あの鐘を鳴らすのはあなた―東証の鐘を鳴らすまでのあれこれ―指数開発編

あの鐘を鳴らすのはあなた―東証の鐘を鳴らすまでのあれこれ―指数開発編

  • 2020年8月20日

今回より新シリーズ「あの鐘を鳴らすのはあなた―東証の鐘を鳴らすまでのあれこれ」をスタートします。

私たちのETFへの取り組みを身近に感じていただくために、新しいETFの開発や日々のETF運用の中で、ETFセンターで実際に起こった“あれこれ”をお伝えしてまいります。記念すべき第1回は「指数開発のあれこれ」です。普段なかなか知る機会のない指数開発についてご紹介します。


9月7日に東証に上場する「上場インデックスファンド日経ESGリート(銘柄コード:2566)」は、日本経済新聞社が算出する「日経ESG-REIT指数」(以下、「本指数」)への連動を目指すETFです。本指数は不動産投資信託(以下、REIT)を投資対象とするもので、ESGの要素を取り入れたREIT指数への連動を目指すETFは、東証に上場するETFとしては初めて*となります。

*日興アセットマネジメント調べ

▶︎REITについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。



ESGとREITの出会い

2006年に国連が「責任投資原則」を公表。それを機に、「ESG」(=Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の頭文字を取った略語)が注目されるようになりました。

ESGとは環境や社会への配慮、統治の向上等に企業が取り組むことによって、その価値の拡大を目指すものです。しかしESGの理念に共感はしても、すべての企業や組織が追加的なコストを負担してまで、それを行うか否かはわかりません。そこで、企業に対してESGへの取り組みを促すような形で、株主や債権者などのステークホルダーが動くべき、という流れが生まれてきました。

日本で、それを率先垂範の形で示したのが、公的年金を運用する「年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)」です。GPIFは内外株式のパッシブ運用で5つのESG指数を採用し、合計5.73兆円の投資を行っています(2020年3月末時点)。さらに本年3月には、GRESB(後述)に「投資家メンバー」として参加。不動産投資の分野でも、ESGを重視する姿勢を鮮明にしたのです。ところで、GRESBとは、どういう組織なのでしょうか。

GRESB(グレスビー)は、あまり聞いたことがないかも

GRESBは、不動産会社やREIT、インフラなどのESG評価を行う会社で、2009年にオランダで設立されました。そのESG評価は、4.5兆ドルの不動産とインフラをカバーしており、すでに100社以上の機関投資家(合計運用資産22兆ドル超)が「投資家メンバー」として、その評価結果を投資先の選定、モニタリングやエンゲージメントに活用しています(2020年3月末時点)。本指数との関係でいうと、その銘柄配分において「GRESBリアルエステイト評価」を間接的に利用しています。

近年、国内の多くのREITがGRESBの評価で格付(スター)を取得した事実を発表しています。それはESGへの配慮の姿勢を内外のステークホルダーに示すためのものでしょう。しかし、それがどこまで最終投資家に浸透しているのか。またそういったREITの意図や努力を、REITの投資に活かす方法がないのか、私たちETFのチームは考えました。しかし日本には、ESG評価を活用したREIT指数は、その時点では一つもなく、無いものねだりの状況に陥りました。

求めよ、さらば与えられん

無いものねだりを続けていては、事態は前に進みません。それどころか、他の誰かに指数開発の一番乗りを上げられたら、ETFのビジネス・チャンスさえも奪われかねません。そこで私たちは、いくつかの指数算出会社に、それとなく打診を始めました。しかし、その過程で大きな課題に気づいたのです。

すなわち、ESG評価を指数算出会社だけで完結するには多額の費用がかかることです。調査の継続性の維持、非財務情報の確実な取得、調査員やアナリストの獲得と育成、公正な評価を維持するための内部ガバナンスの確保など課題と費用が山積する一方で、収益化の手段が現状では限られているのです。しかし、そのような状況においても、なにかしら動けばチャンスは訪れるものです。求めよ、さらば与えられん。

日本経済新聞社のインデックス事業室。「日経平均株価」をフラッグシップとして、「日経レバレッジ・インデックス」など数々のインデックスの開発、算出および公表を担っている組織です。そのチームがESGを考慮したREIT指数をひそかに開発中である、との噂を耳にしたのは2019年12月ごろでした。すぐさま連絡をとり、その説明を受ける機会を得て、堰を切ったように質問をし、投資家ニーズを怒涛の如く伝えました。そして、2020年7月、ついに「日経ESG-REIT指数」が日の目をみたのです。すぐさまETFの上場準備に取り掛かったことは言うまでもありません。

本指数の特徴

本指数の特徴をかいつまんで紹介しましょう。通常の時価総額型指数のように、東証上場の全てのREITを無条件に組み入れたり、時価総額の比率で保有したりはしません。銘柄選択と投資比率の決定は投資成果の全ての鍵を握っています。アクティブ運用でも、パッシブ運用でも事情は同じです。それを具体的に、どのように決めて実行するかが、投資の本質であり、知恵の結晶といえます。

まずは銘柄選択ですが、原則として、東証上場のREITで、一定の流動性と規模を満たせば採用されます。つまりGRESBの格付が無くとも本指数に採用されるのです。これは、無格付であってもESGを軽視していると即断してはいけない、第三者の評価とは別にESGに熱心に取り組むような無冠の帝王もいるだろう、それを取りこぼすリスクを避けようとの意図を感じます。GRESBの評価を尊重しつつも、一定の距離を置くという中庸な立場を維持している印象を受けます。

次に各銘柄への配分比率です。配分比率に影響を与えるのは、GRESBのリアルエステイト評価の結果によって付されたスターの数です。本指数は、各銘柄のスターの数の変化に応じて、11月末に銘柄の入替や配分比率の変更を行います。このプロセスこそが、本指数の最大の特徴となりますので、節を替えて説明します。

各銘柄への配分比率の決定

簡単な例と図表で、各銘柄への配分比率(図表の⑤)の決定方法を解説します。まず本指数の対象銘柄(例ではA~Fの6銘柄)の時価総額(図表の①)とその配分比率(図表の②)を計算します。これは通常の時価総額加重型指数と同じです。次に各銘柄のスターの数(1~5)に対応したESG係数(1.1~1.5。ただし無格付けのものは、ESG係数を1.0とします)を、各銘柄の時価総額(図表の①)に掛けます。それらの結果(図表の④)に基づいて、各銘柄への配分比率(図表の⑤)が最終的に決まります。

図表:各銘柄への配分比率

各銘柄への配分比率

※「日経ESG-REIT指数」算出要領を元に日興アセットマネジメントが作成
※図表は理解を深めるための簡単な例であり、実際とは異なります。


以上が配分比率の決定ですが、その意味するところをいくつか挙げて、本稿の締めくくりとします。

・スターの数が多いほど、また当初の配分比率が高い(=①の時価総額が他の銘柄より大きい)ほど、本指数内の配分比率(図表の⑤)が高くなります。REIT自身が、その時価総額を意図的に増やすことは出来ないにせよ、スターの数が多くなるように努力することは可能です。「REITのESG活動を応援したい」という思いが強く表れているのではないでしょうか。

・通常の時価総額型指数と本指数の配分比率の差(図表の⑥)は、全てがプラスになるわけではありません。それは、限られた資産のなかでESG係数の低いものから高いものへと、資産配分がやりくりされるためです。その点に着目すると、時価総額の合計である⑧を⑦で割った値(このケースでは1.25)が重要な目印になります。本指数の「加重平均ESG係数」です。各銘柄のESG係数がその値を超えるか否かで、時価総額加重型指数として計算された際の配分比率(図表の②)より多く配分されるか否かが決まります。簡単にいえば、競争環境の中では平均点を超えないことには、ご褒美をもらえないのです。



上場インデックスファンド日経ESGリート(愛称:上場ESGリート)
銘柄コード:2566
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リート(REIT):
リート(REIT)は、投資者から集めた資金をもとにオフィスビルや商業施設、住宅、物流施設などの物件(不動産)を購入し、そこから得られる収益(賃料収入や売却益など)を投資家に分配する投資商品です。物件の入替えによる売却が、売却益(損)を生み、収益が増える(減る)場合もありますが、リート収益の大部分は、定期的に入ってくる賃料収入が占めていることから、比較的安定した収益が期待できます。また、リートは不動産投資を目的として特別に認められた法人であり、配当が可能な利益の90%超を投資家に分配することによって法人税が免除されることから、一般の株式会社に比べ高い分配金が期待できます。こうした比較的安定した収益や相対的に高い分配金利回りがリートの大きな魅力となっています。