神山解説

  • 2024年12月27日

vol.57 2025年の投資環境を考える



2024年に神山の印象に残った3大金融・経済ニュース

  1. 半導体・AI(人工知能)が株価指数を牽引する原動力になったこと

    23年までは、コロナ禍に関わる医薬品、非接触関連、巣ごもり関連などが指数の牽引をする場面が多かったです。いわば緊急事態に関わる市場環境でした。また、財政・金融政策に関わり米国金利が市場で重視される時期も多かったです。それが24年に入り大きく変わりました。日本株でも年初から半導体関連銘柄が株価指数を引っぱり、世界的にも人工知能関連やそれを動かす新しい半導体に関わる企業に注目が集まりました。イノベーションが株価をリードする、株式市場らしい市場環境が久しぶりに現れたことが印象的でした。


  2. トランプ次期大統領がインフレ的に見えるが、そうでもないと思われること

    先進国で大統領が独裁者になれるわけでもなく、トランプ氏は8年前から4年前までの市場における理解と経験もあるので、そんなに騒ぐほどのことでもなさそうなのですが、彼の政策がインフレ的だという見方が一時強まりました。

    しかし、実際に関税を上げる場合、時間が経てばインフレというより消費不況になる恐れがあります。減税はインフレ的だという声もあるのですが、実際には関税引き上げの悪影響を避けるための政策となるのでしょう。新規の移民制限については、そもそもソフトランディングする経済では雇用者数がさほど増えないとみており、制限してもマクロ経済への影響は小さいでしょう。

    また、すでに米国内で働いている不法移民を100万人単位で追い出せばマクロ経済にインパクトがあるものの、コストがかかり実現は難しいはずです。そのため、トランプ政権はメディアが報じるほどインフレ的政権ではないでしょう。トランプ氏も含めて米国の政治家は総じてインフレが好ましくないと思っており、意図的にインフレにしようと思う政権メンバーはいなさそうです。

    特に印象的だったのは、第1次政権に比べ、今回決定した政権メンバーには家族などをほとんど含んでおらず、政策を考えてきた人材がトランプ氏の周りに増えていると思われたことです。市場にとっては「お騒がせ」な話し振りをする人が目立ちますが、おかしな市場や経済になると予想する必要はないでしょう。


  3. 1ドル140円から160円へ、また140円そして150円台

    米ドル円の為替レートはとにかくたいへんな変動ぶりでした。FRBも日銀もそれぞれ臆病な政策変更で、米国の政策金利はようやく少し下がり、日本はやっとマイナスからゼロ、ゼロからプラスになりましたが、とてもゆっくりでした。ドル円市場は、米国の景気がよさそう・インフレが続くとみればドル高、失業者が増えたといってはドル安、いややはり経済は強いとなればドル高、と市場の見方で右往左往しましたが、為替レートのレンジはさほど変わらなかった1年でした。

    このようなブレの大きいドル円市場は、日米のマクロ経済に対する市場の見方の揺れ動きそのものということになります。為替市場は、株式のように人間の努力と工夫が価値を生み出すのではなく、需給だけで決まるので投資対象ではありません。しかし、為替リスクは世界投資にはつきものですから、長期投資の中で「ああ、ぶれたな」という記憶としては印象に残りそうです。

ドル円市場 為替

2025年は、消費の年

2025年に注目する市場は日本株です。日本の賃金上昇率は近年まれに見る高さ(ボーナスや定期昇給を除いても3%程度)で、しかも25年もベースアップは再び3%程度を期待できます。この背景は人手不足です。コロナ禍対策の財政出動をきっかけに起こった人手不足は、日本を含め世界的に広がってきています。

日本の賃金上昇の「久しぶりさ」は特筆すべきでしょう。当初輸出企業のヒト・モノ・カネの余剰が不足へと転じ、コロナ禍からの正常化で国内産業も同様となりました。これだけの大きな人手不足と賃金上昇圧力はアベノミクスでも見られなかったものです。働き手から見る人手不足は、経営者からみれば売上拡大の大きなチャンスということです。売上が上がる、上がると思うからこそ人手を探すわけです。このような前年比で賃金が伸びる状態は25年も続くでしょう。

そして、人手不足、給与・賃金の上昇は、消費と設備投資の拡大につながります。日本では長らく消費が停滞してきました。アベノミクスのころにドル円が上昇する(円安)ほど株高だったのは、国内消費が活発ではなく輸出一本足の経済だったからでしょう。今回の人手不足がもともとはコロナ禍の財政対応に始まったにせよ、これを契機に日本経済が自立する千載一遇のチャンスになっています。

もちろん、これはチャンスではありますが、すでに始まったということではありません。賃金上昇がインフレ率を抜いたのは24年秋のことですから、消費者が収入増に自信を持ち、消費を増やすにはまだ時間がかかるでしょう。25年前半くらいにボーナス増が続くなどすれば、消費者の自信が強まり、消費拡大が本格化、消費や旅行関連の設備投資増強なども継続するようになると期待しています。日本株はこのような状況を十分織り込んだとはいえないでしょう。

円高金利高でも日本株は好調か、~神山解説

円高・金利高でも日本株は好調か、Jリートにも期待 ~神山解説

将来の収入増への自信が深まることで消費が拡大し、国内消費のために物を作り運ぶような経済となれば、円高・金利高でも日本株高という状況を作り出すことになるはずです。これこそ日本株の「好循環」と呼べるものです。

日本人は総じて日本株に自信を持つことができないまま長い時間を過ごしてきました。現段階でも日本株が確かにポジティブだというほどの材料がそろったわけではありません。日本の消費が本当に回復し、自分の需要に自分が供給するような好循環を示すまでにまだ時間がかかるでしょう。相場は懐疑の中に育つと言いますから、これは仕方ありません。日本株を保有していない人や避けてきた人には、いま再考するタイミングではないかと思っています。

また、J-REITにも期待しています。この数年パッとしないJ-REITですが、日本が良くなる時には良い成果が出やすくなるとみています。そもそも金利高だけを取り上げて不動産保有のコストが上がるというような不安が先行してきました。価格低下で一部のJ-REITに投資する投資信託が分配金を下げたため、さらに人気が低下している面もあります。

しかし、今の日本であれば、金利上昇の背景はインフレにあると言えます。インフレであれば、遅かれ早かれREITの保有する不動産の家賃を引き上げやすくなるはずです。金利負担が先にきて、あとから家賃が増える傾向にあるでしょうが、長期投資では金利上昇は家賃上昇で相殺されると想定してよいでしょう。消費が改善すれば、オフィスや住宅の空室率に対する不安も低下するとみています。また、日本のREIT市場では、オフィス中心からホテル、物流、データセンターなどを含む投資対象の拡大が進んできました。J-REITの今後は、オフィスだけに依存するわけではなく、人工知能などによって拡大する不動産需要にも関与する点に注目しています。

ただし、日本株に期待をしているからといってNISAで新規資金を投資したい場合、日本株に集中投資してほしいとは考えていません。まず世界分散投資をコアとして保有し、日本への投資は、アメリカのイノベーション継続期待への投資や新興国の成長を期待する投資などと同様に、「千載一遇のチャンス」というテーマへの投資としてとらえることもできます。世界に投資をしている投資家に、日本を見直すチャンスが来ていることをお伝えしたいです。

2025年も皆様が素敵な投資機会をお持ちになることをお祈りしております。

この記事に関連する日興アセットのETF

日本株に投資できる代表的なETF

1308 - 上場インデックスファンドTOPIX*

1330 - 上場インデックスファンド225*

1698 - 上場インデックスファンド日本高配当(東証配当フォーカス100)*

Jリートに投資できるETF

1345 - 上場インデックスファンドJリート(東証REIT指数)隔月分配型*

2552 - 上場インデックスファンドJリート(東証REIT指数)隔月分配型(ミニ)*

2566 - 上場インデックスファンド日経ESGリート*

※上記の*のついている銘柄は新しいNISA制度の「成長投資枠」の対象ETFです。

神山直樹

<解説者>
神山直樹(かみやま なおき)

日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト
2015年1月に日興アセットマネジメントに入社、現職に就任。1985年、日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)にてそのキャリアをスタート。日興ヨーロッパ、日興国際投資顧問株式会社を経て、1999年に日興アセットマネジメントの運用技術開発部長および投資戦略部長に就任。その後、大手証券会社および投資銀行において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事。

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