神山解説

  • 2021年4月22日

vol.15 日銀の買い入れ対象として残ったTOPIX ETF



日本銀行のETF買い入れのいま

日本銀行(以下、日銀)が株価指数ETFを買い入れる政策を始めた時の目的は、「2%程度の物価上昇率が安定する」ために、リスク・プレミアムに介入するということでした。ここでのリスク・プレミアムとは、マーケット参加者のインフレに対する心理に近いです。

日銀の株式(ETF)買い入れ  リスク・プレミアム下落≒PER*(株価収益率)上昇  景気拡大への期待拡大と設備投資などの回復  資金利用先の増加・インフレ期待と良い金利上昇、といった流れが期待されていました。
しかし、PER上昇を伴わずに円安などで日本の企業の株価が上昇し、さらにコロナ・ショックの直後には企業利益の蒸発と、その後の急回復でリスク・プレミアムの計測も難しい状態となりました。

*株価が1株ごとの当期純利益の何倍まで買われているかを表す指標


2021年4月の政策調整以降、日銀はETFを年間約12兆円に相当する残高増加ペースを上限に、年間6兆円の買い入れ額の目安はなくして、必要に応じて買い入れを行うことにしましたが、これは株価を通じた期待形成が財政政策などに変化したことが背景にあるとみています。
しかし、日銀としては「物価上昇率が十分高くないのに緩和政策の一部をやめる」と市場が誤解するようなメッセージを出すことを避けて、年間のETF買い入れ額の目安を定めず、買い付けを減らしてもよいとする調整をしたようです。

また、日本株の3指数(TOPIX*、日経平均、JPX日経400)連動型ETFの買い入れから、対象指数をTOPIXのみに変更しましたが、これは、日経平均連動型のETFを大量に買い付けることによって、一部の銘柄において日銀保有比率が高まってしまったからと思われます。いずれにせよ、文字通りより適切な方向に「調整した」と理解できます

*東証1部に上場している全ての国内企業の株式を算出対象とする株価指数

新緑のなかの日銀

 

2022年4月からTOPIXがなくなる?! 市場への影響は?

2022年4月4日付で、東京証券取引所の現在の4つの市場区分(東証1部、東証2部、マザーズ、JASDAQ)が「プライム市場」、「スタンダード市場」、「グロース市場」の3つの市場区分に見直されます。TOPIXは組入銘柄が少し変わりますが、なくなるわけではありません。当初は直前の組入銘柄をそのまま継続採用します。また、時価総額が基準(100億)に満たない銘柄も、2025年1月までにゆるやかに組入比率を引き下げることになります。東証側が指数の設計を緩やかに変更していくとしても、TOPIXは突然大きく変わらず、指数そのものが日本株式市場全体の動きを表現するようになっていることに変化はありません

市場区分の見直しのイメージ

市場区分の変更

*日本取引所グループの公表資料より引用

投資家はTOPIXに連動するものを買い続けて問題ないか ~神山解説

TOPIXの設計に関する制度変更では、1部や2部という市場区分がなくなっても、TOPIXは同じような指数として残るので、市場が乱れるとも想定していません。そのため、投資家は大きな心配をする必要はないと思います。また、日銀がこの制度変更でETF買い入れへの態度を変えることはないとみています。また、日本株式を幅広く保有するという目的でTOPIX連動型のETFに投資することは、これまでと同様に適切と考えます。

日銀自身が(この制度変更とは関係なく)ETFの買い付けを続けるかは、日本のインフレ率が2%程度までに高まるかどうかに依存しています。ただし、株価指数の上昇がインフレ期待とあまり関係なくなってきたとみなせば、買い付けは減らしていくかもしれません。くれぐれも、日銀が買っているからETFを買うという投資態度はお勧めしません。

これからの日本経済のコロナ自粛からの正常化、世界の経済回復による輸出の伸びなどが日本企業の収益を正常化・成長させることに期待して投資をしてください。長期的には日銀などの政策よりも、日本を含む世界経済の回復と成長の成果を得ることが、TOPIXなどの日本株式への投資の目的です。

この記事に関連する日興アセットのETF

東証株価指数(TOPIX)に連動するETF
1308 - 上場インデックスファンドTOPIX (愛称:上場TOPIX)



神山直樹

<解説者>
神山直樹(かみやま なおき)

日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト
2015年1月に日興アセットマネジメントに入社、現職に就任。1985年、日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)にてそのキャリアをスタート。日興ヨーロッパ、日興国際投資顧問株式会社を経て、1999年に日興アセットマネジメントの運用技術開発部長および投資戦略部長に就任。その後、大手証券会社および投資銀行において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事。

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