神山解説

  • 2021年8月23日
 

vol.19 世界のハイテク産業でいま起こっていること、米中の覇権争いの行方 ~投資家としての見どころ



ところでハイテク産業ってなに?

「ハイテク」というだけでは、なんのことかはっきりしません。ハイテクは、ソフトウエアとハードウエアの産業に大別されます。そのなかでも、ソフトウエアでは、インターネットのプロバイダーのようなネット企業、自動運転に搭載する人工知能(AI)のソフトウエア開発などがあります。ハードウエアには、ロケットなど宇宙開発、産業用ロボット、半導体の設計・製造、半導体関連の製造装置、あるいは量子コンピューターなどがあります。

投資家の観点からは、それぞれの全く異なる状況をよく精査する必要があります。インターネット関連には、通信販売のような消費サイクルに影響される(つまり小売業)もあれば、検索サービスやSNSのプラットフォーマーなど広告ビジネスもあります。一方で、人工知能開発は自動運転など民生用から軍事用(防衛産業)まで含みます。これだけでも、単なる技術のみではなく政治・外交・経済政策などと関係があることが分かります。

宇宙旅行ビジネスは景気が良く、アントレプレナー(事業家・起業家)が成功するほど、月旅行に行きたい人が増えて需要が増えるかもしれません。しかし、宇宙ビジネスには、人工衛星(気象・GPSなど通信)などのビジネスも関わっています。こちらは主要国の軍事・外交(大陸間弾道弾、他国の軍事的動向調査、テロ対策など)とも関わります。自動運転の人工知能などの開発は、自動車産業へのIT企業の参入の可能性を高めますが、損害保険の法的制度の検討の進展が必要で、国の立法力により対応に差が出るかもしれません。ハイテクと一口にまとめて、米中の覇権争いと単にあおられず、投資家自身がなにを成長機会ととらえ、その産業がどのようなリスクを持っているかよく見ておく必要があります

IT産業のイメージ

 

米中の覇権争いを投資家としてどう見ておくか

よく話題になるハイテク産業における「覇権」争いとは、市場シェアを取って儲かる産業にする争いです。半導体での米中覇権争いは、そもそも米国企業が中国で製品を生産する際に、高性能な半導体を米国から輸出していたことから始まりました。中国で作られる米国向け製品だけではなく、中国国内需要を含むさまざまな製品にも米国の高性能半導体が利用されたので、米国企業は潤ったものの、中国への技術移転の恐れがあると政治的な問題になったのです。

中国は、中国国内で生産する外資系企業に技術情報を提供する義務を課していましたので、米国企業は主要部品を米国で作り中国に輸出して組み立てていました。その後中国は、技術移転を不要とする規制緩和でさらに海外企業の生産拠点を集める一方、中国企業に対しては技術的に追いつくための資金提供を強めています。

米国バイデン政権は、人工知能開発などに予算を振り向ける政策を示し議会と交渉しています。覇権争いは長い目で見ると国の生き残りをかけた産業育成政策ですが、安全保障政策とは別です。安全保障面では、人工衛星とGPSなどそもそも軍事色の強いものだけでなく、量子コンピューターと人工知能による暗号解読なども含まれ、政府の安全保障政策と関連します。こちらはデファクトスタンダードの「覇権」を争うこととは違うと考えます。

覇権争いはどうなるのか、米中の勝者はどちらか、ということに答えることは難しいのですが、いまのところ米国がおおむね強い状態で、リードを維持できるかを見ていくことになります。いまのところ中国は、現在の台湾の位置づけの様に、半導体の製造規模では強い立場となっても、高性能品の開発ではシリコンバレーに勝てない状態が続くとみています

ハイテク株投資で気になるリスク ~神山解説

ハイテク株についてのリスクはそのセクターごとに(ソフトウエアかハードウエアか、宇宙か消費かなど)で異なりますが、特にインターネット関連で注目される4つのリスクを下記にあげておきます。
1)独占禁止による合併など制限、優越的地位の利用の禁止
2)プライバシーを含むデータ保護コスト増
3)表現の自由とSNSの内容制限のコスト増
4)デジタル課税の可能性

1)も2)も米国のみならず中国でも同様の問題が大手通販に対して起きています。3)も企業の負担増が米中ともに議論されています。4)は世界的な税制の統合的議論が必要で、現実に実施されるには時間がかかりそうです。これらのリスクはいまのところ現状のインターネット・プラットフォーマーの利益を大幅に壊すものではなく、コスト増や増税はあっても、売り上げ自体の伸びは引き続き期待できるとみています

また、その他のハイテク企業も含めて、新興企業は個別のマネジメントチームのリスクがついてまわります。スキャンダル、不適切発言、複数議決権株を背後にした株主軽視などです。しかし、このようなリスクは、結果として「稼ぎが良い・株価のパフォーマンスが良い」ことで払拭されていくことになるでしょう。半導体関連や宇宙関連などの製造業については、技術競争のほかに、政治・外交などのリスクがあると考えられます。



神山直樹

<解説者>
神山直樹(かみやま なおき)

日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト
2015年1月に日興アセットマネジメントに入社、現職に就任。1985年、日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)にてそのキャリアをスタート。日興ヨーロッパ、日興国際投資顧問株式会社を経て、1999年に日興アセットマネジメントの運用技術開発部長および投資戦略部長に就任。その後、大手証券会社および投資銀行において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事。

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note 神山直樹


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