神山解説

  • 2021年7月19日

vol.18 株式投資での、グロース・バリュー・高配当・割安のまとめ



グロース・バリュー・高配当・割安、どんな定義があるの?

漠然と使われる言葉で、本来はいずれも厳密な定義はありません。ただし、指数などを作るときに定義ができてきました。一番よく使う定義は、「PBR(株価純資産倍率)*」で市場を半分に分けて、高い方をグロース、低い方をバリューというものです。これは、正直なところ指数を計算するのに問題を簡略化しすぎですが、一番多く利用されている定義と言えます。多くの場合、バリューと割安を同じ意味で使うので、割安もPBRが低い方のグループとする場合もあります。高配当は「市場の銘柄全体を配当利回りの高い順に並べて上の方」ですが、どのくらい「高い方」かの決まりはありません。ただ、実際に見てみると、配当利回りが高い銘柄はPBRが低いことが(日本では)多いので、バリューと重複しています。

だんだんと話がこんがらがってきましたが、定義はもともとはなかったので、意味を説明します。グロースとバリューは、昔から運用のプロの世界にあった二つの運用スタイルで、成長する会社(グロース株)を選ぶのが得意なグロース・マネージャーと、市場で無視されがちな地味な銘柄(バリュー株)の中から実力に応じた評価を得て株価が上昇する銘柄を選ぶのが得意なバリュー・マネージャーがいたのです。それぞれが得意とする銘柄の集まりをグロースやバリューなどとよび、国内株投信の種類もそのように分けることもあります。

当たり前ですが、プロの運用マネージャーは、PBRが高いほど良いグロース株とは思わないし、PBRが低いほどバリュー株(割安株)と考えるとも限りません。そんなに単純ではないですよね。ただ、投信やETFでグロース型、バリュー型、高配当などがあれば、投資のイメージは沸きやすいとはいえます。

*PBR(Price Book-value Ratio):株価純資産倍率。株価が1株当たり純資産の何倍に買われているかをみる指標。

成長イメージ

 

グロース、バリュー、成熟、ターンアラウンドに分ける考え方

運用の実務の観点ではなく、市場を分析するときに、私は4分類を使います。PBR(株価純資産倍率)とPER(株価収益率)の両方を使って、市場を4つに分けます

PBRが高い銘柄は成長株とは限らず、ROE(株主資本利益率)が高くて成長しない(成熟)株が含まれます。このような銘柄はPBRが高いがPER(成長期待)は低いです。また、PBRが低い銘柄には、PERも低い銘柄とPERは高い銘柄があります。低PBRでもPERが高い銘柄は、現時点での利益水準が明らかに通常より低すぎて、例えば円高など一時的な要因での利益の低下がすぐに回復(ターンアラウンド)しそうな銘柄です。PBRもPERも低い銘柄は、現時点で利益率も低いが目先はターンアラウンドの期待もない、という意味で、今後の期待の回復そのものが待たれている状態です。グロース・マネージャーは、この4分類でもグロース株を見ているでしょうし、バリュー・マネージャーはバリューやターンアラウンドを主に見ているでしょう。

*PER(Price Earnings Ratio):株価収益率。株価が1株当たり純利益の何倍まで買われているか、1株当たり純利益の何倍の値段が付けられているかを見る指標。

*ROE(Return on Equity):株主資本利益率。株主資本に対する当期純利益の割合。

グロース、バリュー、成熟、ターンアラウンドの4分類で見た日米の市場特性

TOPIX500とS&P500の市場特性が分かる分布図

*TOPIX500は、東証市場第一部(TOPIX)の構成銘柄のうち、時価総額及び流動性の高い500銘柄で構成される指数。TOPIXの構成銘柄の時価総額の約90パーセントをカバーしています(2021年7月16日時点)。

*2021年6月30日時点。信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成。上図は外れ値を除いてみやすくしています。



興味深いのは、この4分類で日米を比べると、市場の特性がとても違うことがわかるということです。
日本ではバリューがとても多く、グロースや成熟が少ないです。米国ではグロースがとても多いです。つまり儲かっていてしかも成長している銘柄が多い。儲けを自分の成長に流し込むので成長に自信が持てます。違う言い方をすると、日本は全体としてはバリュー、米国はグロースの性格を持っているのです。

日本の株式市場は正直なところ米国より活力が足りないように見えます。ターンアラウンドの銘柄が今後株価が期待する程度に利益を増やして、PERもPBRも高い銘柄になって欲しいものです。ちなみに、PBR=PER×ROEという関係式であることは、覚えておいてほしいポイントです。

PBR・PER・ROEの関係式

PBR=PER×ROEの図

スタイル別の投資で気をつけたいこと ~神山解説

「高配当」「グロース」「バリュー」などの観点で、個別銘柄や投資信託、ETFを選ぶことはあると思います。「どれが一番儲かるか」ではなく、自分の投資の目的は何かを先に考えて、それに合うものを選んでください

高配当銘柄: PBRやROEが高くて成熟した企業が、成長機会が少なく配当を高くするということが多いです。これは企業の行動として適切なのですが、成長銘柄の株価がどんどん上昇するときに置いていかれやすく、下がるときには価値を保つ傾向にありますので、ディフェンシブでもあります。

グロース: 流れに乗るとうまくいきますが、割高に買われているので、利益が増えないまま流れが変わると、急落するなどリスクが高い傾向にあります。

バリュー: じっと待つスタイルですが、なかなか流れが来なくて(バリュー・トラップに引っかかるなどと言います)待ったままになることもあります。

また、一番怖いのは、いつの間にか全部の種類に手を出して、全部合わせるとインデックスになってしまっているケース(押し入れの中でいつの間にか、という意味で、クローゼット・インデックスと言います)があります。あれこれ気が散るなら、長い目で見れば市場を丸ごと買うインデックスタイプの方が簡単でいいのかもしれません。



神山直樹

<解説者>
神山直樹(かみやま なおき)

日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト
2015年1月に日興アセットマネジメントに入社、現職に就任。1985年、日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)にてそのキャリアをスタート。日興ヨーロッパ、日興国際投資顧問株式会社を経て、1999年に日興アセットマネジメントの運用技術開発部長および投資戦略部長に就任。その後、大手証券会社および投資銀行において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事。

【最新のマーケット解説はこちら】
KAMIYAMA Seconds!90秒でマーケットニュースをズバリ解説
note 神山直樹


■当資料は、日興アセットマネジメントが情報提供を目的として作成したものであり、特定ファンドの勧誘資料ではありません。また、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。なお、掲載されている見解および図表等は当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。
■投資信託は、値動きのある資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込むことがあります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)をご覧ください。