神山解説

  • 2022年11月25日

vol.34 長期政権と中国経済の行方



長期政権確立の影響は大きいのか

習近平政権の長期化はかなり確かなものとなってきました。あと1期5年ではなく、さらに長く、2035年まで続ける可能性があると考えられています。それは2035年までに「社会主義の現代化」を基本的に実現する、としたからです。

現代化に向け、中国は先進国の最低レベル(例えば、イタリアやスペイン)まで1人当たりGDPを高めることを目標にしています。第2段階では米国の生活水準を目指すとしています。このような目的の達成のために中国共産党と政府が働くとすれば、投資家がその果実を分けてもらうように投資することはおかしくありません。

「長期政権である」こと自体が悪いかどうかまだ分からないのが投資のリスクと言えます。政権人事は習近平氏が考えた通りになったようですが、実は「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」を「習近平思想」と名付けるまでに至りませんでした。独裁へのけん制機能はまだ生きているとも言えます

習近平 長期政権確立

 

生産性向上が最重要課題

中国の1人当たりGDPが世界銀行の分類する高所得国の基準※にあとわずかで到達するとし、早ければ2022年中に、為替レートの変動があったとしても遅くとも2025年までには高所得国入りするとの見通しを示した(「中国新聞網」3月3日)という記事を目にしました。

出所:JETRO 2022年03月16日 ビジネス短信 中国の1人当たりGDP、あとわずかで「高所得国」入り

※世界銀行は、1人当たり国民総所得(GNI)が1万2,695ドル以上の国・地域を「高所得国」と分類している。


しかし、1人当たりGDPを高めて先進国の仲間入りをするというのは、中国の1人当たりGDPを現在のほぼ2倍程度に引き上げる必要があり、中国政府の関係者が言うほどすぐには達成できないでしょう。1人当たりGDPが2倍ということは生産性(1人当たりの稼ぎ)が2倍ということです。だからこそ生活水準が上がり、人々が幸せになり、共産党独裁が正当化されるという思考の流れがあるわけです。

では具体的にはどういう手段を取るのでしょうか。農業人口はまだ大きいので、農業の生産性を上げる大規模化、機械化などが分かりやすい手段です。また都市部でも、道路・鉄道などが足りない地域があるので、交通網整備もさらに必要です。世界の製造拠点として、生産量のみならず品質とブランド力を高めることが必須です。その工場がなければ困るという状態にならなければ、ベトナムやインドネシアにとって代わられてしまいます。

また対外開放も強調しています。欧米や日本は安全保障に関わる一部産業の製造拠点を中国から移すことを考えていますが、中国は、RCEP*に参加し、ロシア、アフリカなどを含む「一帯一路」に関わる国とも貿易の活発化を図っています。こうして1人当たりの稼ぎを増やそうと考えています。

*東アジア地域の包括的経済連携(RCEP(「アールセップ」、Regional Comprehensive Economic Partnership の略称)

世界の製造拠点・中国 貿易の活発化

世界経済における中国の存在感 ~神山解説

現時点で、習近平政権長期化と人事権の掌握が具体的な経済問題につながるとは考えていません

社会主義化を強調したため、国進民退(国営企業が栄え、民間企業が資源配分を後回しにされる)リスクが話題となり、ゼロコロナ政策がその危険性を示しているようにも見えます。しかし、ゼロコロナ政策の段階的な緩和はすでに示されています。民間が衰えることは、中国が考える社会主義への道(資本主義的な経済の発展の後に社会主義が実現できる)という観点から好ましくないとされています。

台湾問題への強硬姿勢も取りざたされますが、基本的には平和的に解決するとしており、武力の充実は、そのような手段を取る選択肢を持つために行われているように見えます。必ず武力行使すると言っているのではありません。

世界の工場であった中国がそのままであれば中進国を脱することはできません。それは日本はじめ先進国にとっては大きな販売市場の成長が遠のくことです。中国の生活水準が高くなれば、日本や先進国の商品が一部の高所得者のみではなく14億人の市場にそのまま販売できるということになります。

中国投資は西側諸国からは分かりにくいというリスクはあるのですが、だから無視してよいとは考えていません。少なくとも分散投資の対象に入れてよいと思います。

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1322 - 上場インデックスファンド中国A株(パンダ)E Fund CSI300 (愛称:上場パンダ)

神山直樹

<解説者>神山直樹(かみやま なおき)

日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト
2015年1月に日興アセットマネジメントに入社、現職に就任。1985年、日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)にてそのキャリアをスタート。日興ヨーロッパ、日興国際投資顧問株式会社を経て、1999年に日興アセットマネジメントの運用技術開発部長および投資戦略部長に就任。その後、大手証券会社および投資銀行において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事。

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