通商協議の進展を受けて楽観ムードが広がるなか、グローバル株式市場は上昇した。関税の影響による世界的な景気減速懸念は和らいだが、依然として市場には先行き不透明感が漂っている。トランプ米大統領が「解放の日」と称して関税率を軒並み引き上げて以降、英国は一番乗りで米国との通商協定に合意し、米中も90日間の関税率大幅引き下げに合意した。
債券は、特に株式と比較した場合に、魅力的と見なされることはほとんどない。しかし、債券市場はそれでも大きな影響力を、しかも急速にもたらす場合がある。米国の信用格付けの引き下げや財政支出計画への懸念が高まるなか、米国債の長期ゾーンの利回りが節目となる5%を一時的に超えた時、投資家は多くのことを考えさせられた。
米 FOMC(連邦公開市場委員会)は、予想されていた通り 6 月の会合で政策金利を据え置いた。6 月の金融政策声明では 5 月に比べるとやや楽観的な見通しが示され、5 月に言及された「失業率およびインフレ率がともに上昇するリスク」は「後退はしたものの依然高水準にある」と指摘された。
金融市場は米国の通商政策に関するニュースや雑音に日々振り回されており、センチメントが大きく揺れ動いている。予想は最良シナリオへの期待と最悪シナリオへの不安のあいだを行ったり来たりしている。当社の見方からすると、楽観的シナリオとは、貿易デタント(緊張緩和)が実現し、4月上旬に賦課の脅しがあった大規模関税が撤回されるというものだろう。
トランプ米大統領の2期目が始まってから、節目となる100日が過ぎた。同大統領のこれまでに起こした最も重要なアクションは、4月2日に発表した世界的な関税だ。同大統領が「解放の日」と称したこの日、世界的な供給ショックが起こるのではとの懸念から市場は大幅に下落したが、その後90日間の関税発動停止が発表されると、世界の株価指数は回復し前月末とほぼ同じ水準で月を終えた。
市場はボラティリティが高い状態ながらも回復基調となり、足元で貿易を巡る緊張の緩和が見受けられるようになっている。しかし、この不確実な状況のなかで唯一確かなのは、何が起こるかわからないということだ。
当月はトランプ米大統領が貿易戦争の口火を切ると、そのニュースを受けてリスク資産をめぐるセンチメントが悪化し、ほとんどの金融資産においてボラティリティが大幅に高まった。それにもかかわらず、グローバル株式(MSCI All Country Worldインデックス)は当月の最初の8日間で10%程度下落したものの最終的に0.74%上昇した(米ドル・ベース)。
当月は、ドナルド・トランプ米大統領の経済政策を受けて債券市場に警戒感が広がり、米国債市場のボラティリティが高まった。月末の利回り水準は2年物の指標銘柄で前月末比0.28%低下の3.61%、10年物の指標銘柄で同0.04%低下の4.16%となった。
世界貿易の先行きが依然不透明であることから、今後数ヵ月にわたり中国当局による消費や企業活動へのより積極的な政策支援が期待される。ボラティリティが高止まりしているとともに米中間の貿易政策を巡る先行き不透明感はあるものの、状況改善の可能性を示唆する明るい兆しもある。
大手格付け会社ムーディーズ・レーティングスは 5 月 16 日、米国の信用格付けを最高位の Aaa から Aa1 へ引き下げることを発表した。この引き下げの主因は根強く続く米国の財政赤字とされている。当社ではこのリスクについて(3 月に発行したグローバル投資委員会による中期展望などで)以前から何度も指摘してきたが、これこそ、米国経済の中期的先行きにかかわらず同国でターム・プレミアム(債券の残存期間の長さに伴う上乗せ利回り)が高止まりする、と当社が予想している大きな理由である。