- 2022年9月22日
vol.32 米ドル外貨定期預金は長期の資産形成に必要か
金利リスクは小さいが為替リスクは大きい
このところの米ドル高円安で、外貨定期預金*を増やす日本人が増えているとのことです。米ドルは為替で日本円に強く、米ドル外貨定期預金の金利も上昇しています。目先では成功体験が増えているので、投資家の興味も高まるでしょう。しかし、外貨定期預金の場合、「定期預金」なのでリスクが低くて、元本保証であると考えては間違いとなります。
一番大きなリスクは為替リスクです。例えば、預金金利がほとんどゼロに近い日本と比べ、2022年9月14日現在の米ドル建て定期預金金利は2%以上となることもあります。これは年利2%で預金すれば年間の利息収入は2%で確定するのですが、為替はそうではありません。ドル円の為替の変動率は年換算で10%程度**あります。
つまり、もし1年間で金利を2%受け取っても、2%程度の円高で日本円での投資元本を減らしてしまう可能性があるのです。もちろん逆に今よりさらにドル高が進んで、定期預金の満期受け取り額が日本円で15%増えていることもあるでしょう。一言で言えば、1、2年程度の定期預金は、1、2年程度の為替の動きの短期勝負となってしまうのです。
*外貨定期預金の取引可能な通貨、預け入れ期間、年利等は、金融期間によって異なります。**2008年1月1日から2022年9月14日までの日次変化をベースとした年率ボラティリティ
長期にみれば為替水準は平準化されると想定する
同じくらいの潜在成長率である先進国同士の為替水準は、長期的には平準化して差がなくなるという考え方が有力です。
定期預金は長くても預け入れる期間が数年程度ですから、長期投資の視野で考える投資ではありません(もちろんそのまま次の定期預金に乗り換えはできますが視野が違うという趣旨です)。
外貨建て預金は、2%などの金利差を獲得するために高い為替リスクが求められる金融商品となります。また、ドル建て預金だけを考えると、通貨の分散効果が少ないことも記憶にとどめておきましょう。
米ドル外貨定期預金を持つことは長期目線の資産形成とはいえない ~神山解説
米ドルだけの通貨で、数年間の外貨定期預金だけ、といった取引は、10~20年後に使えるお金についてのイメージを持ち、長期にわたって潤いのある生活を目的とする投資には向いていないと思われます。
せっかく外貨預金を投資対象に考えるのであれば、「投資の目的」をよく確認していただきたいです。先進国の為替には株式や債券のような「リターンの源泉」がありませんから、本来投資対象ではないはずなのです。外国株式や外国債券への投資でも為替リスクを伴いますが、株式は、人間の努力と工夫が「リターンの源泉」となっています。利益を上げて配当を増やしてくれると想定されるからです。債券には、約束された金利支払いへの努力もあります。そして、世界各国に分散された株式や債券の長期運用を提供する商品設計のもの(ファンド)もあります。
米ドル円に絞った外貨預金を保有してかけ事のようにならないようにするには、リターンの源泉を為替の方向にしないことと、通貨を分散することが肝要です。長期に成長が期待できる世界の株式ファンドで人々の努力や工夫をリターンの源泉とする部分や、幅広い国や地域の長期債を中心に長期的な元本保全に少しのリターンを加えるよう努める債券ファンドなども持つことを投資信託やETF(上場投資信託)を中心に置くように検討してみてはいかがでしょうか。
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<解説者>神山直樹(かみやま なおき)
日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト
2015年1月に日興アセットマネジメントに入社、現職に就任。1985年、日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)にてそのキャリアをスタート。日興ヨーロッパ、日興国際投資顧問株式会社を経て、1999年に日興アセットマネジメントの運用技術開発部長および投資戦略部長に就任。その後、大手証券会社および投資銀行において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事。
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