれば自分よりも3%くらい大きい)成果に参画して分配を期待することができます。

株式投資のリターンは給与の成長率よりも高いことが多い

長期にわたる資産形成との向き合い方 ~神山解説

余裕資金がある人が余裕を増やすことができる可能性が高い、ということを知ればより多くの人が株式投資を始めると思います。ギャンブルとは異なり、株式投資は、人が事業を拡大する努力と工夫にお金を投じてその成果の分配を期待することです。

投資にはそれぞれリスクがありますが、そのリスクの源はなんであるか、について考えてみてください。株式投資では、突き詰めれば事業のリスクが投資のリスクです。そのリスクは分散できます。たとえば、円高で一時的に利益が減る可能性のある輸出業、円安で儲けが減るかもしれない石油を輸入会社など、円安に強いものと円高に強いもの、どちらの事業も持てば、それらの事業の全体としての成長を獲得しながら、短期的に株価が揺れるリスクは分散できると期待できます。
投資に絶対はありませんが、それは実生活でも同じことですよね。まずは余裕資金の洗い出しから手をつけてみるといいと思います。

リスクの意味を明確にした上で、毎日の株価や為替、金利の上下動を気にするよりも、世界の事業が成長を続けていけそうかに気をつけることが投資家には必要です。これまでもリーマン・ショックやコロナ・ショックなどがありましたが、世界経済は全体としては成長を続けています。長期的視野でたくさんの株式に分散投資することが余裕資金の拡大にとって大事です。
そうなると、個人の投資はあまり色々選ばずにインデックス投資をすることが多くの場合適切と考えます。アクティブ投資に興味がある場合、インデックスに少しリターンを足したような投資戦略ではなく、ロボティクスや高配当など、あるいは自分の仕事に関連して詳しいことなど、テーマを明確にした投資の中から「ピンとくるもの」を選んで少し加えるほうが良いと考えています。その場合、市場の上下動ではなく、自らが選んだテーマが終わってしまうかどうかが、売却の判断になります。多くの場合、株式のテーマは短期に終わるものではないので、こちらも長期で投資成果を獲得することになると思います。

この記事に関連する日興アセットのETF

株式に分散投資(インデックス投資)ができるETF

1308 - 上場インデックスファンドTOPIX (愛称:上場TOPIX)

1330 - 上場インデックスファンド225 (愛称:上場225)

1554 - 上場インデックスファンド世界株式(MSCI ACWI)除く日本 (愛称:上場MSCI世界株)

1680 - 上場インデックスファンド海外先進国株式(MSCI-KOKUSAI) (愛称:上場MSCIコクサイ株)

1681 - 上場インデックスファンド海外新興国株式(MSCIエマージング)(愛称:上場MSCIエマージング株)

神山直樹

<解説者>
神山直樹(かみやま なおき)

日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト
2015年1月に日興アセットマネジメントに入社、現職に就任。1985年、日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)にてそのキャリアをスタート。日興ヨーロッパ、日興国際投資顧問株式会社を経て、1999年に日興アセットマネジメントの運用技術開発部長および投資戦略部長に就任。その後、大手証券会社および投資銀行において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事。

【最新のマーケット解説はこちら】
KAMIYAMA Seconds!90秒でマーケットニュースをズバリ解説

●掲載されている見解は当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。また記載内容の正確性を保証するものでもありません。
●当資料に掲載する内容は、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。
●当資料は、投資者の皆様に「上場インデックスファンド」へのご理解を高めていただくことを目的として、日興アセットマネジメントが作成した販売用資料です。
●投資信託は、投資元金が保証されているものではなく、値動きのある資産(外貨建資産は為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、市場取引価格または基準価額は変動します。したがって、投資元金を割り込むことがあります。投資信託の運用による損益はすべて投資者(受益者)の皆様に帰属します。なお、投資信託は預貯金とは異なります。
●投資信託毎に投資対象資産の種類や投資制限、取引市場、投資対象国等が異なることから、リスクの内容や性質が異なります。金融商品取引所に上場され公に取引されますが、市場価格は、基準価額と変動要因が異なるため、値動きが一致しない場合があります。
●リスク情報や手数料等の概要は、一般的な投資信託を想定しており、投資信託毎に異なります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)などをご覧ください。