神山解説

  • 2024年2月20日

vol.48 日経平均、4万円は見えてきたけど… これからどうなる?



日経平均が3万8千円をつけるが

2022年10月26日付の神山解説 『vol.33 日経平均4万円が見えるには』、さらに2023年5月30日付『vol.40 日経平均、4万円は見えてきたか。』と題して、日本経済が「過剰(余り)」から「不足」の時代へ大きな転換点となる可能性がある、との期待を表明してきました。

いま、日経平均は3万8千円を超え文字通り4万円が見える水準(2024年2月15日現在)に達しています。しかし、正直なところ、この上昇を素直に喜んではいません。なぜなら、1月から2月中旬にかけての日経平均の上昇には、「過剰(余り)」から「不足」の時代への大きな転換点が背景にあるわけではないからです。

今年に入っての3万3千円から3万8千円までの上昇をうまく説明できる専門家はあまり見当たらないのですが、いま聞こえてくる理由は、
① 物価上昇率が余り低下せず、米国金利高がまだ続く
② それゆえ高いドル/円の水準が続く
③ 米国高金利はバリュー株優位で日本株の出遅れ割安感に物色が集まる
④ 東証のPBR1倍以下の企業への対応依頼など、稼ぐ力改善の試みが強化される
⑤ 半導体関連が予想以上に良い利益の発表
となり、期待が高まる、といったことです。

日本が過剰から不足になるというシナリオに基づく上昇であれば、まずベースアップと言われる給与水準の上昇の証拠がそろうこと、日銀が利上げをするかそのそぶりを強めること、日本の金利上昇期待で円高になること、などが想定されていましたが、いまのところ全てその逆で、FRBも臆病でインフレ再燃を恐れて利下げせず、日銀も臆病でデフレを恐れて利上げをしないことが市場の想定、日経平均上昇の理由の一部になっているのです。これまでの私の日本への期待とは違う理由です。

具体的に見てみましょう。NT倍率(日経平均÷TOPIXの倍率)の推移をみると、このところ、上昇している、つまり日経の上昇がTOPIXを大きく上回っていることが分かります。

NT倍率(日経平均÷TOPIXの倍率)の推移

※信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成
※上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。

日経平均とTOPIXは長い目で見れば同じように動いてきましたが、コロナ禍での巣ごもり需要や人工知能の成長期待などからテクノロジー株など日経平均に多く含まれる業種や銘柄が上昇してきたので、日経平均がTOPIXを上回る状態が続いており、NT倍率はコロナ禍前の12倍程度から14倍程度に水準が変化しています。

人手不足、賃金上昇、おカネを借りてでも成長しようという熱意などがま だ具体的に企業収益として示されていないので、銀行や内需関連の銘柄が多いTOPIXのほうは日経平均ほど上昇していないといえます。ですから、いまのところ、日経平均の上昇で感じるほど「日本が良くなった」ことによる株高ではなさそうです。

日経平均の上昇

ここまでの日本株上昇の良い理由・悪い理由

あらためて、①から⑤の理由について(どれも悪い話ではないのですが)、バブル後一度も見たこともない3万8千円水準を説明するには力不足に感じます。それぞれの理由に見解を示します。

① 物価上昇率が余り低下せず、米国金利高がまだ続く
② それゆえ高いドル/円の水準が続く
③ 米国高金利はバリュー株優位で日本株の出遅れ割安感に物色が集まる
④ 東証のPBR1倍以下の企業への対応依頼など、稼ぐ力改善の試みが強化される
⑤ 半導体関連が予想以上に良い利益の発表

① 米国のインフレ率は思ったほど下がらないとはいえ、すでに3%台前半で低下方向ではありますから、FRBが利下げを始めるのは文字通り時間の問題だと(私だけではなく市場のコンセンサスとして)考えられます。単に先送りでいままで見たことのない株価になるのは理解に苦しみます。それに金利が上昇するときに日本株がもっと早く上昇していたはずではと思います。

② 高いドル/円の水準が続くとすれば、日本の輸出企業の計算上の利益は増えますが、生産量が増えるとは言えないので、人手を増やしたり設備を増やしたりする経営につながるとは言えません。余剰から不足へとは関係ないです。

③ 米国高金利は時間の問題で低下するとみていますので、バリュー株としての日本株物色も金利低下となれば利益確定売りに変わるとみる必要があります。

④ 東証のPBR1倍以下の企業の対応が進んだとしても、指数を今後長く引き上げ続ける要因となるか分かりません。1倍になってしまえば終わりであれば、稼ぐ力改善の継続の必要が薄れてしまいます。

それに、②と④は矛盾しています。仮に④の日本企業の改善が幅広く日本企業の稼ぐ力を改善するのであれば、人手不足や設備投資強化につながり、金利上昇、円高要因で、②と長期的には両立しないと考えるべきでしょう。

⑤ 半導体関連が予想以上に良い利益の発表となり今後期待が高まった点は、少し良い理由です。

米国の一部半導体製造業の利益の予想以上の成長が、日本の半導体製造装置やテスターなど関連企業の利益改善期待につながって、それらの株価が上昇することで日経平均が上昇した部分は奇妙ではないです。

ただし、これも懸念があり、まず半導体製造装置企業の株価水準が高いことで日経平均を押し上げる貢献が大きいこと、つまりごく一部の業種への期待の影響が大きいことです。TOPIXを大きく上回った理由の一つでもありますが、関連業種の目先の利益成長予想に比べてかなり高い株価になっていますので、今後下がるとは言わないですが変動はしやすくなります。また、人工知能関連のハイスペックな半導体を別として、半導体サイクル全体は大変悪かったところから戻るところで、最高の状態が更新されているとは言いにくく、これまで見たことのなかった日経平均の水準の説明には力不足に見えます。

様々な理由をチェックすると、上昇した理由ですから「悪い」ことはないのですが、持続性がそれほど高くないと判断するものが多いことが私の懸念です。

いま日本株を買うべきか ~神山解説

これだけ上昇した日本株をさらに買うべきかというご質問が多いですが、くれぐれも市場の水準ではなく、個々人の投資の目的(長期に幅広く株式を持ち、将来の潤いのある生活の足しにする、など)に戻ってください。

私が主張する「余剰から不足へ」の変化はまだ株価に十分には織り込まれていませんし、長期的な利益を生み出す可能性は高いとみます。日本株は為替リスクも(銘柄の利益水準を通じて関係はありますが直接的には)ないといえるので、日本株の保有で投資先の分散でポートフォリオのぶれを小さくすることも適切と言えます。

日本株を買うべきか

どうしてもタイミングが気になる人は投資というよりタイミングで儲ける投機を楽しんでいると理解したうえで、下がるのを待つ手もあります。ただし、環境が米金利高、円安による株価指数上昇から、日本の人手不足、賃金や物価の持続的な上昇、円高に市場の視線が急に変化した場合、株価が下落する暇がない(切り替わるときにはしばしばブレは大きくなるのですが)というケースもあり得ます。それに高いから買わないという投資家はしばしば株価が下がると心配だから買わないに気持ちが変わってしまいます。結局買わないことになれば遠い将来のリターンに参画できないままになってしまうことも考えに含めましょう。

いま日本株を買うべきかという質問には、長期投資の観点でYESと答えます。そのうえで、タイミングが気になる人は、3:4:3で時間分散して買うことをお勧めします。100万円を買うことにしたら、今月は30万円、来月は40万円、再来月は30万円と分散するのです。そうすると、下がってもまだ安くで買う資金がある、上がっても前もって安くで買った部分がある、など自分に説明でき、上がっても下がっても後悔が少ないという趣旨です。もちろん後悔の度合いには個人差があることにご留意ください。

この記事に関連する日興アセットのETF

日本株に分散投資ができるETF

1330 - 上場インデックスファンド225 (愛称:上場225)

1578 - 上場インデックスファンド日経225(ミニ) (愛称:上場日経225(ミニ))

1308 - 上場インデックスファンドTOPIX(愛称:上場TOPIX)

神山直樹

<解説者>
神山直樹(かみやま なおき)

日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト
2015年1月に日興アセットマネジメントに入社、現職に就任。1985年、日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)にてそのキャリアをスタート。日興ヨーロッパ、日興国際投資顧問株式会社を経て、1999年に日興アセットマネジメントの運用技術開発部長および投資戦略部長に就任。その後、大手証券会社および投資銀行において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事。

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