神山解説

  • 2022年5月25日

vol.28 有事、インフレ、金買うべき?



金の価格は、宝飾品の需要増加や有事の時に上がっている?

金価格は、宝飾品など現物の需給にあまり影響を受けません。例えば金の宝飾を好むとされるインドの生活水準が上がれば、金の現物の価格が上がりそうな気がしますが、インドの経済成長や景気サイクルが金価格に与える影響はそう大きくありません。
また、「有事の金」と言いますが、実はそれほど有事との関係もありません。金のドル建て価格は、アメリカ経済の「有事」においては強い(価格が上昇しやすい)のですが、アメリカから遠い場所の紛争では、大きな「有事」でもあまり動きません。

直近ですと、ロシアがウクライナに侵攻し、中国の台湾侵攻の恐れが増したと考えられましたが、金価格は下がり気味でした。しかしリーマン・ショックやコロナ・ショックなど米国を巻き込む経済の大きなショックがある「有事」では金が高くなりました。単純に「紛争すなわち有事」だから金が上がるというほど簡単ではないのです。

金

 

金利や経済リスクに反応する金価格

では、金は「インフレに強い」のでしょうか?物価が上昇し、インフレになると分かっていれば金を買えば良い、というわけではありません。過去のインフレと金価格の相関は高くない、つまり同時に上下動してきたわけではないのです。

インフレならモノの価値が上がるから、現物資産の金が良いだろう、というのは、インドの景気が良いから上がるはず、と同じ考えで現実にはあてはまりません。金は普通のモノではなく長期に価値を保存できる(壊れたり錆びたりしない)だけに、金融資産と比較される傾向があります。例えば、インフレで金利も高いと、金利のない金の保有が好まれなくなります。

では、アメリカの金利低下で好まれる、のかいうとそうでもありません。一般に金利が低い時や低下した時に金価格が上昇するとは言いきれません。実は、金利が物価上昇率よりも低い(つまり実質金利がマイナス)の時に金が好まれる傾向があります。アメリカの金融政策がインフレを後追いしているなど、特別なタイミングで金価格がインフレや金利に関わって動くと言えます。

つまり、単に金利が低い状況ではなく、政策などのせいで物価上昇に比べて金利が低い場合、米ドルで預金しておいても将来の購買力が低下してしまうので、何か価値を保存できるものに変えたほうがマシになってしまいます。そのため、タンクが必要な石油などより価値保全が手軽な金の(米ドルでの)価値が増すことになります。また、株式市場が将来のアメリカ経済の低迷リスクが高いと考える時にも金が高くなる傾向にあります。これも米国経済の「有事」に反応しているのです。

金利や経済リスクに反応する金価格

有事、インフレ、金買わないべき? ~神山解説

政策により低くなっている実質金利、株式市場の弱気心理など一時的要因に影響されても、金自体が長期的な価値を自ら生み出すのではありませんから、本当の長期投資に向く商品ではありません。株式であれば人々の努力と工夫の成果を分配されると期待できることと随分違います。


しかし、金は、単独ではなくポートフォリオの一部となれば、金融商品の価格のブレをなめらかにしてくれる中和剤の役割(証券投資の期待リターンを維持しながらリスクを下げる働きをする)ところに価値があるのです。そのため、金で儲けようという投資よりも、米国に悪いことがある時の「価値の安定剤」と見るのが良いでしょう。



神山直樹

<解説者>
神山直樹(かみやま なおき)

日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト
2015年1月に日興アセットマネジメントに入社、現職に就任。1985年、日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)にてそのキャリアをスタート。日興ヨーロッパ、日興国際投資顧問株式会社を経て、1999年に日興アセットマネジメントの運用技術開発部長および投資戦略部長に就任。その後、大手証券会社および投資銀行において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事。

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