神山解説

  • 2024年8月20日

vol.54 株価暴落・暴騰などのマーケット急変時への心構え



株以外に分散した方がいいのか

7月の株価の大幅な下落(暴落という言葉は感覚的なものなので避けることにします)と急激な円高で、世界株式のファンドに新NISAを使って投資した人々が一時的な損失(評価上の損失の人が多いと思います)を目にしたと思います。これをどう考えたらいいのか、何か気づかなかった注目すべき指標があるのか、何か手を打つべきか、といったご質問が増えています。

7月以降の株価下落・円高を「当てた」人、つまり前もってそう動くと考え実際に売買をした人は(偶然そうなった人を除いて)ほとんどいないのではないかと思います。どうしたら分かることができたか、という意味で、今後見るべき指標は特にありません

『サーム・ルール』(失業率のある程度以上の上昇が景気後退のシグナルになる)がよく知られていたわけではないし、知ったからといって次の大きな上下動では別の指標が話題になるだけでしょう。サーム・ルールは7月5日の雇用統計で突然注目され、アメリカの景気後退確率が高まったとされましたが、専門家の間では2019年ごろから知られていたものです。しかし、そもそも投資信託やETFに投資する個人が、無限にある「役に立ったことがある」指標をすべて知ろうとすることは困難で、投資したくなくなる理由になりかねません。

為替や株価の上下動が激しくドキドキした場合、自分の投資の目的のために正しい投資対象の選択になっているかを見直すチャンスです。多くの人は特に変更はなく、そのままで良いと納得できるはずです。もしそこに疑いがあれば、投資対象を見直すことを考えましょう。株価が下がったから変えるというのではなく、考える機会が来たので、確認してみるという趣旨です。

株価が一時的にでも下がると、投資対象を分散しておけばよかったと考える可能性はあります。人間の努力と工夫の分配にあずかる投資商品はおおむね株式ですから、それが資産の大きい部分を占めていてもおかしくはありません。ただ、投資の目的と比べて期待するリターンが高すぎる場合(これを考えるのは難しいことですがブレ(価格の変動)が大きすぎると感じた場合)、無理して一時的に大きく下がることを受け入れなくてもよいのかもしれません。債券や現金への分散投資が株式だけの投資よりも期待するリターンを高めることは(普通は)ないと考えていいです。株式以外に分散するほど、債券や現金などリスクの低いものを入れることになり、期待できるリターンが限られてくるからです。しかし、ブレは小さくなると考えていいです。

株式が大幅に下がったから分散投資をすべき、と決める必要はありません。実際2024年8月中旬には、日本株の7月以降の下げ幅のかなりの部分が戻ってきています。株式、債券、現金など資産をまたぐ分散投資は、変動に対して投資のバランスを調整するためにあると考えていいでしょう。


株価暴落・暴騰

価格変動に耐えられるかどうかで投資対象を見直す

7月以降の株価下落・円高と8月の急激な戻りを見たいま、自らの投資のリスクの程度がちょうどいいかを考える良い機会です。日経平均は4万2千円程度から3万2千円程度に1か月もたたないうちに下落しました。簡単に言えば、日本株に400万円の投資をした人は、300万円ほどに一時的に(評価の上で)資産が減ったところを見たでしょう。同じ期間にドル円は161円程度から142円程度のドル安円高になりましたので、例えばアメリカの債券に160万円投資していれば一時的に140万円程度に資産が減って見えたことになります(この間にアメリカの金利は0.5%ほど低下したので、為替の下落は債券価格の上昇で多少カバーされたでしょう)。

外国の債券への投資は、為替のリスクがあります。ヘッジ付きならいいのかというとそれほどでもなく、ヘッジ付き外債もヘッジコストの変動リスクがあります。ヘッジなしの場合、為替のブレは株価指数のブレとあまり違わないので、債券だから安心と考えると大きな価格変動で心が痛む恐れがあります。自分はどのくらいの変動に耐えられるか、人によって全く違いますので、今回の大きな変動での気持ちの状態についてよく思い出して、長期の投資目的を考えれば耐えられる程度の投資だったかを確認してください。

分散していれば、株価の上下動と為替の上下動の方向やタイミングがずれることが多く、それぞれの変動が同じ程度でも心配の度合いは相対的に小さくなると想定してよいです。ただし、今回の様に、世界景気への懸念が広がると、ドル安と世界株安が同時に来ることもあります。債券と株式の分散も、景気が悪くて金利が下がると債券価格が上昇、景気が悪いと株価は下落、というように方向が分散することが多いのですが、中央銀行が市場参加者よりも景気に強気で、景気がまだよくなさそうに見える時期に政策金利を引き上げると、それに従って債券の利回り上昇と価格下落、株式の景気悪化懸念での下落が同時に来ることもあります。景気や政策のサイクルによって、リスクが分散できることもあればしにくいこともあるということです。

投資のリスクはどの程度が良いのか、どのくらい心配しないといけないのかなど、リスクに耐えられる程度は人によって異なり、各自が決めなければなりません。これまで見たことがないような急激な株価と為替の変動は、リスクに耐える力を個々人で確認する良い機会です。株価や為替の変動リスクに耐えられないと思った人は、投資を止めるのではなく、株式偏重からREIT(不動産投資信託)、債券、現金などをバランスよく持つように見直してください。方法はいろいろありますが、自分であれこれ手出ししないためにバランス型の投信があります。また、ドル資産偏重であれば、日本株や円建ての債券などを多くすることもできます。いずれにしても、長期投資では株式のリターンの期待が一番大きく(必ず儲かるという意味ではありませんが)、債券や現金が多いほどリターンの期待は低下しますので、もしリスクに耐えられない場合、大きすぎた目的を変えることもあり得ると思います。

目的を持っての投資 ~神山解説

今年初めて新NISAを通じて証券投資を始めた人は、7月の上昇からの急落、8月の急回復などで初めてのリスクを体験したことでしょう。こういうときに、一番大事なことは、そもそもその投資の目的は何だったかをよく思い出すことです。長期にわたって資産形成を続けるのであれば、市場の上下動を当てようとしたり、それについてもっと情報が必要だったと嘆いたりすることは必要ありません。投資の経験が長くても、そうそう相場を「当てる」ことはできません。当てること、儲けることが投資の目的だという人もいるでしょうが、それはおかしいです。儲かった結果どう使おうと思うのかをよく考えてください。

なにかすべきだったかという点でも、そもそも投資の目的を明確に設定し、そのためにうまく株式や債券に分散投資していたとすれば特に何かする必要はないでしょう。株式と債券にバラバラに投資をしているのであれば、リバランス(株価が下がったので債券を減らして株式を買う)してもよいと思います。しかし、いつ、どの程度、リバランスするかを個人投資家が考えることはかなり難しいでしょう。バランス型投信であれば(多くの場合)自動的にリバランスをしてくれるでしょうから、メインの投資をバランス型にしておけばよいでしょう。株式以外に債券やREIT(不動産投資信託)に投資するバランス型投信は、株式下落の見通しの時に投資するという、つまり市場の見通しに応じてバランス型を売ったり買ったりしようとするのは間違いです。バランス型はそもそも株式だけではリスクが高すぎて日々の動きに耐えられない人が、債券やREITなど株式よりブレが小さい投資先に投資することで文字通りバランスの良い状態にすることが特徴です。

分散していなかった、例えば世界株式で株式としては投資対象が分散されていたが、別の資産クラスである債券やリートや現金をうまくバランスさせていなかった人は、自らの投資目的にそれが一番合っているかを考え直すチャンスではありますが、目的に照らして適切であれば変える必要はありません。

株価や為替の変動リスクに耐えられないと思った人は株式偏重からREIT、債券、現金などをバランスよく持つように見直しを

通常リスクのある投資の成果は、絶対に必要なお金(生活費や子供の教育資金など)を目的としていないはずです。余裕のある老後の暮らし、少し足を伸ばす旅行などをイメージして、それにつながる余裕資金の増加を目指していると思います。例えば1年でインフレ+3%程度のリターンがあれば、インフレを無視すると、100万円が10年で130万円、20年で160万円になる程度の投資を考えることになります。3%は意外に低く、だからこそ達成しやすいのですが、それでも意外に余裕のある旅行の資金になりそうですね。ですからなんでもいいからたくさん儲かるというよりも、リスクを取り過ぎないようにして、1年に3%程度を狙うなら、株価指数や為替が普通に持っている年間15~20%程度のブレをそのまま引き受ける必要はないと思います。資産の半分を現金にすれば、資産全体のブレは10%程度、もっとぶれを小さくするように現金を増やしても3%程度なら平均的に期待できるかもしれません。

市場の上下動が激しいときに、投資家は実はどうでもいいことに心を奪われがちです。何を自分は知らなかったのかを考えてしまうのは仕方ないことでしょう。しかし、ぜひ、今回を契機に投資の目的を再確認し、それに合致している投資内容であることを確かめてください。普通、何かする必要はありません。当てて勝つことを投資だと思っていませんか。それは趣味の投機です。それはそれで余裕があればそうしてもらっていいので、もう一度投資行動について、目的を明確にし、耐えられるリスクを確認しましょう。

この記事に関連する日興アセットのETF

世界の国債に投資ができるETF

1566 - 上場インデックスファンド新興国債券(愛称:上場新興国債)

1677 - 上場インデックスファンド海外債券(FTSE WGBI)毎月分配型(愛称:上場外債)

海外のリートに投資ができるETF

1495 - 上場インデックスファンドアジアリート (愛称:上場アジアリート)

1555 - 上場インデックスファンド豪州リート(S&P/ASX200 A-REIT) (愛称:上場Aリート)

世界の株式に投資ができるETF

1554 - 上場インデックスファンド世界株式(MSCI ACWI)除く日本 (愛称:上場MSCI世界株)

1680 - 上場インデックスファンド海外先進国株式(MSCI-KOKUSAI) (愛称:上場MSCIコクサイ株)

1681 - 上場インデックスファンド海外新興国株式(MSCIエマージング) (愛称:上場MSCIエマージング株)

※上記銘柄(1677 愛称:上場外債 を除く)は新しいNISA制度の「成長投資枠」の対象ETFです。

神山直樹

<解説者>
神山直樹(かみやま なおき)

日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト
2015年1月に日興アセットマネジメントに入社、現職に就任。1985年、日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)にてそのキャリアをスタート。日興ヨーロッパ、日興国際投資顧問株式会社を経て、1999年に日興アセットマネジメントの運用技術開発部長および投資戦略部長に就任。その後、大手証券会社および投資銀行において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事。

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