神山解説

  • 2020年7月22日

vol.6 金への投資は個人投資家にとって必要か



「有事の金」というのは正しいのか

正直なところ、金が「有事に強い」のかは判然としない 。金価格は、コロナ・ショックにおいては当初すべての投資資産から資金が逃げるときにごく一時下げ局面もあったが、その後回復し、安定的に推移している。しかし、世界の株価指数も概ね回復したので、これが「有事の金」志向の証拠とは言えない。

米ドル建ての金価格は、米国経済が悪化し、米ドルが弱く、米国株式のPERが低下する(株式の人気が低下する)ときに上昇しやすい。景気悪化時には金利が下がるので、金利がつかない金保有の価値が相対的に増すとの説明もある。
しかし、日本の円建ての投資家は、ドルが弱いときに金を買っても円建ての価値は横這いとなるのだから、それ自体が儲かる投資とは言いにくい。
「有事の金」の保有では、世界を巻き込む大戦争で米ドルの価値が危ぶまれるなら理解できるが、そのような事態はほとんど起きたことがない。「有事→米国景気悪化の恐れ」という因果を期待するとしても、長続きはしない。

また、各国の外貨準備の金の保有割合は、アメリカや欧州では7割以上などとなっているが、管理通貨制度*のもとで金そのものを保有する明確な意味を失っており、先進国は金の保有を減らす傾向にある。中国など新興国は、安全保障の観点もあって米ドルを減らし金を保有しようとはしている。

*管理通貨制度:国内に流通する通貨量を金の保有量で決定する金本位制に対し、通貨当局が政策目標に従って通貨量を人為的に調節する制度。

金投資のイメージ

 

金の価格を決める大きな2つの要因

さて、金価格はどのように決まるのか。これもなかなか定説はないのだが、まず宝飾品需要など実需は問題にされない傾向にある。例えばインドでは経済力の上昇で金の宝飾品需要が増大している一方、金の新規供給は限定的であるため、価格が上がるのではないかと期待される。これは、金を掘り出すための採掘コストが高ければ、金の価格が上がるというもので、突き詰めると長期的には実需が重要との見方ができる。
しかし、現実には、金取引の大きな部分は先物市場での「金融取引」であり、石油のように実需動向は気にされない。

では、金融取引での金需要とは何か。まず、米ドルなどの価値が下がるような景気悪化時のリスクを避けるため、つまり米国株のリスクプレミアム*の低下や米ドルの価値低下(米金利低下)が理由となる。米国経済・為替・株式のリスクが高いと思われるほど金価格が高くなる傾向は多少見られる。

*リスクプレミアム:リスク資産の期待収益率が、無リスク資産(国債)の収益率をどのくらい上回るかを示した値。米国株のリスクプレミアムは「S&P500益回り-10年米国債利回り 」とした。


また、 実質金利との関係もあるとみられる。実質金利は「名目金利―物価変動率」で、実質金利が低いほど金価格が高くなる傾向がみられる。これは、物価の影響を除いたお金の需要の低下、例えば設備投資の弱まりと関係があるとみられる。金取引の参加者の多くはこのような視点から金取引を行うのではないだろうか。

金は資産配分に加えるべきなのか ~神山解説

このようにみてみると、金はインフレヘッジとは考えにくい。銅などのベースメタル(広く世界に埋蔵している産業用資源)では少しはあるのかもしれない。また、株式のように人々の努力と工夫の成果が配分されるわけではない(掘り出す人のコストは考慮されるが、欲しい人がいることが前提)、債券のように金利を約束するものでもない。このような意味では投資対象とは言えない。

しかし、アセット・アロケーションに含む意味はある。まず、金はこれまで何千年も前から価値を形成してきており、人々はこれからも長期的に「金を欲しい」と思い続ける可能性が高い。そうであれば、宝飾品需要の増大は(非常に長い目で見れば)継続するだろう。これに対する限界的な掘削コストの上昇が、いわばリターンの基礎となる。

それに加えて、ドルの価値の下落の恐れに対する一時的な保有ニーズや新興国の中央銀行の資産分散の対象となる。短期的な価格の上下動が他のどの資産とも異なることが多いとすれば、分散投資の対象とみなすことは適切と言えそうだ。金そのものは証券投資とは異なり、それ自体が価値を生むという説明が難しいので、通貨の保有と似ているとも考えられる。そのため、米ドルに対する通貨ヘッジとしては機能することもありそうだ。



神山直樹

<解説者>
神山直樹(かみやま なおき)

日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト
2015年1月に日興アセットマネジメントに入社、現職に就任。1985年、日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)にてそのキャリアをスタート。日興ヨーロッパ、日興国際投資顧問株式会社を経て、1999年に日興アセットマネジメントの運用技術開発部長および投資戦略部長に就任。その後、大手証券会社および投資銀行において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事。

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