本レポートは、2018年12月発行の英語版「ASIAN EQUITY OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 11月のアジア株式市場(日本を除く)は、世界の経済成長をめぐる根強い懸念やテクノロジー関連株の下落にもかかわらず、米ドル・ベースのリターンが5.3%となった。月末にかけ、米FRB(連邦準備制度理事会)によるハト派的な発言を受けて市場が反発した。その後、米国と中国が貿易戦争の一時休戦で合意する模様となったことも追い風となった。
  • インド市場は、原油価格の下落を受けて経常赤字懸念が和らぎインドルピーが上昇するなか、米ドル・ベースのリターンが10%を超えた。
  • 中国および香港市場は、経済指標が冴えないなかでもアジア域内の他国市場をアウトパフォームした。中国は財政政策の緩和継続や資金流動性の増大が押し上げ材料となり、また、香港はFRBの利上げペース減速期待を受けて上昇した。
  • インドネシア市場は、中央銀行による今年6回目の利上げ実施や、自国通貨の下支えと経済成長の押し上げを目的とした景気刺激策が追い風となり、アセアン市場のなかで最も堅調なパフォーマンスを示した。
  • マレーシアおよびタイ市場は、原油安が重石となり、米ドル・ベースのリターンがそれぞれ-1.0%、-0.3%となった。マレーシアにおいては、歳出削減や新税導入が盛り込まれた緊縮傾向の予算案が発表され、市場センチメントを一段と冷やした。
  • 米中間の貿易戦争が一時休戦に漕ぎ着けた様子であることは、金融市場にとって歓迎すべき安堵材料となった。しかし、不透明感は根強い。当社では、構造的な追い風の恩恵を受けるクオリティの高い企業に投資するという基本原則に特化することがとるべき道だと考える。バリュエーションは依然、アジア株式(日本を除く)ユニバースの大部分にわたって極めて魅力的な水準にある。したがって、当社では、香港や中国を中心としてオポチュニスティックに投資ポジションの積み増しを進めている。

アジア株式

市場環境

11月のアジア株式は市場リターンがプラスに
11月のアジア株式市場(日本を除く)は、米ドル・ベースのリターンが5.3%となった。当初は、世界の経済成長をめぐる根強い懸念や米国の借り入れコストの上昇が市場センチメントの重石となった。テクノロジー関連株はiPhoneの販売低迷見通しを背景に下落し、原油価格は全般的な投資家のリスク回避姿勢や米国のシェールオイル生産増加を受けて1年超ぶりの安値水準まで下落した。月末にかけては、米FRB議長によるハト派的な発言がきっかけとなり、市場は上昇に転じた。その後、米国と中国が貿易戦争の一時休戦で合意する模様となったことから、株価上昇に拍車がかかった。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2017年11月末~2018年11月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC ASIAインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI EMERGING MARKETSインデックス、グローバル株式はMSCI AC WORLDインデックスを、2017年11月末を100として指数化(全て米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2008年11月末~2018年11月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC ASIAインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI EMERGING MARKETSインデックス、グローバル株式はMSCI AC WORLDインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

インド、中国および香港市場は他国を上回るパフォーマンス
インド市場は、米ドル・ベースのリターンが10.4%に達した。原油価格の下落を受けて経常赤字懸念が和らぎ、インドルピーが上昇して対米ドルで3ヶ月ぶりの高値をつけた。一方、2018年第3四半期の経済成長率は、金融システムにおける流動性逼迫が足かせとなって前年同期比7.1%へと減速した。

中国および香港市場は、経済指標が冴えないなかでも、米ドル・ベースのリターンがそれぞれ7.3%、7.4%となり、アジア域内の他国市場を上回った。中国は財政政策の緩和継続や資金流動性の増大が押し上げ材料となり、香港はFRBの利上げペース減速期待を受けて上昇した。経済面では、中国政府発表の製造業PMI(購買担当者景気指数)が、中小規模製造業者の低迷や新規受注の伸びの鈍化を主因に、50へと低下した。香港の2018年第3四半期GDP成長率は、消費の伸びの失速や台風22号(マンクット)の影響による観光客数減少が響き、前年同期比2.9%へと減速した。その他、騰訊控股(TENCENT)は、LINE株式会社と提携し日本国内でモバイル決済サービスを展開する計画が好感され、株価が大幅に上昇した。

アセアン市場は概ねプラス・リターンに
アセアン市場のリターンは概ねプラス圏内となり、例外はタイとマレーシアのみであった。域内で最もパフォーマンスが良好だったのはインドネシア市場で、11月のリターンは12.3%に達した。中央銀行は市場予想に反して今年6度目となる政策金利引き上げを決定したが、投資家はこれにポジティブな反応を示した。また、同国政府は、インドネシアルピアの下支えと成長の押し上げを狙い、コモディティ輸出業者を対象とした減税を含む景気刺激策を導入した。

マレーシアおよびタイ市場は、原油安が重石となり、米ドル・ベースのリターンがそれぞれ-1.0%、-0.3%となった。マレーシアにおいては、歳出削減や新税導入が盛り込まれた緊縮傾向の予算案が発表され、市場センチメントを一段と冷やした。タイについては、第3四半期のGDP成長率が市場予想を下回ったことが痛手となったほか、観光船の転覆事故を受けて中国人旅行客が減少したことが観光セクターへの打撃となった。

台湾は政治の先行き不透明感が重石に
台湾市場のリターンは-0.7%となり、アジア地域内で最もパフォーマンスが劣後した市場の一つとなった。与党・民進党が地方選挙で野党・国民党に相次いで敗北したことから、政治の先行き不透明感が高まり、また与党の蔡英文党首が辞任する結果となった。米中間の貿易をめぐる緊張によって台湾の輸出品に対する需要が損なわれかねないとの懸念が強まるなか、台湾政府は2018年および2019年の経済成長予想を下方修正した。

アジア株式(日本を除く)のリターン
過去1ヵ月間(2018年10月31日~2018年11月30日)

台湾は政治の先行き不透明感が重石に過去1ヵ月間(2018年10月31日~2018年11月30日)

過去1年間(2017年11月30日~2018年11月30日)

台湾は政治の先行き不透明感が重石に過去1年間(2017年11月30日~2018年11月30日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注) リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックスに基づく。株式リターンは現地通貨ベース、為替リターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

アジア株式のバリュエーションは引き続き魅力的
アルゼンチンで先日開かれたG20首脳会議において、米中間の貿易戦争が一時休戦に漕ぎ着けた様子であることは、金融市場にとって歓迎すべき安堵材料となった。しかし、その根底にある諸問題は解決には程遠いということになるかもしれず、また解決策にたどり着くための協議期間は90日ではまだ短すぎるということになるかもしれない。このように不透明な市場環境下では、構造的な追い風の恩恵を受けるクオリティの高い企業に投資するという基本原則に特化することがとるべき道だ。バリュエーションは依然、アジア株式(日本を除く)ユニバースの大部分にわたって極めて魅力的な水準にある。したがって、当社では、香港や中国を中心としてオポチュニスティックに投資ポジションの積み増しを進めている。

中国では国内消費やヘルスケア、ソフトウェアに関連するセクターに注目
中国は金融システムの債務削減における姿勢を緩和することを決定したが、これは政策の方向転換と解釈すべきではない。反対に、中国は年初ほどの急速なペースではないにしろ、国内の債務状況の是正に引き続き固くコミットしている。最近の政策緩和がより公式な経路を通じて行われていることや、国家隊とよばれる政府系資金による株買い介入が行われていないことは、量から質への転換という方針に変わりがないことの証拠である。当社では、保険、ヘルスケア、一部の消費関連といった、ポートフォリオのコア・ポジションとして長期的に選好する分野に、ソフトウェアを追加している。

インド市場はバリュエーションに基づいて強気度を引き下げ
インドは、いつものことながら、引き続き明暗が混在する市場となっている。企業収益自体は比較的堅調なものの、経済成長の鈍化やコアインフレの高止まり、政治的リスクの高まりなど、マクロ環境は依然ぱっとしない。原油安は資本収支、延いてはインドルピーにとって歓迎される小康材料である一方、2020年度の経済成長率予想は楽観的過ぎるように見受けられる。こうしたなか、足元での株価上昇によってインド市場のリスク・リターン・バランスは魅力度が低下している。以上を踏まえ、当社では、財務基盤が堅固な民間セクターの銀行および不動産セクターに引き続き注目している。

韓国と台湾は選別的な姿勢を維持
韓国では、北朝鮮に対する融和の動きにある程度の進展が見られているものの、国内経済が冴えないことから、文大統領の支持率が低迷している。米中間の貿易をめぐる対立は韓国と台湾のテクノロジー・セクターに痛みをもたらすこととなったが、最近の展開を受けて当面は小康状態が見られるだろう。しかし、通商問題の解決はまだ先であり、サプライチェーンには長期的な影響が及んでいることから、テクノロジー・セクターの比重が大きいこれらの市場においては選別的な姿勢が求められる。当社では引き続き、ヘルスケア、電気自動車、そしてテクノロジー・セクターのニッチ分野に注目している。

アセアンについては弱気な見方を維持
アセアンでは、状況が二分化している。インドネシアについては、消費が回復を見せ始めているほか政治の停滞が改善に向かう可能性があり、見通しが有望であるものの、マレーシアはその真逆の状況にあり、弱気な見方を維持している。フィリピンは、出遅れた金融引き締めの効果がまだ経済に及んでおらず、静観姿勢が妥当だろう。一方で、タイは、国際収支が健全な水準にあり、米ドル高や原油安といったマクロ面の逆風に対処できる見通しである上、来年に選挙が行われるかもしれない兆しが見られていることから、当社がアセアン地域のなかで選好する市場となっている。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)PER、PBRともにMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

当資料は、日興アセットマネジメントアジアリミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメントアジアリミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。