前回のコラムでは、「市場価格」と「基準価額」についてお話しました。しかし、ETFの価格にはもう一つ、「推定一口当たり純資産価格(インディカティブNAV)」というものもあります。
今、現在、ETFを市場で売買しようとした場合、何を目安に売買したらよいのでしょうか。売買を考えているETFの理論的な現在値を知ることができれば便利です。しかしながら、基準価額(一口当たり純資産価格)は前日に計算された陳腐化した価格なので、現在の価値に修正したのが「推定一口当たり純資産価格(インディカティブ NAV)」なのです。

現在、日本においては推定一口当たり純資産価格(インディカティブNAV)が導入されておらず、情報ベンダーが一部ETFを対象に概算を発表していますが、正式に制度としての導入も検討されているようです。

3つ目の価格「推定一口当たり純資産価格」

海外のETF市場では、現在の推定一口当たり純資産価格(インディカティブNAV)を取引所や情報提供会社が算出、公表している場合があります。算出の方法は、把握できる最新の一口当たり純資産価格をベースに、保有有価証券の価値を現在の証券価格(為替評価)で洗い替えたものです。この推定一口当たり純資産価格(インディカティブNAV)であれば市場価格との正確な比較ができそうです。しかしながらETFとそのETFが対象とする資産が同じ時間帯の市場で取引されていない(海外資産を対象とする)環境では、推定一口当たり純資産価格(インディカティブNAV)も比較が難しそうです。なぜなら、ETFが対象とする資産の取引所はクローズしていて値段が動かなくなっていますが、為替は動いているので為替の値動きだけ洗い替えた推定一口当たり純資産価格(インディカティブNAV)となっているからです。ETFが対象とする資産は市場のクローズ後の時間であっても、次々と価格に織り込むべき情報が出てきています。このため海外資産を対象とするETFは一口当たり純資産価格(インディカティブNAV)とは違った価格で取引されているのが見受けられます。

米国市場で取引されている米国株ETF(SPY)と日本株ETF(EWJ)を例に、推定一口当たり純資産価格(インディカティブNAV)の比較を見てみましょう。

米国における国内資産(米国株)を対象とするETF(SPY)と推定一口当たり純資産価格(インディカティブNAV)
=出所Bloomberg(2010年4月12日)

米国における国内資産(米国株)を対象とするETF(SPY)と推定一口当たり純資産価格(インディカティブNAV)=出所Bloomberg(2010年4月12日)

米国における外国資産(日本株)を対象とするETF(EWJ)と推定一口当たり純資産価格(インディカティブNAV)
=出所Bloomberg(2010年4月12日)

米国における外国資産(日本株)を対象とするETF(EWJ)と推定一口当たり純資産価格(インディカティブNAV)=出所Bloomberg(2010年4月12日)

米国における国内資産(米国株)を対象とするETF(SPY)は推定一口当たり純資産価格(インディカティブNAV)に連動して取引されていますが、米国における外国資産(日本株)を対象とするETF(EWJ)は推定一口当たり純資産価格(インディカティブNAV)とは関係ない価格で取引されているのが観察されます。このような現実について、先般、欧州のETFを手掛ける証券会社のトレーダーと意見交換をしたときに、様々な情報を持った市場関係者が形成している市場価格はそれ自体が正しい価格であるということを主張されていました。

尚、冒頭にもお知らせしましたが、現在、日本においては推定一口当たり純資産価格(インディカティブNAV)が導入されていませんが、導入の検討もされているようです。ただし、以上のように価格と推定一口当たり純資産価格(インディカティブNAV)とのずれが起こり得ることを理解しておく必要もありそうです。

前回と今回のコラムで、ETFの価格にまつわるお話をしてきましたが、ETFには価格だけでなく様々な点で???と思うことを聞くことが多くあります。一見、ETFはインデックスファンドが取引所に上場した程度のものといわれることも少なからずありますが、その思い込みから実体とは違う思い込みに繋がっているように感じることがあります。それは、ETFの運用会社として、しっかりとしたETFに関する情報発信をしていなかったからではないかと反省しています。これからも様々な課題についてコラムを書いていこうと思っています。引き続きよろしくお願いいたします。