- 2020年6月9日
vol.5 日銀が買っている株式のETFっていったい何?出口戦略は?
日本銀行がETFの買い入れを増やすというが、そもそもETFとは何?
いまさらかもしれませんが、ETF(Exchange Traded Fund)というのは、株価指数などと同じ構成で株式を買う投資信託(ファンド)それ自体が証券市場に上場したものです。日興アセットマネジメントなどの運用会社が、たくさんの投資信託(以下、投信)を設計して運用しており、投信は銀行や証券会社などの店頭で買うことができます。一方、ETFは、株式と同様、投資家が東証などの株式市場で(証券会社に委託して)直接買うことができる投信で、上場投資信託とも呼ばれます。上場していない投信は、価格が1日1回算出・公表発表されますが、上場しているETFは、市場で取引される限り1日に何度でも価格がつきます。
また、ETFのような上場している商品は、投資対象が単純で分かりやすいのが特徴です。その中でも日本銀行(以下、日銀)が買っているのは、主にTOPIXや日経平均などの日本株式全体に幅広く分散投資するETFで、個別企業の株価に影響が少ないと考えられています。
日銀はなぜETFを買うのか?個人も買っていいのだろうか?
日銀がETFの買い入れという方法で日本の株式を買うことにした理由は、「そのほうがインフレになりやすい」と思ったからです。デフレ脱却のための政策のひとつとして株式投信を買い入れたのは、世界の中央銀行の中で初めてでした。そして、個別銘柄にできるだけ影響を与えず、売買の透明性を持たせるために、主に上場している指数連動のETFの買い入れを選んだのだと思います。
日銀は、2010年12月からETFの買い入れを始めましたが、コロナ・ショック後の2020年3月16日の日銀金融政策決定会合で、ETFの買い入れ額をこれまでの6兆円から12兆円を上限に増額することを発表し、改めて注目されました。ETFは、そもそも個人投資家が投信も株式と同じように売買できる(価格が見えやすい、複雑な仕組みを持つファンドなどではない)ようにと開発されたので、個人投資家が投資対象として考えるのは適切です。
逆に言うと、日銀の目的が何であれ(デフレ脱却の一助、コロナ・ショックでの市場心理悪化低減)、この市場介入は、ETF市場の流動性を高め、価格の適切さも増す(個別の株価とETFの価格の関係の安定など)ように機能しました。
日銀は、一方的に買い付けて流動性を蒸発させないようにETFの貸し出しも行う予定ですので、ETF市場の成長にも手を貸してくれていることになります。
日銀とETFと個人投資家 ~神山解説
日銀は、2020年4月末現在で、41兆円規模の日本株ETFの82%(34兆円程度)を所有しています。しかし、日本株全体(553兆円)から見ればわずか6%程度の保有割合であり、株式市場全体を支配しているわけではありません。
そして、本来個人投資家のために設計されたETF市場で、個人投資家はまだ3%程度しか保有していない*のです。デフレ脱却という目的でETFを使い始めた日銀が、ETFの市場を育ててくれていることもあり、今後は個人投資家が参加する比率が高まると期待します。
いつか日銀が、保有する日本株ETFを売却し始める(出口戦略)と懸念する声もあります。もちろん日銀はデフレの懸念がなくなり、市場が安定すれば売却すると考えられます。しかし、デフレ懸念も弱まり市場の安定に信頼が持てるときに、たとえば「上昇した日にたくさん売る」といったような出口の方法を見つけてくれるでしょうから、そのこと自体が、株式市場やETF市場を壊すと考える必要はないでしょう。
ETFの種類も多様化しており、日本、アメリカ、世界の株式や債券もETFで買うことが出来るようになってきましたので、改めてETFによる幅広い長期分散投資を考えてよいと思います。
*日本取引所グループ ETF受益者情報調査結果(2019年7月)
ご参考:日銀が買い入れ対象とする株価指数に連動する日興アセットのETF
日興アセットには、日銀の買い入れ対象の株価指数である、東証株価指数(TOPIX)、日経平均株価(日経225)、JPX日経インデックス400(JPX日経400)に連動するETFと設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するための指数に連動するETFが全部で5銘柄あります(2020年6月9日時点)。
東証株価指数(TOPIX)に連動するETF
1308 - 上場インデックスファンドTOPIX (愛称:上場TOPIX)
日経平均株価(日経225)に連動するETF
1330 - 上場インデックスファンド225 (愛称:上場225)
1578 - 上場インデックスファンド日経225(ミニ) (愛称:上場日経225(ミニ))
JPX日経インデックス400(JPX日経400)に連動するETF
1592 - 上場インデックスファンドJPX日経インデックス400 (愛称:上場JPX日経400)
設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するための指数に連動するETF
1481 - 上場インデックスファンド日本経済貢献株 (愛称:上場日本経済貢献)
<解説者>
神山直樹(かみやま なおき)
日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト
2015年1月に日興アセットマネジメントに入社、現職に就任。1985年、日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)にてそのキャリアをスタート。日興ヨーロッパ、日興国際投資顧問株式会社を経て、1999年に日興アセットマネジメントの運用技術開発部長および投資戦略部長に就任。その後、大手証券会社および投資銀行において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事。
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