- 2025年1月28日
vol.58 トランプ政権2.0でのマーケットの見方
トランプ政権の政策でインフレにはならないと思う理由
一番のインフレの原因は関税といいますが、アメリカ人にとってたとえば中国から輸入する日用雑貨の価格が関税のせいで上がるとすると、経済全体は消費不況になるかもしれませんが、インフレにはならないと考えます。
一時的・短期的には人々は貯金を取り崩して(ついつい)買ってしまい、インフレ的になるかもしれません。しかしこれは長く続かず、せいぜい半年程度でしょう。人々は貯金が減ることで買うことをやめる、我慢するなどしてしまい、消費が減退してしまいます。貯金の切れ目がインフレの切れ目です。
次に、移民政策で移民を絞ると、人手不足で給料が上がりインフレになるという人もいます。まず、新規の移民は減らされると思いますが、景気はソフトランディング(軟着陸)とみており、新規の求人も減るとみていますので、移民が減っても人手不足になりにくいでしょう。
仮に国内にすでにいる不法移民で仕事をしている人が例えば1年で200万人など大量に送還されるとすれば、確かに人手不足になるかもしれません。しかしこれは大変なお金がかかり、目標にはできても実行は難しいとみています。移民制限でインフレになるとすれば、大変な時間とお金がかかりそうだからです。
さらに、減税でインフレという人もいます。しかし、中国などに関税をかければ消費不況になりかねないので、減税はこれを支えるための手段になるとみています。いまさら第一次政権時代の個人の所得税減税の追加は難しい(継続はするでしょうが)のですが、輸入企業に補助金を出したり減税したりすることができます。これはインフレになるというよりデフレにならないための手段と考えます。
大事なことは、継続的なインフレになるためには、所得の伸びが必要だということです。一時的な価格上昇は、貯蓄の取り崩しで対応するでしょうが、6カ月程度など時間的に限界があるでしょう。賃金の上昇によって価格上昇は持続的になることがありますが、経済全体はソフトランディングなので、いまのアメリカで賃金上昇率が再加速することを期待することは難しいとみています。
また、トランプ大統領はインフレを嫌っています。バイデン政権のせいにもしています。それゆえインフレを目指す政策ではないはずです。マーケット参加者の一部はインフレ的だと言っていますが、トランプ氏の意図ではなく参加者の懸念ということでしかありません。トランプ氏の政策は2年後の中間選挙に向けて成果を要求されます。インフレで終われば失敗となりますがその可能性は低いとみています。
投資の観点から言えば、トランプ政権下でインフレになるという恐れはしばらくあり、実際に少しの間インフレと言われ長期金利の上昇があるかもしれません。しかし、これは長期ではなく、短期的な市場の賭け事だと思います。長期投資では、成長機会に参加する株式投資と元本の保全にいくらかのリスクとリターンを積み上げる債券投資があります。その割合を調整したりするような必要はないとみています。
逆イールドが景気後退のサインではない件
少々マニア向けな内容ですが、逆イールドが景気後退の前触れであるという人が多い時期がありました。逆イールドとは短期金利が長期金利より高いことを意味します。通常お金を貸す人(債券に投資する人)は、期間が長いほどリスクを感じて高い金利を求めるでしょう。しかしそれが逆になることがあり、逆イールドと呼ばれています。これが起こる理由は、多くの場合、中央銀行がインフレと戦い、景気の過熱を冷ますために短期金利を引き上げることにあります。中央銀行が金利を上げればそのうち過熱した景気が冷めてインフレも収まるだろうから、長期金利は先を見越して短期金利と一緒には上がらず、逆転する(短期>長期)ことになります。
過去の経験では多くの場合(サンプル数は少ないですが)逆イールドの後に景気後退(1年程度以上にわたるGDPのマイナス成長になる)に陥っています。これは、アメリカの場合、企業の設備投資が売上に見合わないほど過熱してしまい、FRBが短期金利を引き上げて投資を冷まそうとしたことに始まります。FRBの政策の効き目があれば、その後景気は少なくとも減速(マイナスではないが成長率が低下すること)し、しばしば景気後退に陥ることが考えられます。
しかし、今回のインフレはそもそも設備投資への過熱ではなく、コロナ禍での供給混乱と第一次トランプ政権の一時金支給などから起こった、一種の事件でした。時間を経て正常化しつつあり、一時的な人手不足は緩やかに収れんし、賃金上昇率も抑えられてきました。インフレを支える要因は減っており、設備投資を含む景気の上下動と関係なくインフレは収まるとみています。今回の逆イールドは、過熱した設備投資を叩き伏せることではないので、その後に景気後退を予測するのはおかしいと考えます。インフレが収まれば政策金利は低下し、インフレや高金利でも維持されていたアメリカの景気は単にソフトランディング(成長率は低下するがマイナスにはならない)するとみるべきでしょう。
そもそも逆イールドと景気の上下動を関係づけることは、経済を分析せず「くせ」だけに注目することになるという意味で、予想としてはナンセンスですから、マニア的にはよく考えて結論を出してほしいものです。
アメリカ・日本の株式市場は「金利離れ」が進み、株価上昇か ~神山解説
アメリカ景気と株式市場は、金利が高かろうと関係なく、例えば人工知能(AI)に関わる投資などに支えられ、行き過ぎの兆しもあまり見当たらず順調です。
トランプ政権の政策について、市場の一部ではインフレ懸念も続くでしょうが、AIやテクノロジー関連の規制緩和で、規制リスクが低下しています。この点では、行き過ぎの心配もあった関連企業が引き続き市場を引っ張る期待ができます。
もちろん政策や金利とは関係なく、AI関連の売上について行き過ぎた市場の期待が市場を揺らしたりする可能性はあるのですが、それも含めて、株式市場では金利や政策よりも企業収益そのものが重視されるようになるでしょう。
一方、日銀の利上げが進む日本でも、金利や為替よりも内需の回復がテーマとなるでしょう。日本は賃金上昇がいよいよインフレ率を上回るタイミングが来て、消費の回復、内需関連の設備や建設投資の回復が続くと考えます。そうなると、円安でなくても日本株は上昇しやすくなります。金利が上昇してもインフレ率を上回るとは考えにくいので、設備投資拡大の邪魔にならないでしょう。
ただし、消費がいつごろ回復するか、消費者は本当に自信を持つのかは予想が難しいことは確かで、2025年の注目点のひとつです。なかなか回復しないうちに米国景気が悪化するなどとなれば、日本株が上昇気流に乗れないリスクはあります。いまのところ、日経平均は内需拡大に押し上げられ、年末に42,000円を超えると予想しています。
この記事に関連する日興アセットのETF
米国株に投資できるETF
1547 - 上場インデックスファンド米国株式(S&P500)*2521 - 上場インデックスファンド米国株式(S&P500)為替ヘッジあり*
2235 - 上場インデックスファンド米国株式(ダウ平均)為替ヘッジなし*
2562 - 上場インデックスファンド米国株式(ダウ平均)為替ヘッジあり*
2568 - 上場インデックスファンド米国株式(NASDAQ100)為替ヘッジなし*
2569 - 上場インデックスファンド米国株式(NASDAQ100)為替ヘッジあり*
日本株に投資できる代表的なETF
1308 - 上場インデックスファンドTOPIX*1330 - 上場インデックスファンド225*
213A - 上場インデックスファンド日経半導体株*
※上記の*のついている銘柄は新しいNISA制度の「成長投資枠」の対象ETFです。
<解説者>
神山直樹(かみやま なおき)
日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト
2015年1月に日興アセットマネジメントに入社、現職に就任。1985年、日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)にてそのキャリアをスタート。日興ヨーロッパ、日興国際投資顧問株式会社を経て、1999年に日興アセットマネジメントの運用技術開発部長および投資戦略部長に就任。その後、大手証券会社および投資銀行において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事。
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