- 2022年10月26日
vol.33 日経平均4万円が見えるには
リーマン・ショック前を超える輸出が意味すること
十分に知られてないが、日本の輸出数量は、コロナ禍の後の米国が引っ張る景気回復で、リーマン・ショック前の水準を超えた。為替の影響を除いた実質輸出*1は、2021年4月ごろに2008年3月のピークを超え、この傾向は1年半ほども続いている。
これがなぜ大事かというと、リーマン・ショック前の高い生産水準に対応していた設備・人材の長らくの余剰が解消されたはずだからだ。つまり、日本の輸出業は、ほぼフル稼働となって1年以上経過している。これは大きなチャンスだ。輸出業は、雇用を増やし、賃金を引き上げ、設備投資に積極的になるはずだからだ。
さらに、安全保障の理由から、中国などでの生産拠点を少しずつ日本に戻す動きがある。米国なども必ずしも自国での生産ではなくドル高に乗じて「フレンドショアリング*2」で日本での生産を考えてくれそうだ。
そして、岸田内閣は「リスキリング*3」を政策に含めており、人手が必要な業種へ余った業種からの人材の流動化を高め、成長力と効率改善を支援する。日本が輸出業種から「デフレマインドの脱却」につながる素地はすでに十分にある。
*1 出所:日本銀行
実質輸出(入)は、財務省の貿易統計で公表されている財の名目輸出(入)金額を、日本銀行が作成・公表する輸出(入)物価指数で割り算出したもので、実質的な価値ベースの輸出(入)の動きを表す
*2 友好的な国々で原材料の調達や製造を行うこと
*3 デジタル時代の人材政策において、新しい職業に就くためや今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するための必要なスキルを獲得すること
国内経済はコロナ禍から正常化
日本国内では、いよいよウィズ・コロナを前提とした人々の行動と経済活動の正常化が始まり、特に観光、陸運、外食での消費の伸びが期待される。
飛行機のフライト数はまだ完全に戻っていないし、新幹線のビジネス客、観光客も回復途上なので、まだ伸びるだろう。岸田政権は10月から全国旅行割を開始したこともあり、旅行、ホテル、飲食などの国内サービス業が伸びるだろう。
インバウンドは、訪日外国人の4割を占めたこともある中国からの旅客はゼロコロナ政策の影響で戻りが鈍いと考えられる。しかし、元々日本人の旅行者の方がインバウンドの数倍はあり、今回の回復は、経済心理を大きく改善すると見ている。輸出企業のみではなく、内需関連の企業も設備投資や雇用を増やし、賃金を上げる方向に進むだろう。
マイナカードで日経平均4万円?! ~神山解説
ここまでで日経平均の3万円までの回復は説明できるだろう。しかし、経済に詳しい方なら気づいたかもしれない。米国の消費拡大と日本の輸出の伸びも、コロナ禍からの回復・正常化も経済サイクルの上下動に過ぎないのではないか。サイクルであれば一巡したら終了してしまう。
米国の消費、ひいては日本の輸出はFRB(連邦準備理事会)の利上げ次第であり、インフレを抑えるための政策金利上昇で消費が低下、景気後退の説まである。国内はそもそもコロナ禍での悪化が正常化するだけであって、どんどん上がるという話でもない。当社では日経平均が2023年半ば以降3万円を超えると予想しているのだが、4万円は予想していない。
では4万円の条件は何か。日本企業のマージンが構造的に高くなることである。わかりやすく言うとROE(自己資本利益率)が現在8%程度であるところを10%程度に引き上げてかつ維持できれば日経平均4万円は射程に入る。つまり、稼ぐ力が3割ほど上がれば良い。この可能性はある。
マージン改善の鍵はいつも価格支配力であり、インフレ環境では今まで以上に重要になるだろう。一言で言えば、企業は良い商品を作れば良い。しかし日本のイノベーションは遅れをとっていた。そこで、マイナンバーカード(マイナカード)である。まずはマイナカードと健康保険証のデータの一元管理ができたとしよう。医療データの統一利用や健康な労働者の増加、一方で、キャッシュレス推進、行政の効率改善も期待できる。これが日経平均4万円に繋がるとは思えないだろうが、問題はマイナカードに抵抗する「効率・革新より現状維持」の日本人の心の問題である。
技術革新で日本にイノベーションを起こす仕掛けは色々ある。岸田政権が「10兆円ファンド」を作り、技術力が卓越した大学に資金を配ろうとする。その他にも転職で成長産業に人が集まるように、自分の価値に高い価格をつけられるように、リスキリングの仕組みはすでに作られ始めている。これは、企業が一人当たり利益を上げるための手段であり、景気の良し悪しとは違うところで賃金上昇にも繋がるはずだ。
私たちがマイナカードは面倒だと思えばメディアも悪く報道する。しかし、この変化は良いことにつながると信じれば結果もついてくる。現状維持より革新を選ぶ時に、日経平均はまだ見たことのない4万円を凌駕するに違いない。
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日本の企業に分散投資ができるETF
1481 - 上場インデックスファンド日本経済貢献株(愛称:上場日本経済貢献)1308 - 上場インデックスファンドTOPIX(愛称:上場TOPIX)
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<解説者>神山直樹(かみやま なおき)
日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト
2015年1月に日興アセットマネジメントに入社、現職に就任。1985年、日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)にてそのキャリアをスタート。日興ヨーロッパ、日興国際投資顧問株式会社を経て、1999年に日興アセットマネジメントの運用技術開発部長および投資戦略部長に就任。その後、大手証券会社および投資銀行において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事。
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